レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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49話 微睡む剣士たちの前奏曲(6)

「結局、誰が一番強いのかしらねー」

 

 リズベットの何気ない一言が切っ掛けで、戦いの火蓋が切って落とされた。

 私たちは今日、新生アルヴヘイム・オンラインでスリーピング・ナイツとSAOサバイバーの交流をしていたはずなのだが……。

 

 ALOは4月の大型アップデートを迎え、アルヴヘイムの上空には私たちが過ごした『アインクラッド』が出現してプレイヤーを賑わせていた。

 そんな中ようやく全員の日程も合わさり、スリーピング・ナイツのメンバーとSAOサバイバー――ユイやキリト、アスナにリズベット、それから風林火山の面々が一堂に揃ったわけである。

 私たちは現在アインクラッドの最前線、第2層のフィールドクエストを終えて、村にクエスト終了の報告をするべく戻ってきたところだった。

 

 スリーピング・ナイツはSAOの中に閉じ込められていた間に生まれたフルダイブゲームの話を語り、SAOサバイバーはこの伝説の城での冒険譚を語っていた。

 両者の関係は実に良好であったのだが、そこにリズベットの発言である。

 ゲーマーという人種は悲しいほど力に貪欲だ。

 そう問われては互いに引き下がることなどできなかった。

 

 しかし総当たり戦をしていては日が暮れてしまうため、代表戦で雌雄を決しようという話に纏まる。SAOサバイバー組はキリトとクラインが名乗り出て、現在デュエルの最中だ。

 そして私たちスリーピング・ナイツは――。

 

「当然ギルドマスターのボクだよね!」

「いやいや。ユウキに勝ち越してる私じゃないっすか?」

「それだとSAO組対決になっちゃうじゃん!」

「最強を決める趣旨なんすからいいじゃないっすか」

「昨日最後に勝ったのはボクだもん!」

「ほほー。じゃあいいっすよ。こっちもデュエルで決着を着けようじゃないっすか」

 

 という流れでデュエルをすることになってしまった。

 デスペナルティーが惜しいので『半減決着モード』。一度互いに煽り合って、完全決着モードでデュエルをし続けた結果、スキル熟練度が酷い有様になったので、これだけは守らねばならないルールとなっている。

 

「えー。僕も参加したい!」

「ジュンはまた後で相手してやるっすよ」

「またそうやって上から目線で言う」

「勝負は結果がすべてっすからねー」

 

 スリーピング・ナイツでは身内でデュエルを結構な数する。

 仲が悪いのではなく、その逆。仲がいいせいでそんなことになっていた。

 戦績は私がトップで次がユウキ。3番がジュンである。

 

「ソードスキルに慣れてるからって油断しないことだね」

「OSSが優秀だからって、そっちこそ油断しないでくださいっすよ」

 

 互いに不敵な笑みを浮かべて剣を抜く。

 アルヴヘイム・オンラインは大型アップデートによって、SAOの代表的システムであるソードスキルがそのままの形で導入された。これにより今まで魔法による遠距離戦が主体の環境から、近接戦闘の選択肢が増え、バランスがだいぶ改善されたと好評を博している。

 もちろんだが、バランスブレイカーのユニークスキルはすべて削除されているため、二刀流は存在しない。

 

 さらにOSS――オリジナル・ソードスキルという新要素も見逃せない。

 これは独自のソードスキルを作成できるという画期的なアイディアだが、登録するモーションをシステムアシストなしで、システムアシスト並みの動きをしなければならないという食わせ物だったりする。

 SAOでは閃光の通り名で呼ばれていたアスナでさえ5連撃がやっとのレベル。ALO元最強プレイヤーユージーンが8連撃を完成させたとの情報も聞くが、私とユウキの連撃数対決はすでに2桁に達していた。現在は私が1回上回り16連撃。ユウキは回数よりも精度を重視し始めたので最近は進展がない。

 OSSは1代限りのコピーが可能で、それをアイテム化した秘伝書は5連撃以上の物のもなれば相当な高値で取引されるらしい。この16連撃はいつか市場に流す予定だ。

 

「おっ。そっちも始めるところか」

 

