――『ヴォーパルストライク』の閃光が昆虫系モンスターの外殻を貫いた。
ポリゴンの崩壊を影に、他のモンスターが大顎を突き出す。
ソードスキルの硬直時間が終了した俺は、空いている左腕で体術のソードスキルを使うことで迎撃。続けざまに片手直剣を口にねじ込んで大蟻のHPを0に変えた。体術スキルは攻撃力こそ低いものの隙が極めて少ないのがいい。ソードスキル後の硬直時間はほぼ0。実際には0.2秒くらいは停止しているがさしたる問題にはならない。
最前線から3層下に位置するこのフィールドは現在、攻略組で最もホットな経験値スポットだ。出現する大蟻モンスターは攻撃力こそ高いがHPは低く倒しやすい。その上数が多いので、時間当たりの経験値量は未だに最前線よりも圧倒的に高かった。
そのせいで1パーティー1時間という協定が設けられ、馴染みの攻略組が今でも列をなして順番を待っている。
その列に並ぶ中でソロなのは俺だけだ。
大蟻は行動パターンこそ単調であるが、その数に囲まれれば軽装の俺などたちまちHPが0になる。それでもパーティーを組まずにひたすら篭り続けているのはひとえに効率がいいからだった。
2人、ないし3人では出現量に対して人数が過剰。タンクが丁寧にタゲを取って戦うほど頑丈でもない。このくらいのHPであればアタッカーが火力で押し切った方が速い。それが俺のこの狩場への評価だった。
もちろん普通はそうでないことくらい理解している。
長時間の狩りでは特に安定性を意識する。集中力が必要なものだとどこかでそれが破綻し、その破綻を取り戻すための労力で結果的に効率が悪くなるからだ。
「女王出てるぞ!」
順番待ちの列に並ぶ知り合いが大声で警告を促していた。
周囲を観察すると、大蟻がポップする横穴の1つから、一際巨大な蟻が顔を覗かせているのに気がつく。
この狩場の欠点は大型の強力なモンスターが低頻度で出現することだった。女王蟻の名を冠するそいつは他の大蟻に比べ耐久力が高く、攻撃範囲も広い。倒すことができれば大量の経験値になるが、推定バランスは少なく見積もって6人用。安全に考慮して12人の2パーティーを動員するべきものだ。
他の大蟻と引き離しながら堅実に削って倒すならそうなるだろう。
普段はお互いをライバル視している攻略組でもこうした危機には協力を怠らない。最前線ではいかなる事態に巻き込まれるかわからず、明日は我が身だからだ。
「いい。手を出すなっ!」
残り時間は10分ある。こいつを倒すのにはギリギリ足りるはずだ。
俺は体術スキルに属する
連続使用こそできないものの、ボスといえば大型のモンスターが多いソードアートオンラインではこのスキルは必須なのではないかとさえ思える。実際このスキルのおかげでフロアボスの頭部に攻撃が届いたり、地形ギミックを利用できたりと多くの場面で活躍を見せていた。
体術スキルはEXスキル――つまりクエスト報酬のスキルなのだが、俺は包み隠さずその情報を攻略組に明かしている。攻略組の能力が底上げされるのは俺にとっても好都合だったからだ。
背中に対する攻撃方法は持っていないようで、苦し紛れに女王蟻は身体を震わせ俺を振り落とそうとする。
ここで落ちれば俺は攻略組の救援も間に合わず大蟻の大群になぶり殺しにされるだろう。
それは駄目だ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
「サチ……。俺はまだ死なない……」
片手剣を甲殻に突き刺し、しがみつく。
だがいつまでもこうしているわけにはいかない。下からは大蟻が酸を飛ばし遠距離攻撃で俺を仕留めようとしていた。
だが俺にとってこの状況は好都合だ。
モンスターの攻撃は例外を除いて他のモンスターにも効果がある。
俺は6連撃のソードスキルを使い空中で停止する。
発射された酸は味方であるはずの女王蟻の身体を焼き、俺の放ったソードスキルは
