背中に轟々と燃えていた炎が一気に小さくなり、大きな二足脚歩行のトカゲのようなアラガミが地面に崩れ落ちたのを確認すると神機の捕食形態でコアを回収した。
ようやく最後の一体を撃破したことに少し深く呼吸をした少年は耳に付けている無線をつなげる。
「こちらオルディン。目標のアラガミを撃破したので確認を頼む」
『アラガミの活動停止を確認しました。回収班を向かわせます』
「了解、しばらくここで待っ!?いや、ちょっと待ってくれ」
少年が無線で連絡を取っていた最中、少し離れた場所で何かが爆発するような音を少年の耳が拾った。
『どうしました・・・・?』
「ここら一帯で作戦行動中の部隊はいるか?」
『いえ・・・・。ただ10キロほど南東に小規模なサテライト拠点がありますが・・・・』
先ほどの音の聞こえてきたほうだと確信すると少年は全速力で南東に駆けだす。
『どうしたんですかっ!?』
「応援を派遣しろっ!!おそらくアラガミがサテライトに侵入しようとしてる。俺もすぐ救援に向かうっ!!」
『待ってくださいっ!!オルディンさんの神機は特別デリケートなんですから、一旦帰還してくださ』
少年は無線を勝手に切るとそのまま南東に走って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何がいけなかったのだろう。
少女は大口を開けて向かってくる本で見たライオンを何倍も大きくしたような化け物を見て冷静に、そして客観的に今日の一日を振り返っていた。
いつも通り朝起きて母親の作った朝食をとってから少女は家の中で一人遊びながら出かけて行った母親の帰りを待っていたのだ。
不意にドンッと何かが爆発したような音と人の悲鳴を聞いて表に出ると少女なら丸呑みできそうな化け物が人を襲っていた。
その化け物は少女に気が付いて追いかけてきたのであわてて逃げて、近くにあった工事現場の資材置き場にちょうど少女ぐらいの大きさの場所にうずくまって隠れていたのだ。
悲鳴や爆発音が遠ざかっていったので母親が教えてくれたもしもの時に避難する場所へと記憶を頼りに向かっていたら先ほどよりも数倍の化け物と男たちが戦っていた。
男の一人が少女に気が付き、駆け寄ってきて少女の体に怪我がないことに安堵した時だった。
「逃げろぉおおおおおおおおおっ!!」
戦っていた男が悲鳴のような叫びを上げ、化け物がこちらへ向かってきていた。
少女を守ろうと男があわてて立ち上がり身構える。
その横を小柄な影が駆け抜け、振るわれた赤い一閃が今にも飛び掛からんとしていた化け物の横面を強かに打ち付けて化け物があまりの威力に吹っ飛んで行った。
「あっ・・・・・・・・」
右手には金色に輝く神機使い達のしている腕輪をした少年は両手で槍のような神機を持って少女たちを守るように構えながら少女にニカッと笑う。
「待たせたな」
少年はグッと一瞬溜める動作をして、地面を踏みしめたと思うといつの間にかその槍の穂先が化け物の体に深々と突き刺さっていた。
化け物は少年の胴の二回り以上もある前足でその少年を薙ぎ払おうと勢いよく振るうが少年の体はまるで重力を無視したように軽やかに宙を舞うと、化け物の体を支えている前足に狙いを定めた。
空中から槍のブースト機能を使って加速した少年が自重を加えて威力を上げたその攻撃は化け物の体重を支えていた前足を貫通して大穴を開けた。
バランスを崩した化け物は起き上がろうとするが、片足の深刻なダメージがまだ回復しておらず足をバタバタとしていた。
「これで止めだっ!!」
少年の槍がジワジワと形を変え、なにか大きな生物の顎のようになる。
その顎がガブリと勢いよく化け物の体に噛み付いて、コアと呼ばれる化け物たちの心臓のような結晶をつながっていた管をぶちぶちと引きちぎりながら引き抜いた。
ようやく立ち上がり、逃げようとしていた化け物はコアを引き抜かれてからも一歩、二歩とフラフラと歩いてドサッと地面に倒れこんだ。
「討伐完了だな」
得意げそうに少年は槍を一度振ってから肩に担いだ時、男が笑いながら歩み寄ってきた。
「相変わらずいいタイミングで現れるなオルディン」
「これでもミッションが終わってから全速力で走ってきたんだぞっと、無線連絡だ」
男の言葉に少年が苦笑しながら耳に付けている無線機のボタンを押した。
「はいもしもし?」
『オルディンさんの大馬鹿っ!!』
「うおっ!?」
少年は無線のボタンを押して回線をつなげた瞬間に耳をつんざく怒鳴り声に驚きの声を上げる。
『こっちに何度本部から警告が来たと思ってるんですかっ!!今度こそ処刑されてたかもしれないんですよっ!?』
必死そうな女性の様子から状況を読み取った少年は本部のお偉いさん方と奮闘してくれたであろう女性たちに内心感謝を述べた。
「あ~、わりぃ。すぐ帰るから適当にごまかしてくれ」
『もうっ。すぐに回収班を向かわせますから絶対に動かないでくださいねっ!?』
少年は後が怖いな、と笑いながら呟くと無線を切って少年を不思議そうに見上げている少女の手に仲間から何か持ち歩けと強要されてしぶしぶ買ったペンダントを置いた。
「あの・・・・・?」
「貰っといてくれ。俺はどうせ使わないからさ」
「おいオルディンッ!!迎えのヘリが来たぞ」
「おう、今いく」
少年は呼ばれたほうに駆け足で向かいヘリに飛び乗るとそのヘリはゆっくりと離陸して極東支部に向かって飛んで行った。
そのヘリが飛び立った広場で、少女は神機使いの男たちと一緒にそのヘリを見送りながら渡されたペンダントを両手でやさしく胸の前で握りしめた。
すこし長い沈黙を破って少女が隣にいる大男を見上げて口を開く。
「おじさん。私、あの人みたいになれるかな?あんな風に人を守れるかな?」
「オルディンみたいにか?だったら神機使いになるしかないな」
少女の質問に男がその体格に見合った豪快に笑いながら少女にそういうと、少女は手に持ったペンダントを真上に上っている太陽にかざして叫ぶように宣言する。
「じゃあ私も神機使いになるっ!!」
この少女の言葉は数年後、ラケル博士が見つけた新しい偏食因子に選ばれたことによって実現することになる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なぁ・・・・・・。せめてこの紙を半分にしてくれねえ・・・・・・・・・?」
「だめです。絶対にそれ全部を書き終えるまで食事も何もかも一切無しですっ!!」
「そ、そんな・・・・・・・」
少女がそんなことを宣言しているとはいざ知らず、移動用のヘリの中で少年はペンを手に持ち泣く泣く分厚い紙の束に反省文を書きこんでいた。