「ユイ!」
「お姉ちゃん!」
私たちは互いを抱きしめ合う。
ユイと会っていない期間は体感で3週間程度なのだが、とても久しぶりに感じた。
久しぶりの感覚だ。
手足が動く。呼吸ができる。言葉を淀みなく話せる。触れた手からは温度や触感が伝わった。
2週間の間とはいえ自由に動けないストレスは想像以上のものだった。
それから解放されたのと、ユイと再会できたことが合わさり、感激で涙腺が緩んでしまう。
正確には昨日アミュスフィアの接続テストを医者同伴で行ったため、2週間ぶりの感覚ではないのだが、細かいことはどうでもいい。
「お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん!」
ユイは泣きながら、何度も私を呼んだ。
たぶんこのままにしていれば、私たちは抱きしめ合ったまま、接続許可のされている1時間を過ごしてしまう……。
名残惜しいが、私はユイを離して頭をそっと撫でた。
「大丈夫っすよ。お姉ちゃんはここにいるっすから」
「はい……。よかったです……。本当に、よかった……」
ユイをなんとか宥めつつ、私はシステムコンソールで部屋の内装を整えていく。
ここはアミュスフィアのロビールーム。
ネットワークを介してコミュニケーションを行えるSNSの側面もある。
――2年前、ナーブギアの頃にもあったが、当時のものとはインターフェイスもだいぶ様変わりしている。タマさんや抜刀斎、カフェインさんと連絡を取り合っていたのも、このコミュニケーションツールだった。
部屋を木製のパッケージに変更。
ソファを設置してひとまずそこに腰を落ち着ける。
片手間に暖炉やランプ、揺り椅子やテーブルを配置していくと、無意識に22層のコテージそっくりにしてしまっていた。
それだけ私はあの場所を気に入っていたというわけだ。
「ユイが泣いてると、私も悲しくなっちゃうっすから。ね?」
「はい……」
ユイはごしごしと服の袖で涙を拭う。
そういえばユイの格好は私の着せた服と同じデザインだ。
私はというと作成したアバターを使っているため本人よりも美少女。
――なのだが違和感が酷い。私じゃない誰かがユイを撫でているような錯覚に囚われる。後で自分に似せておこう。
「そうだ。キリっちから聞いてると思うっすけど、今度はアルヴヘイムオンラインを皆でやろうって話になったんすよ」
「はい。聞いています。お姉ちゃんは、その……平気ですか?」
「ん。ソードアートオンラインから出たばっかりなのにってことっすか? いやあ、私も随分あっちの生活になれちゃったっすからね」
「そうじゃなくて……。その、アルヴヘイムオンラインでは酷いことをされてたので……」
「うーん……。そっちは全然覚えてないんすよね。捕まってたって聞いたんすけど、正直実感ないんすよ」
「そう、ですか……。その……。よかったです。あ、いえ。全然よくないです! だってお姉ちゃんの身体が……」
「それが原因かもわかってないっすけどね。それにユイと同じだと考えれば、まあ、悪いばかりじゃないっすよ」
「………………」
話題のチョイスを間違えた……。
ユイを相手にするとどうにも上手くいかない傾向がある。
「そ、そうだ。キリっちにALOで稽古をつけてもらってるって聞いたっすけど、上手くいってるっすか?」
「はい! キリトさんにはどんどん強くなってるって褒めてもらいました」
「それはよかったっすね」
キリトを出汁に使うのは癪だが、ここはぐっと我慢。……あれ?
