レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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75話 棺桶に感傷を(5)

 イベントダンジョン後のインスタンスエリア。

 モンスターの再出現(リポップ)がなく、迷宮を移住スペースに改良したこの場所はメンバーからも好評だ。

 ラフィン・コフィンは黒鉄宮の他にもいくつかの拠点を持っている。というか、幹部メンバー――いつもの5人以外はあの場所のことを知らない。

 だから集会なんかをやるときは別の拠点を使うわけだ。

 

 俺が寝泊まりしている場所は日によって異なるが、大抵は黒鉄宮地下に用意された牢獄の一室だ。

 しかしメンバーから住んでいる場所を勘繰られないよう、わかり易い場所を用意しておけとPoHから指示されており、こちらにも私室を設けることになった。

 今日の任務はその私室のの飾りつけだ。

 盗まれて困るような大事なアイテムは置かず、住んでいると思わせる程度の家具は配置しておけと言われたので、ベッドやチェストボックス、ついでにクリスマスパーティーで使った道具なんかも置いてみた。

 

 すでにカレンダーは5月。

 季節感は滅茶苦茶だが、このダンジョンは青白い水晶のような壁をしている。

 それはさながら氷の城を思わせる幻想的な様相で、冬のイメージを彷彿とさせていた。だからあながちミスマッチでもないと言い訳をしておこう。

 

「ジョニー。いるか?」

 

 ノックの後にPoHの声が通路からした。

 

「なんか用?」

「ん。ちゃんとやってるみたいだな」

「ボス。いくら俺でも部屋の飾りつけくらい1人でできるぜ……」

「だろうな。いくらなんでもそんな心配はしてない。別件だ」

 

 PoHは部屋に入るなり、システムウィンドウを操作する。

 おそらく偵察スキルを使っているのだろう。

 ここは俺たちの拠点であるが、メンバーはアウトローの連中ばかり。

 そこかしこに馬鹿が潜んでいてもおかしくない。

 彼は周囲に盗み聞きをする不届きな輩がいないのを確認できたのか、話を続けた。

 

「最近エリの様子がおかしい。何か知らないか?」

「エリにゃん? そういやあんまし見ないね」

 

 黒鉄宮地下にまったく顔を出さないというわけではないが、言われてみれば頻度は最近少ない気がする。来ても淡々と事務的な確認作業しかしていないような……。

 忙しいのだろうか。

 でも攻略組は辞めたわけだし、ラフィン・コフィンも大きな事件は起こしてない。

 小さな事件は日常的にあるから、そのせいだと言われればそれまでだが。

 

「こいつに見覚えはあるか?」

 

 PoHが差し出してきたのは1枚のブロマイド。

 そこにはマイクを手にした女性が写っていた。

 栗色のセミロング。歳は成人していない程度。装備は全体的に白のカラーリングで統一されている。背景は夜空だが、強い光が当たっているようで不自然な方向から影が伸びていた。

 

「誰……?」

 

 どこかで見たような気もするが、思い出せない。

 

「名前はユナ。ストリートシンガーだったらしい」

「ストリートシンガーって、SAOで?」

「ああ」

 

 変わったことをするプレイヤーもいるものだ。

 

「エリとは親交があったようなんだが、そいつが死んじまってな」

「それが原因ってこと?」

「どうだろうな。そんなことは今までも何度かあったんだが……」

「ふうん」

 

 25層のことや、ラフィン・コフィンを作ったときに湧いた馬鹿な部下のことだろうか。

 俺は受け取ったブロマイドを角度を変えながら眺めていると、頭の片隅に閃くものがあった。

 

「あっ」

「どうした?」

「もしかしてこいつが死んだのって先月?」

「そうだ」

「……そんときいたかも。エリにゃんとバッタリダンジョンで鉢合わせてさ。トラップに嵌ってたプレイヤーをエリにゃんが始末したんだよね……。もしかしたらその子かもしんない。知りあいっぽかったし」

 

