レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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55話 眠れる者のための二重奏(5)

「次はどっちだ!?」

 

 バイクのエンジン音に紛れて、ウサグーの声が聞こえる。

 

「あとは直進するだけだ!」

 

 俺はオーグマーのナビに従って彼の後ろから声を張り上げる。

 制限速度を若干オーバーして、黄色に変わった信号を通り過ぎる。

 今日もオーディナルスケールは大盤振る舞いで、都内では合計10カ所ものイベントバトルが行われていた。

 俺たちはすでに6カ所を巡りラストアタックを奪い去ってきたところだが、最後まで残っていた竹芝客船ターミナルすら手中に収めようと、バイクを走らせていた。

 

「行くぞ!」

 

 ウサグーは道路にバイクを停めて鍵を抜くと、歩道橋の下から覗く、人だかりのできたマストの元へと走り出す。俺も慌ててヘルメットを脱ぎ捨て後に続くが、彼が強引に人混みを掻き分けてくれたおかげでどうにかバトルの中心部には辿りつけた。

 

「「オーディナルスケール、起動」」

 

 周囲はすぐさま針山に囲まれた、霧の煙る円形のアリーナへと変貌した。

 漂う磯の香りはオーディナルスケールのもたらす拡張現実ではなく、現実のものだ。

 すぐに周囲を警戒。イベントのボスモンスターの姿を視界に捉えるも、やつはすでに襲撃体勢を整えていた。

 

「――ぐっ!?」

 

 急いだせいでまだ左手の盾は出せていない。

 右手に持った剣でそいつの牙を受け止め、薙ぎ払うと姿を黒い煙に変えてボスは遥か遠くへと離脱した。

 

「あいつは……、はぁはぁ……。第28層ボス『ワヒーラ・ザ・ブラックウルフ』だ……」

 

 度重なる連戦で体力の底も見え始めている中、最悪の出会いだった。

 こいつは即死するような連撃こそしかけてこないが、威力の高い単発攻撃と、とてつもないAGIを持つボスモンスターだった。オーディナルスケールのシステムバランスに照らし合わせても、性能を発揮できる厄介なタイプだ。

 

「攻撃方法は……突進、それから……直線範囲……」

 

 10数メートルもの距離を1秒もかからず失踪する赤黒い毛並みの大狼は、移動の際は身体を瞬時に黒い煙へと変貌させる。

 走るという行為は動きの予兆があるが、こいつの場合靄が蠢くだけだ。

 空中を増減する流体は変則的な動きを見せている。すでにHPバーの3本目で行うフェイント攻撃まで入っているようだ。

 煙は攻撃することで散らすことができるが、ダメージの入りは悪い。

 だが近づくには圧倒的に速度が足りない。狙うは攻撃中に実体化する一瞬のみだ。

 

「カウンター狙いで行くぞ」

「はぁ、はぁ……あいよ……」

 

 ウサグーは短剣を逆手持ちにして答える。

 左手に盾を出し終えると、俺は目の前に向かってきた黒い煙を凝視した。

 直進。左に煙が膨れ上がるが、それは急速に萎んで右側に集中する。

 不可能と判断。2歩進んで剣を横薙ぎに。一度散らして次の攻撃モーションに移らせる。

 ボスは即座に俺を通り過ぎて後ろへ去っていくも、振り向いたときには反転してすぐそこまで迫っていた。

 眼前の闇から赤黒い色彩が目に入ると俺は盾をずらしてそれを受け止める。

 

「スイッチ!」

 

 衝撃エフェクト。

 時間にして0.3秒の世界。

 ボスが僅かに仰け反り煙に再び戻ろうとしているところを背後から斬り裂くウサグー。

 体勢がふらついたところで俺の剣も後を追い、ボスの身体に線を刻んだ。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 息も絶え絶えになりつつ、俺たちは攻撃を捌いてボスを追う。

