レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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17話 月夜に残る黒猫(4)

 目前に転移の回廊が開かれた。

 青紫色に光る結晶の門からは、小麦色の髪をツインテールにした小柄な女性プレイヤーが現れる。

 彼女の名前は『シリカ』。1週間前に私たちが接触したビーストテイマーの少女だ。

 

「協力感謝するっす」

 

 シリカに付き添って転移してきたのは冴えない雰囲気の男性プレイヤー。

 痩せた体形に黒縁メガネ。身に着けている重量鎧が実にアンバランスで、片手で抱えた長槍は臆病心の表れではないかとさえ思わせる。

 だが彼はこうした囮捜査のプロだ。

 こんな外見をしているのもすべては犯罪者プレイヤーの目を欺くための偽装。

 槍と盾を組み合わせた防御重視な戦闘スタイルは、時間稼ぎや護衛といった役割に最適化されており、複数人のレッドプレイヤーを相手に大立ち回りをしたことさえある。

 私はシリカに短い感謝を伝えると、彼女の出てきた回廊へ10人の部下を引き連れ突入した。

 

 転移による光が消えると、そこは背の高い草花が生い茂る草原だった。

 今日の天気は運がいいのか悪いのか、雪模様。

 目の前では11人のプレイヤー――今回の標的となった犯罪者ギルド『タイタンズハンド』と対峙する部下の姿があった。

 

「ご苦労っす」

「な、なんでこんなところに軍の連中が!?」

 

 斧使いのプレイヤーが叫んだ。

 

「全員動くなっす。逃亡を試みれば実力行使に出るっすよ」

「ちっ。あたしらはまんまとハメられたってわけね……」

 

 リーダーと思わしきグリーンカーソルの女性プレイヤーが苦渋の表情を見せる。

 彼女の言う通り、ALFの治安部隊――そのトップである私の直属チームは今回、クリスマスに彼らを捕らえるべく作戦行動を取っていた。

 クリスマスだからと浮かれるのはカップル連中だけではない。それを狙った犯罪者たちもまた、甘い蜜に惹かれて浮足立つだろうと私は考えていた。

 

 事の起こりはいつものごとくPoHからの情報。中層で最近、目障りな強盗殺人を繰り返すギルドがあるとのことだった。

 調べてみれば『シルバーフラグス』というギルドが襲撃に合い、リーダーを除く4名が殺害されていることが判明した。

 私は目撃情報を元に彼らのリーダー『ロザリア』の居所を突き止め、一網打尽にすべく彼女が接触を計っていたシリカに協力を仰いでこの日に漕ぎ着けたのだった。

 

「この人数じゃ流石に無理ね……」

 

 ロザリアは周囲を見渡し部下へとアイコンタクトを送っているようだった。

 

「抵抗しないわ。大人しく逮捕される――なんて言うと思ったっ!? 転移――」

 

 彼女が懐から転移結晶を取り出すのと同時に、タイタンズハンドのメンバーも転移結晶を出す。

 だが彼らが逃亡することは叶わない。

 なぜなら彼らの手にしていた転移結晶が残らず弾き落とされたからだ。

 

「なっ!?」

「あぁ、いいっすね、その表情……。最高っす。クリスマスのいい催しになったっすよ」

 

 拍手を送り私が笑うと、部下たちもつられてゲラゲラと笑い出す。

 だが全員目は笑ってない。獲物を前にして目を離すなんて愚行を誰もしない。

 

「考えてもみるっすよ。補足された犯罪者プレイヤーはどうやって逃げようとするっすか? 普通はそう。おまえ達みたいに転移結晶を使おうとするっす。ありふれた逃走方法への対抗策くらい、普段から練習してるに決まってるじゃないっすか。ねえ?」

 

 今やったのは部下による投剣スキルでの攻撃だ。

 フォーカスロックされた投擲物はわずかな追尾性能がある。転移アイテムはその効果が完了する前に攻撃を受ければ解除され、発動中は一切の身動きが取れない無防備な状態になる。転移を食い止めるだけであればそう難しくもない。転移結晶を狙い撃ちするのには相応の訓練が必要だったが……。

 

「わかった。降参よ。好きにしなさい」

「おぉ……! これは嬉しい誤算っすね。そんな。好きにしていいだなんて。そんなこと言ってくれるなんて、ねぇ?」

「な、なにするって言うのよ……」

 

