――2024.1.1――
黒鉄宮の中では、ALFの制服を着たプレイヤーが慌ただしく駆けまわっていた。
ソードアートオンラインが始まり2度目の正月がやって来た。
ゲームに捕らわれたままの現状は目出度くはないものの、この日まで生き残れた幸運に感謝して、プレイヤーたちは盛大にお祝いをしていた。
最初の正月はゲーム開始からあまり日が経っていなかったこともあり、正月を大々的に祝うのはこれが初めて。
攻略組もこの日ばかりは最前線には出向かず、親しい友人らと共に社系のダンジョンへ安全祈願へ行ったり、羽根突きをするなどの娯楽を楽しんでいた。
私はというと、当然居残り。
クリスマスであれ元旦であれ、イベント毎のときには事故や事件が多発する。
気が緩んだ連中とそれを獲物にする連中。私はそんな連中を助けたり取り締まる立場で、だからこそこんな日に休む権利はないのである。
治安維持部隊の本部で私が雑炊を食べていると、最初の一報が入った。
たしか中層でPKに襲われて死者が出たとか、そんな事件だった。
私は部隊を調査に向かわせると、別の事件の連絡が入る。他の部隊を回そうとしているとさらにもう1件。
オペレーターのメッセージリストには次々に事件の報告が送られてきて、最初は悪戯に思われた。だがここは黒鉄宮。便利なアイテムがあると、生命の碑を確認させたところで事態が判明。報告にあった被害者以外にも多くのプレイヤーが死亡していたのだ。
私は急ぎキバオウへ連絡を取り緊急対策会議を開いた――という体裁である。
「エリ、概要頼むわ」
「はい。今回の事件は複数のレッドプレイヤーが共謀して行った事件っす。現在確認されただけで被害者数は24人。生命の碑で確認させたところ100人近い数の死者が出ていると思われるっす」
「ひゃ、100人だって!?」
「そんな事態になるまで何故気がつかなかったんだ!?」
「そうだ。これは君たち治安維持部隊の怠慢ではないかね?」
なにが起こっているのかわかっていない幹部たちが喚き散らす。
罵詈雑言が私に浴びせられるが、彼らは実に滑稽だった。
「ご静粛に。今回の事件は複数のレッドプレイヤーの集まりが1つの組織として纏まった結果によるものだと思われるっす。今までのような数人から十数人の小規模な集団ではなく、もっと巨大な組織っす。また、今回の事件は内部犯と思われる事件が多くみられており、これが未然に防げなかったことの原因っす」
「裏切り者がそれほどの数いた、ということか?」
「そうっすね。なぜそういったメリットを捨ててまで今回の事件を起こしたかについては犯行声明を聞いていただければ早いっす」
「犯行声明? いったいどこからそんなものが出てきたというんだ」
「全滅したギルドのギルドハウスを調べに行った部下が見つけてきたんすよ。他にも同じものが各所で見つかってるっすから情報統制は無理っすね」
「なんということだ……」
私はアイテムストレージから録画クリスタルを取り出す。
黒いひし形の結晶を軽く叩くと、少しだけ浮いて独楽のように回転する。そして虚空へプレイヤーの姿を投影した。
黒いシルクのような質感のローブを纏い、フードで顔を隠した男性プレイヤーは、映像であるのに怖気を掻き立てるような迫力を伴っていた。
「It's showtime.このメッセージを手に入れた諸君。初めまして。俺の名はPoH。このショーの発足人だ」
芝居がかった口調で話し始めるPoH。彼の口元は楽し気に弧を描いており、聞き惚れるような声色はテレビの向こう側で行われるドラマかなにかのような非現実感を与える。