「もしかしてモニタリング機能はなくなってるっすか?」
「はい。そうです。よくわかりましたね。今はSAOサーバーから切り離された状態なので、以前のようなことができないのですけど、その……。モニタリング機能はあったほうがいいですか?」
「え? 足せるようなものなんすか?」
「サーバーを拡張していけば、どうにか。ザ・シードネクサスを利用すればすぐにでもできると思いますけど」
ユイはつまりソフト面でもハード面でも、自己進化していくことのできる汎用型AIということになるのだろうか。
シンギュラリティーを題材にした小説でよく登場するあれだ。
量子コンピューターなど十年以上も前に完成しているし、VR技術も最近完成した。
SFと呼ばれていたものも、今やほとんどが実現しているわけか。
「いや、いいっすよ。あんまり見られてると恥ずかしいっすから」
「わかりました!」
「それで、アルヴヘイムオンラインっすけど。どうでしたっすか?」
「そうですね……。空を飛ぶ感覚は一度経験したら止められないって、リーファさんが――」
「リーファ?」
「あ、キリトさんの妹さんです」
「ふーん」
それから私はユイとキリト、リーファの旅した数日間の冒険を聞いた。
ログイン早々、リーファがサラマンダーの部隊に襲われているところに通りがかって助けた話。
サラマンダーの部隊に追われて返り討ちにした話。
シルフ領の領主側近を務めていた近衛騎士シグルドがサラマンダーの領主と内通していた話。
シルフとケットシーの領主の同盟調印をサラマンダーの最強プレイヤーたちに襲撃された話。
その最強プレイヤーをキリトが返り討ちにした話。
どれもスリリングで、痛快な、彼らしい話だった。
ただ、ユイがキリトのことを楽しそうに話すのには嫉妬してしまう……。
この嫉妬が以前のように伝わらないのは、もどかしいような、嬉しいような、複雑な気分だ。
「そろそろ時間っすか……」
タイマーを見るとそろそろ医者に通達された1時間に達するところだった。
「そうみたいですね……。お姉ちゃんともっとたくさんお話ししたかったです」
「また明日会えるっすから。元気出すっすよ」
「はい。――その、私ばっかり喋っちゃいましたけど、お姉ちゃんは楽しかったですか?」
「もちろんっすよ」
ユイはメンタルモニタリング機能がなくなったせいで、私がどう感じたのかわからなくなっているのか。だから人間でいうところの不安を感じているわけだ。
私はユイを優しく抱きしめる。
「……お姉ちゃんの気持ちが伝わってきます」
ユイが私の背に手を回して抱きしめ返してきた。
SAOよりも曖昧な感覚だが、それでも十分に彼女の体温を感じる。
「明日からはもっと長くログインできるっすから。ちょっとだけ我慢してくださいっす」
「はい。待ってます。お姉ちゃん!」
ユイの眩しい笑顔に見送られて、私は現実の世界へとログアウトした。
▽▲▽▲▽▲▽▲
知らない人間と会話をする、というのは得意な方だ。
これもSAOで鍛えられたスキルのひとつ。
MMOとはコミュニケーション能力が問われるゲームでもある。
集団での戦闘の方が効率が良く、知人が多ければそれだけ情報の窓口は広がり、装備などのアイテムを優秀な生産者から安価で譲り受けるにはコネが必要となる。
余所のコミュニティとの衝突や協力というのも醍醐味で、数の暴力により独占されるエリアなども生まれてくる。
SAOでもそういうことは往々にしてあった。――というよりかは、私が率先してやっていた節がある。
向こうでは情報サイトなど存在しなかったため、秘匿性が高く、とてもやり易かった。
そんな私は、春から同じVR学校に通うことになる人との顔合わせを医者から頼まれていた。
わざわざどうしてと疑問に思いつつも、なにかしらの配慮の結果であることはおぼろげに感じていた。
彼女も特殊な事情であまり学校には来れないが、仲良くしてやってほしいと言われているが……。この場合、配慮されているのは私か、彼女か、あるいは両方か。
私は自分のロビールームでアバターの確認をする。
先日とは違いSAOで使っていたアバターをスリムにさせたものになっている。願望がだいぶ詰まってるが、これでも現在の私の姿に近い。なにせ2年間寝たきりだったおかげで無駄な脂肪は軒並み消費しきっている。
「じゃあ行ってくるっすね」
「いってらっしゃいです。お姉ちゃん!」
約束の時間だ。私はユイに見送られながら指定のルームコードを入力して移動した。
