レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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46話 微睡む剣士たちの前奏曲(3)

 アルヴヘイムオンラインには9つの種族があり、それぞれの種族に得意分野や専用能力が設定されている。

 キリトはトレジャーハントが得意なスプリガン、リズベットは生産職が得意なレプラコーン、ユイは暗闇でも飛行可能なインプと聞いていた。

 以前は種族間対立の激しいゲームであったらしいが、最近では徐々に改善されてきているらしく、私たちは同じ種族で統一する必要はなかった。

 事前情報を集め、私が最終的に出した結論は防御重視のノーム。

 高い魔法攻撃力と、重武装装備可能により最優と言われるサラマンダーと迷ったが、SAOで培ったタンクという役職から、私は離れられなかった。

 アルヴヘイムオンラインのアバターはランダム生成らしいが、SAOからコンバートした私は、かつてSAOで使っていたものが種族の特徴を引き継いだ容姿となった。

 髪は金髪になり、背も若干だが伸びている。身体が筋肉質になった代わりに、横幅が少し引き締まってくれたのは嬉しい変更だ。

 名前は『xxxErixxx』。珍しいものではないので前後に文字を入れる羽目になった。違う名前も考えたが、皆に呼ばれる時のことを考えるとこれが一番しっくりくる。

 

「エリー」

「こっちっすよー!」

 

 リズベットは少し先に始めていたため、今日は彼女の方からノームのスタート領地へやってきてもらうよう頼んでいた。

 キリトとユイは少し到着が遅れるとのこと。昨日移動している最中で強力なエネミーに捕まって遠回りをせざるを得なくなったらしい。

 転移がないためSAOよりも移動が厳しいこのゲームでは、都市間を行き来するだけでも相当大変だとレビューが書かれていた。

 どうしてこんなことにしてしまったのか……。

 オープンワールドは広ければいいわけでもないだろうに。

 

「こっちだと大丈夫そうね」

 

 リズベットは赤のバフスリーブにフレアスカート。白いエプロンドレスといったSAOとほとんど同じ格好をしていた。

 アイテムのコンバートは不可能だったので、わざわざこちらで揃えたのだろう。彼女の精神もSAOにだいぶ引きずられているようだ。

 

「見ての通り、元気いっぱいっすよ。でももっとスタイルが良くなりたかったっすね」

「あはは。でも不健康よりはいいんじゃない?」

 

 存分に動けるこちらでは、冗談を言う余裕もある。

 心配されるというのは嬉しい反面、続くほどに罪悪感に変わってしまうものだ。

 

「じゃ、キリっちが来るまでフィールドでもぶらつくっすか?」

「そこで街を歩こうって言いださない辺り、あんたもバトルジャンキーよね……」

「うーん。露店を回るのも好きっすけど、始めたばっかでまだコツが掴めてないんすよね」

「おやおや? 天下の隊長殿が、錆びつきましたかかな? これは私の時代が来たのかもしれないわね」

「……そう言うならデュエルで決着をつけてやろうじゃないっすか」

「ふふん。いいわよー」

 

 私たちは場所を移して人気のない路地裏へ移動した。

 表通りでやるには、まだまだ腕が未熟なので恥ずかしかったからだ。

 

「ルールは?」

「初撃決着モードで。蘇生魔法はまだ使えないっすから」

「言うじゃない。ここでの戦い方を教えてあげるわよ」

 

 ちなみにリズベットのSAOでの実力はそこそこ高い。

 デュエルやフィールドボスとの戦闘では実力を発揮しきれないところがあるが、圏内戦闘ではなかなかの腕を持っていた。

 なにせ中層では珍しい武器スキルの熟練度が900オーバーのマスターメイサーだった。

 私が軽く手ほどきをした盾の扱いも相まって、仕事の傍らブイブイ言わせてたらしい。

 私の装備は初期装備よりはマシ程度の重量級片手直剣に小盾。防具は軽量級金属鎧。

 対してリズベットは片手槌に小盾、軽量級金属鎧と、武器以外は似た構成だった。

 システムメニューからデュエルを申し込むと視界にカウントダウンが始まる。

 

