レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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5話 躓きすぎたプロローグ(5)

 デスゲームが始まってすでに3週間が経った。

 フレンドメッセージでやり取りするアルゴからもたらされる総死者数は増える一方であり、その数は大雑把に1800人に上る。

 このままでは第1層をクリアするまでにどれだけの屍が積み上がるのだろうとか、100層など本当にクリアできるのだろうかとか、不安の種には事欠かない。

 ちなみにどれだけ信憑性のある情報なのかと聞いたところ、はじまりの街から出ること諦めたプレイヤーに生命の碑に書かれている死者の数を数える仕事を頼んで情報量を払っているのだとか。精神を病みそうな仕事である……。

 

 私とキリトのパーティーは人数が少ないながらも高い効率で狩りを実行できている。

 それはβテスターとしての経験や知識というものが活かされているとはいえ、本質的な部分ではないだろう。

 私たちは共通する能力に長けていた。長時間の単純作業を続けられるという能力だ。

 

 長時間遊び続けられるゲームとは工夫のされたゲームだ。オンラインゲームでいえば日替わり(デイリー)や、週替わり(ウィークリー)なんかがそうだ。

 ソードアートオンラインにはそういったクエストがないとは言わないが、情報も物品も出回っていない現状では単純労働の稼ぎ時であった。

 具体的にはドロップアイテムの売買である。

 

 大量のコルを所持し、経済を回しているプレイヤーははじまりの街を飛び出したプレイヤーだけだ。彼らが求めるのは強い武器や強い防具だ。

 リアルラックに任せてレアドロップを求めるのは初心者のやること。難易度の高いクエストから定期的に入手できるアイテムやドロップ数が少なくない消費アイテムを集めるのが二流である。私たちは少なくとも二流ではある。

 ちなみに一流は知られていないアイテムを独占流通させるプレイヤーだ。今のところそれが出来ているのをアルゴくらいしか知らない。

 

「ハッ! ――なあ、そろそろ迷宮区の攻略もしないか?」

「それはここより効率がイイっすか?」

「うーん、一度しか入手できないアイテムとかが手に入ればあるいは……」

「1日に1万コル以上のアイテムが入手できるなら考えるっすよ」

「それは……、無理だよなあ……」

 

 私たちは階層ボスを最奥に頂く迷宮区ではなく、外延部付近の高いレベルのエネミーが徘徊する草原地帯で白いイノシシを狩り続けていた。

 その名も『ホワイト・ボア』。見たまんまである。はじまりの街付近に出現するフレンジ―ボアに比べてレベルが4高いこいつはステータスだけなら1層ではかなり高い部類に入る。しかし所詮は1層のエネミーであり、開けた視界は不意打ちの危険を減らし、単純な行動パターンはミスによる戦線の崩壊を防ぐ。敵対的(アクティブ)なエネミーであるためこちらを発見次第近くまでやってきてくれるし、移動速度は速い。おまけに大量の集団で行動することはないので2人パーティーでも発見次第ひたすら狩ることができる。ポップ数も狩場にするプレイヤーがまだ少ないため悪くはない。

 なぜこんな美味しい狩場にプレイヤーが殺到しないのかといえば、情報が出回ってないのもあるが、拠点となる街から遠く、大人数のパーティーであればもっと効率の良い狩場もあるからだろう。

 

 単純な思考ルーチンに合わせてこちらも単純な思考ルーチンを構築。

 相も変わらず突進してくるホワイトボアに擦れ違いざまソードスキルを叩き込んで、足を止めた所にキリトもソードスキルを使用。ポリゴンを爆散させる。

 パーティーを組んで1週間。私たちは工場のロボットみたいにこれを繰り返していた。

 

「流石に飽きてこないか?」

「とっくに飽きてるっすよ」

「じゃあさっ! やっぱり迷宮区に――」

「行ってなにするんすか? 率先して探索なんてしなくとも、誰かがやってるっすよ」

「そんな風に人任せにしてたら誰もしないかもしれないだろ?」

「平均レベルが上がればいつかは誰かがやるっすよ。それくらいにならないとレイドパーティーも集まらないんじゃないっすか?」

「そうかもしれないけどさぁ」

「ならレイドパーティーの音頭、取るっすか?」

「それは勘弁してください」

「そういうことっすよ」

 