私のロビールームは結局22層のコテージそっくりに改築してしまったが、訪れた先は近代的な白い壁と緑色の屋根をした住宅だった。
だいぶ小さな一軒家だが、その代わり広い芝生の庭があり、白木のベンチとレンガの花壇が設置されている。
植えられている花は紫苑。花言葉まではなんだったか……。流石に覚えていない。確か開花時期は外れているはずだが、植えられたそれからは藍色の花弁が美しく開き、中央には太陽のような黄金色の花が輝いている。
「すみません。連絡していたエ――豊柴です」
うっかりプレイヤーネームを言いそうになり訂正。
ノックを3回。インターホンがあったが、気がついた時にはすでにドアを叩いていた。これもSAOの習慣のせいだ。
「はーい!」
ドアが開き現れたのは、背の低い、濡れ羽色の髪をショートカットにした少女。その綺麗な髪は白いカチューシャで纏められていた。
彼女の大きな深緑色の瞳が下から私を捉えると、表情はにかっと花が咲くような笑みに変わる。
「ささ。中に入って!」
「あ、お邪魔します」
なかなかアグレッシブな人のようだ。
私は腕を引かれ私は中に通される。短い廊下を抜け、リビングへ。そこには知らない人が5人ほど揃って、テーブルを囲んでいた。
「ようこそ、ボクのギルド『スリーピング・ナイツ』へ!」
私は勢いに呑まれて、しばし瞬きを繰り返した。
「ボクがいちおうギルドマスターのユウキです! それで――」
「僕がジュン。よろしくね!」
背の低い少年が、ユウキと同じように元気な声で名前を名乗る。
「初めまして。私はシウネーです。どうぞよろしくお願いします」
大人びた綺麗な女性だったが、彼女は身を乗り出して食い気味に話す。
ここは仮想現実。忘れがちだが外見が本人と乖離しているのは大いにある事だ。
「あー、えっと、テッチって言います。どうぞよろしく」
のんびりした口調で喋るのは大柄な男性。細められた両目に愛嬌のある人だ。
落ち着いた印象のせいか、カフェインさんを思い出す。
「わ、ワタクシは、そ、その、タルケンって名前です。よ、よろしくお願いしま……イタッ!」
眼鏡の細い青年は、向かいに座った派手な格好の女性に椅子の足を蹴られていた。
派手といっても常識の範疇。ノースリーブに胸元の空いた服を着ているというだけ。
「いいかげん、あんたはそのあがり症をなんとかしな。女の子の前だとすぐこれなんだから。――あたしはノリ。よろしくな」
そう言うと、ノリと名乗った女性は格好良く笑ってみせた。
「それで彼女が――」
ユウキが私を見る。
「んん? ちょっと待ってください……。その、これはなんの集まりですか?」
全員が顔を見合わせる。
もしかして部屋を間違えたのだろうか。
メールに添付されていたコードをコピペしたので、もしそうなら送り主のミスだ。私は悪くない。
「ねえ、ユウキ。やっぱり彼女、入団希望者じゃないんじゃないかな? 今まで先生が紹介してきた事もなかったし」
「えー? ボクは先生にちゃんと友達になってあげてねって言われたよ」
「すみません、ユウキさん。ちょっとこちらに」
「はいはい?」
私は廊下にユウキを招いて2人で話せるようにする。
「
「うん。そうだよ。あ、でもこっちではユウキって呼んでね!」
どうやら人違いではないらしい。
「えっと、私はお医者様に、同じ学校に通うから少し会って見ないかと言われたのですけど」
「うんうん……。うん?」
ユウキは可愛らしく小首を傾げる。それから数秒固まって、苦笑い。恥ずかしそうに頭を掻くと振り返ってリビングのドアを勢いよく開いた。
「ごめん! ボクの早とちりだった!」
5人が椅子の上で派手によろけた。
思わず声を出して笑いそうになるところを、私は手で口元を押さえてどうにか大人しくすることに成功した。
「初めまして。エリと言います」
私は落ち着いた口調で話すも、これが必要なのかだいぶ怪しくなってきた……。
「皆さんはどのような集まりなのですか?」
「一緒にVRゲームをする、集まりかな」
「なるほど」
リビングの端には大量のトロフィーが飾られている。
おそらくVRゲームで獲得できるものだろう。私のロビールームには2年前のタイトルしかない。
その間に結構な数のゲームが発売されたのだなという驚きを感じる。よく見れば英語表記や中国語表記のものもある。彼らはかなり手広くやっているゲームマニアらしい。
知らないタイトルがあると、どうしても目を引かれてしまう。
「エリさんはVRゲームってするの?」
