レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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43話 灰色のエンドロール(10)

 世界は理不尽で残酷だ。

 あらゆる願いは叶わず。なにかを得ることはなく。ただただ失うだけ。

 宝石のような時間は、その先に待ち受ける絶望を彩るための輝きを放つ。

 触れた温もりは底冷えのする恐怖の前触れ。

 積み重ねたものはやがて崩れ去り、私の身体を押し潰す。

 無知には罰を。秩序には罰を。友情には罰を。憧憬には罰を。罪には罰を。

 永遠に償い続ける日々に囚われて、新たな罰を求める。

 苦しくて。辛くて。痛くて。悲しくて。

 無為で、無駄で、無様な人生。

 

「――エリ! ねえ、エリ!」

「どうしたんすか。アスナ?」

「その、大丈夫?」

「大丈夫っすよ。ただ、そのっすね……」

 

 それが続いていくのだと思っていた。

 

「――安心したら、力抜けちゃって」

 

 私は礼拝堂にある長椅子の背もたれに、だらしなく体重を預けていた。

 天井を見上げていると、アスナの顔が割って入る。

 琥珀色の、ユイとそっくりの瞳が私を見つめた。

 

「本当に?」

「本当っすよ……」

 

 キリトはあの後、跳びかかるような勢いでコンソールと言われた大理石のオブジェクトに触れた。

 彼が言うにはユイの使用した管理者権限が切れる前に、ユイのデータを私のナーブギアのローカルメモリに切り離して保存したというのだ。

 このゲームがクリアされた後、向こうの世界でユイを復元することもどうにか可能だという。

 

「キリっち」

「なんだ?」

「愛してるっす」

「え、は、ええっ!?」

「ええ!?」

 

 キリトが驚きのあまり椅子から落ちて、アスナが叫び声を上げた。

 

「もちろん親愛って意味っすよ」

「驚かせないでよ、もう!」

「それだけ感謝してるってことっす」

「もう少しオブラートに伝えてほしかったよ」

 

 キリトはよろよろと椅子に座り直す。

 アスナは私の肩を掴んで揺らしていた。

 

「……今度こそ、上手くやれたよ。サチ」

 

 キリトは小声で、礼拝堂のステンドグラスに向かってそう呟いた。

 彼の横顔はとても満足そうに微笑んでいた。

 私とアスナはしばしその光景に見惚れる。

 歴戦の剣士が、この2年の歳月の中で初めて手にした、納得のいく勝利だったのだろう。

 彼の笑顔にはそれだけの重みと充足感に溢れていた。

 

 キリトは強い剣になった。

 夜闇を照らす月のような剣だ。

 この剣は敵を斬るためだけにあるのではない。

 あらゆる困難に立ち向かい、襲い来る悲しみを断つことのできる夢想の剣だ。

 一度はサチに送った剣が、こうして私を照らしてくれた。

 この輝きはきっと、キリトの感じているサチの光なのだろう。

 

「アスナ……」

「なに?」

「謝っておくっす。サチは手強いっすよ……」

「ううっ……」

 

 これだけの輝きを放つ彼だからこそ、そこに残る影が鮮明に映る。

 黒猫の影は焼き付いて離れない。

 思い出はいつか色褪せて消えていくものだと思っていたが、これは本当に消えるのだろうか?

 どれだけ触れようとしても、それは水面に映る月に触れるかのように、波紋を起こすだけではないかと思えてくる。

 もしかすれば……。

 キリトは一生このままなんじゃないだろうか。

 このゲームがクリアされたとしても、サチの過去に縛られ永遠に空で輝き続けるような気がする。

 それは彼にとって幸せなのかもしれないが。

 サチにとっても幸せなのかもしれないが。

 見ていると、どこか哀愁を感じてしまう……。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 シンカー救出から数日。

 この日は75層フロアボス攻略の日だった。

 75層の主街区コリニアには、最精鋭のプレイヤーたちが集まっている。

 100層を除けば最後のクォーターポイントであるこの階層の主は、本格的戦闘が始まる前から攻略組に多大な被害を与えていた。

 偵察に出た先遣隊の半数が犠牲となったのだ。

 手に入った情報によると、先行してボスエリアに侵入した前衛部隊がフロアの中央に到着するとエリアの扉が閉じられたらしい。開放は不可能。

 5分と経たないうちに扉は再び開いたが、そのときにはすでに前衛隊10名は、生命の碑に名前を刻まれていたらしい。

 戦闘中の離脱不能。クリスタル無効化空間。この最悪の組み合わせにも関わらず、ボスの戦闘力は10名のトッププレイヤーを5分かけずに殺しきるほどのハイスペックだ。

 ここに集まった48名の何名が生還できるのだろうか……。

 