「勝った方がご飯奢りね」

 

 調子に乗ったリズベットが、肩を回しながら言う。

 彼女の背には灰色の羽が表示されたまま。飛行可能状態である。こちらは初心者だと言っているのに容赦しない模様。

 彼女の構えはメイスを担ぐような上段、盾は突き出すように持ったオーソドックスなもの。ただし腰を落として攻めの姿勢を見せている。

 私は右半身を前にした中段。突きの構えだ。盾は身体に引きつけ、攻撃を重視する。

 彼我の距離は10メートル。魔法を撃つには近いだろう。まだ日の浅いリズベットが高速で詠唱してくるとは考えにくい。

 

『DUEL』

 

 カウントが0になると同時に文字が現れる。

 リズベットは後退。空へと逃走を図った。

 私は――。

 

「ぐはぁ!?」

 

 建物の壁に2人揃って衝突。

 壁が『Immotral Object』と抗議のメッセージで私たちを弾き返し、揉みくちゃになりながら地面を転がった。

 

 

「わ、私の勝ちっすね……」

 

 リズベッドに覆いかぶさりながらの勝利宣言。

 締まらないが勝ちは勝ちだ。システムメッセージも『Winner!』と私を讃えている。

 

「いやいやいや! 全然強いじゃないの!?」

「本当にそう思うっすか?」

「うーん……?」

 

 私は起き上がり、リズベットに手を貸す。

 彼女は土埃を払う仕草をしてから腕を組んで考える素振りをした。

 

「確かに? ――というかなんなのよそのスピード」

「これが私にもさっぱり」

 

 さっきのは突進系ソードスキルよりも素早い急加速だった。

 あまりの速さに身体のコントロールが利かず、あんな残念な終わり方になってしまったわけだ。

 なお私の選択した種族のノームはスピードが遅いタイプだ。また、このゲームにはAGIのステータスは存在しない。

 

「調べてみたら、反応速度でキャラクターのスピードが決定されるらしいんすよね」

 

 VRゲームをしていれば慣れで徐々に上昇するらしいので、これはSAOの経験が原因かもしれない。プレイヤースキル重視のゲームは別にいいのだが、こうも本人の能力が影響の出るゲームバランスはいかがなものだろうか……。

 しかもこのゲーム、速度がダメージに直結するらしい。このバランスを改善しようと思わなかった運営の頭はどうかしている。

 自分で使う分にはいいが、こんな理不尽な差でPKをされれば引退も考えるだろう。

 ――いや。そういえばこのゲームはまだ、サービス開始から1年くらいだったか。ならしかたがないのかもしれない。今度大型アップデートもされると噂だし、その辺りで改善してくるかもしれない。今のうちに暴れておこう。

 

「おーい!」

「お姉ちゃん!」

 

 上空から聞き覚えのある声。

 見上げるとそこにはキリトとユイの姿があった。

 キリトはやや髪が短くなっていて、ユイは変わらない姿だ。

 

「デュエルでもしてたのか?」

「お! そうだ、キリトもちょっとエリとやんなさいよ」

「いや、キリっちには流石に……」

「いいからいいから!」

「お姉ちゃん、頑張ってください!」

 

 私とキリトはしぶしぶデュエルをすることになった。

 彼の装備はよく見ると、意匠の凝らされた上質感のあるものばかり。

 コンバートされたコル――こちらではユルドだ――で良い物を買い漁ったのだろうか。私は品定め中なのでまだそういうことはやっていない。

 カウントがゼロになると同時にキリトに跳びかかる。

 

