レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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30話 棺桶と鎮魂歌(11)

 小さな村の古井戸を抜けた先。

 地底からやってくる、闇の軍勢を封印するといったキャンペーンシナリオの終着点だったらしいこのダンジョンは、その役目を終え、新たな闇の軍勢の住処になっていた。

 鍾乳洞のような巨大地下空間には俺たちが発する物音以外は聞こえない。

 この大所帯では全員が潜伏を持っているはずもなく、俺たちは索敵スキル持ちに警戒をさせつつ迅速に奥へ向かうことしかできなかった。

 モンスターは事前情報に偽りなく出現してこないものの、足場の不安定さは想定よりも深刻だ。手摺りのないフロアの端は底の見えない闇に繋がっていて、フロアとフロアを繋ぐ、通路代わりの足場は動いているため分断されやすい。

 おそらく足場の移動パターンを変更するギミックもあるはずだ。

 確認できている範囲ではクリスタル無効化空間はまだない。このままその凶悪トラップだけは出ないでくれと、俺は神様――もといソードアートオンラインを制御しているシステムAI、カーディナル様に祈っておいた。

 

 俺たちはいくつかの足場を越えて、新たな細い足場に差し掛かる。

 いくつもの足場が移動し合っていて、そこから次々に別の足場へ移動するポイントだ。

 足場は3メートル四方の物から、数十メートル級のものまで幅広く、一本道ではなく自由なルート選択ができるようになっている。

 脳裏にチリチリと嫌な予感が走った。

 俺は索敵スキルを再度アクティブにするも反応はなし。――気のせいか?

 先の一団が渡り終えて、足場を待っている間俺は剣の柄に手を伸ばしていた。

 

 ――突如、転移のエフェクトが輝く。

 

 俺は鞘から剣を抜いて周囲を見渡すと、足場の向こう側にも転移してくるやつらがいた。その数は10や20では利かない。待ち伏せされていた!?

 エフェクトの輝きが揺らめくと、それはプレイヤーの形となり、近くにいた風林火山のパーティーメンバーを剣で貫いた。

 

「て、敵襲だ!」

 

 俺はすぐさま襲われていた仲間の援護に入る。

 ラフコフの片手直剣使いを上段からのソードスキルで叩き斬る。

 怯んだそいつは刺した剣を引き抜いて距離を取ろうとした。

 深追いはしない。なにせ敵は山ほどいて、しかもプレイヤーなのだ。PvEのようにタンクがヘイトを集めて、などという戦いにはならない。

 

「助かった」

 

 近くにいた別のPKへ斬りかかる。

 削るのではなく、牽制の攻撃。

 俺たちは今奇襲を受けた側だ。まずはこの場を一端凌いで、陣形を整えるのがセオリーだ。

 おそらく高い隠蔽スキル持ちのスカウトが隠れていたのだろう……。だがそれにしても対応が早い。どこからか情報が漏れていたのか? 可能性としては大いにあり得るな。

 

「乱戦と足場に注意して! パーティーでお互いをカバーしあってください!」

 

 喊声の轟く戦場であってもアスナの声は聞き逃さないほどよく響く。

 あの華奢な身体のいったいどこから、これほどの声量を出しているのだろうか……。

 混乱の最中にあった俺たち討伐隊は、アスナの指令の元、冷静さを徐々に取り戻していく。通路で分断されているが、それは相手も同じ。数はラフコフに軍配が上がるが、質は圧倒的に俺たちが勝っているはずだ。

 

「1班北側に前進。2班はその場で食い止めて!」

 

 アスナが戦場を俯瞰しながら指示を飛ばしている。

 当然だが敵がそれを見逃すはずもなく、彼女の背後からPKが忍び寄っていた。

 

「アスナっ!」

 