 たぶん、トラップにかかったプレイヤーを逃がそうとしたやつだ。

 救助されたプレイヤーは俺が直接ハイドアタックで殺したわけだが、彼女の方はエリにゃんがトラップレバーを使ってブチ殺した。

 そのときのエリにゃんは、すぐに他のプレイヤーがやってきている事を警戒して撤退を促すなど、冷静に見えたのだけど……。

 

「もしかして不味かった?」

「いや……。別に……」

 

 PoHにしては歯切れの悪い返答。

 フードに隠れた素顔は、今どんな表情をしているのか窺い知れない。

 

「話はそれだけだ」

 

 そう言うと彼は立ち去り、俺は家具の設置作業に戻った。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 それから1週間も経たないうちに、俺とザザはPoHに呼び出されていた。

 時刻は深夜。場所はフィールドの外縁部。

 見渡す限りの荒野で、モンスターの出現数は多くない。

 わざわざ黒鉄宮などの拠点ではなく、こんな場所を指定したのには些かの疑問があったものの、そこはPoHを信頼して黙って向かうことにした。

 偵察スキルを使っても他に人影はなし。

 隠密ボーナスのかかる木陰なんかもないことから、集まったのは俺たち3人だけであるのは間違いないだろう。

 

「ようやく来たか」

「時間通りでしょ?」

「そうだな」

 

 PoHの声は感情の起伏を感じさせない、淡白なものだった。

 冷たい風が一陣吹き荒び、背筋を凍らせる。

 夏も間近というのに妙な風だ。

 

「PoH。本題は、なんだ?」

 

 ザザが急かすように問いかける。

 そこでようやく、俺も異常な雰囲気を感じて気を引き締めた。

 

「情報屋が嗅ぎつけてる。そろそろ潮時だ」

「ラフィン・コフィンのこと? んー……。残念だけど仕方ないっか。まあ、また5人でやっていけばいいだけだしね」

 

 ラフィン・コフィンという名は気に入っていたけど、規模が大きくなりすぎて末端の構成員なんんてほとんど他人だ。

 ここらでごちゃごちゃした関係を清算してしまうのも悪くはない。

 

「黒鉄宮での集まりも終わりだ」

「…………え?」

 

 自分の耳を疑った。

 

「どういう、こと……?」

「ALFとの繋がりに勘付かれた。だから、長居は無用だ」

「なら新しい場所に移るんだよね?」

 

 俺の声は震えていた。

 彼が言おうとしていることは理解できていた。

 けれども問わずにはいられない。

 否定してくれと願わずにはいられなかった。

 

「いいや。俺たちの集まりは、これで終いにするって言ってんだ」

「なんでだよ、ボス!?」

 

 PoHに掴みかかるも、あっさりと振り払われて地面に転がる。

 彼は短剣捌きもさることながら、体術に関しても一流だ。

 でもそんなことは関係なく、力が抜けて震え出すほど動揺していたせいかもしれない。今の俺は、少し押されただけでも倒れるくらいに脆弱だった。

 起き上がれず、両手を突いてPoHを見上げる。

 その大き過ぎる影は暗雲を背に、世界の終焉を告げていた。

 

「丁度いい場所があったから身を寄せ合ってただけだろ。俺たちの関係なんて、所詮そんなもんだ」

「俺はっ……。俺はそうは思ってないよ……」

「………………」

 

 地面に染みが作られていく。

 ボロボロと降り注いでいる液体は、涙だ。

 ジョニー・ブラックの流す初めての涙だった。

 金本敦だった俺は辛いことも苦しいことも沢山経験してきたつもりだが、こんな胸が張り裂けそうになるほどの悲しい感情は味わった事がなかった。

 PoHを引き留めようと口を開くも、嗚咽が溢れるだけで言葉にならない。

 

「情報屋を、殺せば、いいだろ」

 

 ザザもPoHの考えに反対してくれる。

 彼もバラバラになるのが惜しいと感じてくれているのだろうか。

 

「相手も対策くらい立ててるさ。それに殺しちまえば話に真実味が出る。むしろ悪手だろうな」

 

