『神』が生まれた日
かつて世界の先進国として名をはせた国の首都であったこの地はとうに廃墟と化し、
窓ガラスなどはすべて割れ落ち、崩れ落ちそうなビルが異様な哀愁を漂わせていた。
その場所で金属がぶつかり合うような甲高い音と猛獣のうなり声が不意にあがる。
手に長剣や短剣、大きな銃型の武器を持った者たちが獣のような形をした多数の化け物を相手取っている。
その化け物の一匹を頭から両断した男はすぐに襲い掛かってくる新たな化け物の攻撃をよけつつ耳に装着している無線で全員に指示を飛ばし続ける。
「こちら第六部隊、至急応援願いますっ!!大型種アラガミが作戦エリアに多数侵入っ、中型種や小型種の数も多く対処できませんっ!!」
『すぐに応援を向かわせますっ、三十分ほど耐えてください!!』
「くそっ!!」
オペレーターとの無線を焦った様子できると手に持った武器で再度化け物にとびかかり空中から化け物に斬撃を食らわせる。
何十分、いや何分戦い続けただろうか、化け物の残骸があちらこちらに散らばっているがそれでもまだ数えきれないほどの化け物が餌《男たち》を狙っている。
そんな時、隊員の一人が建物の間をこそこそとまるでネズミのようにあたりをうかがいながら移動している親子を見つけた。
「っ!?リーダーッ、あそこに人がっ!!」
「くそったれっ!!はやく保護して遠くに逃がせっ」
「で、ですが・・・」
今現在、四人でようやく保っている戦線を崩してしまうのではないかと思い、隊員が躊躇ったのが目に見えて分かった。
「はやく行けって言ってんだろうが馬鹿野郎っ!!」
「わ、わかりましたっ!!」
隊員を怒鳴って向かわせたリーダーと呼ばれた男はその背中を見送るとまだともに戦っている二人に目配せをする。
二人もその目配せの意図に気が付き、決意したような顔でコクリと頷いた。
「旅は道連れ世は情けってな。あの世への旅路にできるだけ多くついてきてもらおうか?」
持っている武器を握りなおしてリーダーは走りだし、とびかかってきた化け物を一太刀で真っ二つにし、そのままもう一方の敵をもまとめて叩き切る。
「おらおらっ!!どんどんかかって来いっ!!」
体中に出来ていく新しい傷から血を流しながらも男はどんどんと化け物を葬っていく。
リーダーが体の大きな化け物を倒したところで振り返ると疲労困憊だった隊員の二人が化け物に一斉に襲い掛かられ一気に肉片と化した。
その光景に一瞬足を止めたリーダーの手から弾かれた武器が放物線を描きながら飛んでいく。
ゆっくりと時間が流れるなかで地面に突き立ったそれと、土ぼこりをあげて迫る化け物たちをまるでスロー再生で見ているような気がする。
「ああ、ここまでか」
リーダーはとても冷静な、生きてきた中で一番の平常心でそうつぶやいた。
直後、先ほどまで二人を襲っていた化け物を加えてさらに大きくなった捕食者の津波にのまれ右腕とその手に付けていた赤い腕輪が千切れ飛び、ドサッと音を立てて地面に落ちた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「っ・・・・・」
繋いであった無線が突然ザーッと砂嵐にでもあったような音を立てるだけになったとき、隊員はその理由を理解して悔しそうに歯を食いしばりながら親子を先導しつづけた。
近くにあった廃墟に身を隠して親子を休ませながら無線のボタンを押す。
「オペレーター、聞こえますか・・・・?」
『はい、こちらオペレーターです。そちらの状況は?』
「女性とその子供を保護しました。しかし6-1、6-2、6-3はKIA《作戦行動中戦死》、6-4もアラガミが近くを巡回しているために保護しながらの包囲突破は難しいかと」
『現在地を教えてください』
「作戦エリアの東側にある廃墟の中です」
『もう少しで応援が駆けつけますのでしばらく待機していてください』
隊員はその知らせにすこし安心して壁に背中を預けて座ろうとした。
