レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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39話 灰色のエンドロール(6)

 ユイに渡された食事アイテムは、もちろんキリトの持ってきていた物。

 フルーツの挟まったサンドイッチとカップスープは、たしかドロップ率を上昇させる、最前線で使われるメニューの1つだったと思う。

 食事アイテムはストレージ内でも徐々に耐久値が減少していくので常備はできない。

 やっぱり本当なら攻略に行くつもりだったのだろう……。

 

「どうだ、美味かったか?」

「はいっ! ごちそうさまでした!」

 

 鈴のような声で、元気よくユイが返事をする。

 彼女が目を覚ましてから徐々に口調がしっかりしてきた。

 食事を終える頃にはハキハキと喋るまでになったが、記憶の方は思いだせないらしい。

 

「もう一度聞くけど、パパやママとは一緒にログインしてないんだな」

「はい……。たぶん、ですけど……」

「あー、思いだせなくても大丈夫だよ。――なっ?」

「そ、そうっすね」

 

 私に振るなと言いたいのを我慢する。

 

「えっと……。お名前、なんて呼んだらいいですか?」

「キリトでいいよ」

「キりト……?」

「キ、リ、ト。でも、言いやすいように呼んでくれればいいよ」

「キ、リ、ト…………パパ?」

「ぶふっ!」

 

 ユイが奇妙なことを口走り、思わず笑ってしまう。

 キリトは抗議の目で見てくるので、視線を逸らした。さっきのお返しだ。

 

「……ママ?」

「くくっ!」

 

 抗議の目でキリトを睨んだが、明後日の方向に視線を逸らされた。

 

「この歳でママはないっすよ……。せめてお姉ちゃんにしてくださいっす」

 

 それにリズベットにこの状況を見られれば、大変申し訳が立たない。

 私だってそのくらいの義理は果たすのだ。

 

「……お姉、ちゃん?」

「はい。エリお姉ちゃんっすよー」

「エリお姉ちゃん!」

「……顔がにやけてるぞ」

「――ハッ!?」

 

 ユイの元気の良い声と表情はなかなか破壊力があって、つい引き込まれていた。

 子供というのはどうしてこんなに庇護欲が掻き立てられる外見をしてるだろうか。生物としてはそれが正しい姿なのだろうが……。

 それでもユイという少女はそんな中でも群を抜いている。

 可愛らしいだけじゃない。どことなく動物をイメージさせる人懐っこさが、そうさせているのかもしれないと、冷静に分析してみる。

 

「……キリトお兄ちゃん?」

「キリトさんっす」

「キリトさん?」

「いや、どうしてだよ……」

「どうしてもっす!」

「キリトさん!」

「うん。どうしたんだ、ユイちゃん?」

「えへへ。なんでもないです」

 

 頬杖を突く。ちょっと面白くない。

 

「そうだ、ユイちゃん。メニューウィンドは開けるか?」

 

 ユイは首をかしげた。

 

「こんなふうに指を振ってみて」

 

 キリトに言われるがまま、動作を真似ると視線が虚空を見つめる。

 どうやら上手くいったみたいだ。

 

「じゃあ次に可視モードを――あー、ここにあるボタンを押してみてくれ」

 

 キリトは自分のメニューを可視化させて、ユイの隣でどこを押せばいいかレクチャーしてみせた。

 ユイのメニューウィンドもほどなくして現れる。

 お互い不用心だがこの場合はしかたがないか……。私も席を立ってユイの隣に行き、メニューを確認しようとした。

 

「なんだ、これっ!?」

「どうしたんすか?」

「ちょっと見てくれ」

 

 ユイはなにがおかしかったのか、わからないといった様子だ。

 私も彼女のステータスを見ると、キリトが驚いた理由がすぐにわかった。

 『Yui-MHCP001』と書かれた名前の側にある、レベルを示す数字だ。彼女のレベルは()()。ちょうど私と同レベルであり、つまりそれは最前線に立つ攻略組と同程度のレベルを意味する。

 私はマナー違反と知りつつも、急ぎアイテムストレージを確認するが所持品はない。コルもまったく持っていない。取得スキルは『片手直剣』『盾』『重金属防具』『戦闘時回復』『槍』『細剣』『演奏』『体術』『索敵』……。どれも高い熟練度を持っていて、一部は完全習得済のものもあった。

 