 私には案外知り合いが多いらしく、見知ったプレイヤーに声をかけていると思いの外時間がかかった。そのほとんどがMTDないしALFからの脱退者。あとは風林火山の彼らくらいか。

 最後に回したキリトとアスナは、広場の隅で2人で話をしていた。

 

「今、お邪魔じゃないっすよね?」

「え!? あっ、エリ。うん。大丈夫よ」

 

 アスナは話に夢中になっていたのか、近づいていた私に気がつかず、少し驚いていた。

 

「今日の攻略、ちゃんと帰ってきてくださいっすよ。一緒にユイに会う約束があるんすからね」

「もちろん。忘れてないわよ」

 

 私は……。今回は出ない。

 フロアボスの情報が持ち帰られ、最精鋭を集めることになったために、私にも声がかかった。二刀流の噂は広まっていたのだから当然だ。

 だが、私は()()()()()戦えなくなっていた。

 今までそんなことは一度もなかった。

 なぜなら私は生きて帰りたくなどなかったからだ。このまま、そのうちどこかで死ねるのならそれでいいと思っていた。

 けれど私にも生きて帰る理由が出来てしまった。――ユイのことだ。

 私が死ねばユイの保存されたナーブギアがどうなるかわからない。

 ユイと再会するために。ユイを失わないために、私は生きて帰らなければならない。

 そう思うと足がすくんで戦えなくなった。

 恥ずかしい話だ。だがそれでいいとも思っている。

 卑怯者と罵られることより、ユイの命の方が私には大事なのだから。

 それにまったく戦えないわけではない。

 たぶん76層のフロアボスなら平気だろう。なのでそのうち復帰するつもりはある。

 

「キリっち」

「ん。どうした?」

「これ、貸しておくっす」

 

 私はリズベットから貰った大盾をキリトに渡した。

 

「お守り代わりに持っておいて、ちゃんと返しにくるっすよ。使ってもいいっすけど、防御性能が見た目ほど高くないのには気をつけるっす」

「ああ。必ず返しにくる」

「むむう」

「アスナには渡せる物はないっすから、これで許してくださいっす」

 

 アスナには抱擁を。

 彼女からは柑橘系の香りがする。

 

「うん。ありがとう。あと、私が言いたかったのはそういうことじゃなかったんだけどね」

「そっちは自分でなんとかするっすよ……」

 

 キリトのことをどうこうしたいのなら、私じゃなくて自分でしてもらおう。

 アスナも友達だが、リズベットも友達なのだ。

 以前なら違っていたが、今となっては順序はつけられない。

 

「やあ、エリ君。久しぶりだね」

 

 突如声をかけてきたのはKoBのギルドマスター、ヒースクリフだった。

 

「お久しぶりっす」

「君は参加しないのだったね。本当に残念だ……。だが二刀流は手に入らなかったが、強き盾を得たことは喜ぶべきだろう」

 

 ヒースクリフはキリトを一瞥する。

 

「それにここで終わりではない。君と再び肩を並べる日を楽しみにしているよ」

 

 ヒースクリフは言いたいことだけを言うと、私たちの輪から離れ、広場の端に立って集まったプレイヤーたちを見渡した。

 

「よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――解放の日のために!」

 

 ヒースクリフは剣を天に掲げて宣言する。

 それから彼の開いた回廊結晶の門で集まった攻略組のメンバーは、フロアボスの元へと向かっていった。

 広場に残っているのは数人の見送りに来たプレイヤーだけ。

 私は踵を返して転移門へ向かい、はじまりの街に跳んだ。

 ――私にも、戦うべき戦場がある。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 所変わって荒野のフィールド。

 最前線付近の74層にある、外延部に近いこのエリアにやってくるプレイヤーなどほぼいない。

 静まり返ったこの周辺には目ぼしいオブジェクトはなく、エネミーの出現率も極端に低い。

 私は完全武装のまま持ち込んだ赤のルームチェアに腰をかけている。

 持ち込んだといっても私が持ち込んだわけではないが、「立ちっぱなしというのも様にならないので」と言われては頷くしかない。

 雰囲気よりも効率を貴ぶ私だが、こういう場面では欲しくもなる。

 彼らもそうだというなら私は喜んで役を演じよう。

 それに今回に限り脚本家は私だ。不満などあるはずがない。

 誰かに踊らされるのではなく、踊らさせる側というのは実に気分がよかった。

 

