レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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58話 眠れる者のための二重奏(8)

 アインクラッド第100層。

 俺たちはオーディナルスケールの姿でこの場所へ送り込まれた。

 眼前には人間が押してどうにかなるとは思えない大扉があったが、俺が軽く押すと扉は誘い込むように自然と開かれた。

 隙間から覗く光景は円柱状のコロッセオのような場所だった。

 まるで階層を繋ぐ柱状のダンジョンを空洞にしたようなサイズがあり、天井にはSAOでついぞ見ることの叶わなかった次層の底がない青空が広がっている。

 75層のこともあり、俺たちは慎重に中へと足を進めた。

 

 ――そして奥に佇んでいた巨大な人影が動き出す。

 

 それはオブジェクトかと思ったほどの大きさだった。巨人は身じろぎをすると、身体に停まっていた鳥たちが一斉に羽ばたき、空の見える天井へと去っていく。

 遠近感が狂いそうだ。

 あの赤と黒のローブを纏った女性型巨人は俺の感覚が鈍っていないのであれば、目測で50メートルもある……。そのようなモンスターはSAOではお目にかかれなかった。あるいはイベントの一環かと一縷の望みを賭けたが。

 

 『An incarnation of the Radius』

 

 ボスを表す定冠詞。名の横に浮かぶ緑のHPバー。その数は10本。

 間違いなくこいつこそが、俺たちの倒すはずだったSAOのラスボスだ。

 HPバーの数自体がHPの総量を表すわけではないとはいえ、絶望的な強さを持っていることは疑いようはない。

 

「来るぞ、皆!」

 

 空気を鈍く引き裂く轟音が鳴る。

 ボスが隣に突き刺さっていた塔のようなサイズの剣を片手に持ち凄まじい速度で迫ってきたのだ。

 ボスの移動方法は歩行ではなく浮遊。全体の大きさからすれば微々たる高さに思えるが、実際には数メートルの高さまで浮かび上がっている。

 迎え撃とうと一歩を踏み出すと違和感を覚えた。

 身体が軽い。ここはSAOではなかったのか? いや。ボスエリアに踏み入れるまではこうではなかったことを考えると、この空間に特殊な設定がされていると考えるべきだ。

 突出してターゲットを得た俺に大剣が降り注ぐ。

 サイズがあまりにも大きすぎて、回避よりもガードを優先。

 

「がっ!?」

 

 次の瞬間、俺の身体は地面にめり込んでいた。

 HPは……2割のダメージで済んでいる。

 

「キリト!」

「平気だ。それよりこいつを――」

 

 声をかけたリズに向かってボスが顔を向けると、血の涙を流すしたような紅い瞳が輝いた。

 視線が太い光の帯となって彼女のいた場所を襲う。それは数十メートルもの距離を瞬き程度の時間で駆け抜け、石床を焼き、通り過ぎた箇所が一泊遅れて爆発に飲まれた。

 

「リズ!」

「生きてるわよ!」

 

 彼女も俺と同様に盾を構えてガードしたようだ。しかしその威力たるや、彼女は遥か彼方に吹き飛んでおり、熱線の過ぎ去った場所は修繕不可能な傷跡を残してる。

 

「アアアアアアアアアア!」

 

 ボスの甲高い叫び声。

 

「ふん!」

 

 エギルが跳んだ。ありえないほどの跳躍。彼は一足でボスの頭部の位置に到達していた。なるほど、こういうギミックか。

 全身を使ってエギルは大斧が振り下ろす。

 だがその攻撃は薄い光の壁に阻まれた。バリア持ちだ。

 

「アスナ。指示を!」

「わかった! キリト君とエギルさんは交代でタンク。皆は横から攻撃を加えて。バリアが剥がれないか試します」

 

 エギルに向かって伸ばされた左腕を俺は瞬時に跳びあがり切り払う。

 ボスの身体は思ったよりも軽く、その巨体に見合わない速度で弾かれた。

 

「オーディナルスケールの仕様だ。軽いぞ」

 

