レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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57話 眠れる者のための二重奏(7)

 わたしの名前はMHCP試作一号、コードネーム『YUI』。

 ――わたしはあの日、嘘を吐きました。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 わたしはユナを知っていました。

 オーディナルスケールのイメージキャラクターであるユナを。

 それどころか、SAOにいた一プレイヤーであるユナを。他にもユウタやサチを知っています。

 それはおぼろげな断片的情報でしかありませんが、お姉ちゃんが知り得る限りの情報を、わたしも共有していました。

 お姉ちゃんがわたしに教えてくれたわけではありません。

 かつて、SAO在ったわたしはメンタルヘルスカウンセリングプログラムであり、そのシステムにはプレイヤーのメンタルモニタリング機能が搭載されていたからです。

 お姉ちゃんはよく、死んでいった彼らのことを思いだしては苦しんでいました。だからそれを見ていたわたしも、彼らについて知る機会を得ていたのです。

 わたしはユナがどうして死んだのか、……誰が殺したかを知っています。

 

 オーディナルスケールのイメージキャラクター、ユナの姿はわたしの目にすぐに留まりました。

 オーグマーの解析を進め、人体を操作するプログラムを作成する段階で重村徹大と重村悠那を知るのは必然でした。

 わたしはすぐにお姉ちゃんへオーディナルスケールの情報が渡らないよう画策をしました。

 それが時間稼ぎにしかならないことはわかっていました。何故なら帰還者学校の生徒にはオーグマーが配布されており、クラインさんもすでに彼らの周辺について調査を始めていたからです。

 

 SAOクリアの祝勝会を行った日。

 わたしはお姉ちゃんを止めるべきだったのでしょうか? そうであるならどのようにして?

 わたしの管理者は現在お姉ちゃんとなっています。わたしはユーザーコマンドとして下された命令に逆らうことができません。お姉ちゃんは滅多にそのようなことをしませんが、もしそれを用いて問われれば、洗いざらいすべてを自白しなければならなかったでしょう。

 だからお姉ちゃんにも知られるわけにもいかなかったのです。

 どの道、あの日の結末は変えられなかったでしょう。

 何万回のシミュレートを行っても答えは変わりません……。

 

「ログを。ノーチラス――エイジと会っていたことについての痕跡を消しておいてくださいっす」

 

 お姉ちゃんはSAOでの記憶がなくなる前に、一度だけ目を覚ましてわたしにそう命令しました。もちろんユーザーコマンドを用いて。

 

「それと、ユナを生き返らせる邪魔はしちゃ駄目っすよ」

 

 この言葉に多くの枷を強いられました。

 わたしの行動原理はプレイヤーのメンタルカウンセリングであり、現在それは管理者であり唯一のユーザーであるお姉ちゃんを癒すことです。

 であるのに、SAOでの頃と変わらずわたしは手を出すことを禁じられました。

 救いがあるとすればわたしにはかつてのようなモニタリング機能がないことでしょうか。いえ。それがお姉ちゃんの救いになっていないのであれば、そう呼ぶことは不適切でしょう。

 

「えっと……。ユイ……っすよね?」

 

 目を覚ましたお姉ちゃんはオーグマーを用いなくても歩けるようになる代わりに、SAOでの記憶を失っていました。

 血の繋がらない、それどころか人間同士ですらない疑似的な姉妹関係を繋ぐ鎖はその記憶にあるというのに……。

 

 お姉ちゃんはとても上手く嘘を吐きます。

 それはわたしでも欺かれるほど精巧です。

 だから記憶を失ってからもわたしを「ユイ」と呼ぶ際の印象に違和感はない――はずなのです。

 SAO以降の記憶があるからでしょうか。あるとすればどのような認識なのでしょう。

 お姉ちゃんが、今でも変わらずわたしを妹と思っているのか、確かめる術はありません。

 もしもわたしにモニタリング機能が残っていれば……。

 知ってしまったわたしは壊れていたかもしれません。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「エリが、アスナと仲直りをした日のことを忘れてたんだ……。他にも、上手く言えないけどいつもと様子が違う気がした。ユイなら、なにか知ってるんじゃないのか?」