 他のプレイヤーがわけもわからず襲われていればチャンスだ。攻撃のため完全に実体化したところを背後から斬ることができる。

 

「さあ! スペシャルステージだよ。頑張ってー!」

 

 本日何度目かのユナの声でステータスアップのアイコンが表示される。

 防御力アップはとにかく大事だ。これで多少はマシになる。

 戦場はバランス調整をミスしたおかげで俺たちの独壇場だった。

 近接武器ではヒットアンドアウェイに反応が付いて行けず、遠距離武器では狙いを絞りきれていない。たまに散発的な射撃音がして空中に色鮮やかな弾道エフェクトが輝くも、それは掠りもせず、逆に襲われゲームオーバーを余儀なくされる。そのためすでに攻撃をしかけるプレイヤーもほとんどいなくなり、嬉しいことに大抵のプレイヤーは遠巻きに眺めていた。

 だが俺たちもHPこそ残っているが、生身の体力はガス欠状態。

 足を止めて背後をカバーし合い、どうにか正面に突っ込んできたときだけ撃ち落とすことしかできなくなっている。

 残り時間はあと3分。

 逸る気持ちと心臓を押さえつけ、冷静に攻撃を捌くしか活路はない。

 

「グルォオ!」

 

 背後でウサグーに散らされ、俺の横を通り過ぎた一陣の黒い風が、20メートルくらいの距離を取って実体化。短い雄叫びを上げる。

 

「まずっ――」

 

 俺は後ろに立つウサグーを剣を捨てた右手で押し出す。

 

「なにしやがる!」

 

 影が地面を伝って直線に伸びる。そこから影は上へと立体的突き出て、アリーナを囲むような針山を生み出した。

 瞬きをするほどの合間に俺の身体は1本の棘に貫かれる。盾が間に合う速度ではなかったが、運よくもう1本は盾に阻まれ食い止められていた。

 

「……サチ」

 

 HPがみるみるうちに減少する。

 オーディナルスケールでは防具性能がないためダメージはかなり大きい。

 6割あったHPがどんどん左端へと追いやられ――レッドゾーン、残り1割で停止した。

 

「グルォオ!」

 

 棘は現れたときと同じように一瞬で引き戻され、ボスは一鳴き。

 身体は煙に変わり、上下を含めた高速移動に移る。

 弾けるように消えては煙の欠片に集まり、前身だけでなく後退すら加わった多角的な移動。下がったと思えばすでに半実体化した狼の頭と前足が頭上から襲い掛かるところであったが、俺は盾を貼り付けて受け止めようとする。

 けれどもガードをすればこのHPでは耐えきれない。

 

 

 

 俺は自分の死期を悟った。

 

 

 

 

 SAOと違い、記憶を失うだけで肉体の死までは及ばないはずだ。

 

 

 

 

 

 だがサチたち月夜の黒猫団の記憶は俺の命よりも重い。

 

 

 

 

 

 

 これを失えば、俺は死んだも同然だ。

 

 

 

 

 

 

「――スイッチ!」

 

 横から身体をぶつけるほどの勢いでウサグーが現れると、ボスの身体を通り抜けて地面に倒れる。

 ボスも彼の突進の勢いに負け、俺の隣に転がり地面を滑った。

 目の前には放られた片手剣。

 その剣は俺がさっき落とした物で、ウサグーが倒れる寸前に投げ渡したのだった。

 空中に浮かんだそれをキャッチすると、俺は手首を翻してボスの頭を貫く。

 ビクリと大狼は身体を震えさせて――ようやくボスは花火のように弾けて消えた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 どこか遠くの出来事のように聞こえるファンファーレ。

 視界が明滅するほどの疲労感。

 俺は片膝を着いて荒い息を整え、ウサグーは地面に大の字になって倒れていた。

 頭上からはランキングが更新されたSE。

 ウサグーは9位に。俺のは見上げて確認すると、ようやく5位になったと表示されていた。

 

「コングラッチュレーション」

 