 続く熱線。盾で受けると俺はコロッセオの外周まで吹き飛び、螺旋上になっている通路に押し込まれた。

 戦闘のサイズ感が著しく大きい。いくらアスナの声がよく響くからと言って、この距離ではまるで聞こえなくなる……。

 俺は近くに輝く白い光――オーディナルスケールの回復アイテムに触れてHPを癒す。回復速度も回復量もSAOのポーションより数段上だが、探して回るのは手間そうだ。

 俺はすぐに戦線に戻るも、背後から斬りかかったシリカが髪に思われていた6本の束に襲われて入れ違いに跳んでいく。背後からの攻撃対策も万全らしい。

 

「シリカ。慌てるな。回復してから戻ってこい!」

 

 聞こえたかどうかわからないが叫んでおく。

 HPが互い確認できないのもキツイが、ボスだけわかるのは温情か。

 俺は攻撃を受け続けていたエギルと交代するもタゲが安定しない。オーディナルスケールのボスモンスターは一定間隔でヘイトをリセットするはずだ。

 ならば俺がするべきは攻撃を弾く攻撃的な防御である。

 剣も拳も、こちらの武器を命中させればそれなりに防げる。問題は熱線。あれを受けて一時戦線から外される方が問題だ。

 

 視界の端ではアスナも攻撃に参加している。

 この人数では指示も必要だがなにより頭数が足りていない。

 彼女の鋭い突きの連撃で、ついにバリアが甲高い音を奏でてガラスのように割れた。

 

「一斉攻撃!」

 

 行動パターンが変化することも考慮しながらも、アスナの指示に従って俺たちは即座に攻撃へ移った。セオリー通りに考えるなら慎重に攻めたいところだが、時間がない。

 ボスも必死に抵抗を始め、身体をその場で回転させて触手を積極的に使いだす。

 この触手を斬ってもダメージはあるようだが、本体ほどではないようだ。

 あとは……。身体中に存在する埋め込まれた宝石が怪しい。だが破壊可能かはわからないし、いかなるギミックかもわからない。

 アスナの指示はないので、ひとまず肩に乗って顔を攻撃していく。

 

「アアアアアアアア!」

 

 ボスはしばらくすると絶叫して俺たちを音の衝撃波で弾き飛ばす。再び攻撃に戻ったときにはバリアが再出現していた。

 バリアが解除されてから総攻撃でおよそ2割といったところか。

 攻撃力が、人数が、時間が足りない……。

 クリアするための前提条件が整っていないのだ。

 このままでは――。

 

「お待たせしました!」

 

 俺は戦闘中にもかかわらず振り向くと、巨大な石造りのモニュメントの上に立つユイがいた。

 彼女は黒と紫の色彩をした、肩の露出する衣装を身に纏っている。俺の記憶が確かなら、それはユナの着ていたコスチュームだ。

 

「皆さんを呼んできました!」

 

 彼女の背後にある光が差し込む大窓から、複数の影が飛び出してきた。あれは……。

 

「楽しんでるな」

「遊びじゃないぞ」

 

 ALO事件で手を貸してくれたプレイヤーたちだ。

 ユージーンやサクヤ、アリシャ・ルー。彼らに続いてサラマンダーとシルフ、ケットシーのパーティーが滑空してボスエリアへやってくる。

 

「お兄ちゃん!」

「ス――リーファ!?」

「お兄さんー!」

「………………」

 

 シルフのパーティーにはリーファや、ついでにレコンの姿もある。

 彼らはALOのシステムのままここにやってきて、飛行状態でボスへ斬りかかる。

 

「ボクらスリーピング・ナイツ! 義によって助太刀に参上だよ!」

 

 さらにはスリーピング・ナイツの面々まで勢揃いだ。

 

「アアアアアアアア!」

「しまっ――!」

 

 予期せぬ仲間の到来に舞い上がっていた俺は初歩的なミスを犯してしまった。

 ボスがその巨大な剣を使い、石床を巻き上げながら俺に斬りかかっていたのだ。

 だがその攻撃が命中する前に俺の隣を通り過ぎてボスの前に立つ人物がいた。

 

「おいおい。どうしたよ、相棒」

 

 無精髭を生やして趣味の悪いバンダナを巻いた男が、抜刀した刀でそれを受け止めたのだ。

 

「クラ……イン……!」

 

 彼に追いついた5人組が、支えられた巨剣に攻撃を合わせて押し返す。

 当然彼らは風林火山のメンバーだ。

 