「まるで、悪の首魁っすね」

「ははは……。確かにその通りです。ここはあなたを先頭に傅いて整列しておくべきでしたか?」

「いいっすよ。これはこれで、私らしいっすからね」

「いえいえ。そんなことはありませんよ。ですが……。懐かさのあまり我々も浮かれているのでしょうね」

「いつもはしゃいでばっかだったっすからねえ……」

「ええ。ですから、あなたがお戻りになられて本当に嬉しかった」

「煽てても今日の獲物は渡さないっすよ?」

「それはもちろん」

 

 隣に立つ男と私は談笑する。

 こうした会話は久々だったが、彼とは長いつき合いだ。

 会話の呼吸がとても合う。

 おそらく一緒にいた時間は最長だ。

 キリトでも、リズベットでも、キバオウでも、PoHでもない。

 

「――隊長」

「なんすか?」

「ありがとうございます」

 

 ALF治安維持部隊。

 その精鋭メンバー。副隊長ともう1人がここに揃っていた。

 私の手頭から鍛えた可愛い部下だ。

 彼らは決して裏切らず、最後まで付き添い続けた私の手足だ。

 私が抜けた後も、隊長の席を空白にしていた忠臣者たちだ。

 

「おや。彼らも到着したようですね」

「なんやおまえら。どうい了見や!? こないなことしてただで済むと思っとんのか!!」

 

 喚き散らすキバオウを回廊結晶の門から押しやってやってきたのは、治安維持部隊の精鋭メンバーの2人。

 彼らは粛々とキバオウを蹴り飛ばして、彼を地面に転がした。

 

「なんや、ここ……」

「くふふ……。久しぶりっすね。キバオウ」

「エ、エリ……。ど、どういうつもりや……」

「おやぁ? 見てわからないっすか?」

 

 キバオウの青ざめた顔に集まった彼らは哂い出す。

 彼の背後では門が閉じていく。これで逃げ場はどこにもない。

 

「ターゲット。無事確保しました」

「なにか問題は?」

「いいえ。ありません!」

「ご苦労っす」

「はっ!」

 

 連れて来た2人はキバオウを囲む位置でピシリと敬礼をした。

 そこまで格式ばれと教えたことはないが、あれは彼らも好きでやっているのだ。その証拠に顔がニヤついている。……趣味について私からとやかく言う必要もないだろう。

 私はゆったりとした動作でルームチェアから立ち上がった。

 

「す、すまんかった。ワイが悪かった。この通りや!」

 

 地べたに額を擦りつけるキバオウの前へ、私は歩いて近づく。

 

「それで?」

「へ?」

「それでキバオウはどう私に償ってくれるんすかねえ?」

 

 償ってほしいとは思っていないが、()()()()なので聞いてみることにした。

 

「あ、え……。さ、サブマスターの地位を渡したる。あんさんをもう危険な仕事にもつけんって約束する!」

「ほほう。それで今度はギルドマスターの地位を手に入れたい、と」

「いや、え、ああ……。そうや! そうすればあんさんにも色んな便宜も図れるやろ? ウィンウィンの関係やで!」

「イヒッ」

「ふふふふふ。笑ってはいけませんよ。隊長」

「そんなこと言ってもっすよ。あんまり可笑しくて。それにお前も笑ってるじゃないっすか」

「ふふふ。これは失礼」

「あ、ああ……」

「キバオウ。私、これからサブマスターになることになってるんすよ」

 

 シンカーと手を結んだ私は妥当キバオウ勢力となった。

 当然キバオウがいなくなれば、サブマスターの地位は私に渡る。そうしなければ残った派閥を纏めることができないためだ。

 キバオウよりは、シンカーの方がマシだろう。

 私が頂点に立つのはなしだ。そうするには悪名が広がり過ぎているし、矢面に立たなければならなくなる。逆にサブマスターであればそれほどの悪名を持つ私を味方につけたシンカーの手腕が評価されることに繋がり、私の名前だけでもかなりの牽制になる。

 あれは悪くない取引だった。

 

「でもサブマスターの解任には面倒な手続きがあって、すぐには成れないんすよね。ああ。でもそれだけが理由じゃないっすよ」

「り、理由って、なんの理由や……」

 

 答えはわかっているだろうに。でも特別に言葉にしてあげよう。

 

「お前をこれから殺す理由っす」

「ひぇっ!?」

 