 ゲラゲラ笑い続けるALFの面々に、ロザリアは身を捩らせ肩を抱く。

 どうやらあらぬ誤解をしているようだ。

 

「そうっすね……。11人もいるっすけど、5人くらいでいいんじゃないっすかね?」

「隊長、そんなに必要でしょうか? 3人いれば十分かと」

「欲張りっすね。でも連れて行ってから最初に見せしめにする役は必要っすから、多く見積もってやっぱり5人――しかたないっすねえ。じゃあ4人で手を打つっすよ」

「流石隊長」

「もちろんロザリアは生け捕りっすよ」

「な、なんの話してんのよ……?」

 

 部下との楽し気な会話に不気味さを感じロザリアは後退る。

 彼女も頭を働かせればどんな内容なのかはすぐわかるだろうに、それがわからないということは考えられないような精神状態なのだろう。

 

「それは……、ねぇ?」

「とりあえず全員麻痺らせますか?」

「えー。俺はもっと激しいのが好きなんだけど」

「そういってこの前一人逃がしちまったろ。掴まえんの苦労したんだぞ」

「はいはい。そうでしたね。俺が悪かったよ。とにかくそれで行くか……」

「だからあんたら――ヒィ!?」

 

 ALFのメンバーがタイタンズハンドのメンバーに斬りかかった。

 斬られたタイタンズハンドのプレイヤーのHPはそれほど減っていない。当然だ。直接ダメージ控えめの麻痺効果がたっぷり乗った武器で斬られたのだから。

 不意打ちを受けて倒れるタイタンズハンドのプレイヤー。

 突然の出来事に場は一瞬で恐慌状態になったが手慣れた私の部下は次々に犯罪者を麻痺状態に変えていく。

 麻痺状態はPKでの基本戦術だ。このゲームの麻痺は異様に長い。受ければ自然復帰は絶望的で、ポーションで回復するには時間がかかり過ぎる。その癖プレイヤーは装備による対毒耐性の獲得は極めて難しく、結果HPを0にするのに比べ何倍も簡単に麻痺状態にすることができた。だからPKは即座に殺すにしろ後から殺すにしろ、まず麻痺状態にするところから始める。

 対人戦に必要とされる装備は端からエネミー相手に使う物とは別なのだ。

 

 バタバタと仲間が倒れる中、健気にも抵抗を見せるプレイヤーもいた。しかしあっという間に取り囲まれる。人数に差がついた段階で、レベルも練度も低い彼らに生存の目はない。

 複数人で袋叩きにされたそのプレイヤーも草原の雪に埋まり、立っているのはALFのメンバーとロザリアだけとなった。

 

「これで監獄エリアに転移しろっす」

 

 私は微笑みかけながら結晶アイテムを渡そうとする。

 

「待ってください隊長! あれ、しましょうよ」

「どれっすか?」

 

 部下から耳打ちされた内容に口元が歪んだ。

 

「そうっすね。じゃ、ロザリアは麻痺させるっす」

「了解!」

「ちょ、待グエッ!」

 

 痛くはないはずなのにどいつもこいつも叫ぶのはなぜだろうか……。

 まあいい。私は部下たちに指示を出して手早く麻痺したプレイヤーを並べた。周囲に他プレイヤーが近づいていないかの確認は怠らない。哀れな犠牲者を出すのは囮を使った関係上あまり好ましくはないのだから。

 

「それではロザリア。おまえに質問があるっす」

「なんだい……。他に仲間がいるかって話? それとも他の犯罪者プレイヤーについてかしら?」

「それは後でじっくり聞くっすよ。そうじゃなくてっすね。ギルドマスターってやっぱり大変っすよね。それが犯罪者ギルドともなればなおさらに」

「なにが言いたいの?」

「この中から嫌いな仲間を上げるっす」

「……はっ?」

「誰なら死んでもいいっすか?」

「なに、言ってんの?」

 

 ロザリアの顔が青ざめていく。彼女だけではない。タイタンズハンドのメンバー全員が私の言葉に顔色を変えた。

 

「そういえば今日は冷えるっすねー。そんなに寒かったっすか?」

「そうじゃないわよ! あんたら正義の軍隊さまでしょ! こんなこと許されると思ってんの!?」

「許すって、誰がっすか?」

「それは……。そう、攻略組の連中が……」

「彼らがここにぃ? どこっすかねぇ……。私には見つけられないっすよ。――いるっすか?」

「索敵スキルの範囲内には見つかりません」

「らしいっすよ」

 