 結果は――わかっていたことだが返り討ちだった。

 キッチリ盾でガードしたキリトの反撃は、私に劣らない十分頭のおかしな速度であった。

 なお、キリトとはなにも賭けていないので私の損はない。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 私たちは2時間くらい、フィールドへ出てエネミーを狩り続けた。

 タンク役はユイが務めて時折キリトとスイッチを行い、私とリズベットがアタッカーを担当した。

 主な目的は私の慣熟戦闘。二刀流の方が効率がいいからとアタッカーを担当していたときとは、わけが違い恥ずかしい。

 ちなみにSAOからコンバートされたデータを使っているためスキルの熟練度はほとんど高数値であるが、二刀流は該当スキルがなかったために消失している。

 

「だいぶ様になってきたな」

「全力じゃなければ動けはするんけどね」

「かなり動けてない?」

「はい。私の目から見ても十分に思えますが……」

 

 私は試しに全力で剣を振ってみせる。

 その場での素振りではなく、足まで使ったちゃんとした素振りだ。

 風を切る音。アバターの位置情報は一瞬で変更され、停止する。

 

「「うーん」」

 

 キリトと私の声が重なった。

 

「全然見えないんだけど」

「ログを解析したところ、振り上げるモーションから振り終わるまでの時間は0.23秒でした」

 

 現状でもかなり速い。

 これがSAOなら相手にしたくはないほどのスピードだ。にもかかわらず練習すればもう少し上がる気配がある。

 だが不満のある太刀筋だった。それはキリトの目から見てもわかるレベル。

 キリトも同じように素振りをしてみせた。

 

「0.21秒です」

「どっちも見えないわよ!」

 

 キリトの方はこの速すぎるアバターを上手く使いこなせているようだ。

 

「もう少しやっていくか?」

「そうっすねー。慣れればマシになると思うんすけど……」

「えー。あんたたちなにが不満なのよ」

「重心移動っすかね。身体が噛み合ってないんすよ」

「身長のせいじゃないか?」

「ああ。それもあるっすね」

「私にもわかるように説明しなさいよ!」

 

 リズベットが置いてきぼりにされているため、通りがかったロックワームで説明してみせる。

 

「ユイ。ちょっとタゲ取っててくださいっすね」

「はい。任せてください!」

 

 私の一閃ではHPが2割削れた。

 

「キリっち」

「おう」

 

 キリトは私から剣を受け取って一閃。これだと……だいたい同じくらいだが、キリトの方が若干多くダメージを与えている。私のが2割1分、キリトのが2割4分くらいだろうか。

 

「こういうことっす」

「う、うーん?」

 

 ひとまずサンドワームを解体して話に戻る。

 

「体重がちゃんと乗ってないんすよ」

「そんなに気にすること? いつだってきちんと振れるわけじゃないでしょ」

「そうっすけど、振れるのと振れないのだと話が別っすよ」

 

 完全な体勢での攻撃というのを私はあまりしない。防御重視のため、身体をその場に残して剣を振るというのが基本の型だ。

 けれどできないとなれば違う問題が出てくる。

 それは身体制御が不十分な証拠だからだ。例えば今のままではキリトの攻撃に身体が追い付かない。出力では上でも重心の乱れで初速が足りなくなるのだ。

 

「ん? ちょっと待ってくださいっす。リズも素振りくらいはするっすよね?」

「そりゃあ私だってそのくらいはするけど」

「じゃあなんのために素振りしてるんすか?」

「え……。そ、それはもちろん……、武器を振る感覚を身体に覚えさせる……ため?」

「そうっすね。ところで身体の調整は?」

「えーっと……」

「なんでしないんすかー!」

「あわわわわわ!?」

 

 私は勢いに任せてリズベットの肩を掴むと、前後に思いっきり揺さぶった。

 

「私、レベルが上がったらちゃんとステータスに身体を馴染ませるように言ったじゃないっすか! もしかしてなにも考えずに振ってたっすね!? なんでそんなことしてるんすか、もー!」

「タイムタイム!」

 