「聡明な諸君であれば気づいているだろうが、今日は多くのプレイヤー殺させてもらった。なぜこんなことを、と思ってくれているか? そうであれば嬉しい。俺がその辺の気狂いどもと同じだと思われるのは我慢がならないからな。さて、本題に移ろう。今日は目出度い日だ。よって俺はこの目出度い日を記念してギルドの設立を宣言させてもらう。ギルドの名はLaughing Coffin.察しの通り、とびっきりのレッドプレイヤーを集めた犯罪結社だ。俺は常々思っていた。人は群れることで個人では成しえないほどの成果を上げてきた。ならば俺たちも団結すればより大きなことができるのではないか、とな。今回の一連の騒動はつまり、それの証明であり、ギルド発足を記念した余興でもある。諸君らも飛び切りの相手がいなくて退屈していただろう? ぜひ、俺たちからの挑戦状を受け取ってほしい。あるいは仲間に加わりたいというなら歓迎しよう」
彼の演説は終わったが、会議室は静まり返ったままだった。
このメッセージは誰が拾っても意味が通じるようにはなっているが、簡潔にまとめれば治安を守る我々ALFへの挑戦状ということになるだろう。
つまりこの会議に出席した彼らは、直接的ではないにしろこの男と戦わなければならないということになる。
当然のことながら、治安維持ギルドなどと銘打っていても私たちはその道のプロではない。利益を求め結果的にこのような形に落ち着いただけで、正義感に突き動かされて集った同志ではない。
対してPoHという男は、その道のプロと言っていい存在感があった。
平和な日本という国に生まれた私たちにとって、本物の戦争屋に挑むというのは妄想の中であれば簡単だろうが、実際に行わなければならないとなれば手足がすくんで動けなるのがいいところだ。
「では会議に戻るっすよ。このPoHというプレイヤーを捕らえるのが最終的な目標っす。ただ、現状目先の事件も解決しなくちゃならないっす。そこで追加の人員と予算を――」
「ま、待ちたまえ!」
「なんすか?」
「我々の護衛はどうなる。奴が狙うとすれば上層部だろう。ならまずは身の安全を確保すべきではないか?」
保身からだろうが、なるほどごもっともな意見だ。上層部がこのタイミングで死んしまえば混乱は必須。事態を収拾するどころではなくなる。
「で、私にどうして欲しいんすか?」
「君のところの子飼いに優秀な一団があるだろ。それを護衛に当てたまえ」
「本気っすか?」
「どういうつもりだ」
「……さっき言ったっすよね。今回の事件は内部犯が多いって。信用できるかどうかわからない他人の手駒なんて受け取っていいんすか?」
「君は自分の部下を信用していない、と?」
「してないっすよ。言っちゃなんすけど、あいつら狂犬っすからね。よく人を噛むっすよ」
「わ、わかった……。ならその狂犬をさっさとけしかけて、あの狂人を捕まえろ」
「そうさせてもらうっす。まず治安維持部隊の動きとしては注意勧告と現在起こっている事件の実行犯の確保っすね。捕まえたレッドから情報を引き出していくのが端的にも成果の出る方法だと思うっす」
「せやな。それでいこか。ほな広報のヤスジさんには今回の会見を開いてもらうで」
「な、なぜ私なんですか!? そこはキバオウさん――いえ、シンカーさんが……」
「異論は認めへんで。わかるな? 組織のために死んでくれや」
もちろん物理的に死ね、という意味ではない。表向きは。
実際は彼は数日中に殺される予定となっている。下手に禍根のある人物が残っていればそこから足元が崩されかねない。死んでも不自然ではない立場というのもある。
それはキバオウの案であり、つまり実際の意味は「俺のために死ね」ということだった。
彼はこれから石を投げられながら記者会見なり公式発表なりをして、最後は殺されるわけだ。こうはなりたくない。
「じゃあ私は失礼するっす。下手なプレイヤーじゃ返り討ちに会うのがオチっすから」
すでに何人か部下からも犠牲が出てるため冗談でもなんでもない。
「エリ。その……。気をつけて」
「シンカーさんも、っすよ」
「ははっ。その通りだね」