 クラインがデュエルを終えて観戦にやってくる。

 表情から察するにキリトが勝った様子だが、彼は盾を使い、その上で満身創痍だった。

 

「ルールはどうするっすか?」

「時間制限は5分。地上戦オンリー。魔法とアイテムはなしでいいんじゃないかな」

「じゃあそれで」

 

 空中戦と魔法の組み合わせがありになると、私たちは飛び回りながらチクチク魔法で撃ち合うだけになってしまう。それはそれで戦略があるのだが、実力が発揮できないままタイムアップで終わってしまうので面白みがないのだ。

 

『Yuuki is challenging you』

 

 ユウキからデュエルの申請が送られ、私は距離を取って準備を整える。

 SAOとは違いカウントは10秒。すぐに始まってしまうためすぐにOKは押さない。

 

 ユウキの種族はインプ。軽量級種族で暗視が利くが今は関係ない。

 装備は軽量級のリーチの長い片手直剣が1本。刺突属性の比率が高く、弱点部位へのダメージ補正が高い。

 

 私の種族はノーム。重量級種族で、HPが高い。

 装備は魔法防御の高い重鎧と大盾。武器は重量級の片手直剣と載積過多だが、それでもキリトより速い。これが私の有り余る速度への回答だ。

 

 彼我の距離は7メートル。

 周囲は草原で足場は比較的安定している。

 オブジェクトは所々に設置された岩と木があり、利用可能。

 注意すべきはユウキの11連撃OSS『マザーズ・ロザリオ』。

 刺突オンリーというだけでも防御属性の確保が難しく厄介なのだが、問題となるのはその圧倒的スピード。7連撃のソードスキルにかかる時間と同じ程度しかかからず、速度がダメージに比例するこのゲームではその威力たるや、両手剣でも使っているのかというほどになる。

 私の先日完成させた16連撃OSS『スターバースト・ストリーム』でさえ押し負けたため、力技での突破は不可能と判断した方がいい。

 

「お姉ちゃん。頑張ってください!」

「ユイの応援があるうちは負けないっすよー」

 

 キリトの応援に行っていたユイが戻ってきて声援を受ける。

 私はようやくOKをタッチすると、視界の上でカウントダウンが始まった

 私の構えは大盾を突き出す防御重視。

 ユウキはいつもの如く中段にゆったりと構えた基本形だ。

 

『6、5、4……』

 

 ユウキが間合いに跳び込んだ。

 私の大盾に隠れ、動きを読ませないようにしている。

 

『3、2……』

 

 大盾を使いシールドバッシュ。

 圏内であり、カウントが尽きる前のためダメージはないがノックバックは発生する。

 左手には確かな手応え。

 

『1、……』

 

 私は追撃を――せずに一歩後退。

 カウントが0と同時にユウキの影が横に現れ大盾を斬りつける。

 この瞬時に体勢を立て直したところを見るに、シールドバッシュは誘われていたのだろう。

 エフェクトの輝きが視界を奪う中、私はさらに後退。ユウキが追いかける素振りをとったところでシールドバッシュのカウンターを当ててやった。

 さらに大盾を水平にして鈍器のように扱い彼女を叩く。動きは単調になるが視界の確保が優先。

 ユウキはそれをバックステップで避けると、私を中心に円を描くように走り出す。

 SAOのPvPでは相手にしたことのない速度域。土煙を上げる彼女が、私の背後に回り込むのには1秒もかからないだろう。

 私が彼女の方へ身体を向けるべく足を動かした瞬間、ユウキは躊躇なく間合いの中へ踏み込んだ。

 フェイントなどない純粋な速力勝負。

 盾を構えるも、私の右側にステップで動いてシールドバッシュの当たらない位置取りをする。

 

 ――そこは剣の間合いだ。

 私の重剣が空を裂き、ユウキの突きを弾く。互いの威力が途方もないせいで、噴水のように衝撃エフェクトが接触点から噴き出す。

 攻撃は外させた。だが彼女はお構いなしに距離を詰めてくる。

 私は返す刃でユウキの足を斬り払うとついにヒット。

 体重を乗せていない腕だけの振りであるにもかかわらず、武器攻撃力と圧倒的速度の生み出す斬撃は彼女のHPを2割減少させた。

 しかし違和感を覚える。

 ユウキのフリーとなってる左手が伸び――私の右手首を掴んだ。

 

