レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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キャラクターが一度に登場し過ぎたため補足。
重要ではないのですが、混乱させても悪いので参考までにどうぞ。

【ギルド:風林火山】
クライン………刀使いのギルドマスターで、単体アタッカー
トーラス………片手メイスと大盾使う、メインタンク
ジャンウー……片手直剣と小盾を使う、サブタンク
カルー…………両手剣を使う、範囲アタッカー
オブトラ………軽装の両手槍使う、遠距離アタッカー
アクト…………重鎧と重量級の大槍を使う、サブアタッカー


36話 灰色のエンドロール(3)

「これ以上、やらせるかぁああああああ!」

 

 キリトが炎の壁を突き抜け、ボスの眼前に躍り出る。

 彼はボスの大剣を紙一重で避けて、振り下ろされた腕を漆黒の片手剣で切り裂く。

 ボスのHPバーは残り2本。追加された行動はすぐに使われた。

 大剣が炎を纏ったのだ。攻撃力強化かと思ったがそれだけでない。ボスの斬撃はその直線状に炎を走らせ、新たな障害物を設置したのだ。

 入口手前が炎で分断される前に、結城さんや、風林火山のメンバーがボスエリアに飛び込む。

 初見の行動を前にして誰一人攻撃を受けず、その上飛び込む勇気と判断能力は流石攻略組と言わざるを得ない。

 

「キリト君!?」

「キリト! クソッ。どうにでもなれ! アスナ。指揮は任せるぞ」

「はい。わかりました!」

 

 結城さんは鋭い視線で戦場を見渡し大きく息を吸う。それは1秒にも満たない時間だった。

 

「アクトさんはコマンダーのヘイトを。トーラスさんはアクトさんをソルジャーからガード。クラインさんはコマンダーを撃破。ジャンウーさんは散っているソルジャーを北に集めて。オブトラさんとカルーさんはジャンウーさんの集めたソルジャーを撃破してください」

 

 結城さんは一息で6人の行動を操った。

 風林火山のメンバーの動きは迅速だ。それぞれが命令に従って放たれた矢のように走る。戦場が整理されるのにそう時間はかからないだろう。

 結城さんはそれから戦闘には参加せず、倒れているALFのメンバーの元へと走った。

 

「大丈夫ですか? まずはポーションで回復してください。全員で入口に集まると危険ですから、順番に離脱しましょう。いいですね?」

「は、はい……」

「そこのあなた。気絶している人を運ぶのを手伝ってください。意識のない人を優先して離脱させます!」

 

 よく見れば意識を失って床に倒れているプレイヤーもいる。

 痛みによるものでも、スタンや麻痺のせいでもない。

 あれは極度の緊張で意識が混濁してナーブギアとの接続が上手くいかなくなっているせいだろう。

 危険に慣れていない初心者にありがちな症状だ……。

 

「これよりKoBサブマスターの私、アスナが指揮を執ります。落ち着いて私の指示に従ってください! 全員で生きて帰りましょう!」

 

 混戦の中でもハッキリと聞こえ、その上耳に残る強い声だった。

 コーバッツという支えを失った彼らは、まるで誘蛾灯に誘われる虫のように、彼女に従順に従う兵隊に変わった。

 結城さんは戦場の中央付近で、ボスの攻撃圏外から支持を飛ばしてALFのメンバーを新たなパーティーに再結集させていく。

 

「やばっ!」

「タンクー!」

 

 クラインの応援要請。

 ソルジャーが集まり過ぎて、ブロックしている大盾使いのトーラスがキャパをオーバーしていた。

 

「カバーに入るっす!」

「助かる!」

 

 私は炎の壁を抜けてHPを削られながらも、トーラスの横を抜けようとしていたソルジャーを突進系ソードスキルで食い止めた。

 ソードスキルの硬直時間を終えると、盾を使ってソルジャーの進路を塞いでいく。

 ソルジャーはコマンダーの指示に従い、ヘイトを取っているアクトに襲い掛かろうとしているのだが、攻撃をされれば回避行動を行う。それを誘発させて時間を稼ぐのだ。

 

「このっ。いいかげんにくたばりやがれ!」

 