気が抜けたからか、それとも運がただ悪かったのか、隊員の背中を支えている壁が崩れ、その音を聞き取った化け物が集まってくるのが見えた。
「くっそぉおおおおおおおおっ!!」
隊員は向かいくる化け物に武器を振るうが多勢に無勢、あっというまに餌となってしまった。
母親は子供の手を引いて逃げ出すと化け物たちはまるで狩りを楽しむように親子を追いかけ気が付くとリーダーの武器が地面に突き刺さっている場所に戻ってきていた。
獲物が抵抗できないのが解ったのか化け物たちは親子を囲みゆっくりと迫ってくる。
そのうちの一匹が空腹に耐えられなくなったのか飛び掛かってくる。
そして少年は恐怖で大きく見開いたその眼で見たそれからのことを少年はひと時も忘れないだろう。
母親は化け物たちが襲い掛かった時、わずかにできた化け物の攻撃が当たらない空間に少年を押し込むように転がした。
「生き抜くのよ」
ニコリと笑った母親にまるで蟻が群がるように化け物が四方八方から襲い掛かる。
「あ・・・・・」
化け物たちはあっという間に母親だったものを食い尽くしてしまう。
「ああ・・・・・・」
少年は生まれてから母親と二人で暮らしてきた。
父親は少年が生まれる前に死んでしまったらしく、母親も少年に父親のことを話してはいなかった。
贅沢は出来なかったが、十分幸せな生活を数日前までしていた。
それがどうだ、今では少年は母親までも失ってしまった。
「あああ・・・・・・・・・・」
少年の喉から声にならない空気の音だけがむなしく出てくる。
さまざまな感情が頭の中でうごめきあい、グチャグチャな思考の中一つの言葉だけが妙にしっかりと頭に響く。
そして何かが頭の中でガキンっと音を立てて崩れていくのが分かった。
「喰われるのは弱者・・・・・・。喰らうのが強者・・・・・・」
少年はゆっくりと立ち上がると地面に突き刺さっている武器の柄を乱暴に掴むと、
次なる餌を求めて少年に近寄ろうとする化け物を睨み付けた。
「なら俺が『喰らって』やるよ。オマエ等みんな喰い尽くしてやるっ!!」
少年は武器を引き抜くとそのまま化け物の集団めがけて突き進む。
それに呼応するように飛び掛かってきた化け物の横をすり抜けるように移動しつつ化け物の脇腹を手に持った武器でサメが齧った後のように抉り取る。
後を追うように迫っていた化け物は何かの顎のように変化した武器に頭を齧り取られ崩れ落ちる。
そのあとに少年を食らおうとした数体も瞬く間に屠られ地面に転がった。
「ははっ・・・・・。なんだよ、お前らこんなに弱かったのかよ・・・・・・・」
少年が手に持った武器はまるで生きているように鼓動しながらその姿をゆっくりと変えていく様を見ながら少年は自分たちを助けようとした隊員を思い出す。
母親と少年を助けようと化け物に突撃してあっけなく散った。
母親は少年を守ろうとして犠牲になった。
「強いものが喰い、弱いものが餌になる・・・・・・・か」
そう呟いた後は覚えていない。
ただ体が異様に軽くなって、それからいつの間にか赤く変色した槍の形をした武器を手に持って残骸と化した化け物たちの山の上で呆然と座っていた時に神機使い《ゴット・イーター》と名乗る男たちが驚いたような声で声を掛けられるまで自分が何をしていたかが全く思い出せないのだ。
「驚いたな・・・・・・・。こんな子供がこんな数のアラガミを・・・・・・・・?
しかも大型種もだと・・・・・・・・」
男は呆然としてその山を見上げる。
「なぜ腕輪もしてないのに神機が使えるんだ?」
「とりあえずこの子供を極東支部まで連れて帰ろう。坊や一緒に来てくれるか?」
少年は手を差し出した男の目を見ると化け物の山を指差した。
「どうした?」
「あんたと一緒に行けばこいつらをまた『喰える』?」
「・・・・・ああ。約束しよう」
この時から数年後、神機使い達の間である噂が流れることとなる。
「アラガミを喰らい続ける『神』がいると」