「捕まえたっ!」

 

 してやったりと笑みを浮かべるユウキ。

 弾いたはずの彼女の剣は、大きく後ろへ引かれている。不味い。あれはマザーズ・ロザリオの準備モーションだ。

 さらにユウキは盾の内側に身体を滑り込ませていた。このままではガードするまでの間に、5回の直撃を覚悟しなければならない。

 命中カ所をずらせばイエローゾーンに突入しない可能性もあるが、期待するべきではない。

 フルヒットで、防御重視のタンク装備を鎧の上から全損させるだけの威力があれにはある。それはかの二刀流に迫る超威力だ。

 私は迅速な判断の元、盾を手放し身体の位置取りでソードスキルの準備モーションを無理やり形作る。

 

 マザーズ・ロザリオの初撃が閃き私の鎧を貫く中、発動させたOSSがユウキの拘束を振り払い、さらには刃を胴体に滑らせて、身体は背後へと跳んだ。

 コンマ数秒。2撃目が命中する前に殺傷圏から外れて、ユウキの姿が遠のく。

 突進系とは逆の発想。離脱系単発OSS『リープ・リワインド』。

 単発系OSSは価値無しとされる現状への意趣返しを込めて作ったとっておきは、ユウキに見せるのもこれが初めて。

 防具を外した状態で登録した最速のステップで10メートルの距離を一気に駆け抜けると、ユウキはすでにマザーズ・ロザリオを中断して硬直時間に入っていた。

 

 私のHPはあの一撃で2割減少。防御重視のフルプレートが軽装扱いされる威力だ。

 ユウキのHPは合わせて4割減少。私の攻撃がすべて体重の乗らない軽い攻撃であったにも関わらずこのダメージなのは、装備ジャンルの差があるとはいえ自分でも戦慄する。

 

「うそぉ……。決まったと思ったのに!」

「ソードスキルは攻撃のためだけに使うものじゃないんすよ」

 

 ここはソードスキルに慣れ親しんだ私と彼女の発想の違いだろう。

 とはいえかなり危ない場面だったが……。

 

「もう相討ち覚悟で当てれば私の勝ちっすよ。どうするっすか?」

「単発重攻をクリーンヒットさせれば3割削れるもん!」

「おお……。恐いっすねえ」

 

 強がって見せるが、彼女の言っていることは真実だ。

 SAOに比べALOは高速、高威力のゲームバランスだと感じている。

 半減決着モードともなればいつ逆転されてもおかしくない。

 私は盾がなくなって寂しくなった左手を握る。

 ソードスキルは解禁されたがスキルModは未だ解放されておらず、以前のようにクイックチェンジで即座に交換とはいかない。

 さらには魔法スキルなどの習得のため、私は格闘スキルは失っている。

 壁走りが軽量級種族の共通スキルになったために必須性がなくなったのだ。足技を失うのは痛手だったが、魔法スキルはそれ以上の価値があったためしょうがない。

 対してユウキは格闘スキルも併せ持つバリバリの近接アタッカー。

 剣を当ててから、出の速い格闘系ソードスキルに繋げる選択肢もあるだろう。

 

 勝負の行方はまだまだわからない。

 そして私の戦闘スタイルはそういうギリギリを好まない傾向がある。

 勝利は確実に。明確なビジョンのないまま攻めるのは嫌いだ。

 ……よし。ここはあの作戦でいこう。

 私は即座に反転。ユウキから逃走を開始する。

 

「ああ! しまった!?」

「ふはははは。悔しかったら追いついて見せることっすね」

 

 大盾を失った分重量が軽くなった私は、重鎧を着こんでいるとは思えないほどの速度で走る。その速度たるや敏捷度にボーナスのつくケットシーの軽装キャラクターと見紛うほどだ。

 ユウキは軽量級種族で、しかも軽装であるにも関わらず、追いつけない。

 時間制限を設けた状態で、空間制限をしなければこんなことになる。

 

「こうなったら……!」

 