 ガタガタと震えるロザリア。

 

「さあ答えるっす」

「あ、いやっ、あたし……」

「3、2、1……」

「なんでよ……、あんたら狂ってる……」

「……0。選べないんじゃ仕方ないっすね。近くにいた君。それじゃあさようならっす」

「待って!」

「お?」

「わかった。選ぶから……。あの槍使いの彼」

「ロザリア! なに言ってんだテメェ!?」

「ほうほう。それまたどうしてっすか?」

「ハラスメントコードが出るようなことをしてくるのよ。監獄に送るわよって言ったら、取り調べでお前のことを軍に話すぞって」

「それは酷い奴っす。女の敵っすね」

「そうだそうだ」

「許せん!」

「ぶち殺せ!」

「温かくしてやるっす」

「了解しました!」

 

 松明アイテムを使い、くだんの槍使いの男に火をつける。

 それだけだとなかなか燃えないため、度数の高いアルコールドリンクを部下が浴びせた。飲むような物じゃないだろうに。わざわざこのために持ってきていたのだろうか?

 まあ役立てて、持ってきた彼も満足そうだったから良しとしよう。

 

「嫌だぁ! 死にたくないっ! 熱い! あぁあああああアツい!? アツいよぉぉおおおおお!!」

「痛みはないはずなのに、相も変わらずよく騒ぐっすよね」

「もしかして幻痛を感じてるんじゃないですか?」

「なるほど。こんなにリアルだとそういうのもあるかもしれないっすね。どれ、少し聞いてみるっすよ」

「わかりました。おい。お前。痛覚はカットされてるはずだが本当に痛むのか? それはお前の気のせいではないのか?」

「アツッアツッアツッアツい! アッアツアツ、あぁぁぁあああああ!?」

「どうやら本当に熱さを感じてるみたいです」

「どうっすかねえ……。本当に全身が焼かれてる痛みを感じてるならこんなにハッキリ喋れないと思うんすよ。やっぱり幻痛の線が濃厚っすね」

「役に立つ情報ですか?」

「尋問には使えるっす。たぶん」

「それはよかった」

 

 槍使いの男は断末魔を上げ続けて死んだ。

 しかし炎による燃焼ダメージだけでは死亡するまでに結構かかってしまうな。

 

「あんまり長引かせて誰か来ても怖いっす。ちょっと巻きでやるっすよ」

「ロザリア。俺、この前飯奢ってやったよな?」

「凄い頼れる奴だと思ってたんだ!」

「お前じゃなきゃ俺たちのリーダーなんて務まらないぜ!」

「ロザリア!」「ロザリア!」「ロザリア!」

「あ、ああ……。あたし、あたし……」

 

 喚き散らすタイタンズハンドのメンバーたち。

 草原には命乞いをするため、ロザリアを讃える言葉が合唱された。その中からロザリアは1人ずつ、気に入らない仲間を選んでいく。

 最初は自分を認めなかった者を選んだ。次は小さなヘマをした者を選んだ。趣味の合わない者を選んだ。顔が気に入らない者を選んだ……。

 彼らの数が4人になったのは、それから20分も経たない間の出来事である。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「Happy Christmas.プレゼントは気に入ってくれたか?」

 

 PoHの快活な英語に出迎えられ、少しアンハッピーな気分になる。

 看守長室のテーブルには純白のテーブルクロスが広げられ、その上にチキンダックやローストビーフ。サラダ、ホールケーキ、シャンパンにワインといった豪勢な料理が並べられている。

 飾りつけはまだ途中のようで、ジョニーがモールを壁に取り付けている最中だった。

 ザザはというと自分の得物の手入れをしている。キバオウは今日は欠席。クリスマスはどうしてもはずせない会合があるのだとか。

 ALFのクリスマスパーティーは明日の予定。クリスマス当日くらいは個々人での予定を優先して欲しいという粋な計らいだ。

 しかしそんな計らいも私には無駄であった。つい先週、PoHから「クリスマスパーティーをする。いつもの場所でだ。仕事が終わったら絶対来い」と強制されたのだから。

 

「あれ、プレゼントだったんすか……」

 

 あれ、とはさっき遊び相手にしてきたロザリア率いるタイタンズハンドのことだ。

 彼らの生き残りは現在監獄エリアの隠しエリア――地下ダンジョンではない――に送られている。後で尋問にかけて情報を引き出せるだけ引き出したら殺害する予定だ。

 

「ずるいぜボス! 俺には? 俺には?」

「お前にはこの前残党狩りをさせてやったろ……」

「えー」

「わかったわかった……。ただしちょっと待て」

「待てってどんくらい?」

「ショーの日取りまで」

「ああ! そいつは仕方ねえなあ。ボス、俺にも手伝わせてくれんだろ?」

「そういうことだ」

「よっしゃ!」

 

 なにを企んでいるのか……。正直不安だ。

 ところでザザにはクリスマスプレゼントあげなくていいのだろうか?