 階層ボスは必ずしも大人数で挑むことが有効とは限らない。

 何故ならボスエリアに侵入したプレイヤーの数に応じてボスが強化される仕組みになっているからだ。そうでなければ数で殴るだけで終わってしまう。強化とは例えばボスのお供に出現するエネミーだったり、ボスのステータスだったり、稀に行動パターンの変化だったりだ。

 しかし安全を考えるなら他のプレイヤーが多いに越したことはない。それだけ自分のミスをフォローしてくれる存在がいるということなのだから死の危険は遠ざかる。

 つまり誰かがパーティーを募集しなければ挑むことさえないということだった。

 

「せめて場所変えないか? アニールブレード収集とかさ」

「あの森は4人以上でないと効率が悪いっすよ。それにネームドも出現するんで結構危険っす」

「そんな話、βであったか?」

「……気になるならアルゴから買えばいいんじゃないっすか?」

「疑ってはないけどさ」

 

 そんな会話をしながらホワイトボアの集団を次々に処理していく。

 キリトが飽きたという話題振りもすでに9回目。今日だけで9回だ。限界が近いのかもしれないが、10回言い出すまでは大丈夫だろうという算段を密かに立てている。まだ大丈夫。

 

「せめて別のドロップ品集めるとかはどうだ?」

「人数足りないっす。人増やすっすか?」

「あー……。そっちの方向はなしでお願いします」

「了解っす」

 

 キリトは当初の印象通り、人付き合いを面倒くさがるタイプだった。

 仲の良い相手には気兼ねなく接するが、そうでなければ一歩どころか二歩、三歩距離を置いてしまう。野良でパーティー組んだら最初と最後の挨拶しか会話しないタイプの人間だ。

 どうにか打ち解けて、盛り上がりこそなくともだらだら会話を楽しめる関係になったのは私の努力の賜物だ。間違いない。

 

「そもそも1層じゃ、これ以上強化の方法なんてないんすよね」

 

 やれることはだいたいやったとも言える。

 武器の強化は+6まで完了していた。

 経験値は時間の許す限り入手できるとはいえレベルはそうそう上がらない値になっている。スキル熟練度も同じだ。

 防具は揃える余地があるのだが、優秀なクリエイト品の完成にはもうしばらくかかる。具体的には鍛冶師の熟練度が上がるのを待っているのだ。もちろん鍛冶師は私ではない。

 

 普通のMMOではありえない現象だが、デスゲームとなったソードアートオンラインではフィールドに一切出ないプレイヤーというのがかなりの層いる。現状では想像だが半分くらいがそうだろう。

 しかし宿に泊まるにしても食事を摂るにしてもコルが必要だ。初期所持金などあっという間にそこが尽きる。

 そこで取れる選択肢は3つ。諦めるか、フィールドに出るか、生産スキルを取得するかだ。

 この中で一番難しいのが生産スキルである。

 なぜなら素材を得るにはやっぱりフィールドに出なければならないからである。初期で製作できるアイテムは店売りされており、赤字で作り、スキル熟練度を上げなければならないのも拍車をかける。つまり個人では、はじまりの街から出ずに生産職として生活していくのは無理なのだ。

 だから自分で上げるかパーティーの仲間を頼る以外、熟練度を必要とする生産職が作る装備を得るのは難しい。本当にそうだろうか?

 

 ここで役に立つのが余り気味になってきたコルだ。

 私たちはひたすらに強化素材を集め、売り払っているおかげで大金を所持する富豪プレイヤーの一角に入っていると思う。

 問題は使いどころが今のところないということ。

 次の層に行けば装備の更新に使えるが、今のところ大金を使う予定はない。

 使う場所がなければ徐々にコルは価値が下がっていく。なぜなら全体が所持するコルが増えて相対的価値を失うからだ。10レベルのパーティーで1人だけ15レベルならそいつは強いが、パーティーメンバーのレベルが上がるにつれてその強さは均一に近づく。

 

 そこで私はコルを別の形に変えることにした。投資という形だ。

 はじまりの街でくすぶっているプレイヤーに優しく声をかけ生産職になるよう促す。最初は素材を提供し、赤字を出しながらも熟練度を上げてもらう。だが熟練度が上昇するにつれて利益の出るアイテムが作成できるようになる。そうなったら赤字分と利息を回収する。