「結構やり込んでますよ。といっても色々なゲームには触れてませんけどもね」
「じゃあ一緒に遊んでいかない?」
「いいですよ」
「やった! じゃあ入団試験のために用意してたあのゲームが無駄にならなくて済むね」
「本当にやるんですかユウキ?」
シウネーと名乗っていた女性が、途端に困り顔になる。
「前やったときは、これを入団試験にしましょうってシウネーも乗り気だったじゃん」
「あれはその……。テンションがおかしくなってただけです。今日はアスカ・エンパイアでいいじゃないですか!」
「あれはレベル制だからよくないんじゃない?」
「それはそうですけども……」
「僕は賛成!」
渋るシウネーを押し切るように、ジュンと名乗った少年が手を上げて発言する。
いったいユウキはなにをやらせようというのか。怖いもの見たさで興味がそそられる。
「私はどういったものでも大丈夫ですよ」
「ほう。言うね、あんた! そいつは楽しみだ」
ノリと名乗った女性は私に近づいて背中をバンバン叩いてくる。
現実でやれば結構痛いだろうけれど、VRならこれだけ強く叩いてもなんの問題にもならない。
「お。結構いい体幹してんじゃないか。こいつは本気で楽しみだ」
「そう言うノリさんもなかなかですね」
「ククク……。気に入ったよ。ほらユウキ。さっさと始めようじゃないか」
「うん。じゃあゲームを送るね」
私のアカウントに送られてきたのは英語のタイトル。
日本語パッチが有志で作られているらしくて、それも同封されていた。
▽▲▽▲▽▲▽▲
スリーピング・ナイツのメンバーと一緒にゲームを始めて3時間。
最初はチュートリアルをレクチャーされながら行っていたが、途中から熱が入って私たちはPvPをしていた。
レベル制ではなく、キャラクターには寿命が設定されているため全員がほぼ初期状態。
故に試されるのは相性とプレイヤースキルだけという公平な戦場だった。
いかに彼らがこのゲームに熟知していようとも、私には2年に渡る命懸けの戦いを潜り抜けて来た経験がある。
負けるとしてもそう簡単にはいかないだろう。あわよくば彼らをギャフンと言わせてやる。
――ゲームを開始する前はそう思っていた。
「ぎゃふん!」
言ったのはシウネー。この中で一番弱かった彼女だ。
だが感動はない。ユウキ、ジュン、ノリの3人にはまるで歯が立たなかった……。
タルケンは緊張してまるで動けていなかったが、テッチはおそらく手を抜いてくれていた。心優しい人だ……。
シウネーは弱い。選択したキャラクターにも原因があるが、それだけでゲームが下手なのかは推し量れない。
なにせこのゲーム。常識が通じなかった。
「スリーピング四の字固め!」
「トルネードスロォオオオオ!」
「あわわわわわわわ!?」
ユウキの四の字固めでもなんでもない技を打ち破って、私がユウキの身体を持ち上げ回転。そのまま地面に叩きつけることでついに彼女のHPを0にした。
ユウキに対しては初勝利だ。通算1勝16敗。かなりの強敵だった……。
「やるね、エリ……」
「そっちこそ。ここまで勝てないとは思わなかったっすよ」
新しいキャラクターで現れたユウキと、私は互いの健闘を称えあった。
ここは熱い握手を交わしたいところだが……。残念ながら私に手はない。前足ならあるが。
代わりにユウキは私の角を握った。これでよしとしよう。
私たちは今――虫だった。
私はカブトムシ。ユウキはアリ。ジュンは私と同じカブトムシで、ノリはカマキリだ。テッチはダンゴムシ。タルケンはクワガタだった。
「そろそろいいじゃないですかぁ。もう満足しましたよね? ね?」
シウネーが必死に身体をくねらせながらゲームの終了を促してくる。
彼女の姿はイモムシ。さっきまで口から糸を吐いて襲い掛かってきていた。
たぶん彼女が人型アバターを使っていれば涙を浮かべていただろうが、この状態では表情を読み取ることなどまるでできない。
「しょうがねえなあ」
「できればノリにも勝ちたかったっすけど。仕方ないっすね」
私たちはログアウトしてユウキのロビーへと戻った。
VRといえば人体の延長線上に考えていた私にとって、この『インセクサイト』は刺激的なゲームだった。まず自由に動けない。
人間には手足が2本ずつなのに対してカブトムシは足が6本。それもうつ伏せの体勢だ。操作慣れするまで1時間もかかった。
なお、スリーピング・ナイツのメンバーはやり込んでいるわけではなかったため、この程度の戦績に収まっている。
「たまにこういうので遊ぶと楽しいよね!