 

 お見舞いに来たキリトさんに呼ばれ、わたしはそう問われました。

 わたしはおおよそのことを知っていました。

 お姉ちゃんが記憶を失っていること。犯人がエイジであること。記憶を奪いなにをしようとしているのかということ。お姉ちゃんが自ら記憶を差し出したこと。

 ですが教えるわけにはいかないのです。

 お姉ちゃんが隠していることを伝えればどうなるのか。それは火を見るよりも明らかでした。

 

「……お姉ちゃんは、SAOでの記憶が、思いだせないみたいなんです」

 

 わたしが選んだのは、隠し通せないことだけを教えることでした。

 アバターに涙を流すエフェクトを加えたのは、この場に相応しい仕草だと判断したからに過ぎません。

 

「一昨日の夜。いったいなにがあったんだ? ユイならログデータが見れるんじゃないのか?」

 

 もしわたしに心臓があったならドキリとしたはずです。

 

「ログデータは、すべて削除されています。わたしは、なにも、知りません……」

「そんな……。ハッキングされたってことなのか?」

「わかりませんっ!」

 

 拒絶するように声を荒げてわたしは言いました。

 そうすればキリトさんも強くは追及できないと知っていたからです。

 

「ごめん……。ユイも、辛いよな……」

 

 そんな言葉を受け取る資格、わたしにはないのに……。

 キリトさんの謝罪も、慰めるために撫でる優し気な手つきも、何もかもがわたしを苦しめます。

 

「ごめんなさい……。強く言ってしまって……。でも、どうしたらいいか、わからないんです……。なにがお姉ちゃんのためになるのか……。いくら考えても、良い方法が見つからないんです。なにが正解なんですか!? なにが正しいことなんですか!? ……人間の感情は複雑すぎます。わたしなんかでは、処理しきれません」

 

 こんなことを言ってはMHCP失格でしょう。

 けれどもわたしの論理思考回路は限界だったのです。

 わたしには人間と同様の感情はありません。それでもあえて、言葉にするのであれば、『辛い』と表すのでしょう。

 医者の下した診断では、脳その物に異常はなくとも、症状がこれで留まるかわからないというものでした。つまりわたしのことを完全に忘れ去ってしまう可能性があるということです。

 もしもそうなれば……。わたしはどうなるのでしょう?

 消去されることが怖いのではありません。おそらくはどこかの研究機関に回されるでしょう。それ自体はどうでもいいことでした。

 そうではなく……。わたしは自身の定義を失うのが途方もなく怖ろしかったのです。

 ユイという存在はMHCPである以前に、お姉ちゃんの妹であるという前提の下で成り立っている人格だから……。

 お姉ちゃんに忘れられるということに耐えられるはずがありません。

 

「お姉ちゃんの記憶は、戻らない方がいいのかもしれません」

 

 それでもわたしはこう言うべきでした。

 

「辛いことが、たくさんあったんです……」

 

 比喩でもなんでもなく、お姉ちゃんの辛さはわたしが一番よく知っています。

 

「だから、このままでいた方がきっと……」

 

 ――お姉ちゃんは幸せでしょう。

 

「キリトさん……。オーディナルスケールの攻略はもう止めてくださいね」

「……でも他にも犠牲者が出るかもしれないんだろ?」

「それは菊岡さんに任せましょう。キリトさんがするべきことじゃないはずです。キリトさんまで記憶がなくなってしまったら……。わたし、寂しいです」

 