「エリ、この子に見覚えは?」

「ないっすよ……」

「俺らが知らないトッププレイヤーなんてそんないるとは思えないんだけどな……」

「探せばいるかもしれないっすよ」

 

 特に犯罪者プレイヤーは素性の知れない連中が多い。

 そういう中にいれば、あるいはありえるだろうが……。

 彼女の場合は別だろう。絆されたとはそういうことではない。

 これは、あからさまだ。

 ユイを見る。純粋な視線を私に向ける少女。彼女は目が合うと嬉しそうに微笑む。

 

「クエストNPC」

「え?」

「可能性としてはそれが一番高いんじゃないっすかね」

「いや、まあそうだけども、なあ……」

 

 キリトもユイを見るが信じがたいという雰囲気だ。

 プレイヤーを基準に作成されたNPCであれば、高いレベルはありえる。

 ここまで詳細に読み取られるということがありえるのか、と考えれば疑問を感じるが。

 

「ここはひとつ、試してみるっすか」

「なにをだ?」

「ユイちゃん。ちょっと失礼するっすよ」

「はい!」

 

 私はユイを背後から優しく抱きしめた。

 力を入れれば手折れてしまいそうなほどに細い腰。

 空気にさらされた地肌は柔らかく、やや高めの体温を感じる。

 髪はサラサラで、ひんやりとした感触が体温や部屋の温度と相まって気持ちよかった。

 夜色の髪に顔を埋め、深呼吸をするとほのかに石鹸の香りがする。

 

「なにか出たっすか?」

「でました! はいを選べばいいんですか?」

「ストップ!? 違うっす。いいえを選ぶっす。右っすよ。間違わないでくださいっすね……」

「わかりました!」

 

 勢いよくユイは虚空に指を叩きつけた。なんだか楽しそうだ。

 ……どうやらここは監獄ではない。

 ユイは間違わないでくれたようだった。

 こんな理由で失踪中の私が黒鉄宮に現れるとか、誰にとっても不幸だろう……。

 

「やっぱりプレイヤーみたいだな」

「いやいや。プレイヤーに擬態したNPCって線もあるっすよ」

「それを言い出せばきりがないだろ」

「そうっすけども……」

 

 ユイを形作る要素は出来過ぎている。特にスキルが露骨なのだ。

 だが確認する方法はキリトの言う通りない、と思う……。

 シュレディンガーの猫よろしく、ユイという存在は今、プレイヤーとNPCの境にある。

 この箱を開けて、中身を確認することが正しいとは限らない……。

 

「それで、どうするんだ?」

「そうっすねえ。ALFに預ける、とか?」

「ここにいちゃ、駄目、ですか?」

「うーん……」

 

 身を隠している私の元にいるのはあまり得策じゃない。

 不便をかけるし、誰かに知られても不味い。

 調べていないが、市中では私の悪評で持ち切りだろう。そんな私と一緒にいたという情報は彼女に悪影響を及ぼしかねない。

 あの日、リズベットが狙われたように……。

 

「お姉ちゃん!」

 

 ユイが私の服の袖を引っ張っていた。

 

「ん?」

「大丈夫ですか?」

「ああ……。大丈夫っすよ」

「――いいんじゃないか?」

「キリっち!?」

「本人がそう言ってることだし、エリも1人じゃ暇だろ?」

「いや、そういう問題じゃ……」

 

 ユイが袖を掴んだま、捨てられた子犬のように上目遣いで私を見つめている。

 見つめ合うこと数秒……。

 負けたのはもちろん私だった。

 

「わかったっすよ……。その代りキリっちには協力してもらうっすからね」

「もちろんいいぜ」

「ありがとうございます!」

 

 ユイの花が咲くような笑顔を見ると、私の悩みなんてちっぽけなものだと思えてしまった。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 私たちはあれから、ユイに圏内戦闘を見せたり、キリトに夕飯を買いに行かせたりして、時間を過ごした。

 

 圏内戦闘は思いの外好評で、ユイにも武器を持たせてみたのだが、腕前はずぶの素人だった。

 しかし物覚えはよく、乾いたスポンジのように吸収していく様は実に教え甲斐がある。日の暮れる前にはソードスキルを使いこなすまでの成長を見せ、なかなかに驚かされた。

 彼女はメインウェポンスキルを『片手直剣』と『細剣』の2種類習得していたが、予備の武器は片手直剣しかなかったため、彼女にはそちらを教えた。

 