 対してPoHは取りつく島がなかった。

 彼の中でラフィン・コフィンが、俺たちの集まりが、解散することはすでに決定事項なのだろう。

 もしそうなら、この話はどうにもならない。

 PoHは俺たちの中核だ。

 彼が抜けてしまえば俺たちは立ち行かない。技術やコネクション云々ではなく、集団として。PoHを欠いたまま再結集したとしても、それは最早別の集団だ。

 

「エリと、キバオウは、なぜ、ここにいない?」

「疑われてるのはエリだ。だから一芝居打って疑いを晴らす」

 

 疑いが晴れれば、また集まればいいじゃないか。

 だがなにかが駄目なのだろう。

 PoHにその気がないのは明白だ。

 

「それとこの件は2人は秘密にしておけ。寝首を掻かれるぞ」

 

 ……そう、だろうか?

 キバオウはまだしも、エリにゃんなら喜んで芝居に協力してくれる気がする。

 だってエリにゃんにデメリットはない。

 ならなんで隠そうとするのか。

 

 PoHの言動には違和感があった。

 ラフィン・コフィン、延いては俺たちの解散。

 エリにゃんには秘密の作戦。

 しかしエリにゃんのための作戦。

 ()()()()()()()()

 

 思い出したのは先日彼が訊ねてきた際の出来事。

 エリの様子がおかしいと心配していたことだ。

 それらが頭の中で一本の線となって繋がっていく感触がした。

 

「……もしかして、俺の、せい? 俺がエリにゃんの知り合いを殺させたから?」

 

 エリにゃんが俺の思っている以上にショックを受けていたのだとしたら。

 俺たちとエリにゃんを引き離すために解散だなんて言い出したのだとしたら。

 

 PoHがエリにゃんのことを好いているのはなんとなくだが察しがついていた。

 昔はキバオウからそれとなく庇う程度だったが、最近の行動は結構露骨だ。

 わざわざ彼女の部下から裏切りそうな不穏分子を炙り出していたし、俺の指導をしてくれたことやラフィン・コフィンの設立は、エリにゃんに過分に影響された結果だろう。

 エリにゃんはALFで教官役に抜擢されていて、部隊の隊長だからだ。

 他にも日々のちょっとした言動は、好意の裏付けにするには十分だった。

 俺は全員が平等に大切だけど、PoHはエリにゃんが1番で、優先順位があった。

 これはそういうことなんじゃないだろうか。

 

「……違げえよ」

 

 否定の言葉も、そう考えるとどこか嘘くさい。

 

「俺が悪いなら謝る。エリにゃんにだって頭下げる。だから考え直してくれよ!」

「違うって言ってるだろうが! それと余計なことはするな。いいか。わかったな?」

 

 声を荒げるPoHも、命令を強制するPoHもらしくなかった。

 けどきっと、これがフードに隠していた彼の素顔なのだろう。

 その顔はカリスマに溢れた天才シリアルキラーではなく、好きな女性のために必死になる普通の人間の顔だった。

 

「ザザ。お前はどうする?」

「エリも、殺せばいい。それで、解決だ」

「ほう。いい考えだ」

「……冗談だ」

 

 口先で肯定してみせたが、ザザが自分の言葉を撤回していなければ確実に殺していただろう。

 彼はそうやって殺す人間だと俺は知っている。

 

「ボス……。俺にはここしかないんだ。この先どうしたらいいんだよ……」

「どの道このゲームがクリアされたら散り散りになるんだ。それが早まったと思えばいい」

「SAOが終わっても、俺は皆と一緒にいたいよ」

 

 以前にもPoHに言われていたことだ。

 俺は意気揚々と皆にリアルの連絡先を聞いてみたが、返事は揃って拒否だった。

 仮にSAOがクリアされるまで生き延びることができたとしても、向こうに帰ればそれぞれの生活がある。それは決して交わらないし、SAOと同じようには振る舞えない。

 だから会えても不幸なすれ違いしか生まれないのだとPoHは諭すように俺へ語ってくれた。

 たしかに向こうでは人殺しなんて簡単に出来るものじゃない。

 でもそれを抜きにしたって皆と一緒がよかった。

 

「ジョニー。諦めてくれ……」

 