 レベルが上がればステータスも上昇する。同じ感覚で武器を振っていると若干だがタイミングがずれるのだ。もちろん1や2の差であれば問題にならないが、それがつい重なっていくと支障が出てくる。

 いわゆる剣に振り回されるというものであればまだ良い方。悪い場合は、設定されたステータスをきちんと出力できないということに繋がる。

 

「なんでそんな……。あー。素振り! 素振りをしましょうっす!」

「もうデスゲームじゃないんだからそこまで気にしなくてもいいだろ」

「でもぉ。気にならないっすか? 気になるっすよね!」

「まあ、うん……」

「ほらあ。キリっちもこう言ってるっすから。手取り足取りキリっちから教わってくださいっす」

「え、ええ!?」

 

 アスナは強いので、このくらいの手助けは見逃してもらいたい。

 それにこうして慌てているリズベットを見るのは結構楽しいのだ。

 

「俺が教えるのか? 別にエリでも……」

「私は自分のことで手一杯っすからねー。ほら一番弟子なんすから頑張ってくださいっす」

「お姉ちゃん。一番弟子は私です! これはキリトさんでも譲れません」

「そうだったっすね」

「そんな……。ユイ……」

 

 ユイを抱きしめて存分に頭を撫でてあげると、彼女は嬉しそうに目を細めた。

 

「そ、そうだ。学校! エリはどうするの?」

「どうって……?」

 

 この前は乗ってくれたのに、今日は話題を逸らすリズベット。

 

「あー……」

 

 ついでに視線も逸らした。

 私はキリトの方を向くも、彼もバツが悪そうに頬を掻く。

 しかたがないので私はユイに聞くことにした。

 彼女は最近、インターネットにアクセスして情報を収集するのが趣味になっている。外見に騙されそうになるが、知識や知能ではおそらくここにいる3人を足しても足元にさえ及ばないだろう。

 

「中高生のSAOサバイバーを集めた臨時学校が作られるそうです。場所は西東京市。入試の必要がなく、卒業後は大学の受験資格が進呈されることになっています。春からはお2人もそこに入学されるんですよね?」

「うん。まあ、な……」

「はぁ……。エリと通いたかったなー」

 

 リズベットが私にもたれかかってきた。

 それを受け止めて、私も溜息。

 

「そうっすね……。私はVRの学校に通う予定っす。――そうだ。この前お医者さんに紹介されて、クラスメイトになる子と会ったんすけど結構いい子だったんすよ。彼女もALOを始めたんで今度紹介するっす。他にもその子がギルドを――」

 

 突如、世界が暗転する。

 視覚や聴覚が失われ、身体の感覚はなくなった。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 瞼をゆっくり開く。

 身体の感覚は戻らないまま。息苦しさを感じる。

 酸素を求めて口を開閉するもままならない。

 自然と供給されるそれを受容し、私は周囲を見渡した。

 

「………………」

 

 視線が、合う。

 私を見下ろす人影。

 紺のジャケットに白のブラウスを着たキャリアウーマン然とした姿の女性――私の母親がそこに立っていた。

 銀縁の眼鏡の奥で、鋭く細められた瞳が私を見ている。

 

「恵利花。入学の手続きに必要な書類を書きなさい。メールで送ってあります」

 

 母親はアミュスフィアの電源を入れると椅子に腰かけて私から視線を外し、持ち込んだバッグの中から大型タブレットを取り出していた。

 

「は、い……」

「返事は結構です。すぐに」

「リ、ン、ク、スタ、ト」

 

 私はアミュスフィアのVR空間に再度ログインすると、添付ファイルのあるメールが送られていた。中身は今度入学する予定のVR学校についての書類だ。

 

「お姉ちゃん。大丈夫ですか?」

 

 ロビールームへのフリーパスを持っているユイが、ALOからログアウトして現れた。

 

「だ、大丈夫です。その……、急用ができたので……」

 