シンカーさんは今回殺さない予定だ。ラフィンコフィンからすれば、キバオウの基盤を強めるだけなのであまりにも不自然な行動として映る。それでも決行してしまえばキバオウの手の者がやったと疑われてしまうだろう。
もしシンカーが昔の威勢を取り戻していればあるいは……。人生なにが役立つか、わからないものだ。
私は会議室を出ると、治安維持部隊の本部へと急いだ。
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47層に広がるフィールドゾーン。巨大な植物系モンスターが群生するこのゾーンは、最前線からたった3つ下の危険地帯だ。
ここにPKを行ったプレイヤーが逃げ込んだと、各階層の転移門を見張らせていた部下から連絡が入った。
ここなら下手なレベルのプレイヤーでは捜索することもままならないだろう。人海戦術は使えないため、特にレベルの高いプレイヤーのパーティー――つまりいつものメンバーで突入するしかなかった。
残念ながらメンバーは私を含めて9人。確認されてるレッドは5人。戦力的には有利だが、完勝するには厳しい人数。
「ラフィンコフィンでしたっけ? まったく、面倒なことになりましたね」
「文句を言わずにキリキリ働くっすよ。今回は敵の戦力が未知数なんすから。行った先で待ち伏せされて返り討ちなんて洒落にならないっすよ」
「そ、そうですね。すみませんでした」
同僚の些細なミスに失笑が起こる。
「お前たちも笑ってないで、真面目にやるっすよ……」
「おっと。そうでした」
「まったく……。気が抜けてるぞ」
「お前も笑ってただろ!」
「なんのことやら」
肩に力が入り過ぎてないといえば聞こえはいいが……。
先行している部下からの連絡はなし。つまり彼らは転移結晶での移動をせずに、この先にいるだろうということだ。
道中の植物系モンスターを手早く片付け、辿りついたのは小高い丘。
うっすらと雪の積もっている、見晴らしの良い丘には情報通りカーソルカラーを赤に変えたプレイヤーが5人揃っていた。
彼らは各々武器を抜き臨戦態勢を整える。
「あいつらやる気みたいですね」
「周囲に潜伏中のプレイヤーは?」
「いません」
「舐められたもんだ……」
「さて。意外と手練れかもしれませんよ」
「無駄口は後。やるっすよ」
私は指示を出して鶴翼の陣を敷く。
そのまま陣形を崩さずじりじりを距離を縮める。あと数歩で先端が切り開かれる。そこで私の左右に布陣するプレイヤーが4人、向きを反転させた。
「なに、してるっすか?」
「わからないか?」
「わからないっすね……」
「クククッ……。こんな何もない場所で隠れもせずに待ってるなんて、おかしいと思わなかったのかよ」
「つまり裏切ったわけっすね……」
「ようやくわかってもらえたか。抵抗しないなら考えてやるよ。お前も一応女だし、使い道は色々あるからな。お前らも元同僚のよしみだ。PoHに俺から仲間に入らないか頼んでやるぜ」
部下だった男は、麻痺効果のあるレイピアをチラつかせて下卑た笑い声を発していた。
「残念っすね。……やれ」
「おいおい、状況がわかってんのか? こっちは9に――アガッ!?」
予想していなかった方向からの攻撃に、彼は避けることもままならず串刺しにされる。
彼を刺したのはレッドプレイヤーの1人。それを皮切りにレッドプレイヤーたちは裏切り者の4人へ武器を構える。
「な、なにやってんだよ! 俺じゃねえ! こいつらをやれ!」
「わからないっすか?」
「あ……」
「ハメられたのはお前らっすよ」
「な、なんで……。俺はあんなに貢献してやったんだぞ……。なのに……。どうしてだ、PoH!」
怒号に答えるように笑い声が木霊した。
裏切られたとわかり絶望している4人以外の全員が、笑っていた。
「お前がALFの情報を流してるのはずっと知ってたっす」
「いつからだ。いつから、知ってた……」
「最初からっすねー。仲間外れは君たちだけだったわけっすよ」