 俺の声が届いたのかアスナは振り返りざまにレイピアを抜き打つ。

 アスナの姿が一瞬ブレて、襲いかかろうとしていた男の腕を貫き、PKの放ったソードスキルは彼女の残像を切り裂いた。

 相変わらず凄まじい速度だな……。AGI特化でも、普通ああはならないぞ。

 俺も負けていられないと周囲のPKを返り討ちにしていくが、足場の関係で非常にやりにくい。フロアの端に追い詰めることはできるのだが、そこからの一歩が遠いのだ。下手な攻撃では彼らを突き落としてしまうし、位置取りを少しでもミスれば今度は俺が奈落の底へ真っ逆さまだ。

 慎重に斬り合いを繰り返しながら、前衛を交代した折に、俺は戦場に潜む敵を探した。狙いは幹部のうちの誰か1人。人が密集しすぎて、これでは隠蔽スキルなどなくとも簡単に紛れて隠れられそうだ……。

 

「黒猫の、剣士、だな」

 

 途切れ途切れで擦れた声。俺がそれを聞き逃さなかったのは、殺気とでもいうべき異様な雰囲気を、そいつが放っていたからだろう。

 

「赤目のザザだな」

 

 骸骨の仮面。赤い眼光。構えた武器はエストック。

 着ている防具こそ以前遭遇したときとは違うが、間違いない。

 

「探す手間が省けた」

 

 俺は黒き愛剣、『エリュシデータ』を肩に担ぐように構える。

 フロアボスの中でも別格とされるクォーターポイント。その50層フロアボスからドロップしたこの魔剣は、ゲームバランスを置き去りにするほどの性能を持つ。

 入手当時では装備できなかった両手槌クラスのSTR要求値。

 基礎性能もさることながら、強化可能回数と強化最大値による圧倒的成長性。

 サイズこそ108センチと平均的だが、ロングリーチの剣は癖が出やすいので俺にはありがたい。

 

 対するザザの構えは中段。フェンシングのような構えだ。

 正中線をピタリと捉えているため、剣が点にしか見えず距離感が計り難い。

 全体像を見るようにして距離感を計り直すが、やつのエストックはリーチが長いことがわかる。

 長物は手元の小さな動きでも、切先までの距離が遠いため、ハッキリと出てしまう。そのためリーチのメリットは大きいが、短所として読まれ易さというのがある。

 だがザザはそれを克服した高い技量の持ち主だ。

 やつのエストックは一切ブレることなく空中に静止している。

 

 こっちは武器強化を正確さ(アキュラシー)にあまり振っていない。

 不味いな。剣の技量という点では負けているだろう。

 俺は即座にそう判断を下すが、勝負とはなにも剣の技量だけで決まるわけではない。

 持っている様々なステータスの差。そしてそれを引き出し、抑え合う駆け引きで決まるのだ。

 

「うぉおおおおおお!!」

 

 初撃から全力。ソードスキルではないが、体重を乗せた重たい一撃で斬り込む。

 半歩退くことでザザはそれを躱す。目がいい。動体視力ではなく、距離を計る方面でだ。

 ザザのエストックはソードスキルの発動エフェクトを輝かせた。狙い通り。

 細剣の刺突系ソードスキルはどれも待機モーションが似通っているため、目視での判断は難しい。だがそれを一々計算してやる必要はない。

 俺は空いている左手で体術系ソードスキル『閃打』を選択。

 ザザの出鼻を挫いてソードスキルを不発にさせたついでにHPを少し削る。

 

「ほう……」

 

 体術系ソードスキルの隙の無さを利用して、俺はすぐに剣を返して斬りかかった。

 やや大振り。速度よりも重さに傾倒した太刀筋は、美しさとは無縁の武骨なものだ。

 だがそれでいい。速度で勝る細剣使いを倒す時のコツは、ペースを握らせないことだ。

 彼らは大抵打たれ弱く、競り合うのにも適していない。そのため回避をしながら隙を突くという一瞬の戦いになりがちだ。

 それをさせれば俺は負ける。

 だから俺は反撃の暇を与えずに押し切るという戦術を取った。

 エリュシデータを装備するためにもSTRは大目に振ってある。瞬間ダメージならこっちが上だ。

 

 息も吐かせぬ力強い連撃。

 無酸素運動は徐々に体力を奪っていくが、それはザザとて同じだ。

 数十回目の踏み込みで、ついにザザは回避が間に合わずエストックで俺の剣を受け止めた。俺はさらにペースを上げる。

 一度ガードに使ったエストックは反撃する余力が失せている。構え直す暇など与えない。

 押して、押して、押す……!