 クラインはソードスキルによる連撃で、反撃を受けつつもコマンダーを捻じ伏せた。

 ヘイトが通常の処理に戻り、ソルジャーが私とトーラスに向く。

 すかさず重鎧を着た両手槍使いのアクトが敵陣に斬り込み、範囲攻撃で押し返していく。中央に道ができ、そこを硬直時間を終えたクラインが刀で斬りつつ追従。2人は背後に回り、あっという間に包囲陣形が完成する。

 トーラスがソードスキルを使いメイスで押し潰していくのに合わせて、私もヴォーパルストライクの直線範囲攻撃でDPSを上げていく。

 ソルジャーの背後では2人が範囲系ソードスキルを放ち、囲まれたエネミーは凄まじい勢いでHPを失った。

 

「いっちょあがり」

「エリさん。キリト君とスイッチ! 残りのメンバーはプリーストの撃破に回ってください!」

 

 結城さんと一瞬目が合う。流石にこんなときまでいがみ合いはしない。以前、私が攻略組だった頃、彼女の指揮下で戦ったこともある。大丈夫だ。

 私はポーションを飲みつつ走り、キリトの背後に駆け付ける。

 キリトのHPはすでにイエローゾーン。4割といったところか。想像以上にボスのDPSは高いらしい。

 

「キリっち。いくっすよ」

「おうっ」

「……スイッチ!」

 

 キリトのソードスキルに合わせて、ボスの懐に入り込み、連撃系ソードスキルを叩き込む。

 だがヘイトを奪うにはまるで足りない。重ねてきたダメージがないのだから当然だ。

 こういうとき、前に出たタンクは下がったプレイヤーに向かう攻撃をブロックしながら、攻撃を重ねてヘイトが溜まるのを待つ。

 キリトへ向かって、突進系ソードスキルを放つ気配を感じた私は、間に立ちふさがり盾をずっしりと構える。

 ボスの繰り出した『アバランシュ』は、プレイヤーが使うソードスキルの何倍も重く威力があった。私のHPはガードの上から削られていくが、先程飲んだポーションの効果が残っているため徐々に回復はしている。最終的には2割の損害に収まるだろう。

 ボスもソードスキルの硬直時間で足を止めている隙に、私は体術のソードスキルを織り交ぜながら剣でダメージを累積させていく。

 ヘイトが溜まるのに時間はあまりかからなさそうだ。

 ボスを攻撃で牽制しながら時間を稼ぐが、両手剣の範囲が広すぎて回避しきれない。ただですらボスの攻撃は大きくて速いというのに、炎のエフェクトにも当たり判定があるため安全な場所がないのだ。

 ギリギリ股下がそうかと思えば、尻尾の蛇が顔を覗かせている。つまり逃げ場はない。

 

「よっしゃ、プリースト1体撃破だぜ!」

 

 クラインの声と共に、ボスの速度がわずかに下がった。

 そろそろボスは私に狙いを定め、横薙ぎの攻撃を繰り出してきた。

 剣と蛇。どちらに行くべきか。思考は一瞬。足元に飛び込んで大剣を避ける。待ちかまえていた蛇頭が尻尾をバネのようにして私に跳びかかった。大盾によってガードは簡単に成功するものの、毒状態が怖い。保有する毒が麻痺だとすれば逃げる間もなくミンチだ。継続ダメージの毒でも、回復が困難なこの状況では命取りだろう。

 私はすぐに間合いを離して蛇の攻撃範囲から外れる。

 キリトは、私といつでもスイッチできるようにダメージを稼いでいる。

 目でわかる程度に削れていく。ボスの防御性能は思ったよりも低い。おそらく3本目のHPバーだけが極端に総量が少ないのだろう。嫌な予感がしたが、手を止めるのは無理だ。

 

「スイッチ」

「わかった。3、2、1、スイッチ!」

 

 キリトと前衛を交代。すぐにHPポーションと解毒ポーションを飲む。

 一気飲みはタンクの必須科目だ。即座に瓶の中身を空にして、空き瓶を足で踏み砕く。

 ボスのHPは残り2割。次のスイッチでおそらく最終モードに移行する。

 フロアに残って順番待ちをしてるALFのメンバーはあと13人。残りはアスナの指揮の元、エリア外に離脱していた。

 モブは……。最後のプリーストが撃破されたところだ。――ん? リザードマンの増援がない?