「ギギィイイイイ!」
叫び声をあげ女王蟻の抵抗が強まる。
岩肌に背を擦りつけても。大蟻を背に乗せても。飛び跳ねても。転がっても。俺が振り落とされることは最期までなかった。
女王蟻のHPはついに0になる。大きさに比例した爆散のSEが大渓谷に響き渡る。
それを間近で聞いてしまった俺は耳が一時的に利かなくなったが、バフ効果でもないのですぐに異常は元通りになる。
俺は急いで大蟻の隙間を抜け、ゾーンの出口へと駆けた。ズサァと土埃を上げて急停止。順番待ちをしていた彼らの横で止まる。
「悪いな。少しオーバーした」
開始時にかけていたタイマーから2分オーバーしている。見通しが少し甘かった。
「少しお前らとはレベル差ついちまったからな。今日は抜けるわ。女王が出てもこいつみたいに馬鹿やんねえで、ちゃんと応援呼べよ。あと、連携して1人で突出するな。全員の位置を互いに意識してカバーし合え」
頼もしい指示を飛ばす男の声に、7人がそれぞれ返事をして、渓谷の奥へと入っていった。リーダー格の、無精髭を生やした赤いバンダナの男は俺の知り合い『クライン』だ。
「ほれ」
「いらねえよ。もっと味のあるものくれ」
「贅沢なやつだな……」
クラインが差し出してきたHPポーションは、やや酸味があり薬品臭いのを嫌というほど味わっている。
俺のHPはイエローゾーンに突入していたが
「おまえも飲むか?」
「お、悪いな!」
俺はアイテムストレージから『ハウンド・ハウル』――猟犬の遠吠えを意味するドリンクのボトルを取り出し蓋を開ける。芳醇な香りのするそれを俺は一気に喉に流し込んだ。
グラスなんて洒落たものは持ち歩いていないので、俺はそのままボトルをクラインへと投げ渡す。
「ぐっ! うへぇ……。ウィスキーか、これ?」
「そうなのか? ウィスキーは飲んだことがないからな。知らなかった」
洋酒系のアイテムであることは知っていたが、それがどの飲み物に該当するかまでは知らなかった。いい情報だ。ウィスキーを必要とするクエストでこのアイテムは使用できるだろう。そんなクエストがあるかは知らないが。
投げ返されたボトルをキャッチし、俺は再び液体で喉を潤す。
いや、ちょっと違う。喉を焼くような感覚はとてもではないが喉が潤ったりしない。
ただ口に含んでいると最初は驚くような辛さが目立つが、徐々に甘みや渋さが感じられ……たぶんそういうのが美味しいと感じるのだ。
「味わかってるのかよ?」
「さあな。ただ、なんとなくこれが気に入ったんだよ」
「相変わらずマセてんなぁ」
アルコール系のアイテムはソードアートオンライン内では結構な数存在している。
料理スキルから派生する醸造スキルなんかで作成できるらしく、素材アイテムの組み合わせでかなり味の幅があるのだとか。これもそんなプレイヤーメイドの一品だ。
こっちでは飲酒しても法律に違反しないし、酔うというデメリットもないので安心して飲める。
「それで、なんか用か?」
「え、ええっとだな……。お前、最近無茶してねえか? 今日は何時からここに篭ってやがる?」
クラインは手頃な岩に腰をかけて話し始めた。
長話をしたいようだ。俺としてはさっさと帰って寝たいのだが、旧知の間柄を無下にするのもよくないと思い、崖に背を預け腕を組んだ。
「夜の12時から」
「おいおい。5時間も前じゃねえか」
「羨ましかったらもっと早く来るんだな。深夜は人が来ないから待たされなくて済む」
「そうじゃねえよ! 気力が切れればこんな危険な狩場じゃ死ぬぞ! 人がいねえってことは誰も助けになんて来てくれねえってことだ」
「平気さ。さっきの見てたろ?」
「そりゃ、お前が強えことは嫌ってくらい知ってるぜ……。レベル、どのくらいになったんだよ?」
「76だ」
「はぁ!? お前、お前馬鹿じゃねえのか! そんなになるまでどんだけ篭ったんだよ! 俺だってまだ59だぞ。レベル上げがどんだけ大変かくらい俺だってわかってる。そんでもってそんなレベルになるのは普通じゃありえねえ!」