 渇いた拍手の音。

 声のした方向に目を向けると、発光する紫の線模様をしたSFチックな黒のボディースーツに、腰からハーフマントを伸ばした青年が立っていた。

 

「エイジ……」

 

 彼がランキングナンバー2位。エイジである。

 

「流石、SAOをクリアに導いた黒猫の剣士なだけはありますね。――そちらの方は知りませんが、あたなも腕は立つようですね」

「おまえ……!」

 

 よろよろと立ち上がったウサグーが、エイジに向かって殴りかかる。

 

「カハッ!」

 

 だがエイジは簡単にウサグーの手を取ると、空中で一回転させて地面に叩きつけた。

 

「やれやれ。血の気が多くていけませんね。……まあいいです。あなたたちにはユナの代わりにご褒美をプレゼントしましょう」

 

 オーグマーに1通のメールが送られる。

 

『ユナのライブに来い。そこで記憶を返してやる』

 

 エイジはコミックヒーローのような人間離れした跳躍でその場を去り、夜闇へ消えていく。

 追いつくのは、体力が全快であったとしても決して不可能な速さだった。

 

「おい待て! この、グッ……」

「大丈夫か!?」

「平気だ」

 

 起き上がるもふらつくウサグーに駆け寄り、俺は肩を貸す。

 あんな状態でも受け身をきちんと取っていたようで、彼は少しすると自分の足で立ち、服についた砂を払う余裕すら見せた。

 

「なんか仕掛けがあんな……。パワードスーツか?」

「あんな薄い服に仕掛けられるものなのか?」

「米軍で開発してるのにそういうのがあったはずだ。日本にあっても不思議じゃねえ。でかいスポンサーのいるところは羨ましいもんだ。他になんか気づいたことはねえか?」

「……首だ」

「首?」

「あいつの首に妙な起伏があった。パワードスーツだっていうなら、たぶんそこが制御系になってるはずだ」

 

 去り際に見せたやつの背中。その首筋にはエリの装着していた物に似た装置がついているように見えた。全身を操作するにはその位置が一番効率がいいのだと、医療用オーグマーについて聞いた際ユイが教えてくれたのもあって、予想は半ば確信に近い。

 

「なるほどな……。まあ覚えておくか。あとはこいつをどうするかだが……」

 

 ウサグーが言いたいのは送られてきたメールについてだろう。

 ライブは明日。そこで決着を着けようという話なのだろうが……。

 

「まず間違いなく罠だな」

「そこまでする必要があるとは思えないけどな……」

 

 エイジの身体能力――パワードスーツの力であろうとも、そのスペックを考えればわざわざ遠回りな手段を取る必要は感じられない。

 俺たちを力で捻じ伏せれば済む話なのだから。

 

「有利な時こそ慎重な手を打つもんだ。なにせそれをするだけの余裕がある。あとは、ここで止めを刺さなかったってのもあるな」

「確かにそうだ」

「つまり俺らだけじゃねえ。他のやつらも呼び込んで、なにかしでかすつもりなんだろうよ」

「……皆には来ないよう言っておく」

「そうしてくれ。あとは総務省の菊岡だったか? そいつにも連絡な」

「わかってるよ」

 

 皆明日のライブを楽しみにしていたが、もしものことがあると思えば止めざるを得ない。

 菊岡にも話を通して、いつでも動けるように控えてもらおう。

 

「俺はチケットあるけど、お前はあるのか?」

「あー……。当てならある。なければないなりに、どうにかするさ」

「他には……」

「さっさと帰って寝ろ。そいつが一番重要だ」

「そうだな」

 

 流石にこの連戦はキツかった。

 これでランキングナンバーがなんの役にも立たなければ、化けて出た白いユナを除霊してもらうところだ。

 帰りはここからだと……浜松町駅から山手線に乗って、そこから西武線に乗り継ぎか。

 

「そうだ。さっきは助かった、サンキューな」

「ん? ああ、お互い様だ」

 