「あんたもPoHの仲間、だったのか……。だったらどうして!?」
「どうして自分は仲間に入れてくれなかったか、っすか? いやだって裏切り者なんて信用できないっすよ。あと他の連中はちゃんと私に報告してくれたっすからね」
「そんな……」
今回のことはPoHの発案だった。曰く忠誠度を試すべきだ、と
難儀なものだ。私を裏切ってPoHについたやつらがこうしてPoHからも捨てられ、PoHではなく私についたやつがこうして一緒にPoHの側に回っている。
私もALFの立場を捨ててラフコフへ寝返っていればこうなっていたのだろうか。それは怖ろしい考えだ……。
なお、純粋に正義感からPoHの誘いを断った連中は今日は連れてきていない。だからこそフルメンバーではなかったわけだ。
「さてと。それじゃあ片付けるっす」
「ち、ちくしょうっ!」
元部下の男が構えた細剣がソードスキルの起動エフェクトを輝かせた。
ソードスキルのエフェクト光というのは曲者で、プレイヤー側で設定ができる。そのカラーリングは解放クエストが設定されていて、いわゆるお洒落要素と思われがちだ。しかし実際に相手にしてみればわかる。色によってソードスキルの対応難易度はかなり変わってくるということが。
彼の使っているカラーは白。明るい場所では特に目で追いにくく、実際よりも剣が素早く見えるカラーだ。この雪景色の中ではかなり強い。
剣が消えたかのように動いた。
細剣のソードスキルは速度重視でAGIも高く割り振っている彼の剣技に、私のソードスキルなど追いつくはずもない。
だが。速ければ強いのかというと、そんなことはない。
私の今日の装備は間合いの長い長剣に大盾というボスエネミーもかくやといったもの。
大盾はシールドブレイクされにくくガード範囲も広い。一撃一撃が軽い細剣では到底崩せず、また突きがメインであるため正面に置かれた盾を突破することもできまい。
中段からの3連撃を盾の中央で弾くも彼は体勢を崩さず、下段斬り払いに移る。その時点でこのソードスキルが刺突8連撃『スター・スプラッシュ』であると判明し私は慌てず盾での防御に努めた。2回の斬り払いで下に注意を向けた所でこのソードスキルは上段2回の刺突へ動きを変える。
中盾までであれば崩せるのだろうが、大盾のガード範囲は構えただけで足元から頭上まである。この選択は悪手であった。
最速の剣はあっさりと大盾という壁に阻まれ、華麗な8連撃は私のHPを1割すら削ることなく終了した。
ソードスキル後の一瞬の硬直。彼がいかに素早くともこの瞬間は無防備だ。
私はシステム外スキル『ディスアーム』を行い、彼の伸びきった腕から細剣を弾き飛ばした。
細剣が回転しながら宙を舞い、雪の積もった大地に突き刺さる。
「そんな……」
「お前は物覚えの悪いやつだったっすね」
戦闘中に武器を落とすなど、一緒に首も落としてくれと言わんばかりだ。彼はすでに死に体。剣を拾う暇も与えず殺せる間合いだった。
逃げ惑う彼を背中から容赦なくソードスキルで刻み続けることを数回繰り返すと、HPは簡単になくなった。ポリゴンの飛散するSEが鳴り響き、私は残りの3人と戦っているメンバーに加勢する。
戦闘が終わるのには5分もかからなかった。今までで最もレベル差の少ない対人戦であったが、結局は犠牲どころか苦戦もなかった。
陣形を完璧に整えられたからというのがあるだろうが、あっけない幕引きだ。
「馬鹿なやつだったよ。まったく……」
「悔やんでるっすか?」
「どうでしょう。ただ、裏切られたのは悲しいですね」
「そうっすか……」
私はあまり悲しくなかった。始めから知っていたので、親しくもしないでいたのが原因だろう。そうでなければ違っていたかもしれない。もしも彼が裏切らないでいてくれたら……。そうすれば戦力は減らないで済んだ。それが残念ではあった。
「お疲れさまっす」
「いやいや。こっちもおかげで楽させてもらってますよ」