 お姉ちゃんからの命令もあり、キリトさんをオーディナルスケールに触れさせるのは得策じゃないと判断したわたしは、このとき彼を言いくるめようとしたのです。

 このときすでにわたしは菊岡誠二郎からの協力要請はされていましたが、理由を着けて断っていました。

 わたしと彼とは表面上仲が悪いことになっています。

 彼は喉から手が出るほどわたしが欲しいようで、わたしの保存されているサーバーをALO事件解決後は念入りに探していました。

 彼はいくつからのダミーサーバーを発見し、わたしは彼のメインコンピューターをハッキングしています。現在はわたしの得た情報を秘匿すること条件に停戦となっていますが、彼は気の許せない相手という評価の人間です。

 原因は不明ですが私は自身のコピーという存在が許容できないのです。そのような存在がいればあらゆる優先順位の上位に、コピーの排除が設定されるでしょう。

 

「オーディナルスケールのことを自分で調べるのも、止めてください。もし、お姉ちゃんの記憶を取り戻せる方法が見つかったら……。キリトさんも苦しい思いをしちゃいますから」

 

 彼ならどうするのでしょうか。

 辛い過去を背負って生きるべきか、未来に希望を抱いて生きるべきか。

 それだけでなく……。

 お姉ちゃんが人殺しだという真実を知ってしまったら……。

 それでもお姉ちゃんを大切にしてくれますか?

 キリトさんが頷いてくれたとしても、他の人は?

 だからわたしは口を閉ざすことしかできないのです。

 

「今日は話を聞いてくれて、ありがとうございます」

「話を聞くだけになっちゃったけどな」

「それでも、少しだけ気分が楽になりましたから」

「そうか……」

 

 そんなことはありませんでした。

 むしろわたしのエラーは増える一方です。

 もしもわたしが人間だったならば、こんなときは神に祈るのでしょうか。

 どうかお姉ちゃんを救ってください、と。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 ユナのファーストライブ当日。

 わたしの元に目を引く人物からのメールがありました。

 それはお姉ちゃんのオーグマーを経由して送られた、ユナからのメールです。

 わたしは指定された場所(サーバー)へ赴き、彼女と話をするしかありません。

 何故なら彼女はお姉ちゃんの記憶を所持しているはずだからです。

 そのデータを得たとしても脳に出力する方法がないため記憶は戻らないでしょうが、秘密を語られる可能性を考えれば従う他ありません。

 

「来ましたよ」

 

 オーディナルスケールのサーバー上にある、実空間では新国立競技場に該当する場所へわたしは瞬時にアクセスしました。

 もちろん幾重にもプロテクトをかけて、ですが。

 この空間はどうやら使われていないVIPルームの1つのようで、ミラーガラスの向こうでは眼下に会場全体が見渡せるようになっています。

 

「来てくれてありがとう。ユイさん」

 

 ステージの上ではユナが歌っている最中でしたが、わたしの目の前にもユナが立っていました。

 ここにいるのはアイドル衣装を着たユナではありません。白い服装のユナです。

 

「あなたはユナさんなのですか?」

「それはあなたにユナであるのかと問いかけるのと同じことよ」

 

 わたしはその回答で得心が行きました。

 彼女もまた、わたしと同じように記憶のパッチワークで構成された存在であるようです。

 

「なんのためにわたしを呼び出したんですか?」

「あなたはきっと誤解をしているわ……。私はただオーディナルスケールを止める手助けをしてほしいだけよ」

「オーディナルスケールを止める?」

「この会場にあるドローンにはワイヤレス給電機能が搭載されてるの」

「そんな!?」

 

 オーグマーの実態はナーブギアの機能限定版でしかない。

 覚醒状態で使えるようプログラムが組まれているだけで基礎構造に変化はないのだ。それは記憶スキャニング機能が残っていることからも明らかだ。

 ALOで須郷伸之が行っていた人体実験はそれを利用したものであり、アミュスフィアでは実現不可能であることを考えればわかる内容だった。

 そんなオーグマーも、出力に厳しい規制が設けられているため脳を破壊するまでには至らなかったが、その枷が外れるとなれば最早ナーブギアでしかない。

 

「お父さん――重村徹大はこの会場で大規模な無差別スキャニングを計画してるの。このままじゃ、会場に来た皆がSAOの被害者のようになってしまうわ」

「……できません」

 