 PoHは俺に手を差し伸べた。

 その行為に俺はPoHの葛藤を感じた。

 あくまでPoHはエリにゃんが1番というだけで、俺たちに対して未練はあるのだと信じたかったからかもしれない。

 でもそうでなければ、こうして俺やザザを呼び出して説明などせずとも、勝手に1人でやってしまうことだって出来たんじゃないだろうか。

 だけど……。それでも……。

 PoHに俺は選ばせてしまったんだと思う。

 エリにゃんに辛い想いをさせるくらいなら、ラフィン・コフィンなんてなくなってしまえと。

 

 俺はPoHの手を取って立ち上がる。

 きっと、これは彼に手を取ってもらえる最後の機会なのだろう……。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 PoHの立てた作戦は2段階に分かれていた。

 1段階目はエリにゃんの誘拐。

 2段階目はエリにゃんを攻略組に奪還させるというものだ。

 エリにゃんには裏切られたと騙されてもらう必要があり、攻略組はエリにゃんが俺たちと組んでいなかったと騙す必要があるらしい。

 そういった作戦立案は俺もザザも不得手とする部分で、PoHの説明を聞き逃すまいと耳を澄ませる他なかった。

 

 エリにゃん誘拐に伴う問題点はいくつもあった。

 俺たちが彼女を裏切ることに不自然さを感じさせてはいけないこと。

 彼女を誘拐することが極めて難しいこと。

 エリにゃんが俺たちに誘拐されたと攻略組に伝えることなどだ。

 これらを一挙に解決する手立てとしてPoHは件の情報屋を利用することにした。

 情報屋を通してエリにゃんに偽情報を伝えさせて誘き出すという作戦だ。

 餌に、エリにゃんの旧友であるリズベットという鍛冶師プレイヤーが抜擢されたのは情報屋からの提案だった。情報屋も俺たちの拠点を知るため信頼を得ようと必死だったのだろう。

 

 エリにゃんがリズベットを助けず見捨てるような選択をした場合は、難癖をつけて戦闘に移行させるという多少強引なサブプランもあったが、そこはPoHの演技力でカバー。

 メインプラン通りにエリにゃんだけを回廊結晶の門に弾き飛ばして、拠点にしているダンジョンに隔離することに成功した。

 

「私よりアルゴを信用するんすか?」

「……お前の口車に乗せられる男に見えるか?」

「見えないっすね。命乞いするんで見逃してくれないっすか」

「ここまで来て、それはなしだぜ」

 

 俺とザザはボロを出さないようにするため極力喋らず、あくまでエリにゃんの拘束を手伝うだけという予定だったが、ここにきてザザが作戦にはない行動を起こした。

 

「エリ、俺と、デュエルしろ」

「ザザ、てめぇっ!」

 

 ザザが強豪プレイヤーを狙って襲撃しているのは周知の事実だ。

 それにエリにゃんを狙っていたことも。

 

「なあボス。俺からも頼むよ」

 

 でも俺はザザが本気でエリにゃんを殺そうとしているとは思いたくなかった。

 きっと彼は不器用で、こうするしか自分の感情を表すことができなかっただけなのだ。

 もしそうでなかったとしても、そのときは俺が止めるつもりでPoHに頼んだ。

 

「……クソッ。最後まで見てるだけかは保証しねえぞ」

「ありがとよ、ボス」

 

 PoHもそのつもりなのか、あるいはエリにゃんが負けるとは微塵も思っていないのか、ザザを渋々ではあるが戦わせてくれる。

 ザザがエリにゃんにデュエルを申し込み、これまで頑なに拒み続けていたそれをようやく彼女は承諾した。

 60秒という長々しいカウントダウンが表示され、2人は武器を構えて集中力を高めていく。

 

「エリにゃん。あんたは俺らのこと嫌いだったかもしんないけどさ。俺は……、楽しかったぜ。だからさ。あー、えっと……。ばいばい……」

 

 本当は謝りたかった。

 けどそれはPoHに駄目だと言われている。

 だから言えたのはほんの一部だ。

 一部だけど、それは紛れもない俺の本音だった。

 