 

「エリ!」

「了解っす。……スイッチ!」

 

 私は前に躍り出て、ヘイトを稼ぐためにダメージを累積させていく。

 減っていくHPはボスのものなのに、自分のもののように思えて嫌な手ごたえを感じる。

 

「ボスのHP、もう持たないっす!」

「わかりました! 残ってるALFの皆さんはそれぞれ北と南の端に別れて待機。近い方に行ってください。それと外延部には近づきすぎないように。ボスの追加行動を確認してから撤退を再開します。クラインさん、アクトさん、トーラスさんは南。カルーさん、オブトラさん、ジャンウーさんは北のパーティーの護衛を。エリさんはあと1分持たせてください。キリト君は行動パターンを確認後スイッチ。エリさんのHPを回復させる時間を稼いでください」

 

 結城さんの声だけが聞こえる。

 私は命じられたままに、1分という時間を捻出する。

 ガードはあまりできない。解放される能力いかんではHPが大幅に減少するからだ。なのでボスに回避させるように剣を振るうしかない。

 だが私の思惑とは裏腹に、大剣による広範囲攻撃が繰り出され、しぶしぶ盾で防いでいく。プリーストのバフは消えたが、それでもダメージは大きい……。

 

「配置についたぞ」

「こっちも準備完了だ」

「エリさん!」

「いくっすよ……」

 

 ボスの最後のHPバーには、どれも凶悪な行動が隠されている。

 それは残りわずかのHPをアタッカーが急いで削らなければ、こちらの身が危ないと思わせるものばかりだ。

 25層のあれは極端だが、他のフロアボスとて十分な強さを秘めている。

 大剣による縦斬りを回避して、私は山羊足を深く斬りつけた。

 

「グルルルォ! グルォ! グルグルォオオオ!」

 

 呪文のように区切ってボスが叫ぶ。

 それはまさに呪文だったのだろう……。

 リザードマンの増援が現れたときのように、転移エフェクトによるエネミーのポップが始まる。その数実に24体!

 現れたのはリザードマンではない。新種の、羽を生やした人型エネミーだった。

 彼らは突撃用の槍を手に持ち、蝙蝠を思わせる羽を背から生やして空を飛んでいる。

 頭には山羊角。悪魔型の手下エネミーといったところか。

 飛行高度はとても高い。中には炎の壁より上を飛んでいる個体もいた。

 

「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」「キキィ!」

 

 ま、まずいっ!?

 

「迎撃用意!」

 

 結城さんが堪えるような声を振り絞った。

 悪魔型エネミーが一斉に暴れ出す。攻撃など当てていないので、ターゲットはバラバラだ。

 しかも現在戦っているプレイヤーは実質8人。ALFの残りものは13人いるが、それを足してもまだエネミーの方が数が多い。

 上空からの強襲。幸いドラゴンのようにブレスで一方的に攻撃してくることはないが、それでも警戒する方向が多すぎて視界も手も足りていない。

 

「グルォオオオオオオオオ!」

「このっ……」

 

 ボスの横薙ぎ。今が正念場かっ。

 私は間合いを詰めて内側に潜りそれを回避。

 蛇の頭が私を射程に捕らえ目が合う。

 攻撃が来るよりも早く、ボスの身体を足場に私は上へと逃走。

 体術スキルのウォールランだ。再使用に時間を要するため今まで使っていなかったが、ここが使いどころ。

 蛇頭の射線をボスの胴体で遮り、宙返りをして戦場を俯瞰。

 私を狙っていた悪魔型エネミーを突進系ソードスキルで地面に縫い付けた。

 与ダメージは3割。ウィークポイントの頭部を貫いたが単発攻撃では威力が足りていない。

 

「エリさんっ!」

 

 反射的に飛び退く。ここにきて結城さんが動いた。

 彼女は倒れていた悪魔型エネミーを瞬時に射程に捕らえ、連撃系の高威力ソードスキルで追撃を行った。高速の刺突がたちまちエネミーのHPを消し去っていく。

 だが撃破には少し足りない。

 

「うぉおおおおおおお!」

 

 エフェクトがエネミーの胴体を貫いた。

 キリトのヴォーパルストライクだ。

 彼の攻撃でついに悪魔型エネミーは倒れポリゴンに変わる。けれど所詮はまだ1体。残り23体がこの空間にひしめき合っていて、再出現がないとは言い切れない……。

 私はボスの攻撃に集中する。今度は盾で受けた。ウォールランはしばらく使えない。

 