 すでに時刻は深夜の10時。

 寝るには早いくらいの時間だが、かといって何をするでもないので暇である。

 なにせテレビはないし、ネットやゲームも――ネットゲームの中だ。本はあるが、ユイに見せるような簡単な読み物はない。

 普段はなにをしていたんだったかと思い返すと、資料作りに書類整理、スケジュール調整や最新の情報に目を通すなど、ALFでの業務内容ばかりしていた気がする。それ以外の時間はレベリングだ……。

 ちなみにキリトは夕飯を食べ終えた後も、まだいた。

 

「キリっち。言っちゃなんすけど、いつまでいるんすか?」

「んん……。え? なにか言ったか?」

「寝てんじゃねえっすよ……」

 

 揺り椅子に座っていたキリトの意識は半ば消失していた模様。

 彼は虚ろな目を擦って、瞼を何度も開閉してから欠伸をひとつ。見ているこっちまで眠くなるような表情だ。

 

「泊まっていくとかなしっすからね」

「ああ。まあ、そうだよな」

「……キリっちには恩があるから言いたくはないっすけど、常識を疑うっすよ」

「ご、ごめん」

 

 露骨に女性扱いしろとは言わないが、何の気もなしに泊まっていくとかは駄目だろう。

 そういうことをしていれば、いつか誤解で誰かが後ろから刺されかねない。キリトは見た目が可愛らしいし、腕も立って、性格も悪くない。かなりの優良物件なのだ。

 刺されるのがキリトだけならまだしも、とばっちりで私まで刺されるのは嫌だ……。

 

「むにゃ?」

 

 私の膝の上で寝ていたユイが寝返りを打つ。

 起こしてしまったかと思ったが、彼女は再び目を伏せた。

 

「どうしたんすか?」

 

 キリトがユイを真剣な眼差しで見つめている。

 

「やっぱり、サチに似てると思ってさ……」

 

 今、ユイが着ているセーターやスカートは私の物だ。

 あのままの格好では寒そうだったため、チェストにある服から適当に見繕ったのだ。システムが大きさを自動で調整してくれるため、サイズが合わないとかそういうことはなかった。

 私の着ている服は暗色系が多い。サチもたしかそうだった……。

 

「……わかってるよ」

 

 キリトは私の視線にそう答えた。

 

「サチはもういない。それはわかってる。でも……。いいや、なんでもない……」

 

 キリトは迷いを断ち切るように立ち上がって、ストレージから黒いコートを取り出して羽織った。それは彼のいつも身に着けている月夜の黒猫団の紋章が描かれたコートだ。

 彼の胸元には、満月を背にした黒猫が一匹で佇んでいる。

 

「そろそろ帰るよ」

「そうっすね」

「リズでも呼んでこようか?」

「子供じゃないんすから、大丈夫っすよ。それに隠蔽スキルがないリズを頻繁に来させるのは得策じゃないっすからね……」

「そうだな……。圏外には出るなよ」

「わかってるっすよ」

「あと明日も来ていいか?」

「はぁ……。別にいいっすけども」

 

 キリトなら、後をつけられて下手を打つなんてことはないだろう。たぶん。

 それは考えてもしょうがないことだ。

 キリトが玄関へ向かうので見送ろうとして、膝の上にあるユイの頭を動かす。

 

「ん……。キリトさん……、帰っちゃうんですか?」

「ああ。今日はもう遅いからな」

「うーん……」

 

 ユイは私を寝ぼけ眼で見つめる。

 …………いや、駄目だ。流石にアウトである。

 

「残念です」

「明日も来るから、我慢してくれ」

「わかりました……」

「それじゃあそこまでお見送りするっすか?」

「はい!」

 

 私に引っ付いたままのユイを支えて、玄関まで歩く。

 扉を開けると外は夜の帳に包まれいた。

 月が隠れているのか、部屋の中から差し込む灯りに照らされた場所までしか見えない。

 怪物が大口を開けて襲いかかろうとしているかのように見えてしまう。この暗闇に飲み込まれれば、もう帰って来れないと感じるのは錯覚だ。

 底の見えない、フロアの端を幻視した。

 ソードスキルを使って復帰しなければ、落ちて帰ってこれない。

 そうするべきだったと私は――。

 

「お姉ちゃん?」

「――あ、はい。なんすか?」

「ううん。なんでもないです。それじゃあキリトさん、おやすみなさい」

「お休み。ユイちゃん」

「おやすみなさいっす」

「おやすみ」

 