「そうっすねえ」
気がつけば私の化けの皮も剥がされて、すっかり彼らと打ち解けていた。
これはユウキが距離をグイグイ詰めてくるおかげだろう。どこかの結城もかなりアグレッシブな人だが、ユウキはその遥か上を行く。
「このゲームはもう一生分遊びました」
「えー。そんなこと言わずにまた遊ぼうよー」
「いやですっ!」
断固拒否するシウネーは、うずくまって頭を抱えている。
それが面白くて私を含む6人が声を上げて笑った。
「ねえ。よかったらこれからもこうして一緒に遊ばない?」
「もちろんいいっすよ」
「やったあ!」
ユウキが勢いよく飛びついてきて、私は彼女を抱きとめ一回転。上手く減速させてから地面に着地させた。
「ねえ。エリも、その……、病気なんだよね?」
「あー……。そうっすね」
息遣いすら聞こえるほどの至近距離でユウキと視線を合わせる。
「ボクたちはセリーン・ガーデンっていう医療系ネットワークのヴァーチャルホスピスで出会ったんだ。最後のときとVR世界で豊かに過ごそうって目的で運営されてるサーバーでね……」
エリもそうなの?
ユウキの瞳はそう問いかけていた。
私たちは会ってまだ3時間程度。踏み込んだ話をするには互いを知らなさすぎる距離だと思う。
でも、彼女には時間がないのだろう。ゆっくり距離を埋めていくための時間が。
私は深呼吸を一度。ユウキに引き寄せられるように言葉を発する。
「私はSAOからこの前出たばっかりなんすけどね。目が覚めたら身体が動かなくなってたんすよ。命に別状があるかもわからないっすけど、改善するかもわからなくって」
「そっか……。エリがよかったらさ、ボクたちと一緒に来ない?」
「スリーピング・ナイツに?」
「うん」
「………………」
どこまでも真っ直ぐなユウキの瞳。
顔を上げると、他の5人も真剣な表情で私のことを見ていた。
「今度、友達とアルヴヘイムオンラインで遊ぶ約束があるんすよ」
「そっかぁ……」
「だから」
残念そうに声を漏らすユウキの声を遮るように私は言葉を続ける。
「よければ、その、一緒にどうっすかね?」
「………………」
ユウキは振り返って5人と顔を合わせる。すると全員が一度頷き返した。
「うん! もちろん!」
「それじゃあ……、これからよろしくお願いするっす」
私は少し気恥ずかしくて頬を掻く。
ユウキは私から離れると5人の中心に立って両手を広げた。
「ようこそ! スリーピング・ナイツへ!!」
元気一杯なユウキの声が、部屋中に響いた。
紫苑……秋に咲く花で、花言葉は「あなたを忘れない」「彼方の人を想う」。
厳密には終末医療ではないですが、エリもスリーピング・ナイツに参加。
ユウキの性格からすれば同じ境遇でないと駄目、とは言わないと思いまして。
そしてご覧の通り、『剣士たちの前奏曲』はマザーズ・ロザリオのプロローグも含みます。
どうしてこのタイミングで登場させる必要があったかは、続きを読んでいただければ幸いです。
なおキリトたちに相談せずにスリーピング・ナイツに加わったのは、キリトはギルドを設立しても絶対に入らないし誰も入れさせないと確信していたから。
あとはその場の勢いに乗せられてます。相変わらずエリは乗せられやすいんです。
アスナが先に「新生KoBを創るわよ!」と言っていたらきっとそちらに入ってました。