「キリっち!」

「任せ――なっ!?」

 

 スイッチをする前に私は盾をアピール。

 フリスビーのように回転する青白い大盾。キリトはそれを慌ててキャッチして、武器手渡し(ハンドオーバー)状態になる。

 

「スイッチ!」

 

 盾を装備したキリトが前に出た。

 

「ガード性能は低いから気をつけるっす」

「このっ……。わかった!」

 

 リズベットに折角プレゼントしてもらった盾だが状況が状況だし、キリトに使ってもらえるなら彼女も本望だと思っておこう。

 私はポーションを飲んでからクイックチェンジを使用。

 北と南の集団はまだ持つ。問題はボス付近。タンク役に交代したキリトに襲い掛かる悪魔型エネミーを排除しなければ、キリトが倒れ戦線は総崩れだ。

 私の防具は軽装に変化。さらに左手の中に重剣がオブジェクト化され、二刀流状態となる。

 

「アスナさん。指揮を。エネミーは私がやるっす」

「お願いします。皆さん、敵は飛行していますが落ち着いてカウンターに専念してください。撤退は一時中断。その場から離れすぎないように。円陣を組んで互いの背後をカバーし合ってください!」

 

 結城さんは対応策を通達。風林火山のメンバーはそれを即座に行うだけの技量があるが、ALFのメンバーはしどろもどろになりながらどうにかやっているレベルだ。

 彼らを気にかけてもしょうがない。目の前に集中しよう。

 キリトに向かって急降下したエネミーに私は空中で斬りかかる。

 

 ――二刀流ソードスキル『スターバースト・ストリーム』。

 

 16連撃の圧倒的なDPSが弾け、エフェクトの輝きがエネミーの身体を灼く。

 4回の斬撃が終わってから、エネミーはようやく槍とガードに使い出すがもう遅い。いや。遅いもなにもない。このソードスキルに捕まれば最後なのだから。

 取り回しの悪い突撃槍はガードに不向きで、左右から繰り出される攻撃の半分すら受けられずにいた。

 刃が手足や胴体を、裂いては貫き斬り跳ばす。

 眩い残光。地上に私が降り立つと、上空で花火のようにポリゴンが爆散した。

 

「す、すげえ……」

 

 誰かが呟く。凄いのは私じゃなくてスキルだろうが、まあ気分はいい。

 敵にいいようにやられるよりは、反則技を使ってでもいいように弄ぶ方が誰だって楽しい。

 近くを飛行していた新たな獲物に狙いを定める。それを感じたのか、エネミーは私に顔を向ける。たじろいているように見えたのは私の慢心のせいだろう。

 

「アハぁ……」

 

 恍惚に声を漏らしながら、私は思うがままに剣を振るった。

 シナプスが焼けるような快感が駆け巡り、また1体エネミーを経験値に変えた。

 二刀流は低耐久の相手には非常に利く。ソードスキル後の長い硬直時間や、連撃にかかる拘束時間。これらを1回のソードスキルによって決着をつけることで補えるからだ。

 タンク役の護衛は必要ない。反撃させることもなく、私は次々とエネミーを屠っていく。

 

「トーラスさん。キリト君とスイッチ! エリさんは北のエネミーを撃破してください!」

「了解っす」

「わかった!」

 

 トーラスと擦れ違い、北側の集団に合流する。

 こちらにいるのはクラインとアクト。ALFのメンバーが6人。

 ALFには盾持ちのプレイヤーもいるが役に立たず、重鎧を着たアクトがトーラスの穴埋めを開始した。クラインはアクトの背後をカバーして、襲い掛かるエネミーを一刀の元に追い払っていく。

 私がするべきはアクトと代わりタンクを引き受けることではない。

 今はただ敵を倒すことだけに集中する。

 

「はぁあああああああ!」

 

 飛来した2体のエネミーを『ジ・イクリプス』の連撃で迎え撃つ。

 片方が後退して攻撃範囲から逃れかけるが、回り込んだクラインが刀で押し込んでそれをさせない。背後で金属の打ち合う音がした。アクトが3体目の攻撃を防いだのだろう。

 

「アクトっ!」

「おう!」

 

 私は首をひねってフォーカスターゲットを背後にいた3体目のエネミーに向けた。

 右手の長剣がエネミーを切り裂き、即座にもう1体のエネミーにターゲットを戻して左手の重剣を使う。無駄なモーションを削るためにターゲットを交互に切り替えて、右手と左手でそれぞれを攻撃する。