「よう」

「お前、記憶が……」

「ま、お前のピンチだ。来ねえわけにはいかねえだろ?」

「調子いいこと言いやがって……」

「なんだ、キリト。ははっ。お前泣いてんのか?」

「泣いてねえ!」

 

 いつもいつも……。ああ、そうだよ! お前はそういうやつだよ、クライン。

 

「ありがとう」

「礼ならメシを奢ってくれりゃあ、チャラにしてやんよ」

「しかたねえなあ!」

 

 高校生のガキに集るなんてどんな神経してやがるんだ。

 まあいいさ。お前にはそれだけ借りがある。

 

「皆さん。これを使ってください!」

 

 ユイの言葉を皮切りに、俺たちの姿が変わる。

 ……懐かしい姿だ。それは紛れもない、SAOでの装備だった。

 俺の背にはかつての相棒エリュシデータが、左腕には黒猫の盾が握られている。

 クラインや、アスナたちも同様にSAOでの装備に切り替わっていた。

 

「このSAOサーバーに残っていたセーブデータから皆さんの分をロードしました。さあ、戦闘開始ですよ! 準備はいいですか? ミュージックスタートです!」

 

 どこからか、BGMが流れ出す。

 そして――ユイの口から歌が紡がれた。

 同時に視界にはステータスアップのアイコンが次々に表示されていく。

 

「これ、ユナの……」

 

 シリカの疑問はもっともだ。

 ユイの口遊むそれは、ユナの歌であり、ユナそのものの声であった。

 AIであるユイがそれを完璧に再現できることはなんらおかしなことではない。

 だがあまりにも自然だ。そもそもユイの声は、思い返せばイントネーションこそまるで違うものの、ユナの声質によく似ていた。

 

「妖精の皆さん。魔法は防御と回復を優先してください。攻撃魔法はまず温存で行きます。近接攻撃の得意な人は攻撃を開始。背後は触手の攻撃が来るので注意。目から出る熱線にも注意してください」

 

 アスナの声で我に返る。

 俺はクラインと並んでボスへの攻撃に加わった。

 ボスは想像絶する巨体だが、それが仇となってほぼ全員からの攻撃に晒されている。

 もちろん身動ぎひとつでプレイヤーを蹴散らしていくが、それでも30人を超える全員がやられるわけではなく、ユイのバフによって防御力も上昇しているため死者はいない。

 バリアは先程までの苦労が嘘のようにあっけなく割れ、1本目のHPバーはたちどころに無くなった。

 

 ボスがHPの2本目に入り解放した能力は装備変更だった。

 左手に地面から生えてきた槍を装備して、攻撃パターンが若干の変化を起こす。

 さらには右手の武器を槌に変えたり、短剣を生み出して投擲するなど、ソードスキルを網羅する勢いだった。

 俺たちは運がいい。ALOのプレイヤーもソードスキルならいくつか覚えがある。それに……。

 

「いくよー!」

 

 ボスの槍によるソードスキルを、ユウキが正面から打ち破る。

 どうやらALO組はオーディナルスケールでもSAOでもなく、ALOのシステムが適応されているようで、OSSが使用できている。

 片手槍の6連撃ソードスキルはユウキの生み出した驚異の11連撃で、1回の刺突に対して3回の刺突を命中させるという離れ業で押し返し、残る2回の刺突がボスのバリアに傷を付ける。

 そこにスリーピングナイツのメンバーが攻撃するとバリアは再び砕けた。

 

「野郎ども! 俺たちも根性見せるぞ!」

 

 クラインの号令で風林火山が動き出す。

 

「カルー、オブトラ、右足の健狙え! オブトラ、ジャンウー、お前らは左足だ! トーラス、押し倒せ!」

 

 5人が連携してボスのバランスを崩し、その巨体を前かがみに()()()

 

「見せ場はもらってくぜ」

 

 クラインは刀を鞘に納めた状態で腰を低く構えている。

 溜め時間で威力の上昇する抜刀術のソードスキルだ。それを最大までチャージした一撃がボスの首を捉え、HPバーの2本目がなくなった。

 

「おわっ!?」

 