 

「俺は、こいつだ」

 

 彼が今眺めているエストックはどうやらPoHからのプレゼントだったようだ。意外と気遣いのできる男だ。人心掌握術に長けているだけだろうが……。

 

「エリにゃんは俺にプレゼントとかないわけ?」

「あー、そうっすね……。ジョニーこそどうなんすか?」

「ほい」

 

 ジョニーが投げ渡してきたのは禍々しい外見の片手直剣。

 ステータスを確認すると恐ろしく攻撃力は高いが、耐久性はカスの一言。1戦闘も碌に使えず粉砕すること請け合いだ。ただ一線級の剣なんてそうそう手に入るものでもない。彼なりに私の役に立つものを考えたのだろうことがわかった。

 

「どうもっす」

「じゃ、プレゼントちょうだい」

「えっと……。今日捕まえて来た人の尋問でどうっすか?」

「はぁ……。しかたないなぁ。それでいいよ、もう」

 

 残念そうに肩をすくめ、彼は飾りつけに戻る。

 

「俺はデュ――」

「ザザはポーションの詰め合わせでいいっすか?」

「……ステータスアップ系に、しろ」

「はいはいっす」

「なら、俺からの、プレゼントは、デュエ――」

「ところでこれ全部食べるんすか?」

「そうだな。ここじゃいくらでも食える。腹がはちきれる心配もないだろうさ」

 

『ザザ から1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?』

 

 私は迷わずNOを押した。

 

「なぜ、だ?」

「嫌っすよ。ザザは死ぬまでやるじゃないっすか……」

「当然、だ。俺からの、プレゼント。受け取って、くれないのか?」

「却下」

「ぐぬぅ……」

 

 ジョニーも飾りつけを終え、パーティーの準備は整った。

 各々が席に着き、好き勝手に自分の皿へ食べ物を取っていく。

 

「「「乾杯」」」

 

 グラスにはシャンパン。

 炭酸の喉越しの後にほんのりとした酸味を感じる。ロースビーフも絶品だ。ソースの甘みが肉に程よく絡み食欲をそそる。元があの筋肉質な2足歩行をする牛系エネミーの肉だとは思えない。

 

「ところで、俺へのプレゼントはないのか?」

「はっ?」

 

 PoHが食事の最中に突然そんなことを言った。

 たしかに他の二人には渡すことを約束したが、こいつはなにが欲しいんだ?

 殺していいプレイヤーなんて自分で用意するだろうし、武器やアイテムに拘るタイプでもあるまい。

 彼が欲しがる物なんて私には皆目見当もつかなかった。

 

「なんか欲し物があるんすか?」

 

 しかたがないのでこういうときは素直に聞いてしまおう。

 無理な物なら無理と言って、代わりにそれっぽいものを渡せばいいだけだ。

 

「……ある」

「なんすか?」

「俺は、お前が欲しい」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 

 誰もが口を開けたまま呼吸を忘れた。

 私も、PoHも、ザザも。あの口やかましいジョニーでさえ。

 使っていたフォークは虚空で停止し、シャンパンを傾けていたグラスからは液体が溢れ出る。カランカランとナイフは物理エンジンに従い、音を立てて皿の上に落下した。

 しばらくの間、私たちは不自然な姿勢で止まっていた。

 

「年が明けたら俺たちはギルドを立ち上げる。そこに入らないか、という提案だ」

「なんだよ、ボス……。驚かせないでくれよ。心臓が止まるかと思ったぜ」

「お前なに考えてんだ。エリはちんちくりんのガキだろ」

「まあ年齢比べればガキっすけどね」

 

 外見年齢は中学生。順当にいけば今の実年齢は高校生なわけだ。あのままでは進学できたとは思えないが……。ともかく別段子供扱いされても事実であるのだから気に障るようなこともない。

 