 キリトは手を振って暗闇に入ると、姿が立ち消える。隠蔽スキルが発動したのだろう。

 

「じゃあそろそろ寝ちゃうっすか?」

「はい!」

 

 元気のいい返事だ。だいぶ意識が覚醒してしまったらしい。

 悪いことしたなと思いつつ、ユイを寝室に連れていき、私はリビングに向かおうとする。

 

「あれ? お姉ちゃんどこに行くんですか?」

「えっと、ソファで寝ようかと」

「わ、わたしが無理を言って、ここに居させてもらっているんですから、そんなの駄目です! わたしがソファで寝ます!」

「それはちょっと心苦しいんすけど……。私はどこで寝ても平気っすから、気にしなくていいっすよ」

「駄目です! じゃあ、その……。嫌じゃなければですけど……。一緒に寝ませんか?」

「妥当な落としどころっすね」

 

 いい子だなと思いつつ私はベッドの縁に腰を掛けた。

 私はメニューウィンドからパジャマに着替え、ユイの装備オブジェクトも変更してあげる。それから毛布をかけて、彼女の隣に潜り込んだ。

 すぐそこにユイの顔があった。琥珀色の大きな瞳の中には私の顔が映っている。

 それを見ないように、システムメニューから部屋の消灯を選択した。

 

「おやすみっす」

「おやすみなさい」

 

 もぞもぞと動く気配を感じる。

 それはだんだんと近づいてきていた。

 

「ひゃう!?」

「あ、ご、ごめんなさい」

 

 ユイの手が私に触れて、変な声が出た。

 

「……どうしたんすか?」

「その……。寂しくなちゃって……。もっと側に寄ってもいいですか?」

「しかたないっすね」

 

 私は手で毛布の中にスペースを作ると、そこにユイがやってきた。

 サチも寂しがり屋だったなと思いだしたり、私も人のこと言えなかったなと、リズベットのことを思い出したりした。

 あれは25層でユウタが死んでしまった後の頃か。

 私は人恋しくなってしまい、日中はずっとリズベットの店に入り浸っていたのだったか……。

 そこにサチが加わり、3人で色々なお店に行ったり、遅くまで話し込んだり、稽古をつけたり。……短い期間だったが楽しいことが沢山あった。

 

 仰向けになった私の半身に、被さるようにユイが触れた。

 彼女は私の服をぎゅっと掴んで離さない。

 私はそっと手を伸ばしてユイを抱きしめた。

 すると彼女の手から力が抜けて、規則正しい寝息が聞こえ始める。

 私もなんだか眠くなってきた……。

 ユイがプレイヤーなのかNPCなのかはまだわかない。

 ただ、今日は悪夢を見ないで済みそうだった。

 

 雲に隠れていた月が顔を出したのか、カーテンの隙間からは薄明りが差し込んでいた。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 ユイを拾ってから1週間。

 キリトは毎日リズベットの弁当を片手に顔を出していた。

 

「――だからな、追い込まれたときこそ、我武者羅に力で押すんじゃなくて、冷静に対処しないといけないんだ」

「はいっ!」

 

 食後の休憩がてら、私たちは午前中の稽古を復習していた。

 ここでは他にすることもなく、ユイのできる遊びといえば剣を振る事ぐらいだった。

 彼女もそれを気に入ったのか積極的に教えを乞うてきている。

 上達のほどはなかなか。昨日は調子に乗ったキリトに連れられて上層のフィールドでエネミー相手の戦闘をした。

 十分なレベルと装備に裏打ちされたユイは、私とキリトのサポートもあって、次々とエネミーを経験値に変えていった。

 

「キリっちも、気をつけないと駄目っすからね」

「うっ……。妹弟子の前でくらい格好つけさせてくれよ」

「ふふふ。キリトさんは十分格好いいですよ」

「むう」

 

 ユイを抱きしめる手に少し力が入った。

 現在、私はソファに座っていて、私の膝にはユイが乗せてある。キリトはというと、私たちの正面にある揺り椅子の上だ。どうやら気に入ったらしい。

 食事のときを除けば、私たちはコテージの中だと、これが定位置になりつつあった。

 

「ですよね、お姉ちゃん?」

「うーん。キリっちは格好いいというよりは可愛い系っすかね」

「それは男として情けない気持ちになるからやめてくれ」

「まあ……、格好いいんじゃないっすかね」

「お世辞として受け取っておくよ」

「お姉ちゃん、照れ隠ししてませんか?」

「し、してないっすよ!?」

 