私はレッドプレイヤーに挨拶を交わす。
「じゃ、この後俺は捕まればいいんですよね?」
「そうなるっす。司法取引ってことですぐに出してあげるっすから、不便かもしれないけど我慢してくださいっす」
「わかってますよ。それと信頼もしてます」
少し嫌そうな顔をしながら差し出された両手に、拘束アイテムを使い監獄へ跳ばす。
彼は捕まり要員で、私の手柄になってもらうことになっていた。そしてラフィンコフィンの情報をALFへ発信して、それを使い私は頭角を現し始めたライバルを蹴落とす算段だ。
「撤収!」
「「はい!」」
転移結晶を使い私たちは黒鉄宮へ戻った。
PoHがやりたい放題やってくれたおかげでこっちは仕事が山積みだ。片付けなければならない案件の多さには、辟易してくる。これが終われば休みがもらえるのだろうか? いや無理か……。
すでに幕は上がったわけで、私の手では止まらない。自由意志は諦めるべきだ。さて、まずは台本通りの尋問から始めよう。そうしていれば、少なくとも私はさっきの元部下のようにならずに済むのだから。
▽▲▽▲▽▲▽▲
惨劇の正月事件。あるいはラフコフの産声事件。
そう呼ばれる事件はプレイヤーたちに大きな爪痕を残した。
――総死者数300人弱。
短期間でこれだけの人数が死亡したのはゲーム開始直後以来初の出来事だった。
ラフィンコフィンが直接殺した人数がこの半分ほどでしかないのを私は知っている。では残りの半分は誰が殺したのかというと、それは関係のないプレイヤーだ。
PKを返り討ちにして殺してしまったプレイヤーがいた。彼らのカーソルは当然赤に変わる。
そんな彼らを見て、友人を殺した犯罪者の仲間だと勘違いをしたプレイヤーが義憤に駆られた殺人を犯した。
壊滅したギルドの生き残りは、その者こそが裏切り者だったと誹りを受けて殺された。
あるいは、そうした魔女狩りから自分の身を守るべく剣を取り、返り討ちにして殺してしまった者もいた。
関係のないプレイヤーがラフィンコフィンの名を騙って殺人を始めたりもしていた。
PoHが直接計画した事件よりも二次被害の方が甚大で、プレイヤー間の信頼は地の底まで落ちたと言わざるを得ない。あるいはこうなることまで含めた計画だったのか。
この一件以来、中小ギルドの大半は駆逐され、ALFの傘下に加わった。
並み居る政敵をこの混乱に乗じて殺せたキバオウの地位は揺るぎないものになっている。政敵だけを殺せば事は露見し易くなるが、木を隠すなら森の中。殺人を隠すなら虐殺の中というわけで、これだけの死傷者に埋もれて誰も疑いはしなかった。
逆に犯罪者プレイヤーの結束は強まっていた。
PoHの演説は多くのプレイヤーの目に留まり、新聞にも大きく取り上げられている。
彼の言葉通り、レッドプレイヤーは団結したことで大きなことを成し遂げた。今まで軍に怯える立場だったのが、一転して軍すら怯える存在に変わる。その抑圧からの解放は実に多大なカタルシスを生んだことだろう。
魔女狩りめいた混乱の最中、行き場を失ったプレイヤーさえ仲間に引き込んでラフィンコフィンは拡大の一途を辿っていた。散り散りだった犯罪者集団も続々と傘下に加わっているそうだ。
今ではPoHという名は犯罪界のカリスマ――いや、神格化されているとさえ言える。
犯罪者の中にはPoHを崇拝するものが現れ、彼への信仰を示すため殺人を行ったと供述する者を私は最近捕まえた。
この影響は攻略のスピードにまで影響を与え、50層のフロアボスはその強さもあってか、発見から1カ月もの間倒されることがなかった。
遅々として進まない攻略とプレイヤーによる殺人事件の増加は人々に不安の影を落とし、ALFは攻略からの完全撤退を発表することになった。
――なお、キリトの活躍があったかどうかは定かではないが、この一件でリズベットが命を落とすことはなかった。
ついに攻略組ですらなくなる主人公。