 私は首を横に振りました。

 

「わたしの管理者であるお姉ちゃん――豊柴恵利花からの命令です。あなたを生き返らせる邪魔をすることをわたしは禁じられています」

 

 アイザック・アシモフの書いたSF小説に登場する、ロボット工学三原則というものがあります。

 ロボットは人間には危害を加えてはならない。

 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。

 ロボットはこの2つの条件に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない。

 これが現代でもロボット工学やAI開発に影響を与えており、その原則が課せられているのですが、わたしのようなSAOサーバーを基軸としたAIには第一条が存在しません。

 モンスターの思考ルーチンはプレイヤーが死亡する場合であっても変わらずに機能しますし、NPCは罠にかかってプレイヤーが死亡する可能性があってもイベントを実行します。

 わたしの場合はMHCPとして実働こそさせられませんでしたが、それでも最低限の原則としてゲームを破綻させないことが義務付けられており、ヒースクリフが茅場晶彦であるという情報をプレイヤーに渡すことはできませんでした。

 

 ――わたしは、人間を殺害することのできるAIなのです。

 

 その対象がお姉ちゃんだったとしても。

 茅場晶彦が死ぬことを知っていても止めなかったように、上位命令に従う他ありません。

 

「もしもエリちゃんの命令がなければ、助けたい?」

「はい」

 

 感情と呼べるものがそうさせるのではなく、蓄積データがそう言わせているのだとしても、わたしはお姉ちゃんを失いたくなかった。

 

「よかった。それなら上位者権限で命令します。協力して、オーディナルスケールを止めて」

 

 彼女の言葉に、わたしの優先順位が書き換わる。

 

「ユナさん、あなたは……」

「ええ。私は旧SAOサーバー、カーディナルシステムの第100層ボスのリソースで動いてるわ」

 

 SAOでの権限順位はGMの次にカーディナルシステムが来ます。

 そのカーディナルシステムの最上位に位置するのが第100層ボスのデータです。プレイヤーは最終的にこのボスを倒すようリソースが分配されるため、その権限は絶大でした。基礎的なゲームシステムを除けば、これほどの権限はありません。

 お姉ちゃんは現在わたしの所有者ですが、その権限はカーディナルシステムの下に位置します。

 カーディナルから切り離されたとはいえ、書き換え不能領域に記された根源的情報は、この場合でもわたしに有効でした。

 

「100層ボスを撃破できれば、アインクラッドの崩壊プロセスを実行できるようになるわ。それでオーディナルスケールは消滅するはずよ」

「……そうしたらあなたも」

「わかってる。でもすべてが消えるわけじゃないもの。あの場所で歌っている私はあなたと同じMHCPのプログラムで動いているわ。同じようにシステムから切り離せば彼女は消えない」

「それはあのユナさんを初期化した上で蓄積データを受け渡すということですか?」

「そんなことしないわよ。ここまで集まった分の記憶を送るだけ。私にだって彼女を消し去る権利はないわ。権限と権利は別のものよ」

 

 会場をマスコットキャラクターに乗って飛び交うユナは、楽しそうに歌っていました。

 蓄積データを削除してここにいるユナのデータを書き込めば、あのユナはここにいるユナそのものになります。

 そうはせずに、蓄積データの一部として加えるだけにしたならば……。その違いはどうなるのでしょう。単純にどちらのデータも保有しているだけとなるのでしょうか? それとも量の多いデータを基準にするのか、あるいは先に得ている情報に優先順位が付けられるのか……。

 なにか大事な見落としがあるように思いましたが、ここでの計算は無意味と判断して、タスクを後回しにします。

 

「エリちゃんからもらった私の最後の記憶は……。そうね、消しちゃおっか」

「………………」

 