「他に美味い狩場を見つけたのかもな」
「だったらこんな場所居るかよ」
「………………」
「そんな無茶なレベル上げになんの意味があんだ! フロアボスの相手はお前一人じゃ無茶だってことくらいわかってるだろうが」
「どうだかな」
「このわからず屋が!」
「俺がレベルホリックなのは今に始まった事じゃないだろ? もし最近躍起になって上げ出したんだとしたら、俺だってこんなレベルにはならないさ」
「そうだけど、よお……」
長時間狩場に篭ることなんて日常茶飯事だ。
流石に数日ぶっ続けで篭っていたせいで、フロアボス戦に置いて行かれてからは自重しているが。
「むしろ最近無理にレベリングしてるのは、クライン。お前の方だろ」
「うちはまだまだ2軍落ちだからな。あいつらのためにもレベリングしてんだよ」
それは事実かもしれないが、もちろんそれだけでないことを俺は知っている。
腹の探り合いをしていても旨味はないと考え、俺はさっさと本題を告げることにした。
「俺を心配する素振りなんてしてないでハッキリ言ったらどうだ。フラグボスの情報が知りたいんだろ?」
フラグボスとは、クエストなどの攻略キーになっているモンスターのことだ。クエスト受注者が入れは出現するタイプや、ランダムに出現するタイプ、再出現に時間のかかるタイプなどがある。
強さは千差万別。中にはフロアボスを凌ぐモンスターがいてもおかしくはない。
「俺はそんなつもりじゃ……」
「そうか、なら話は終わりだな」
「…………おう」
「ちなみに俺はアルゴからクリスマスボスの情報を買った、って情報をお前が買ったってことは知ってる」
「あの野郎!」
「やっぱりそうか」
「……へっ?」
「お前に腹芸は向いてねえよ」
「クソッ。いつの間にそんな技、覚えたんだよ……」
「商売上手な知り合いが多くてな。普段はお前みたいに踊らされる側さ」
リズベットにエリ、アルゴ。一応旧DKBのギルマス。他にもヒースクリフなんかはなにを考えてるかさっぱりわからず苦労する。
「ああ、ちくしょう。そうだよ。お前の考えてる通りだ。俺たちも、それにここに来てる連中も皆、フラグボスのために少しでも戦力上げたくてこんな糞寒い中レベリングに来てんだ。だけどな、年一のフラグボスなんてソロで狩れるモンじゃねえことくらいお前だってわかってんだろ。うちはこれでも10人いんだ。十分勝算があんだよ」
これが普通のフラグボスだったなら、俺は素直にクラインと手を組んでいただろう。
ソロに拘るような甘さは俺にはもうない。むしろ他のプレイヤーと一時的にパーティーを組んで知名度を上げるよう力を注いでさえいた。
だが今回そうしないのはある噂が原因だ。噂といってもプレイヤー間で話される不確かなものではない。各層のNPCが話している正確無比な噂だ。
柊の月。――つまり12月24日の夜24時ちょうどに、どこかの森にある樅の巨木の下に『背教者ニコラス』という怪物が出現するらしい。
その怪物を倒すことができれば、背に担いだ大袋の中にある財宝が入手できるのだとか……。
攻略組や大手ギルドはこの手のレアアイテムの話に敏感だ。
レベルやスキルは時間によってある程度の差は埋まる。だがレアアイテムに関してはそうもいかない。ソードアートオンラインでは恐ろしく入手困難なアイテムが――それこそ世界に1つしかなく、これから先も入手不可能というレアリティのアイテムはザラにある。
攻略組が身に着けている武具なんかは大抵そういった激レアモノだ。クラインの刀然り。俺の剣然り。
それらは通常のアイテムとは当然一線を画す能力を秘めており、かの最強プレイヤー、ヒースクリフもそういった装備を身に着けているだろうと噂されていた。
もちろん俺も今回のフラグボス攻略には乗り気だった。どこかのギルドと共同戦線を張り、願わくばレアアイテムのおこぼれに預かろうという魂胆があった。