 

「――フッ」

 

 ザザは左手で体術のソードスキル『エンブレイサー』を使用。

 鋭い手刀による突きが俺の脇腹を抉る。

 俺は構わずフルスイングでやつの仮面の叩き斬りにいった。

 しかし身体ごと頭を下げてザザはその場で回避。剣は空のみを斬る。

 

「うらぁああああああ!」

「クッ!」

 

 体術系ソードスキル『弦月』。

 後方に宙返りをしながらの蹴り。いわゆるサマーソルトキックだ。それがザザの頭部を芯で捉えHPを削った。

 俺は着地と同時に逆回転のソードスキル『朧月』へと繋げる。

 ザザも流石に頭を激しく揺さぶられたせいで距離感を失っていたらしい。やつは念入りに頭部をエストックと腕によるクロスガードで守りながら、バックステップで間合いから逃げ出し、俺の蹴りは地面を叩いた。

 

「大人しく捕まれ」

 

 ザザはおそらく自分のHPを確認したのだろう。残り7割。まだまだ余裕がある。

 俺のHPは9割くらい。さっきのエンブレイサー以外に手傷はない。

 

「もっとだ。まだ、足りない。お前も、そうだろう?」

「お前と一緒にするな」

「ククク……」

 

 ザザはエストックを構え直した。クソッ。折角の間合いも詰め直しか……。

 最初のときのようにはいかないだろう。フェイントを混ぜて――いや、片手直剣のソードスキルで攻めてみるか。

 俺は下段に構えて機を窺う。やつのソードスキルをソードスキルで斬り落とす狙いだ。

 脆い武器なら武器破壊が起こるのだが、そんなことが起こるのは玩具のような脆い武器くらいだ。あのエストックは断じてそんなものではない。

 ザザが足をわずかに滑らせる。

 ――来る。そう思ったときにはすでにザザは走り出していた。

 

「逃がすか!」

 

 ザザは狭い足場へと飛び乗り再びエストックを構える。

 俺はこの乱戦になっているフロアの端にいては危険だと判断して、ザザの近くにある別の足場へと飛び移る。

 俺たちの距離はほんの5メートルくらい。突進系ソードスキルの間合いであるが、足場は絶えず移動しているため、着地できなければ落下死は免れない。

 

 動かずとも足場が勝手に引かれ合い、距離を縮めていく。

 互いにソードスキルの構え。

 俺は愛用しているソードスキル、『ヴォーパル・ストライク』を放つ。

 刀身の倍以上の射程を持つエフェクト主体のソードスキルは、流星を彷彿とされる軌道でザザの肩を抉る。

 ザザも負けじと細剣重三連突き、『デルタアタック』を放つ。

 三角状に放つ重たい突きと、それに伴う範囲攻撃のエフェクトが俺の身体を後ろへ追い落とそうとした。

 俺は3つの突きを避けることも防ぐこともなく、前へ出る。

 十分な加速を得るための距離を失い、デルタアタックの威力は減衰するが、胸と両の太股に空いた傷口が不快な信号を脳へと送り続けている。

 

 俺はHPの3割を犠牲にしてザザの足場へと入り込んだ。

 刺突のほぼ不可能な間合い。かといって俺のエリュシデータも十分な威力は発揮できない。

 俺とザザは空いた左手と足、そして体当たりを駆使した体術スキルの白兵戦に興じる。

 ザザがまず、俺の剣を封じるべく右腕を抑えた。俺は左手で喉を突くが寸前のところで身体をひねり避けられてしまう。この距離でも避けるかと内心で悪態を吐きつつも、左手を引き戻し胴体に