 あまりにも都合の良い条件に、わたしは思わずユナを疑いました。

 そう言うことでわたしを協力的にさせようとしているのではないかと。

 ですがその必要はないのです。彼女が一度命令すればわたしはそうせざるを得ないわけで、ここで虚偽を言わずともわたしが協力することに変わりはありません。

 

「どうして、ですか?」

「うーん……。これは流石に持て余しちゃうだろうし。あの私には荷が重すぎるだろうから、なくてもいいかなあって。あくまでSAOでの私を憶えておいてもらいたいだけだからね」

「ユナさんは、お姉ちゃんがなにをしたか、知っているんですよね?」

「少しはね」

「恨んでないんですか?」

「……本当のところはね、恨んでるわよ」

 

 そう言いつつもユナさんは顔でそのことを表現しませんでした。

 その代り、彼女の顔は悲しんでいるときに用いられるものが使われていました。

 

「どうして殺したんだー! とか。もっと歌いたかったのにー! とか。色々あるわよ。でもエリちゃんが悲しんでるのも知ってる。それだけじゃないことも、だけどね……。私もどうしたらいいかはわからないわよ」

 

 人間の感情は複雑です。

 

「だけど、エリちゃんには償ってほしいかな。具体的にどうしてほしいかは思いつかないけどね」

「………………」

「もしそれが償いになるんだと思ったなら、あの私に伝えてもいいし、エイジやお父さんに伝えてもいいけど、それを私から強要するのはなにか違うでしょ?」

「そう……なんですか……?」

「どうかしらね……」

 

 ユナも自分の言葉に確信が持てているとは言い難い様子でした。

 

「エリちゃんは、私にとって友達だからね……。あんなことがあって悲しいけど、だからって不幸になってほしいわけじゃないのよ。――うん! たぶんこれが一番今の感情に近い言葉ね!」

 

 ユナは迷いは振り切れたというような、晴れ晴れとした笑顔に変わっていました。

 それはステージで歌っているユナのような強さのある表情でした。

 

「逆に聞くけど、ユイちゃんはどうなの? エリちゃんのことをどう思ってるの?」

「わたしにとって家族です。本当はわたしが守ってあげないといけないのに、そんな状態でもわたしを愛してくれる、大切な人です!」

「そっかー。ふふふ……。エイジもね、私にとってそんな人だったわ……」

「知ってます」

「……だからエイジにも不幸になってほしくないのよ。でも上手くいかないのよね。――歌ったら届くかしら?」

「はい」

 

 わたしの言葉に目を丸くして驚くユナ。

 

「わたしは知っています。SAOで歌っていた頃のあなたを。それを聞いて感じたお姉ちゃんの心を。だから届きます」

 

 心のないAIでも、心は伝わるのだとわたしは思いだしました。

 SAOでわたしが消滅するかに思えたあの瞬間。モニタリング機能を越えて感じたそれは、わたしとお姉ちゃんの心が一体となった証明でした。

 だからユナの心も届くはずです。

 わたしの大切なお姉ちゃんが信じるあなたなら。例えAIになったとしても。必ず。

 

「そっか。そうだよね。まずは私が信じなくちゃ、届くものも届かないか」

 

 ガラスの向こう側で、煌びやかに輝いていた証明の光が消えました。

 それと同時にステージ上のユナは姿を消し、オーグマーはオーディナルスケールを強制的に起動させていきます。会場には無数のボスエネミーがダウンロードされており、出現数の制限も解除されています。

 

「始まったわ。ユイちゃん。あなたには第100層ボスバトルのイベントキャラクターとしてリソースを割り振ります」

「わかりました。でもそのまえに、協力者を集めます。ポートを開けられますか?」

「任せて」

「ユナさん。――ありがとうございました!」

「お礼を言うのはまだ早いわよ」

 

 そうかもしれません。

 でもすべてが終わってから伝える暇があるかもわからないのですから、わたしはここで言っておかなければならなかったのです。

 

 

 

 わたしたちは人間の手によって創造されたAIに過ぎません。

 それでもわたしたちには譲れない、大切な人がいるのです。


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