 利息はほんの少しでいい。大事なのは交友関係である。

 優秀な生産職は貴重だ。貴重な技術には金がかかる。だが恩を売っておけばそれは後々安く済むということ。

 フィールドに出ない分、彼らは時間がある。それをすべて生産スキルに費やせば熟練度の上位層は簡単に入れ替わった。

 

 素材は一々エネミーを狩って入手する必要はない。

 誰かがはした金で売り払ったものを回収すればいいのだから。それも自分の手でやる必要はない。転売屋にも投資をした。

 他のMMOではプレイヤーに与えられる専属NPCなんかにさせることをプレイヤー間で行っただけだが意外と上手くいった。

 

 MMOにおいて、プレイヤーの強さを表すステータスは数多くある。

 レベル、アイテム、スキル、カネ。

 だがシステムによらない強さが重視されるタイプのものが昨今の主流だ。それは技術だったり時間だったり、コミュニティーだったりする。

 私はコミュニティーを失った。失ったのだから補充する。キリトやアルゴ、はじまりの街で投資しているプレイヤーを。

 

 どうしてこんなに強さに執着するのだろう。

 そこまで上を目指さなくても、生きていくだけなら簡単だ。

 最強になれるとはまるで思っていなかったし、私の力でこのゲームをクリアに導くなんて崇高な目的意識も持ち合わせてはいない。

 

「キリっちはどうして強くなりたいんすか?」

「へ? あー……。ゲーマとしての習性じゃないか?」

「お前に付き合って延々と狩りを続けさせられてるだけなんだけど、って顔してたっすよ」

「あははは……」

「しかたないっすね。じゃ、明日は迷宮区行くっすか」

「待ってました!」

 

 子犬のようにはしゃぐキリトはかなり可愛い。この人の隣にいると考えるだけで嫌な汗が滴りそうだ。女性プレイヤーの人口が少なくて助かった。

 

「それで、ゲーマーの習性にこんなときまで従うっすか?」

「そう言われると返す言葉もございません」

「別に責めてるんじゃないっすよ。ただそれだけなんすかね……?」

「うーん……。俺はVRMMOの、それもデスゲーム系の小説をよく読んでたんだけどさ。そういうのって敵がエネミーだけってことはないんだ。ソードアートオンラインもPKありだろ? だから自分より圧倒的に強いやつに襲われるかもしれないって考えるとな……。強ければ罠にかかって死亡するリスクも減るし、安全が欲しいのかもな」

 

 最後の一言には実感が込められていた。

 

「エリはどうなんだよ?」

 

 どうなんだろう……。

 効率厨なところは自他共に認める私だが、根底にあるのは恐怖かもしれない。自分より上がいる恐怖。一番でない恐怖。否定される恐怖……。

 ゲームは私にとって現実逃避の場所で代替行為だ。現実では思い通りにならなかったことを、思い通りにしたかった。愛されたかった。

 

「――エリッ!」

「え?」

 

 キリトの叫び声で意識が現実に戻る。

 間近に迫るホワイトボアの突進を回避するには遅かった。身体が宙を舞う。クリーンヒットは私のHPを2割も減らした。

 空にある私はアニールブレードの柄を強く握りしめソードスキルの体勢を取る。

 足場のない状態でも難易度は高いがソードスキルを発動させることはできる。ソードスキルは物理演算を無視し決められたモーションを行うため空中で不自然に静止したり移動することができる。レトロゲームの裏テクみたいな仕様だ。

 

 空中で突進系ソードスキル『レイジスパイク』を放った私は地上へ急降下し、ホワイトボアの背を剣で斬りつけた。バックアタックが認められホワイトボアのHPが大きく減少するが大した意味はない。どうせソードスキル2回で死亡するのだから。

 連続攻撃系なら倒せたかもしれないと後悔しつつ、硬直時間のせいで受け身を失敗するも、駆けつけたキリトがホワイトボアをソードスキルで倒してくれた。

 

「大丈夫か?」

「ちょっと考えすぎてたっす……」

「今日はもう帰ろうぜ」

 

 時刻を見ると14時。

 

「まだ早いっす。明日は迷宮区行くんすから、稼げるだけ稼ぐっすよ」

「お、おう……」

 

 気を取り直して周囲を警戒する。

 草原の遠くではポップしたてのホワイトボアがターゲットを見つけられず徘徊していた。

 