 先に削っていたエネミーは死亡。3体目が辛うじてHPを残していたが、クラインがキッチリ止めを刺して撃破。立て続けにポリゴンが砕けた。

 ソードスキルの硬直時間で一息吐く。

 ――動けない私に迫る突撃槍。

 アクトはそれを重量級の両手槍でパリィ。

 眼前で火花のようなエフェクトが弾け飛んだ。

 私は硬直時間を終えると、アクトが抑えてるエネミーにソードスキルの連撃を使って撃破する。

 

「エリさん、クラインさん、時計回りに南へ移動。カルーさんは反時計周りに北へ。アクトさんは無理せず防御。南側はもう少しだけ持ちこたえてください!」

 

 私に続く形でクラインも走る。

 北側に残るエネミーは残り3体だが、南側にはまだ10体もいるようだ。

 走る私たちの行く手を1体のエネミーが阻む。

 

「先に行け」

 

 そいつはクラインに任せ、私は南側に急いだ。

 南側はかなり押されていた。タンク役を果たしているジャンウーは小盾使い。その防護性能はブロックに向かない。

 アクトとは違った方向性の、軽装の槍使いオブトラが、その長いリーチを使って牽制しているが手はまるで足りていないようだ。

 

「来たっすよ」

「助かるぜ」

 

 私は再びソードスキルでエネミーを蹴散らしていく。

 横から捉えきれなかったエネミーの攻撃を貰うも、すぐにオブトラが対処。私は攻撃に専念する。

 私が数を減らし続け、クラインも合流したことで南側は一気に安定した。

 

「う、うそだろ……!?」

 

 ALFのメンバーが怯えた声で上空を指さす。

 どうやらエネミーが再出現したらしい。

 この程度の強さをしたエネミーであれば、再出現くらいするだろうに……。

 問題はこのままではジリ貧ということだ。回復する隙がまるでない。無理をすれば作れなくもないが、どこかでミスをする可能性は高い。

 ミスをしなければしばらく平気だが、さてどうするか……。

 

「撤退を断念。これよりボスの撃破に変更します!」

 

 結城さんが舵を切った。

 ALFのメンバーからはどよめき声が上がる。

 

「アクトさん、クラインさん、オブトラさん、エリさんはボスの背後に移動。キリト君にスイッチして、ヘイトを安定させてから攻撃に移ります!」

「俺たちはどうするんだ!?」

「ALFの皆さんはその場で戦闘が終了するまで防御陣形を維持。カルーさん、ジャンウーさんは彼らをサポートしてください」

 

 苦言を呈した彼は、どうすればいいかではなく、何故守ってくれないのかと言いたかったのだろうが、結城さんは作戦を通達し終えるともう彼から意識を切り離している。

 私は目の前のエネミーを片付けると、指定の配置へ急いだ。

 北から順にアクト、クライン、オブトラ、私となる。

 結城さんがこのメンバーを選んだのは、刺突系の武器をなるべく揃えて同士討ちを避けつつ、護衛には防御力の高いプレイヤーを残したかったからだろう。

 私は例外的に高いDPSを買われての選択だ。

 

「3、2、1、スイッチ!」

 

 キリトがトーラスと入れ替わった。

 黒い片手剣が深々とボスの足を切り裂く。かなりのステータスを持った剣らしく、そのダメージは予想より多い。

 もっとも、彼はヘイト上昇系の装備を着けていないか、着け替えたのだとしてもそこまで効果値の高い物ではないだろう。他のタンクと同じような目算ではタゲが外れてしまう。そもそも、二刀流の攻撃を前にすれば大した時間もかからずこちらにヘイトが向くこと請け合いだが。

 ボスのHPは残り8割。

 トーラスからキリトにヘイトは完全に移り、私たちはじっと結城さんの合図を待つ……。

 ボスがソードスキルを放ちキリトが防ぐ。そして……。

 

「――全員、攻撃開始!」

「うぉおおおおおおおお!」「おりゃあああああああ!」「てやぁあああああああ!」「はぁああああああああ!」

 