 キバオウは地面を這って私から逃げようとする。

 そのまま腰を抜かしたままでいると思ったが、どうにか彼は立ち上がった。

 しかし逃がさない。彼のレベルでは到底AGIが足りず、また取り囲んでいる部下が剣を抜いて道を塞いでいた。

 

「今まで一緒にやってきたやないか」

「そうっすね」

「こ、これからも、ワイらが手を組めば怖いもんなしやで」

「あはははははは。どれだけ命乞いを続けるんすか。随分愉快な人だったんすね。もういいかげんわかってくださいっすよ」

 

 私は剣を抜く。

 キバオウも腰の剣を抜くが、その性能差は著しい。

 

「私は! お前が嫌いで! 邪魔で! 憎いから! だから殺すんすよ!」

 

 ALFの権力争いを一番被害の少ない方法で終わらせるためだとか、言い訳はある。けれどこれが私の、一番の理由だ。

 私の振り下ろした剣をキバオウは剣で受け止める。

 腰が引けて碌に反撃できない体勢。加えてガードを貫通したダメージがキバオウのHPをどんどん減らしていく。

 

「や、やめてくれ! ワイが死んだらジブンもただじゃ済まんで!」

「今までどれだけ殺してきたと思ってるんすか? 証拠を消す方法も、代わりに捕まるプレイヤーの選定も、口裏を合わせて容疑を晴らす手筈も、全部キッチリやってるに決まってるじゃないっすか! 私はこの時間、黒鉄宮の自室で引っ越しの荷解きをしてることになってるんすよ。目撃者もいるっす。ログも取ってあるっす。そっちはあとで改竄するっすけどねえ」

 

 小気味いい金属のぶつかる音。

 タイミングを見計らってキバオウの剣を掬い上げて空へと放った。

 手の中からすっぽりと抜けた剣は回転して地面へと突き刺さる。

 

「あーあ。腕が落ちたっすね。昔の冴えは見る影もないっす」

 

 観客の部下たちが笑い声をあげる。

 見世物としては良い出来らしい。

 

「それじゃあ、そろそろフィナーレにするっすか」

 

 私は腰に下げていた、もう1振りの剣を抜いた。

 

「キヒッ……」

 

 二刀流最上位連撃。――『ジ・イクリプス』。

 格下の、それもHPがイエローゾーンに突入しているプレイヤーに対して使うには余りにも過剰なソードスキル。

 その27回にも及ぶ連撃で、私は丁寧にキバオウの身体を刻んだ。

 回避することも叶わず、キバオウのアバターはダメージエフェクトでズタズタに引き裂かれる。

 彼の顔は原型を留めておらず、赤いエフェクトで塗り潰され、手足は切断判定に成功して辺りに散らばった。胴体も細切れにしてあげたかったが、流石にこれは切断状態が設定されていない。

 執拗に斬られた彼の身体はもはやエフェクトで塗られていない箇所の方が少ない。

 

「や、やめてくれ! 嫌やあああああああがっ!?」

「アハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 開いた口はまだ綺麗だったので、その部分を突きの攻撃で貫いた。

 ソードスキルのダメージ判定があるエフェクトが彼の内部で荒れ狂う。

 脳天を貫通したが風穴は開かない。残念だ。

 HPがなくなり、ポリゴン化する死亡演出が始まっても私のソードスキルは終わっていなかった。 どうにか間に合わせ、最後の一撃と同時にポリゴンが爆散。

 ガラスの砕ける音を奏でながら、見慣れた演出でキバオウの身体は完全に消え去った。

 

「ハァ………………」

「………………隊長」

「ん?」

「……後悔は、ありますか?」

「もちろん、あるっすよ」

 

 考えるまでもなく。

 それこそ山のように。

 

「もっと早くにこうしていればよかったっすね……」

 

 それですべてが望みどおりになったかといえば、そうではないだろうが。

 だが私がすることはどれも遅すぎた。

 キバオウを殺すこともそうだし、アスナのこともそうだ。

 誰かに言われるがままに、流されるがままに身を任せて……。

 任せきりにしてきたツケが回ったのだろう。

 おかげで散々な目に合ったし、散々な目に合せてきた。

 自業自得であるのは重々承知だが。

 

「これから、どうしますか?」

「そうっすねえ……。ALFの立て直しもそうっすけど、私としてはラフコフの残党を殺して回りたいっすかね」

「なるほど。では、そのように」

「手伝ってくれるっすか?」

「もちろんです」

「PoHの野郎、絶対許さねえ!」

「そうだそうだ!」

「ぶち殺せ!」

 