 ユウキは突進系ソードスキル『レイジスパイク』で襲いかかるも、私は振り返りタイミングを合わせて4連撃の『ホリゾンタル・スクエア』で迎撃。

 武器の重量差によりユウキの剣が弾かれ、続く3回の斬撃のうち最初の1回で勝負は決した。

 

『Winner!』

 

 私の視界にその文字が表示される。

 

「あー。やっちゃった……。悔しい!」

「おめでとうございます、お姉ちゃん!」

「ユイの応援のおかげっすよ」

 

 私はユイを抱きしめて、頭を撫でた。

 これで37勝18敗。最近は勝率も上がってきていて、このままいけば7割に上りそうだ。

 

「相変わらず速すぎてよくわかんなかったんだけど……」

「………………」

「え! もしかして見えてないの私だけ!?」

 

 リズベットが驚愕の声を上げる。

 

「そんなことはありませんよ。私も全然見えてませんから……。そちらの皆さんはとてもお強いんですね」

 

 シウネーがにこやかな表情で話しかけた。

 彼女は近接戦は苦手であるが、遠距離の魔法合戦だと結構強い。もっとも、テンションが上がり過ぎてハイにならなければ、という条件付きだが。

 

「そうですかねえ。いやあ、まいっちゃうなー」

「こーら! クライン、あんた調子乗んないの!」

「いいじゃんかよ、ちょっとくらい!」

 

 わっと笑いが湧き上がる。クラインが「お前ら笑ってんじゃねえ!」と風林火山のメンバーに言い放つ様子は、随分と場を和ませた。

 

「そっちの代表はエリで決まりか?」

 

 キリトが素振りをして身体の調子を確かめながら問いかけてくる。

 

「それはもちろん。師匠としてキリっちには格の違いっていうものを見せてやるっすよ。シウネー。回復お願いっす」

「任せてください」

 

 ユウキによって減少させられたHPが、魔法で回復する。

 私は落とした盾を拾いながら、試合展開をイメージ。

 キリトともスピードやパワーで差があり、基礎スペック上では私が有利。そこを彼がどうやって崩すかという戦いになるだろう。

 

「ルールは魔法無しとして、飛行やアイテムはどうするっすか?」

「なしでいいだろ」

「わかったっす」

 

 先程と同じルール。確かキリトもユウキと同じで近接タイプだったはず。

 彼の左手には黒鉄のカイトシールド。今日はどうやらやる気らしい。

 

「ちょっと作戦タイムっす!」

「ふむ。存分に練ってくるといい」

 

 余裕の態度を見せるキリトは、精神的にも安定しているように感じる。

 私は装備を吟味する振りをして、こっそりフレンドリストからユイへメッセージを送った。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 私とキリトのデュエルは一方的な試合展開のまま終わった。

 もちろん私の勝利である。

 彼はどうにか持ち直そうと盾でガードを続けていたが、反撃の糸口が見つからずにそのままHPが半分削られてアウト。

 私のHPは盾の上からしか攻撃を受けなかったため、1割も減っていない。

 

「おいおい、どうしたんだよキリト。俺に勝ったときのキレがかなったじゃねえか」

 

 クラインの手で豪快に背を叩かれていたキリトは剣を鞘に仕舞い、右手で表情を隠していた。

 

「やりましたね、お姉ちゃん!」

「これでもユイの応援のおかげっすねえ」

「本当にその通りじゃない!」

 

 アスナの抗議もどこ吹く風。私は涼し気に彼女の言葉を聞き流す。

 ユイに頼んだことはシンプルだ。

 『試合中、ずっと大声で私だけを応援してほしい』。

 指示した通りユイは試合が始まってからも「お姉ちゃん頑張って!」「キリトさんに負けないでください!」と声を張り上げてくれていた。

 私の読み通りユイに甘いキリトには効果抜群。番外戦術でキリトの集中力は大いに削れた。

 