 ウサグーの出した拳に俺は拳を合わせる。

 

「明日も頼むぜ。黒猫の剣士」

「そっちこそ、背中は任せたぜ」

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 帰りの電車の中で俺はアスナに連絡を取ると、ALOで会って話を聞きたいと返信があった。

 別段彼女たちに連絡を回すのであればリズに告げてもよかったのだが、連絡事項となるとどうしてもKoBの副団長様にするものというイメージが抜けていない。

 彼女はそういったプレイヤー間の擦り合わせもしてくれていた委員長タイプの人間で、攻略組のプレイヤーは大いに助けられたものだ。

 そういうこともあってか直々のお呼び出しともなると、なぜだか先生に怒られに行く生徒の気分を感じてしまう。

 あとはこの前のこともある。まさか本で叩かれるとは思わなかった。

 あれからまだ1カ月も経っていないのに、また随分と歳を重ねた気がする……。

 このままだと俺の精神年齢はすぐに老成の域に達してしまいそうだ。

 

「キリト君、おかえり」

 

 ALOのアインクラッド1層にあるNPCレストランに着くと、先に待っていたアスナが微笑んで俺に声をかけた。

 穴場の店で、しかも時間も遅いということもあって付近に他のプレイヤーの姿はない。

 

「た、ただいま?」

 

 この場合適切なのかわからないが、とりあえずそう返事をすると、アスナは満足そうに頷いた。どうやらこれで正解だったらしい。

 

「それで、明日のライブなんだけど」

「危ないかもしれないから来るな、でしょ?」

「悪い」

 

 アスナには皆に連絡してもらうことになりそうだから、それも含めて俺は頭を下げた。

 

「……でもキリト君は行くのよね?」

「えっ。……まあ、そうなるな」

「それならって訳じゃないんだけど……。私もね、行こうと思う」

「本当に危険なんだ!」

 

 俺は思わず声を荒げてしまった。

 だがアスナは驚くこともなく、いたって冷静に俺を見つめている。

 

「お願いだ……」

 

 視線を逸らしたのは俺からだった。

 震える声で懇願したのは、月夜の黒猫団が壊滅した日を思い出したから。

 あのときもっと俺が必死に止めていれば、彼らは生きていたはずだった。だからもう、同じ轍は踏めないと心が叫んでいた。

 

「もし私がライブに行かなくて、代わりに誰かの記憶がなくなっちゃったら辛いもの。逃げないで戦うことを選んだのが閃光のアスナだから」

 

 その言葉を聞き、俺では彼女を止められないことを悟った。

 今の姿こそ青髪のウンディーネであったが、アスナの本質はなにも変わらない。

 アスナは剣士なのだ。それもあの鉄の城を駆け抜け、共に剣を振るった最強の剣士である。

 彼女が一度戦場へ赴くと決めたのなら、俺に止める権利はない。

 

「もちろん、皆には来ないように言うけどね。それでもリズは来るんじゃないかな」

「リズは剣士じゃないだろ」

「あー! キリト君、そういう偏見は駄目だよ。リズも芯は私に負けないくらい強いんだから」

「ああ……。そうだな。うん。そうだった。ごめん」

「わかればよろしい」

 

 リズのことを胸を張って言えるアスナが微笑ましい。

 

「俺さ。アスナとリズとエリの3人が一緒にいるところを見るのが好きだよ」

「……どうしたの急に改まって」

「なんでかな……。でもそれを取り戻すために戦ってるんだと思うと頑張れる気がする」

 

 本当の理由はわかっている。

 それはリズとエリと、そしてサチが一緒にいた頃を思い出せるからだ。

 この場合エリのポジションにアスナが来て、サチのポジションにエリが来るイメージ。

 そこにシリカが加わえてやってもいい。彼女は……俺のポジション? いや、俺はあんな感じじゃない。そうだろサチ……。

 