 デュエルは俺では理解できないハイレベルな攻防が繰り広げられていた。

 2人は息を吐く暇も与えず、ギリギリの間合いで刃を交わし、躱し合う。

 どちらもSTRの方が高いはずなのに動きは桁外れに素早い。

 隠密状態で素早く移動すれば隠蔽率が下がって解除されてしまうのでついていくのもやっとだ。

 俺の役割は隠密状態でも使えるアイテムでエリにゃんを麻痺状態にさせること。これは俺の見つけた裏技で、自慢の必殺技だった。

 

 最初のうちは実力が拮抗しているようにも思えたが、エリにゃんの未知のソードスキルにザザの苦戦が徐々に明らかになってくる。

 彼女の見せた左右の剣を同時に扱うそのソードスキルは、1度確認しただけだが異常な連撃数だった。そうでなくとも、未知のスキルというのは対人戦のセオリーであるソードスキルの読み合いにおいてかなりのアドバンテージだ。

 それらのせいか、ペースを奪われてからは巻き返せずにエリにゃんの一方的な戦いに様変わりしてしまった。

 一度ザザの突進系ソードスキルが決まってヒヤッとさせられる場面もあったが、空中で放たれたソードスキルが勝敗を分かつ。

 

「下がれザザ。お前の負けだ」

「ああ。降参、だ」

 

 堰を切ったかのような怒涛の攻撃に、ザザは死亡する寸前まで追いつめられていた。

 間一髪でPoHが割り込んでいなければ、ザザも今まで俺が見てきた多くのプレイヤーと同じようにポリゴンに変わり爆散していただろう。

 

「エリ、お前も諦めろ」

 

 PoHは剣を合わせた体勢で語り掛けることによって時間を稼いでくれていた。

 俺はその隙に1秒でも早く麻痺が回るようにガスポーションを投げていく。

 けれども稼げた時間はほんの僅か。

 エリにゃんは刃を解くと、PoHに向かって獰猛な二刀流を披露する。ザザのHPを一瞬にして奪ったそれは、まだまだHPが残っているPoHさえも容易く殺しきることは想像に難くなかった。

 

 HPを回復したザザが加わり2対1の状況に持ち込むも、エリにゃんは苛烈さを増す一方。

 助けに入ったPoHさえあっという間に瀕死となり、しかし下がることさえ許されない。

 出来ることなら姿を現して2人の援護に回りたかったが、こうなったエリにゃんの前に10秒も立っていられる自信はなかった。

 だから俺は自分に任された役へ必死に没頭する。

 

「アハァッ……!」

 

 エリにゃんの恍惚とした表情は、獲物を喰い殺す際に見せるそれだ。

 傍から見れば最高のエンターテインメントでも、いざ向けられれば恐怖以外の何物でもない。

 思わず足が竦みそうになる。

 矛先に自分が入っていなくともそうなのだ。

 2人はどれだけのプレッシャーを感じているのだろうか。

 そう思うと俺は止まってなんていられなかった。

 

「ァァァアアアアア!」

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ここに来て、また未知のソードスキルが2本の剣から放たれた。

 輝く嵐のような連撃を、PoHは初見であるにもかかららず的確に相殺していく。

 残りの連撃数はわからない。でも直感的に手数が足りないことを感じ取る。

 ザザが駆けだしていたが回復も済んでない。

 このままでは2人揃って返り討ちだ。

 

 俺は、それでもガスポーションを投げ続けた。

 

 怖かった。

 でもそれが理由じゃない。

 俺は信じたのだ。

 PoHを。ザザを。――自分自身を。

 

「アァアアアアアア――――あっ……?」

 

 不意にソードスキルが止まった。

 エリにゃんは発動中だったソードスキルの慣性で床に転がる。

 作戦は、成功したのだ。

 

「どうにか間に合ったかぁ、な?」

 

 緊張のせいか、俺も肩で息をしたくなるほどの満身創痍だった。

 PoHの特訓もキツかったけど、こんなに頑張ったのは初めてだ。

 

「遅せえんだよ」

「ごめんごめん、ボス。でも俺だって必死にやってたんだぜ」

「ああ……。礼は言っておく」


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