 私たちはそれぞれ最善と思えるソードスキルを繰り出した。

 槍使いの2人は攻撃範囲が直線状の刺突系連撃。クラインは刀の最上位ソードスキル『散華』。私は16連撃の『スターバースト・ストリーム』。

 高威力ソードスキルを立て続けたボスはその威力によろめく。

 HPは残り6割。いい手応えだ。

 

「エリさん!」

「だと思ったっすよ」

 

 やはり二刀流のDPSは間違っている。

 これまで積み重ねたヘイトを一瞬で上回り、ボスは私にお熱のようだ。

 幸いよろめいてくれたおかげで硬直時間が終了する程度の時間は手に入った。

 

「反時計周りに移動するっす!」

 

 ボスが振り下ろす大剣を横に跳んで回避。

 私を正面に変え、アタッカーは配置をスライドさせていく。

 ボスは振り下ろしから横薙ぎに攻撃を繋げた。回避できない攻撃を二本の剣で受けるも、そのダメージは盾で受けたときの比にならない。

 私のHPは残り6割。あと2回ガードをすれば消える頼りない数値だ。

 その上回復結晶も使えない……。

 距離を取って大剣の間合いから逃げるか? いや駄目だ。突進系ソードスキルを使われて、綺麗に並べた戦線が崩壊する。そうすれば倒すまで時間がかかって、危険度は逆に上がってしまう。

 結城さんも加わり、6人がかりで攻撃を加えるがターゲットは私を向いたまま。

 ボスが3連撃のソードスキルを繰り出す。薙ぎ払いをウォールランで回避。袈裟切りをガード。突きを地面に転がって避けるも炎のエフェクトに炙られHPは残り2割。

 ボスのHPは残り3割。

 

 死地に跳びこんだ方が安全という場面は稀にある。

 例えば剣の間合いは近づいた方がダメージは少ない。

 例えば不安定な足場は怖気ず勢いに任せて跳んだ方が落ちにくい。

 そして――この瞬間もそうだ。

 私は懐に飛び込みソードスキルを放つ。

 退路を断ち、最大の技を持って挑む。

 

 ――『ジ・イクリプス』。

 

 27連撃。前代未聞の威力を持つが、その隙も莫大だ。

 倒せなければ長大な硬直時間を課せられ、そうでなくとも攻撃中は回避ができなくなる。

 恐怖はなかった。死ぬことに怯えるよりもするべきことがあり、そもそも死ぬことが怖いかと考えれば、それほどでもない。

 だが死ぬつもりで放ったのではない。私は勝つためにこの技を選んだ。

 

「はぁあああああああああ!!」

「グルォオオオオオオオオ!!」

 

 大剣による振り下ろしを、ソードスキルで押し返す。

 一撃では足りずとも、4回、5回と積み重ねて相殺する。

 残り連撃をダメージに。全員が攻撃を合わせて、最後のHPを削りにいく。

 ガリガリと減少していくボスのHP。その命の灯が消える前に、大剣がソードスキルを放とうと輝いた。

 

 ――単発系重攻撃『テンペスト』。

 

 二刀流の連撃では止めきれない。

 渦巻く炎を纏って振り下ろされる大剣。

 回避もできない。

 

「うぉおおおおおおおおお!」

 

 大剣の進路を阻むようにキリトが飛び出し、大盾で受け止めた。

 空中に留まっているのは体術系ソードスキル『震脚』を併用しているからだ。

 キリトのHPが大剣に押され削られていくなか、私は二刀流のモーションを加速させていく。

 

「はぁあああああああああ!」

 

 残り1割。3分、いや2分……。

 数ドットだけ値が残り、ボスは生存。

 ソードスキルの硬直時間で身体が動かない。

 キリトは大剣を止めた代わりに、地面に叩きつけられていた。

 ボスの青白い眼光が私を見ていた。

 大剣の切先が私に向けられ、その手を伸ばせば突きに転じる。

 

「ははっ」

 

 

 

 

 

 

 ――最速の突きが決着をもたらした。

 

 

 

 

 

 

 ポリゴンがガラスのように砕ける。

 

 

 

 

 

 

『Congratulation!』

 

 エリアの中央に巨大な文字列が浮かび、フロアボス撃破と同時に飛翔していた悪魔型エネミーも消滅した。

 細剣の基本ソードスキル『リニア―』。

 結城さんの最も得意とする刺突は、残像を残すほどの速度でボスのHPを貫いていた。

 ミリだけ残ったときは少しヒヤっとしたが、妥当な結果ではある。

 軽量武器ほど硬直時間は短く、斬撃よりも刺突は速い。

 この場で最も素早く次の行動に移れたのは、システム的に考えれば結城さんだったというだけの話だ。

 