 クラインが突如打ち上げられる。それはボスの新たに解放した能力のせいだ。

 どうやら3つめの能力は地形操作のようだった。周囲の石床がブロック状に浮かび上がり、巻き込まれた何人かのプレイヤーが一緒に空へ舞っている。

 

「アアアアアアアア!」

 

 そこに叩きこまれたのは瞳から出る熱線。

 浮いているプレイヤーに狙いを定め横一閃にしたそれは空中の足場を次々に爆発させた。

 花火跡のように煙が漂い、ダメージを受けたプレイヤーたちが落下してくる。

 

「SAOサバイバーも大したことがないのだな」

「なんだとお!」

 

 クラインを煽るユージーンの率いるサラマンダー隊が、ボスへ飛翔して襲いかかった。

 どうやらALOアバターはSAOアバターに比べて攻撃力が低いようだ。ALOがレベル制でないからかもしれない。

 それでも立て続けの攻撃にバリアを破壊されてボスは3本目のHPも失う。

 

「ダメージを受けた人は下がって光る回復アイテムに触れて傷を癒してきてください」

「アスナ!」

 

 アスナの元に地面から生えた樹木が襲いかかる。

 俺は彼女とボスの間に割り込んで盾を構えるも、壁際まで伸びて木に拘束された。

 

「キリト君!」

 

 俺は樹木にどうにか剣を突き立てると、耐久値のなくなった部分が崩壊して拘束が弱まる。

 

「お兄ちゃん、動かないで」

 

 文字通り飛んできたリーファが上段に構えると、そこから美しいフォームで剣が振るわれ樹木の拘束が両断された。

 壁に縫い付けられる形でいた俺は当然落下していくが、地面に落ちる前にリーファがキャッチして空中に留まる。

 

「ありがとな」

 

 俺の拘束されていた場所はものの見事に壁が崩れていた。

 HPへのダメージは3割くらいか。壁に叩きつけられたときのダメージが大きかったせいだろう。

 回復アイテムに触れて復帰する頃にはすでにボスのHPは5本目に入るところだった。

 

 順調だ……。だからこそ不安を感じる。

 SAOのラスボスということだけあって十分に強い。ユイのバフがなければかなり危なかっただろうし、ALO組の魔法や飛行能力も十分バランスを崩壊させるファクターになっている。オーディナルスケールの仕様に基づき弱体化している可能性もあった。

 だがこの程度なのか?

 75層のボス『ザ・スカルリーパ』と比較すれば弱いとさえ言える。スカルリーパーは軽装なら即死させるほどの攻撃力を持っていたくらいだ。

 序盤弱いボスは、後半に莫大なスペックを秘めているのが常である……。

 

 歯車が噛み合うように、ボスが動き出す。

 最初は足場を浮かばせてから熱線のコンボ。そこから両手剣の突進系ソードスキルと、バリアの再生に伴う衝撃波。残っていたプレイヤーを触手の薙ぎ払い、樹木の生み出して拘束すると今度は一転して動きを止めた。

 ボスの背後からは大樹が生えだし、緑の葉をつける。その大樹に空から光が差し込むと、朝露の如き滴が生成され、ボスの頭上に零れ落ちた。

 

「そんなのありかよ……!?」

 

 誰かが苦言を漏らした。

 ボスのHPが急激に回復を始める。それは枯れ果てたはずの4本目のバーにまで枠を超えて癒してしまったのだ。

 

「次の回復行動には攻撃魔法で優先的に妨害。バリアの再生間隔はおよそ2分。衝撃波に警戒してください。今後は私がカウントします。後衛の皆さんは樹木に」

 

 吹き飛ばされたプレイヤーが再度ボスの周囲に集まると、アスナは気丈に指示を飛ばした。

 士気は下がりきっていない。まだやれる。だが時間はない……。

 

「DPS、上げていくぞ!」

 

 俺は持てる限りの力を出して攻撃を繰り返す。

 ヘイト管理は無意味なため、とにかくいかに攻撃を掻い潜りダメージを出すかということに戦闘はシフトしていた。

 樹木による拘束攻撃はHPバーが回復しても使用可能なようで丁度レコンが捕まったところだ。

 レコンが救出されていく間もこちらの攻撃は止まず、バリアはすぐに剥がれ、再び5本目のバーを削りに入る。

 