 ユイが不安そうに瞬きを繰り返していた。

 そこで自分の口調がおかしなことになっていることに気がつき、小さく息を吸ってペルソナを切り替える。

 

「――キリっちとリズに伝えてきてもらってもいいっすか?」

「それは構いませんけど……」

「明日、また一緒に遊びましょうっす」

 

 ユイの頭にポンポンと手を置いて誤魔化そうとする。

 

「わたしも、ここにいていいですか?」

「……キリっちたちと遊んできていいっすよ」

「……はい」

 

 悲しそうな顔をする彼女がロビーから退出したのを見送ってから、私は書類に視線を戻した。

 このくらいの量を確認するのはSAO時代に比べれば訳もなく、あっという間に必要事項を埋めて送り返すと、私は再び現実世界へと帰った。

 ログアウトした私を待っていたのは膝の上に置いたタブレットの画面をスライドさせて画面を確認している母親だ。

 

「確認しました。あと20分経過したら私は帰ります」

 

 淡々とした声色だった。

 母親は忙しそうにパネルを操作して、タブレットの光を目に入れている。

 

「………………」

「………………」

 

 しばらく無言が続いた。

 なにかを喋りたかったけれど、私から話しかけるには身体が思い通りにならなさ過ぎた。

 

「あなたを見ていると……」

 

 母親が、パネルから顔を上げて言葉を紡ぐ。

 

「死人が蘇った気分にさせられます」

 

 それは果たして、どのような意味なのか。

 私は無言のまま母親の言葉を待った。

 母親が今なにを考えているのか、私にはわからなかった。

 外で見るときの表情はわかり易く色が塗られているが、家庭内にいるときの表情はだいたいが無色透明だ。彼女がその表情を崩すのは、私が失態を犯したときだけだった。

 

「2年前に。あるいは3年前に、私の中であなたのことは終わった物事だと考えていました」

 

 突き放すような物言い。なるほど。なにを言いたいのか理解できた。

 声を大にして言わないのはここが病院だから。彼女は外聞をとても気にする人だった。だからこそ、こうしてここにいるのだろう。

 

「どうして生きてるんですか」

 

 私の想像していた通りの言葉が、聞こえた。

 

「あなたは私に迷惑ばかりかけて……。あなたが死ぬと考えて練っていたプランも、破棄しなければならなくなりました。いいかげんにしてくださいよ……。これ以上は止めてくださいね。もう余計なことはしないように。いいですね?」

「は、……」

「返事は結構です。ああ、ですが早まった行動はしないように。今更死なれても困るだけですから。――その心配は必要ないみたいですがね」

 

 母親は腕時計を確認するとタブレットをショルダーバックの中に仕舞って立ち上がり、私を見てから溜息をひとつ。

 彼女は手を伸ばして、私の頭――ではなくアミュスフィアにそっと触れた。

 

「もっと早く、こうしていればよかった」

 

 スタンバイモードになっているアミュスフィアの電源ボタンを、母親はまるで首を絞めるかのように長押しにした。

 怖くなった私は、瞳を閉じてじっと耐え忍ぶ。

 逃げることも、声を上げることも、私にはできない。

 聞こえていた冷却ファンの微かな音が停止して、強制シャットダウンが行われた。

 瞼の向こう側に感じる圧迫感はやがて薄れ、恐る恐る目を開ける。

 母親はすでにベッドから離れていて、ドアの手摺りを掴んでいるところだった。

 ガラガラと横にスライドする乳白色のドアの向こうには、スーツを着たボディーガードの男性が待っている。他には通りがかった看護婦が数人。

 母親はそれらを視界に入れると私に振り向いて、優しそうな笑みを浮かべた。

 

「近いうちにまた来ますね。今度来るときはあなたの好きだった本を持ってきましょうか。それでは、お身体に気をつけてください」

 

 上辺だけの言葉を最後に、扉は閉められた。

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