「そっか……」

「ありがとな、アスナ。俺の背中を押してくれて」

「なんのことだったかな?」

 

 誤魔化してくれるアスナの気遣いがありがたい。

 男として、あんまり情けない姿は覚えておいて欲しくないものだから。

 

「あ、そうだ。アスナには聞いてなかったと思うんだけど、エイジ――じゃなくてノーチラスってSAOプレイヤーに聞き覚えはないか?」

「この前イベントバトルで見かけた体操選手みたいな動きをする人のこと?」

「ああ。そいつ」

「一時期だけど、KoBにいた人だと思うよ」

「なに!?」

 

 中層にいたものだと思い込んで、その辺りのボリュームゾーンのプレイヤーに聞いて回っていたのが仇となった形だ。灯台下暗しとはまさにこのことである。

 俺は頭を抱えるも気を取り直してアスナに詳しい話を聞くことにした。

 

「どんなプレイヤーだった?」

「うーん……。あんまり詳しくは知らないんだけどね。当時は真面目で素質もあったんだけど、死の恐怖を克服できなくて一度もボス攻略戦には参加できなかったの。ほら、うちって少数精鋭だったでしょ? それでギルドの方針には合わないから別のギルドを勧めたの」

「……随分プレイスタイルが変わったんだな」

 

 とは言うものの、オーディナルスケールには死の危険がない。

 大抵のプレイヤーが当時とはプレイスタイルが変わっていても不思議でない話だ。

 

「他には? バトルスタイルとか。なんでもいい、情報がいるんだ」

「………………。確かキリト君と同じ片手直剣オンリーで、体術スキルを組み合わせたスタイルだったよ。一時期はキリト君のせいで流行ってたからね」

「む……」

 

 俺も攻略組では最古参に位置するため、そういうプレイヤーがいてもおかしくないが、こう面と向かって言われると嬉しいような、恥ずかしいような気分だ。

 

「つまりショートレンジよりのミドルレンジファイターか」

 

 SAOは近接武器オンリーだったが、デスゲームというギリギリの戦いであったせいで僅かなリーチの差で戦闘距離が分けられていた。

 片手剣なんかを一般的な中距離として、短剣や体術が近距離、槍や大剣なんかが遠距離に区分される。

 俺の場合は普段こそ体術の間合いに引き寄せるためショートレンジよりになるが、盾を持ったときは純正のミドルレンジ。

 アスナはやや突き主体で差し合いをする関係からロングレンジに寄ったミドルレンジ。

 エリはPvEではショートレンジで、PvPならロングレンジ……いやショートレンジか? 相手に合わせるタイプだったと思う。

 武器種では計れないイレギュラーなリーチを持つ物もあり、戦闘方法によっても左右されるため一概には言えないが、片手剣と体術ならたぶんそうなるだろうと俺は予想した。

 

「えっとたしか……。ショートレンジだけど広く間合いを取る人だったかな」

「カウンターが好きだった、とかか?」

「ううん。積極的に攻める人だったよ。足回りがよくってね。障害物を使って三角跳びとかができる人だったの」

「それは……惜しい人材だったな」

「うん。でも最後に頼るのは技術じゃなくて心だから……」

 

 まあそうだろう。どれほど模擬戦や格下相手に良い動きが出来ても、いざというときに戦えないのでは話にならない。

 

「片手直剣で間合いの外から跳びこんでくるタイプか……」

「そうだったと思う。ねえ、彼がなにか関係してるの?」

「………………」

「まあいいけどね。今回はキリト君に任せます。――他に私に手伝えることってある?」

「無事でいてくれ」

「うん」

 

 俺はその後アスナと別れると、こっそりリズの店まで足を運んだ。

 店の裏手はなにもなく、開けたスペースになっている。そこはかつてエリとサチ、それから俺も一緒になって剣の練習をした場所だ。

 

「――サチ。俺はもう、なにも失わせない」

 

 俺はそれだけを告げて、ALOからログアウトした。


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