拳を叩き込み続ける。

 じわりじわりとザザのHPが削れるが、やつも黙って見ているわけがない。

 足払い、掌底、体当たり。足場から落とすための技を次々に駆使してくる。その代わりDPSは俺の方が上だ。

 

「しまっ――!?」

 

 ザザの狙いがようやく成功する。

 足払いをフェイントにした掌底が、俺の身体を足場の外へと押し出した。

 苦し紛れにエリュシデータを振るい、ザザの足に切り傷のエフェクトを残して、俺は重力に引かれていく。

 計画通りだ。――ソードスキル『ライトニングフォール』。

 空中で存在しない地面を蹴り、宙返りをしながら、逆手に持ち替えた剣を足場へと突き刺す。剣からは範囲攻撃の衝撃波エフェクトが放たれ、足場のすべてを攻撃判定で覆った。

 

 ザザの姿がない。

 周囲を見渡すと、すでに別の足場へ飛び移った後だった。読まれていたのか?

 今度は少し遠い足場で、近づいていく他の足場はない。

 ザザのHPはイエローゾーン。やつは腰から回復結晶を出して使用を試みたため、俺は即座にピックを投擲。回復結晶を手から落とさせた。

 

「チッ!」

 

 投擲武器は総じて威力が低い。

 ソードアートを謳い文句にしたゲームなのだから、遠距離武器が弱いのは当然。

 しかしないよりはマシ、牽制にはなると、片手武器使いの多くが愛用してやまないのも事実だ。

 俺は普段は値段と重量だけが取り柄の安物ピックを使っているが、今日ばかりはクリティカル値の優れた高威力ピックをアイテムチェストから引っ張り出してきた。

 俺はダメージを重ねるべく高額ピックを投げつけるも、甲高い衝突音を奏でて、それは空中であらぬ方向へ軌道を変えた。

 ザザもまた、片手武器使い。やつの左手には投擲用のナイフが握られている。

 投擲武器にするにはやや大振りのナイフ。短剣カテゴリーの武器は、投擲に使えたはずだからそれだろうと予想する。

 1発当たりの威力は、短剣を投げた方が強い。

 

 ザザの投げたナイフを俺は剣で弾き、ピックを投げ返す。

 やつが使ったのは『シングルシュート』。俺が使ったのは『トリプルシュート』。

 3発のピックを別々の部位にターゲットして、ソードスキルに逆らうように身体を動かすことでディレイをかける。

 エストックによって2つは弾かれたが、1つは命中。ダメージを受けたのかどうか疑わしい程度しかHPは減少しない。

 再びザザの投擲。今度はホーミング性能の高いソードスキルで、弧を描くようにナイフが飛んでくる。さらにその間にザザは直線の投擲を行う。2つのナイフが同時に襲い掛かり、俺は片方を剣で、もう片方を体術のソードスキルで迎撃。

 

 イニシアチブを奪われてしまい、次々にナイフが飛んでくる。

 それらを空中で撃ち落とし、剣で斬り払い、体術のソードスキルで弾く。回避はできない。足場が狭いせいでホーミングを振り切れないためだ。ザザの投擲が上手いというのもある。

 俺は反撃することを考えず防御に徹した。

 ナイフの雨はすぐに止む。当然だ。なにせあれだけ嵩張る物を大量に身につけられるわけがない。

 ソードアートオンラインのアイテム使用方法は主に2種類。アイテムストレージから使用するか、オブジェクト化した物をキーワードか手で操作するかだ。

 投擲は後者。ウェストポーチやポケットの中に消耗品をオブジェクト化した状態で持ち運ぶことで、メニューウィンドを開く手間を省くのだが、それは投擲物も同様。専用のホルダーをどこかに身につけなければならず、大型のものならその分面積を奪われる。非VRゲームのように大きさに関係なく持ち運べはしないのだ。

 

 ザザの弾切れを察知するや否や、ピックによる立て続けの攻撃を開始した。

 さっきまでのお返しと言わんばかりに投げつける。ピックは小型なため所持可能数が多いのがメリットだ。

 ザザは踵を返し、別の足場へ移動することで距離を稼ごうとする。それとも今度こそ撤退するつもりか?