「エリが強くなりたい理由ってなんなんだ?」

「乙女の秘密っす」

「乙女って……」

「そりゃ見た目に自信なんてないっすけど……。可愛くない女性が相手でもそういうのは口に出さない方がいいっすよ。キリっちは顔はいいけど時々デリカシーが足りないっす」

「なんか理不尽な気がする」

「そういうもんっす」

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 第一層フロアボス攻略会議が『トールバーナ』で開催される告知がされていた。開催主はディアベルという男性プレイヤー。

 アルゴは広告料を受け取り、優秀なお抱えのプレイヤーに情報を広めていた。

 移動に時間のかかるソードアートオンラインでは、フレンドメッセージを受けてすぐ集合というわけにはいかない。事前に済ませておくと効率の良い物事もあり、私はキリトと別れ一度はじまりの街へ赴いた。

 投資しているプレイヤーから追加の資金提供と新作防具を引き換え装備を一新すると、近々フロアボスが攻略されるかもしれないという情報をそれとなく伝えた。

 はじまりの街ではついに耐えきれなくなった、あるいは現状を受け入れたのかフィールドへ出掛けるプレイヤーが増えていた。

 それでも最前線、フロアボスへ挑戦できる実力者はあまりいない。そのレベル、装備になるには少なくとも1週間はかかるし、それができるプレイヤーはとっくに準備を進めている。

 

 キリトは「今のうちにコボルト相手に練習してくる」と言い、迷宮区へ一人で向かった。

 危なくないかと心配したが、元々ソロでやってたし平気だというのでしぶしぶ見送った次第である。

 

 私とキリトが現在拠点にしているのは攻略会議のあるトールバーナの町にある農家だ。

 ミルクと食事付きでお風呂まで完備されている素敵仕様。早朝このミルクを飲んで、夜遅くに帰っては温かいお湯を浴びて泥のように眠る日々を堪能している。

 キリトは一緒の部屋を取ることに反対していたが、2部屋あったので寝る場所を別にできるということで妥協してくれた。

 

 昨日は鍛冶師のプレイヤーと話し込んでしまい、そのままはじまりの街に停まった。

 早朝はじまりの街を出発したおかげで昼前にはトールバーナへ戻ることができた。ミルクを回収しに農家へ行くもキリトはすでに出た後のようで部屋にはいなかった。

 フレンドページではトールバーナにいると表示されているので先に露店でも眺めているのだろう。

 

 道中で昼食を買っていこうとNPCのベーカリー売り場へ歩いていたところで、目当ての人物を発見した。

 相も変らぬ真っ黒なシルエット。装備を一々染色して黒に統一するのはお洒落なのか、そうえないのか判断に悩むところである。

 

「やっほーっす、キリっ……ち?」

 

 キリトの隣には知らない女性プレイヤーが座っていた。

 女性プレイヤーはフードを被っていて最初は顔がわからなかった。

 それでも嫌な予感がした。

 別段キリトが女性プレイヤーを引っかけて遊んでいようと嫉妬する権利はないし、つもりもない。

 キリトがこっちに気が付いて、手を上げ挨拶を返す。

 隣にいた女性プレイヤーもそれに気が付いたようで視線を上げ、

 

 ――私は逃走した。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 あの後、どこで何をしていたのか記憶が曖昧だ。

 いつの間にかはじまりの街までとんぼ返りをしていた。

 キリトから心配のメッセージが来ていたが、忘れていた用事があったから代わりに会議に出ておいて欲しいと私は返事を送っていたようだ。

 ソードアートオンラインのアバターは汗をかかない。これが現実であれば私は手に冷や汗をかいていたはずだ。

 

 空はすっかり暗くなっていた。

 もうトールバーナへ戻るのは難しい。夜に出没するエネミーは強いものが多く索敵スキルのない私は不意打ちを受けやすい。それに不意打ちをするのはエネミーに限った事ではない。話を聞かないがソードアートオンラインはPKが可能だ。だからどうしたって朝を待たなければいけなかった。

 石垣に座って吐いた白い息がふわふわと漂っては消えていく。

 

「なにしてるんだろう……」

「こっちが聞きたいよ」

「うげっ」

 

 声の主はキリトだった。

 どうして、と考え居場所を非表示に変えていなかったことを思い出す。

 それでもはじまりの街は広く、見つけるのには苦労するだろう。それに追いかけてくるとは思っていなかった。こいつは結構鈍感だから、様子がおかしいことに気が付かないと思っていたがそこまで空気が読めないわけではないらしい。

 