「うひょお……。生きてっかお前ら?」

 

 クラインが尻餅をつきながら、軽口を叩いた。

 風林火山のメンバーはそれに適当な相槌を返している。

 

「――サチッ!?」

 

 キリトは仰向けの体勢から上半身だけを起こして叫んだ。

 

「キリっちも無事……っすかね?」

 

 私はちびちびとオブジェクト化したポーションを飲む。戦闘は終わっているため自然回復に任せてもいいのだが、HPが危険域のままというのは私だって流石に落ち着かない。

 

「あ、ああ……。エリも無事みたいだな」

「おつかれっす」

「お疲れさま」

 

 私はフロアの外で待機していたALFのメンバーをボスエリアの中に呼ぶ。

 明らかに数の減った彼らは、役に立たなかった癖に疲労困憊であった。生き残り、外に逃げ切ったプレイヤーの一部は勝手に転移結晶で帰還したらしい。

 ここにいる連中も転移結晶で帰りたがっていたが、ボスエリアの先は75層の主街区だ。私は頻繁に使っていたが、転移結晶は高価な消耗品である。無駄遣いは看過できない。

 

「……助かったっす」

 

 一応、結城さんにもお礼くらいは言っておく。

 

「ううん。私は当然のことをしただけだから。お礼なら最初に跳びこんだキリト君と、風林火山の皆に言ってあげて」

「そっすか……。じゃあそうするっす」

「あっ……」

 

 結城さんの声に足を止める。

 

「その……。おつかれさまでした」

「……おつかれさまっす」

 

 振り返らずに、私たちはぎこちなく言葉だけを交わす。

 私はすぐに歩き出して、逃げるようにキリトやクラインたちに礼を言いに行った。

 

「どんくら死んだ?」

「10人っすね」

「そうか……。ボス戦で死者が出たのは67層以来か。ったくよぉ。死んじまったらなんにもなんねえだろうが……」

 

 苦虫を噛み潰したように語るクライン。

 私は見慣れているからなにも感じないが、ギルドメンバーを1人も欠かさずにここまでやってきた彼には、きっと違う景色が見えているのだろう。

 

「そういやさっきのアレ、なんなんだ?」

「さあ。知らないうちに勝手に覚えてたスキルっす」

「どうして隠して――ああ、やっかみとか凄そうだもんなぁ……」

「加えてあのDPSを見れば、使いたくなかった理由はわかるっすよね」

「雑魚狩りにはうってつけだけど、ボス相手に使いたくはねえわなあ」

「それに出現したのは攻略組を引退した後っすからねえ……。使う機会もなかったんすよ」

 

 PvEをほとんどしないからといって、プレイヤーに向けて使うわけにもいかない。それはあまりにもオーバーパワーだ。いや、あいつらに使ったっけか。考えるのはよそう……。

 

「そうか。じゃ、そろそろ俺たちは75層の転移門をアクティベートしに行くけど、どうする?」

「さっさと帰りたいんで、ついて行くっすよ」

 

 私はALFのメンバーに声をかけて立たせる。

 

「エリ。その……。ありがとな」

 

 キリトが貸していた盾を差し出した。

 戸惑い半分、感謝半分といった雰囲気。あまり盾は使いたくなかったのだろうけど、私も二刀流を使ったのでお相子ということにしてほしい。

 

「こっちこそ。おかげで命拾いしたっす。借りができちゃったっすね」

「まだ俺の方が返し終えてないさ」

「いつ返し終えるんすか、それ」

「さあ」

 

 肩をすくめてみせるキリト。

 お金や物なら別だが、精神的な貸し借りなんて結局当人がどう思うか次第である。私が彼になにかしら返さなければいけないと思えば、そうするだけだ。

 思えばキリトには助けられてばかりだ。

 あのときだって彼が助けに――、いや、考えるのはよそう……。

 

「男を上げたっすね」

「だろ?」

 

 小憎たらしい笑顔も、まあ悪くない。




また戦闘が長引いてしまった……。
ラフコフ戦ではほとんど活躍しなかった、アスナさんの強さを書きたかったんです。
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