 ユイは時折鋭い洞察力を見せる。

 キリトのことを格好いいと感じるのはしかたがない理由があるのだ。あんな場面で助けに来られれば、誰だってそう思ってしまうはずだ。

 

「キリっちの顔がムカつくっす。叩いていいっすか?」

「そんな理不尽な……」

 

 そう言いつつも頬を緩ませたキリトの顔に腹が立つ。

 ユイを膝に乗せていなければ確実に手が出ていた。

 もちろんここが圏内だからで、圏外であればそういうことはしないが。

 ここでの生活に慣れ過ぎて、暴力への抵抗感が薄れた気がする。なにせ殴っても殴られても痛くはないのだから。

 現実に帰れたら苦労しそうだ。それとも殴る相手がいないから平気、だろうか……。

 

「はあ……。まったく、誰に似たんすかね」

「エリだろ」

「お姉ちゃんです」

「うぐっ……」

 

 なんだか分が悪い。こんなはずではなかったのだが……。

 けれどユイが私に似てきたと言われると嬉くもある。

 うーん。複雑な気分だ……。

 

「さてと、そろそろ行ってくるよ」

 

 キリトは椅子から立ち上がってそう言った。

 彼がここにいるのは午前中の間。午後からは攻略に加わり最前線を駆けまわっている。

 

「気をつけてくださいね」

「兄弟子を信じて待っててくれたまえ」

「お姉ちゃん。キリトさんは兄弟子ですし、やっぱりお兄ちゃんと呼ぶべきなんでしょうか?」

「お兄ちゃんと兄弟子は別ものっすから、そのままでいいんすよ」

「はーい」

 

 キリトさん呼びもなかなか嫌であるが、お兄ちゃんよりはマシ。

 なおキリトと呼び捨てにする案も話題に出たが即却下した。

 キリトを取られたくないのではない。私はユイを取られたくないのだ。

 ユイはこんな年端もいかない少女だが、だからこそ年上の男性に憧れを持ち、魅かてしまうというのは大いにあり得ること。

 なお、お兄ちゃん呼びはそれを断つ効果は見込めない。なぜなら血のつながらない兄妹だからだ。キリトにそういう趣味があれば逆効果でもある。

 兄が好きかと聞かれると私はそうでもないが、妹が好きな男性は多いらしい。

 

 ユイの髪を手櫛で梳くとくすぐったそうにして、彼女は体重を私に預けてくる。

 それから身体を傾けて頬を私の胸元に擦りつけてきた。

 なんだろう、この愛らしい生き物は……。

 ペットとかってこういう感じなのだろうか? ベットを飼ったことがないのでわからない。

 いいや、ユイは人間だ。ならば本当の妹がいればこんな感じなのだろうか?

 ……なるほど。妹が好きな人間の理屈が理解できた。

 

「ユイー……」

「どうしたんですか、お姉ちゃん?」

 

 私がユイを抱きしめていると、キリトは呆れ顔で玄関へ向かっていく。

 

 ――コンコンとノックの音。

 リズベットだろうか。こんな時間にどうしたのだろう。

 キリトはそのまま玄関を開けて、来客を招き入れようとした。

 

「あれ……?」

 

 キリトの戸惑ったような声に、私の視線はユイから玄関へ向く。

 ……瞬きを数回。しかし何度見返しても目に飛び込んでくる情報に変化はない。

 ユイからわけてもらっていた温かさが、外から入り込んだ空気によって急速に冷えていくような気がした。

 おめでたい紅白カラーのKoB装備。

 栗色のロングヘア―を編み込んだ気品のある外見。

 けれども彼女の表情はどこか申し訳なさそうにしつつ、笑顔を取り繕っていた。

 

「き、来ちゃった……」

 

 ――結城明日奈さんが、そこにいた。




妹は増えるもの。
キリトが泊まっていこうとしてて常識を疑うエリですが、キリトはユイに斬りかかる寸前のエリを見ていたため流石に心配だったんです……。

そしてヒースクリフを置き去りにしたまま、だいぶ原作離れしているユイちゃんと朝露の少女をやっていこうと思います。あとエリのレベルは84となっていますが、原作よりもキリトやアスナのレベルは上がっているとお考え下さい。
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