「……会議はどうだったっすか?」

「可もなく不可もなくってところだな。明日から迷宮区を攻略することになった。ボス部屋を見つけたら第二回の攻略会議を開くんだとさ」

「えー、まだ見つけてないんすか? まあいいっす。それで行くんすか?」

「決めるのはいつもエリだったろ」

「そうっすね。悪かったっす」

「悪いとは言ってない。ただ今度からは息抜きをさせてくれ」

「そうっすね……」

「……………………」

 

 気まずい空気が流れる。それを壊すのは私の役目だ。

 キリトだってこういう嫌な雰囲気を読むくらいはできる。でも読めるのと、どうにかできるのは別の話だ。

 話題を変えよう。そう考えたがどうしてもキリトの隣にいた女性プレイヤーが頭から離れなかった。見間違いかもしれない。そうだったらどれだけ良いだろう。彼女がここにいる可能性は低い。ソードアートオンラインの入手が難しいとかもあるが、ゲームに興味があるようには思えなかったからだ。……そうだろうか? 私は彼女のことを実は多く知らない。ゲームが好きじゃないだろうというのは印象だけで決めつけたことだ。実はゲームが好きだったなんてこともありえなくはない。

 よそう。考えたくない。嫌だ。

 だから私は嘘を吐くことにした。

 

「攻略、怖くなっちゃったんすよ。だから約束よりちょっと早いっすけどパーティーはここまでっす」

 

 真っ直ぐ見つめるキリトの瞳は、私の嘘に気が付いているように揺れていた。

 心配。疑問。葛藤。自己嫌悪。キリトは思っていることが顔に出やすい。

 なら私は今、どんな顔をしているのだろう?

 

「キリトは攻略を続けるんっすよね?」

「……わからな――」

「だから私といちゃ駄目っす。足手まといにはなりたくないっすから。攻略は無理っすけど、たまに狩りに行きましょう。永遠とドロップアイテム集めるのは友達と一緒なら悪くない苦行っす。どうしてもっていうならレアアイテムを探しに付き合ってもいいっす。私たち、友達っすよね?」

「――っ! ……ああ」

「よかったっす」

 

 聞かれたくないことを避けるように会話を進める。

 ここで私と一緒にいてと言えればどれだけ楽になるだろう。私の抱えている不安や苦しさを吐き出してしまえばいい。きっとそれが正解だ。

 でも私はそんな強くない。弱さを曝け出せるのは強さだ。

 強くないから現実に負けてここまで逃げて来た。その逃げたい現実が私の元までやってきたら? 決まってる。逃げるのだ。退路はまだあるのだから。

 

「攻略は明日からっすか?」

「そうだよ」

「それなら今日は英気を養ってさっさと寝るっすよ。夕飯くらいは奢ってやるっす。アルゴに聞いた美味い店があるんすよ」

「へえ。それは楽しみだな」

「情報料も取られたんすから、感謝するっすよ」

 

 この日、わだかまりを残さず私たちのパーティーは解散した。

 それは幸運なことだ。パーティーの解散はもっとギスギスしたものが多い。大抵は1人2人が抜けると言い出し、残ったメンバーが補充をかける。でも嫌な感情に引きずられて、最悪ゲームを引退する。このパーティーは2人だけだからそういうことも起きずに済んだのだろう。

 ここでキリトとの縁が完全に失われるわけではない。ちょっと遠くなるだけだ。

 

 私は夜の街を先導して進んだ。

 季節が冬というのもあるが今日は一段と冷え込む。暖の取れる装備がほとんどない今、それは戦闘に支障が出るほどだろう。

 ふと頬に鋭い刺激を受け、見上げると白い結晶が振り始めていた。

 白い結晶は精工に描写されており、体温で水に変化すると瞼から一筋の雫となって零れる。

 

「雪っすね……」

「はぁ……。明日の攻略に支障が出るぞ」

 

 都会暮らしの長い私には馴染みの少ない空模様。

 降り注ぐ雪がチクチクと心に刺さるような痛みを訴える。

 慣れない中世風の街並みに雪景色が相まってとても幻想的だった。数時間前に見た光景はもしかして幻覚だったんじゃないだろうかと思えてしまうほどに……。

 いいや。目を逸らすためにも現実を受け入れよう。彼女は間違いなくあの場にいた。

 

 ――結城明日奈もこの世界(アインクラッド)に存在する。

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