入隊
フェンリル極東支部の精鋭たちにより人類の大半が死滅するという危機を乗り越えてから三年、未だに人類はアラガミと呼ばれる異形と終わりなき生存競争を強いられていた。
通常の兵器が効かないアラガミに対して作られた武器である神機を扱えるのはアラガミの細胞でもあるオラクル細胞の適合者である神機使い達であり、その質、量を高めることはアラガミとの戦争に人類が生き残るための必要条件。
そのためには生き残っている住民の中から細胞の適合者を見つけ出し、神機使いに育て上げることは当たり前になっていた。
「これ、本当に大丈夫なんですよね・・・・・・・?なんか神機も横に置いてあるし・・・・・」
『ええ。貴女はそこでじっとしていれば大丈夫よ。ほんのちょっと痛いだけ』
そんなご時世の中、神機使いになるための訓練を乗り切った候補生の一人である少女は大剣型と呼ばれる神機と一緒に堅い作業台のような場所に仰向けで寝転がりつつ、天井の装置に取り付けられたドリルの様なものを見て顔を引きつらせていた。
その右手は先ほど装着された腕輪に通してあり、まるで囚人を逃がさないとでも言うように機械で固定されている。
少女が動かそうとするが全く動く気配のない右手に少女が恐怖心からカメラ越しで部屋の様子を伺っているであろう女性に尋ねると、やさしげな声が大丈夫よとスピーカー越しに聞こえてきた。
「ちょっと!?ねぇホントにちょっとなの!?」
『うふふふふふふふ』
回転し始めたドリルの不気味な音に少女は悲鳴を上げるがスピーカーからは笑い声しか帰ってこない。
ゆっくりと降りてきたドリルの先が少女の腕に突き刺さった時、少女の体が一度大きく跳ねた。
「っがぁああああああああああああっ!?」
腕輪を通して突き刺さったドリルの先から何かが注射され、全身が燃える様に痛みを発する。
なおも続く痛みに少女が絶叫しながら暴れまわっていると、固定されていた腕輪が先ほどとは比べものにならないほどに上昇した腕力で機械から引き抜かれ、不意に固定具が外れた少女は無意識に握っていた神機と一緒に勢いよく床を転がった。
『まさか、失敗か?』
『いいえ、ジュリウス。よくごらんなさい』
スピーカーの声に青年のものが混じるが、少女のぼやけた思考では何を言っているのか分からない。
とりあえず少女は歯を食いしばって神機を杖代わりに使って立ち上がり息を整えているとゆっくりとぼやけていた思考と感覚が戻ってくるのを感じた。
それに伴い引いていく痛みに一息を吐いてから、少女がカメラの方を睨み付けると女性の含み笑いがスピーカーから漏れる。
「ちょっと、これめちゃくちゃ痛いじゃない!!」
『ごめんなさいね。でもこれであなたは神を喰らう使徒、神機使い
女性はまるでわが子をいつくしむ母親のような口調で少女に語りかける。
『ようこそブラッドへ。あなたの活躍を心待ちにしていますよ』
女性の声にようやく少女は自分が神機使いになったことを思い出した少女は見えないように小さくガッツポーズをする。
少女はある目標を持って、神機使いに志願していたのだった。
「これで、これでようやくあの人を追いかけれる・・・・・・・・」
少女の脳裏には何倍もの巨大なアラガミをねじ伏せる年上の少年の背中が思い浮かぶ。
「待っててくださいっ。いまから追いつきますから!!」
少女はまだ名も知らぬ記憶の『英雄』に宣言する。
少女の決意をあざ笑うかのような再開まで数時間前のことだった。