その考えを断念するに至ったのは2週間前のことだ。
「蘇生アイテム、なんて話本気で信じてんのか?」
「………………」
NPCの口からは『背教者ニコラスの大袋には、命尽きた者の魂さえ呼び戻す神器が隠されている』という情報がもたらされたのだ。
大概のプレイヤーはガセだと言っている。開発時のテキストがそのまま残っていたというのが通説だ。
それはそうだろう。アインクラッドではそれが真理だ。HPが0になった瞬間、俺たちの頭に填められたナーブギアが高出力マイクロウェーブを放出して脳を破壊する。そうでなければ俺たちはこんな場所で虜囚となっていない。
「クライン。お前は勘違いしてる」
もし、死んだプレイヤーが別空間に待機させられていたら。
もし、蘇生アイテムがその場所から復帰する手段であれば。
――そんなことを信じるのは死後の世界を語る宗教家だけで十分だ。俺はそんな話を本気で信じてはいない。
このゲームを作った茅場晶彦の狂気は、そんな優しさに満ち溢れたモノのはずがないのだ。
だがそれでも。死後の世界を実際には見たことがないように、俺はそんな妄想が絶対にありえないとは断言できなかった。
「蘇生アイテムは俺だって偽物だと思ってる」
「ならっ!」
「それでも俺はやらなきゃいけないんだ」
俺は可能性に賭けて、戦わなければならない。
それが月夜の黒猫団という仲間を、サチという女性を殺してしまった俺にできる唯一のことだと信じているから。
「もしアイテムを入手してそれが望むような効果じゃなくても。また同じような話があれば俺は挑む。何十回でも。何百回でも!」
「まだ忘れられないんだな、前のギルドのこと。……もう半年になるってのによ」
「違うぜクライン……」
俺はボロボロになったコートではなく、新品同様に仕立ててある普段着用のコートを身に纏った。その胸元と背には満月を背にする黒猫の紋章。
その紋章を親指で差して俺は語る。
「俺がいる。月夜の黒猫団はまだなくなってなんかいない。半年前から
「なにがギルドなもんか。誰も新しくメンバーに入れないで。お前がやってるのはただのソロ攻略――」
「クライン」
俺の声には驚くほどに怒気が込められていた。
「それ以上はお前でも許さないぞ」
メニューウィンドからは俺はクラインへデュエルの申請を送っていた。
YESかNOか。絶対的二者択一だ。
「……悪かった」
クラインはデュエルの申請を断ると、一触即発の空気も霧散した。
よかった。クラインと戦うことにならなくて、本当によかった。
「けどな、キリトよぉ……。ソロでフラグボスと戦うのはやめておけ。お前をこんなところで失いたくはねえんだよ」
「だから勘違いだって言ってるだろ」
「は? じゃあなんだ。お前、誰かと組む予定があんのかよ」
「そりゃそうだろ。悪いなクライン。攻略ギルドのメイン盾様とデートの約束だ」
「あークソッ! そうかよ。くぁあーっ! 恥ずかしいなちくしょう! 全部俺の独り相撲だったってわけか? ならもうお前は誘わねえ! せいぜい俺らに先越されないよう頑張るんだな!」
「ああ、負けないぜ」
俺の眠気もそろそろ限界で、装備を元に戻すとさっさと渓谷の外へ出ようとする。
「あとな、キリト! 俺が心配したのは情報聞くためだけじゃねえからな! 無理して死んだって、お前になんか蘇生アイテムは使わねえぞ!」
俺は振り返らずに手だけを振って、それを挨拶にした。
――お前が心配してくれてることくらい知ってるさクライン。それでも、俺には譲れないものがあるんだ。
▽▲▽▲▽▲▽▲
俺は11層にあるレンガ造りの一軒家へ帰ってきていた。
この家はケイタがあの日購入した物件だ。
勝手ながら少し改築をして、表に表札を下げてギルドの紋章を掲げたけど、そのくらいは許してくれよな。いや、許してくれないか。死人は許しなんてくれない。