 まったく……。元気の良い連中だ。

 彼らが天に剣を掲げて騒いでいると、上の階層の底に赤い光が輝いた。

 続いてリンゴーン、リンゴーン、リンゴーンと大音量の鐘がなるSE。

 光は染みのように広がり、岩の露出する天井を覆い尽くす。目を凝らすとそこには『Waring』と『System Announcement』の文字が書かれていた。

 それは、かつてこのゲームが始まったときに見た光景と同じものだ。

 突然の異常事態に、部下たちも不安気な声を漏らす。

 しばらくして、鐘の音が止むと静寂が戻る。

 それは元々この地に在ったそれよりも、ずっと深い静寂だ。

 

『ただいまより プレイヤーの皆様に 緊急のお知らせを行います』

 

 固唾を飲んで、天からの声を聞く。

 

『アインクラッド標準時 11月 12日 15時 24分 ゲームは クリアされました』

 

 無機質なシステムメッセージは、淡々と世界の終わりを告げた。

 突然のことに、なにが起こったのか理解ができなかった。

 

『プレイヤーの皆様は 順次 ゲームから ログアウトされます。 その場で お待ちください。 繰り返します……』

 

 実感が遅れてやってくる。

 ああ。なるほど。キリトがまたなにか、やったのだろう。

 彼なら、あるいは……。そういう無茶もやりかねない。

 

「ようやく自分の足で前に進もうとしたところでこれっすか……。まったく、ままならないものっすね……」

 

 どこまでもどこまでも、思い通りにならない。

 

「ええ。ですが、長い人生。ここが終着点でもないでしょう?」

「それもそうっすね」

 

 ゲームがクリアされれば、現実に戻るだけの話だ。

 帰りたくないと思っていた現実の世界。

 ――けれど今は、妹の待つ世界。

 ユイとは、長い別れにならずに済んだことを喜ぶべきなのかもしれない。

 ここにあと1年もいれば、私はまた寂しくてたまらなくなっただろうから。

 

「皆さん」

 

 私の言葉に、注目が集まる。

 

「これまで、ありがとうございましたっす」

 

 部下たちの笑顔が見える。

 彼らは1人、また1人と嬉しそうに涙を浮かべ、消えていく。

 空には長いエンドロールが流れていた。

 このゲームを作り出したスタッフやエンジニアの名前に続いて、最後にはプレイヤーの名前が映し出される。

 そこには生き残ったプレイヤーだけでなく、死んでいった者たちの名前も灰色で記されていた。

 

 タマさん。

 

 抜刀斎。

 

 カフェインさん。

 

 ユウタ。

 

 25層で死んでいったMTDの仲間たち。

 

 サチ。

 

 ユナ。

 

 ラフコフの討伐戦で死んでしまった旧友たち。

 

 彼らはこの瞬間に辿りつけなかった。

 彼らと過ごした思い出が、私の頬に滴となって流れる。

 夢のような時間は終わりだ。

 決して幸福な夢ではなかったけれど。

 失ってばかりの悪夢だったけれど。

 失わせてばかりの私だったけれど。

 夢の終わりで、私は大切な者を得た。

 

 私の身体も光に包まれる。

 ようやく順番が来たらしい。

 目が覚めたなら、今度こそ自分の足で歩いて行こう。

 拳を強く握る。

 この気持ちを決して忘れないために。

 

 

 

 ――さあ。目覚めのときだ。




ヒースクリフ「デュエエエエエエエエエエル!!」


 最後までデュエルをさせてもらえないヒースクリフさん。
 そして『灰色のエンドロール』、及び『アインクラッド編』完結です!!
 ここまで読んでいただきありがとうございました!

 これまで積み重ねてきた様々な出来事に決着をつける章でしたが、いかがだったでしょうか。
 この章の一部は原作成分のかなり強いものとなってしまいましたが、原作とは違う雰囲気を感じていただけたなら幸いです。

 またヒースクリフとキリトの盾使い対決は、書いてしまうとキリトの物語として終わってしまうためカットとさせていただきました。
 番外編でそのうち書くかもしれませんが、この章ではなしとさせていただきます。



 これで終わっても綺麗に落ちがつきますが、そこはロングシリーズのSAO。
 ラフコフの幹部メンバーには決着が着いていないので、その辺りを書いていこうと思っています。
 それと次回からは時系列が原作と違う順序で進みます。
 最終的な話に持っていくための必要な処置としてご了承ください。

 原作とは少々違う性格になってしまった彼らのストーリーを、これからも誠心誠意執筆させていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
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