 ……洗練されていっているのはこちらの動きだけではない。ボスもまた、高い学習能力で対応能力が上がっていた。

 熱線攻撃で視界を潰してから行われる樹木の生成は回避が困難で、サポートに回っている魔法部隊の足場を適時浮かせては突進系ソードスキルで陣形を崩しにかかってくる。

 一部のトッププレイヤーはまだ喰らいついていられたが、そうでない仲間はほとんどの時間を回復や移動に費やされていた。

 

 それでも俺たちはどうにかペースを落とさずに5本目のHPは削りきる。

 誰も欠けることなく、ついにボスのHPが半分を切る。

 解放された能力を見るのは直後のことだった。

 

「きゃあ!」

 

 ――歌が止んだ。

 ユイの足場が浮かび上がり、さらに壁の一部が四角いブロック状で飛び出して彼女を押し潰さんと、空中で万力のように挟み込んだのだ。

 ステータス上昇アイコンが消失していく。

 

「ユイ!」

 

 駆け付けようとしたプレイヤーをボスは丁寧に触手で払い落としていく。

 おそらくこの攻撃も樹木と同じように耐久値の設定された拘束攻撃のはず。一番に辿りついた俺は空中でソードスキルを用いて石材ブロックの破壊を試みる。

 

「アアアアアアアア!」

 

 狙っていたのだろう。

 次の瞬間放たれた熱線が、俺たちを彼方へと吹き飛ばした。

 

「ユイイイイイイイイ!」

 

 錐揉みをしながら遠ざかる俺はソードスキルの硬直で動けない。

 別方向に飛ばされたユイを執拗に狙うボスは、樹木を生み出してユイを再び拘束する。

 石材ブロックがどれほどのダメージだったかわからないが、間違いなくユイのHPは半分を切っているはずだ。

 ボスは止めと言わんばかりに細剣の最上級突進系ソードスキル『フラッシング・ペネトレイター』を開始した。

 箒星のようにエフェクトの尾を引いて飛び去るあのソードスキルは多段ヒットする。壁に拘束された状態で受ければ間違いなくHPは全損だ。

 

 硬直の終了した俺は手を伸ばす。

 眼前の光景に、サチが死んだときの光景が重なった。

 襲い来るモンスターの大群に成す術もなく押し潰され、分断された仲間たちが1人、まだ1人とその身体をポリゴンの欠片に変えられていく。

 サチと俺の距離はいつの間にか離されていた。

 俺がカバーに回る暇もなく、囲まれたサチに淡々とモンスターの剣が突き刺さる。

 彼女のHPはどんどん減少して、黄色、赤色と経てついに……。

 

 間に合え。間に合え。間に合え!

 そう望んでも突進系ソードスキルでは埋めようのない距離の開きがある。

 重力が軽くなり動き易くなっていても、ソードスキルそのものの射程が変わったわけではないのだ。移動に用いるソードスキルの使い勝手は、この場では役に立たなくなっている。

 

 誰か、間に合ってくれ!

 ここには30人以上ものプレイヤーがいるのだ。

 俺でなくてもいい。だからユイを……!

 

 低重力の影響で高速に動き回るプレイヤーの中でも一際速い誰かがボスの正面に駆けつける。

 そいつは信じられないことにソードスキルでボスの突進と競り合った。

 拮抗する点と巨人。

 2人の姿は余波で巻き上がった土煙に消える。

 

 

 

 攻撃は――止まった。

 

 

 

 たたらを踏むようにボスが仰け反る。

 土煙はすぐに晴れ、着地したプレイヤーの姿が露わになった。

 右手には片手剣と見紛うほどの巨大なダガー。

 左手はだらりと下げた片手フリーのスタイル。

 見るからに軽装な防具の上から黒いフード付きポンチョを羽織っている。

 被ったフードで顔は見えないが、そこから覗く口元は三日月のように吊り上がっていた。

 この場にいるSAOサバイバー全員が目を疑ったはずだ。

 

 

 

「Hey Black cat.――It's showtime!」

 

 

 

 流暢な英語が愉快そうに木霊する。

 SAOを恐怖に沈めた最悪のレッドプレイヤー、()()()がそこにいた……。

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