薄暗い部屋の壁に背を預けながら天井の模様を目線でたどっていた少年はふとドアノブが回った音に気が付きドアのほうを見た。
「よっ」
気軽に手を上げて少年の部屋に入って来た男は雨宮リンドウ、この極東支部でもかなりの実力者で少年の古くからの知り合いでよく一緒に任務などに行く仲だ。
「ここに来るってのは暇人って断定していいか?」
「なに言ってんだ。せっかく友人に会いに来たのにつれねーぞ?」
「まぁこんな牢の中じゃ何もないからな。お前ぐらいでも話し相手になってくれれば俺としては助かる」
オルディンは手につながれた特別製の鎖をジャラジャラと鳴らして肩をすくめながらリンドウとの間を隔てている鉄格子のすぐそばまで歩いていくとドカッと地面に座り込む。
「で、今度は何やったんだ?上のお偉いさん方は怒り心頭でお前の処刑を求めてるやつもいるぞ?」
「任務後にアラガミが侵入したサテライトの防衛に勝手に加わったからだとさ。人々の命を見捨ててでも俺を檻の中にぶち込んで置きたいらしいな」
面白くなさそうに言うオルディンにリンドウは頷いた。
「まぁ、なんだ。酒を持ってきたから飲んで忘れちまおうぜ?」
「そうだな」
オルディンは手を格子の間から伸ばしてリンドウが持ってきた杯を受け取り酒を注いで貰うとそのまま一気に飲み干した。
「あっ!?貴重なんだからもっとゆっくり飲めよ!!」
「じゃあその瓶ごと寄越せ。次にお前が来るまでの楽しみにする」
「だめだっ!!」
二人がそんなことで騒いでいると一人の車いすに乗った女性が幼い少年を連れて部屋に入ってきた。
リンドウはスッと立ち上がり場所を開けると女性はそこに車いすを移動させてオルディンと対談する。
「こんばんはオルディン」
「こんな地下深くの牢獄に来るのはこいつかアンタぐらいの物好きだぜラケル博士。んで、そっちは?」
「そうでした。ジュリウス、挨拶なさい」
ラケルは言われて小さく頭を下げた少年にニコリと笑うとリンドウに目線を向ける。
「この方は?」
「こいつはリンドウってやつで、俺の処刑人だ」
オルディンにとってリンドウは一番の親友で酒飲み仲間であり、そしてオルディンの首を切り落とす処刑人でもある。
その理由こそがオルディンの住居がこの地下の牢獄内となっている原因であり、オルディンの化け物じみた戦闘力の源である。
「で、あんたはなんの用でこいつに会いに?俺の立場上一応はその理由を聞いとかなきゃいけないんで答えてくれたら嬉しいんすけど」
「ええ、ちょっとスカウトしに来たというところです」
この子の教官役として、と先ほどの少年を横目で見る。
「あなたがもしその気になったらまた来た時に言ってくださいね?そこから出られるように手配しますから」
ラケルはにっこりと笑うと車いすを動かして扉に向かう。
「では、ごきげんよう」
ラケルが少年と一緒に出て行ったあと少し経って、リンドウはふと何かを思い出したように酒を要求して手に持った杯を伸ばしていたオルディンの顔を見る。
「どうした?」
「そういや明日、俺部隊を率いなきゃいけねえんだったわ。じゃあな」
「ちょっ!?おいっ、待てって!!せめて酒瓶置いてけ~~~っ!!」
ガチャンと音を立てて扉が閉まった後、オルディンの嘆き声が一晩中響き渡ったために翌日不気味な響きのせいで寝れなかったと苦情が相次ぎリンドウの顔が引きつっていたのはまた別の話。