「ほら。これが頼まれていたものだよ」
「助かる」
オルディンはいつもの地下牢で格子の向こうから手渡された眼帯を受け取ると右目が隠れる様に装着した。
すると今まで『見えて』いた男の思考がせき止められたかのように感じられなくなった。
「どうだい僕の発明品の調子は?」
「悪くない。とりあえずアンタの考えている事が分からなくなっただけでも十分だ」
「それは良かった。君の右目は少し見えすぎるからね」
男はニコリと笑いながら眼帯で隠されたオルディンの右目を指差す。
「上もそれを支部内では着用することを義務づけることで君の釈放を認めたよ」
「そりゃ大変だったろうな」
「いや、別にそうでもなかったよ。なんせ君を閉じ込めた理由の半分は自分たちがやってきた事をばらされたくなかったかららしいし」
「まぁあんな豚どもはどうでもいい。別に殺しに来るんなら相応の報いを受けて貰うだけだしな」
オルディンは一度体を伸ばして固まりかけていた関節を強引に動かすと、ゆっくりと檻の出入り口を潜った。
オルディンが檻の外に出ると男はドアを開けてオルディンの方を向く。
「じゃあ行こうか。あまり待たせると今度は何を言われるか分からないからね」
「ああ」
胡散臭いが頼れる男にオルディンは頷くと男の後を追って会議室に向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お前、あんなめんどくせえ仕事してんのか?」
会議室から出てすぐ、何度も何度も同じことを言われ続けたオルディンが疲れ切ったような顔をして隣の男を見る。
人々が食料の不足で飢えを我慢しているというのにも関わらず男たちの体は丸々と太っており、自らの体重を支えられないのか椅子の背もたれに寄りかかっている様を思い出して余計にイライラを募らせたのか乱暴に髪を掻き毟る。
「もう慣れたからね。あまり感じないし、それにあんな人たちでもうちのお偉いさんたちだ。不興を買ってみんなに迷惑をかけるわけには行かないしね」
男が肩をすくめて言うのでオルディンはそれ以上何も言わず、支給されたデータアーカイブ等支部内の公共設備を使うためのIDカードを指先で遊びながら男を見る。
「で、俺は何をすりゃいいんだ?」
「そうだね。君には強大なアラガミの討伐と神機使い候補生たちの教官をやって貰おうかと思ってるんだ」
「教官ね。俺じゃ無理だろ?」
「だけど他に優秀な人材がいなくてね。凄腕の神機使い達は現場から離れるわけにはいかないし、その点君はこの支部からあまり離れるわけにもいかないからどちらもこなせると思うんだ」
男が名案だというように言うのでオルディンは頭を抱える。
「俺が人を教えれると本気で思っているのか?」
「リンドウ君やソーマ君を育てたじゃないか」
「あいつ等は勝手に伸びてっただけだっての」
「それでも彼らを成長させた一因ではある。もしかしたら君の性質にもそういう力が有るのかもしれないしね」
そう言った眼鏡の位置を直すと男は興味深そうな顔をして懐から取り出した赤い液体の入った小瓶をオルディンに見せる。
「これは対アラガミ用の容器に入っている君の血液だよ。この間、これにある可能性があることが分かってきたんだ」
「この血にはオラクル細胞を劇的に進化させる力がある」
オルディンは信じられんと言ったような表情で男を見ると、男はオルディンを武器庫に案内して最奥部に保管されている神機の前にやってきた。
神機は高い所に保管されており、オルディン達は必然的に見上げる形となる。
「先ほどの仮説を決定づける証拠が君の神機であるこの槍なんだ。この槍は幾多のアラガミを捕食してきたはずだよね」
「ああ。それは間違いない」
「確かに君の神機は様々かつ膨大な数のアラガミを捕食して強化されてきた。だが、それでは説明が付かないほどに神機としての性能は高い」
いいかい?と尋ねてきた男にオルディンは小さく頷くと男に先を促す。
「そしてこの神機の近くに保管されていた神機にも影響がでていることが分かったんだ」
そう言った男は神機整備を担当している男に指示をして保管してある神機の一つを取り出させる。
神機は専用の調整台の上に鎮座しており、何やらゆっくりとだが鼓動をしているようだった。
「これは?」
「過去に殉職した神機使いが使用していた第一世代の神機だ。君は神機がアラガミたちが保有するオラクル細胞を使用して作られていることは知っているよね?言ってしまえば神機は他のアラガミを捕食することで自らを強化していく生きた兵器だ」
「それと今回の件がどうかかわってんだ?」
「本来神機はアラガミを捕食しなければ成長をしないはずなんだ」
「だがこの神機は、使い手がいなくなってもなお成長を続けているんだ」
「なに?」
「おそらく何かしらのエネルギーに反応した神機のオラクル細胞が活性化されているのだと私は思っているんだ」
再び何重にもロックを掛けられてゆっくりと見えなくなっていく神機を見送りながら自らの仮説の説明をし終えた男はオルディンに向き直る。
その顔にはどうだいと言った勝ち誇った笑みが浮かんでおり、オルディンは悔しそうに舌打ちする。
「何か質問はあるかい?」
「・・・・・いつからだ?」
「早ければ数日中にも始めてくれるかい?なるべく神機使いの殉職数を減らしてもらいたいんだ」
「・・・・・・とりあえずは体を動かしてくる。手ごろな任務はあるか?」
「ちょうどいい。コンゴウ種の群れがアナグラの近くを徘徊してて支給物資の輸送が滞っているんだ」
男がそういうとオルディンはまるで重力から解放されたように軽やかに跳躍して自らの神機の前に着地する。
「榊、ロックを解除してくれ」
オルディンの突然の行動に驚いていた整備員に男が指示をだしてロックを外させると神機は自ら飛び出して持ち主の手の中に納まった。
それを数回振って感触を確かめる。
「相変わらずいい仕事をするな橘さんは。今回の調整も完璧だったって伝えといてくれ」
「また無理をして怒られないようにね」
「げ・・・・・・・」
神機を大きく破損させて帰ってきたときに一晩中鬼と化した整備士に怒られていたことを
思いだし、神機を破損させないように気を付けようと心に誓う。
「じゃあ頼むよ」
「さっさと終わらせてくる」
オルディンは男に後ろ手で手を振りながら保管庫を出ていく。
この日、コンゴウの複数頭の討伐の最速記録が成立するが、とある整備士による説教の最長記録も大幅に更新されたことはまた別の話。