「で、どうだ?」

「いや無理っすよ。こっちの仕事もあるんすから」

「そんなもの捨てちまえ。――軍の治安維持部隊の隊長が一転してレッドギルドの幹部に。燃えるシチュエーションだろう?」

「いやいや。表で歩けなくなっちゃうっすよ。そういう面倒な縛りが出るのは嫌っす」

 

 PoHたち男性プレイヤーは髪形を変えたり顔が見えない装備をすればある程度誤魔化しは利くのだろうが、私のような女性プレイヤーはかなり目立つ。加えて体形は誤魔化しようがなく、シルエットの出ないローブなんかを着ていれば注目の的になるのは間違いない。

 元々ALFのメンバーとしても顔の広い私が捕まらないためには、フィールドに引き篭もるしかなく、そういった生活の苦痛はできる限り避けたかった。

 

「そうか……。それは、残念だな……」

 

 珍しく、PoHは本当に残念そうに語った。

 

「なんかあったら手伝うっすから。それで手を打ってくださいっす」

「それはいつものことだろうが」

「そうっすけど……」

 

 それは私が望んでしているわけじゃない。

 断れないからしぶしぶ引き受けてるのであって、できればそんなことしたくはないのだ。

 

「それで、どんなギルドにするんすか?」

「ああ。名前はLaughing Coffin(ラフィンコフィン)。その名を聞けば誰もが怯えるようなSAO最恐のレッドギルドにするつもりだ。手始めに年明けと同時に中小ギルドを片っ端から血祭りにあげる。それをギルド設立宣言のパレードにして、大ギルドの連中に挑戦状を叩きつけてやるのさ」

 

 夢を語る子供のように、無邪気に説明するPoH。

 彼はこんな性格だっただろうか? いや。私は彼の多くを未だ知らない。こんな日なのだ。恐怖の大魔王ことPoHも、こんなときくらい浮かれて羽目を外すのだろう。

 そう考えると恐怖しか感じてこなかった彼にも可愛げを――感じはしないか……。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 黒鉄宮の廊下を私は歩いていた。

 PoHたちとのパーティーは個人の判断で解散していいと言い出したので、私は早速席を立って出てきたというわけだ。

 

 こんな日でも――いやこういった祝いの日だからこそ、黒鉄宮に集まっているプレイヤーは多かった。

 ALFの所属プレイヤー数は2000人強。

 これほど数が肥大化するとギルドへの帰属意識の低いプレイヤーが大多数なのだろうが、こんなときだけちゃっかり集まってパーティーを開くのは、日本人ならではの感性なのかもしれない。

 

 しかし外ではお祭り騒ぎをしているというのにここはとても静かだった。警備員がいるとき以外は一般開放されていない区画であり、そうでなくとも騒ぎ立てるような場所ではないため、当然と言えば当然だ。

 この先にあるのは展示エリアだ。

 ただの展示エリアではない。そこは歴戦の勇者――つまり死んでいった仲間を祀るために、その遺品たる武具を飾るための部屋だった。

 

 KoBが25層を攻略した後、紛失していた死亡プレイヤーのアイテムはその多くが届けられた。それは情報提供の見返りではあったものの、そうでなくとも届けただろうと、DKB――現在のDDAメンバーは言っていた。

 私もその受け渡しに立ち会い、追悼式にも参列した。

 ここにユウタや他のメンバーの武器が設置されるときも出席している。

 だが、役職を交えない私的な立場として、この先へ行ったことは一度もなかった。

 

 私にその資格があるのか? という感情からではない。私にあるのはもっと自分勝手な感情だ。それは『辛いことは思い出したくもない』というものだった。

 それでもなんとなしに歩けばここに来てしまっている。そして部屋の扉を開けることなく引き返すという無意味な行為を繰り返していた。

 

 メッセージの着信SEが鳴る。

 諜報員から監視していたターゲットに動きがあったとの連絡が入った。

 ようやくか。何も起こらないのではと少しだけ冷や冷やしたが、杞憂に終わってくれそうだ。

 立ち去る理由が出来たことで、私は喜々として踵を返した。

 

『転移――ミーシェ』

 

 私は報告を信じて35層の主街区へ跳ぶ。

 外は雪模様。ホワイトクリスマスだ。




ザザ「デュエル、だ」
ヒースクリフ「デュエルで決着をつけよう」
ザザ&ヒースクリフ「「デュエル!」」
エリ「NO!」

デュエリスト2人目。

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