ケイタもサチたちが死んだ翌日には死んでいた。
たぶん自殺だった。俺は彼にすべてを打ち明けた。サチたちが死んだ状況。俺の本当のレベル。そしてビーターであったこと。
彼は俺に恨み言を言ってくれた。恨まれるのは少しだけ楽だった。それは大嫌いな自分を嫌ってくれたからだと思う。
「ただいま……」
ギルドハウスには誰もいない。
当然だ。ギルドメンバー以外侵入禁止に設定してあるのだから。そして俺以外のギルドメンバーは全員死んでいる。
ケイタは自殺する際、なにもしなかった。ギルドハウスを手放すことも、ギルドを解散することも、なにも……。
だからシステムはまだ残っている俺にギルドマスター権を委譲した。
以後半年、俺がこのギルドのマスターということになっている。
システム操作で灯りを点ける。
電球色の温かな光に照らされたリビングには、会議にも使えるよう大きめの机が置かれ、その周りに6つの椅子が並んでいる。それはかつて月夜の黒猫団と共に過ごした宿のバーを模したインテリアだった。
隅に置かれた棚には丸めたスクロールがいくつも詰まっている。中身の大半は各層のエリアマップ。そこには一応俺の手書きでいくつかの情報が記載されている。
壁には攻略中である49層のマップがかかっていた。
さして使うわけでもないのに、我ながら丁寧にやってしまったものだと思う。
棚から目当ての地図を引き抜くと、俺は短い廊下を抜けて自室へと向かった。
狭い一軒家だが個室はちゃんと6つある。それぞれの部屋には、宿泊していた宿に忍び込んで持ち出した彼らのアイテムが可能な限り並べられてる。
それに比べ俺の部屋はかなり質素だ。ベッドにアイテムチェスト、簡素な机と椅子しかない。
椅子を引いて腰かけると、アイテムストレージからボトルと食料アイムを取り出し遅すぎる夕食――ないし寝る前の夜食を摂ることにした。
ウィスキーと判明したハウンド・ハウルと一緒にベーコンを挟んだサンドイッチを口にする。塩味の効きすぎた肉をアルコールで流し込む行為に俺は最近ハマっていた。
食事を終えると持ち出した地図を広げる。それは35層のものだ。
この地図は少し特別製で、35層に存在するダンジョン『迷いの森』を抜けるためのアイテムでもある。
このダンジョンは巨木が立ち並ぶ森林地帯がマス目状のエリアに区切られており、1分毎に東西南北の連結が入れ替わるという厄介な特徴がある。このダンジョン内では簡易マップが使えず、方位も見ることができない。
無策で突破するには幸運に任せるか、1分で端まで到達するほどの脚力が必要になるわけだが後者は実質的には不可能である。
しかし初見でも、このダンジョンに入れば簡易マップが利かなくなるためすぐさま引き返し、攻略組から犠牲者が出ることはなかった。
俺はこのダンジョンを攻略しに行ったとき、一本の捻じれた巨木を発見していた。
他の木とは違う意味ありげなロケーションだったため、この地図にもメモ書きがある。
その巨木について俺は念入りに調査したが、そのときにはなにも発見することができなかった。だが今ならわかる。こここそが背教者ニコラスが現れるという樅の巨木であると。
俺の現実世界の自宅に裏手には運よく樅の木が生えていた。それを記憶していた俺は、樅の葉は硬質で先端が丸いことを知っていた。
情報屋から買った場所に植えられていたのはどれも杉の木だった。
ガセを掴まされたことに怒りを覚えつつも、だからといってガセだと文句を言うこともできない。それは彼らに情報を与えることになってしまうから。
緊張で高鳴る鼓動を感じながら、俺は布団に包まった。
クリスマスの日まであと僅か。
俺は蘇生アイテムとサチの夢を見る……。
あんな真っ黒装備大好きっ子なキリト君は、きっとお酒とか飲んでる雰囲気が好きに違いない!
年下の女の子と一緒に入ったレストランで持ち込みのワインを勧めるし。
でも味はわかってなさそう……。