「いや。エリの動きも凄かったよ。最後のは俺でもほとんど見えなかった」

「ほらほら。キリっちもこう言ってるじゃないっすか。やっぱり私が最強ってことっすよ!」

「むう。納得いかない……」

「あんたねえ……。たまには正々堂々戦ってもいいんじゃない?」

「リズまでっすかー。だってリズもキリっちばっかり応援してて狡いんすもん!」

「ちゃんとあんたのことも応援してたわよ」

「えへへ。じゃあリズのおかげでもあるっすね」

「調子いいんだから、もう」

 

 それから結局、私たちはデュエル大会を始めてしまい、2層の攻略はまた次回ということになる。

 キリトとユウキの試合は、ユイの応援を受けたキリトが辛勝。

 アスナは私にユイの応援を抜きで挑み、キリトとリズベットに応援されたアスナが勝利。……納得いかない。

 そんなアスナはユウキに敗れ、試合結果は混沌とした。

 結局誰が一番強いかは有耶無耶になりかけたのだが、ふと気がついたことがあり、その名誉を受け取るプレイヤーは満場一致で決まった。

 この日ユイの応援を受けている側は負けなしである。

 そういうわけでユイが最強ということになり、時刻も更けて解散の流れとなった。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「エリ。ちょっといいか?」

「どうしたんすか?」

 

 ログアウトするために宿の部屋に入ると、クラインがノックをしてきた。

 宿を取ったのは、アルヴヘイム・オンラインでは自領内でなければログアウト後に数分間アバターがその場に残る仕様のため、安全なエリアでログアウトすることが推奨されているからだ。

 私は一度ロックをかけた扉を開錠して開けると、彼は珍しく本気で弱ったような表情をしている。

 

「話があんだけど、今いいか?」

「まあ少しくらいなら……」

「悪いな」

 

 私はクラインを部屋にあがらせる。

 ユイはすでにログアウト済みなのでここには誰もいなかった。

 クラインは部屋の装飾品である椅子に腰かけると一度溜息を吐く。

 

「オーディナルスケールって知ってるか?」

「名前だけなら。でも私はほら……。身体が上手く動かないんで、できないんすよ」

 

 クラインにもその話は一度したと思う。

 

「あー……。そういう話じゃなくてだな……」

「んん? ハッキリしないっすねえ」

「まあ、そうだよな……。お前、ログアウトしたらちょっと自分で調べてみてくれ。そんで自分で判断してくれ」

「はあ? まあいいっすけど」

「んじゃあ俺もそろそろ落ちるからよ。今度は向こうで会おうぜ」

「はいはい。お疲れっす」

 

 クラインが部屋から出た後、改めて扉に鍵をかけログアウトを押す。

 視界が徐々に暗転して数秒経つと、自室の天井が見えてくる。

 私はベッドに横になった体勢のまま、仮想世界の要領でARウィンドを操作。インターネットからオーディナルスケールについて検索をかけた。

 

 リリースからまだ1カ月足らずだったか。

 新生ALOや新規にリリースされるVRMMOと客の奪い合いが予想される。私にはあまり関係のない話だが、それでも自分のプレイしているゲームの人口は減ってほしくないものだ。

 

「結構盛況見たいっす……ね?」

 

 画像広告に映るイメージキャラクターの姿に違和感を覚える。

 銀色のロングヘアーに赤いリボンと瞳。前髪と横髪が三つ編みにされ、黒地のアイドル衣装を着た、凛とした表情の綺麗な女性だ。

 

 名前は――『ユナ』。

 

 動画サイトにアップされた映像のタイトルには歌姫の文字。

 私は意識が遠のきながらも、動画ページにアクセスした。

 映像の中では、彼女が聞き覚えのある声で歌を奏でている。

 アップテンポのとても楽し気な歌であるのに、寒気がしてきた。

 

「なん……で……?」

 

 この歌声を私は生涯忘れるはずがない。

 髪色の差異ですぐには気がつけなかったが、容姿もそのままである。

 ――SAOで、私が殺したはずのユナがそこにいた。

 

「ああ…………」

 

 声をなんとか押し殺し、懐かしさと恐怖と後悔が混ぜ合わさった感情から目を背けるために、私は毛布を頭から被った。

 

 

 

 毛布で視界を閉ざす前の一瞬。

 

 

 

 部屋の隅に、白いフードを被ったユナの幻覚が見えた気がした……。


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