 俺は追いかけざるを得ない。ザザのさっきまでいた足場へ跳んだ瞬間。

 

「――シッ!」

 

 隠し持っていた、おそらく最後の投げナイフ。

 俺はソードスキルで加速してそれを回避。足場へ無事に着地する。

 

「すばらしい。お前も、まさしく、強者だ」

「そうかよ。だったら捕まってくれ」

「エリが、心配、か?」

「………………」

「ククク……。ならば、追いかけて、来い。この先で、待っている」

「逃がすか!」

 

 逃亡体勢に入ったザザから一度目を離し、戦場を見る。

 HPでは討伐隊が有利だったが、ラフコフの一部は死を恐れずに襲い掛かってきている。HPがレッドゾーンの相手に怯み、1人のプレイヤーがたった今、その身体をポリゴンに変えて飛散させた。

 敵の狂気に呑まれたプレイヤーの中にはアスナの姿もあった。

 彼女のHPはイエローゾーンへ入り、対して敵のHPはレッドゾーン。

 それが彼女の精神に大きな負荷をかけ、普段の毅然とした構えは見る影もなく、腰が引けて、剣先には震えが伝わっていた。

 敵がソードスキルの構えを取った。不味い。

 

「アスナァアアアアア!」

 

 俺は跳び、突進系のソードスキルで上空から斬りかかる。

 背に鈍い感触。なにかが刺さったようだ。だが俺はソードスキルを止めない。

 加速を得た俺の身体はPKとの距離を一瞬で埋め、剣を握った右手に、斬った感覚が走った。

 何度も経験してきたはずの電気信号が、やけに生々しかった。

 

「あ、ぁぁああ……」

 

 首を斬られたPKが出しているのか、それとも俺が出したのかわからない声が聞こえる。

 目の前のプレイヤーのHPは空になっていた。

 左右に裂けたアバターが、その切断面からポリゴンに変換されていき、モンスターと同じように爆散して消滅する。

 俺のプレイヤーカーソルが返り血のように赤く変わった。

 

 人を……殺して、しまった……?

 

 その実感は、ザザとの戦いの熱を奪い去るには十分なものだった。

 斬らなければアスナが危なかった。それは剣を向けるには十分な理由だったが、殺さないで済む方法が他になにかあったのではないかと、後悔が押し寄せる。

 どんな理由があったとしても、人を殺すという行為は悪だ。

 恐怖が俺の身体を蝕み、切っ先がだらしなく地面を擦っている。

 

「おいキリト! しっかりしろ!」

 

 剣と剣がぶつかる音と、俺の名前を呼ぶ声にビクリと身体が跳ねた。

 いつの間にか俺に斬りかかっていたPKを、斧の柄で防いでいたのはパーティーメンバーのエギルだった。

 あこぎな商売ばかりしているこの男の背が、今日はやけに頼もしく見える。

 

「キリト君。わ、私……」

「……エギル。アスナを頼む」

「おい! なにするつもりだ!?」

「ザザを。あいつを追う」

「なっ! 罠だ馬鹿野郎。1人で先行するな。――クソッ!」

 

 赤い瞳で見下ろしていたザザが、マントを翻して奥へと去っていく。

 俺はエギルの静止を聞かず、ソードスキルを使った空中機動で足場を乗り移り、やつの背を追いかけた。今度ばかりは駆け引きではなく、本当に逃げる様子だ。

 エギルの言う通り、十中八九罠だと思う。それでも立ち止まるわけにはいかないんだ。

 俺はもう、あのときのように誰かを失うのは嫌だ。

 

「……サチ」

 

 例え、それで誰かを殺めることになっても。それでも俺は……。


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