レベルが高くても勝てるわけじゃない   作:バッドフラッグ

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83話 棺桶に感傷を(13)

 剣にプライドを乗せる。

 ――なんてのは、SAO上位プレイヤーの中では当たり前の行為だった。

 命懸けの状況では大抵、諦めの良いやつから順番に死んでいく。つまりプライドとは生にしがみつくための楔なのだ。

 俺は決して上位プレイヤーではなかったが、欠片ほどのプライドは持ち合わせていた。

 それ故に、SAOから生還出来たのかもしれない。

 

 しかしプライドとは厄介なもので、時にそれが原因で命を落とす。ここに俺が立っている理由もそれだ。

 きっと敗ければ、ザザはどうにかして俺を殺すのだろう。警察に通報でもすれば、後は勝手に解決してくれた可能性は高い。昔のようにザザと組むという選択肢だってあった。

 それでも俺は逃げられないでここにいる。

 全部プライドのせいだ。

 

 ようはバランスが重要なのだ。

 踏み留まるのに必要な分と、前に進むために必要な分。軽過ぎては駄目で、重過ぎてもいけない。

 ザザは今回プライドの一部を売ってでも、関係のないスナイパーと手を組んだ。SAOの頃からすれば考えられない手段だ。それほど、この勝負に本気だったのだろう。

 対して俺はPoHではなくキリトと手を組んだ。それだけ俺も必死だったのだ。

 

 だがそれで十分だっただろうか?

 勝つためには邪魔なプライドが、俺にはまだ残されていた……。

 キリトがいればこのプライドを手元に残したまま勝てるだろう。けれどそれは最善ではない。

 捨てるには難しいが、ザザを止めるという目的と比べればちっぽけなプライドだ。

 ならば俺はこのプライドさえも捨てよう。

 

 キリトたちは、ALOでエリにゃんの行方について情報を探していた。 

 そう。キリト()()だ。

 その中にはかのSAOサバイバー――ALF治安維持部隊の精鋭メンバーもいた。

 ラフィン・コフィン討伐作戦で敵対して、俺は彼らとそれっきりだった。

 PvP最強の集団。エリにゃんとラフィン・コフィンの繋がりを知っており、尚且つエリにゃんの絶対的な味方。ザザと戦う上でこれ以上の適任はいないだろう。

 問題はラフィン・コフィン、延いては俺と彼らの間に確執があるだけ。

 騙して味方につけるというのはキリトの件で失敗すると学んでいる。

 ならば俺は彼らの良心に縋り、頭を下げて、全てを晒し頼み込むしかなかった。

 頭を下げるなんてのは、言葉にすればたったそれだけのことだが、かつての俺(ジョニー・ブラック)は頭を下げるくらいなら、殺すことを考えただろう。

 それこそがジョニー。ブラックの核。

 人を殺す理由だったのだから。

 ザザを止めるために、俺はジョニー・ブラックとしてのプライドさえも捨てた。

 

「来てくれないのかと思ったぜ」

「見捨てられるものなら、見捨ててしまいたかったのですがね……。今回は隊長の行方を知るために、仕方なくです」

「そうだそうだ!」

「ぶち殺す!」

 

 口を動かしつつも彼らは手を止めない。

 応援に現れた治安維持部隊のメンバーは西側に陣取っていた3人のみ。協力を頼んだメンバーは4人だったが、1人はあえなく予選で敗退している。

 

「これで終わりだ、ザザ」

「イイぞ……。それで、こそ、だ……!」

 

 ザザのHPは残り半分。

 さらには2人と1人に分かれた十字砲火で、物陰から動けずにいる。

 彼の装備は中距離の撃ち合いに弱い。

 人数差もあって勝負は決したも同然だった。

 リロードの合間を窺っているのだろうが、その手は通用しない。俺はグレネードをタイミングを計り投擲。瓦礫の向こうで爆発が起こる。

 呆気ない幕引き――にはならない。

 

「イッツ、ショウ、タイム……!」

 

 怨嗟のような声。

 隊員の1人が、突如として現れたザザに頭を貫かれ、断末魔さえ上げられず『Dead』のタグを回転させた。

 

 油断した!?

 しかしそれでも接近を見落とすわけがない。

 隙を突かれたのは、偏に彼が何も無い虚空から姿を現したせいだ。風景を滲ませ実体を露わにしていくそれは、一部の高レベルボスモンスターが持つ透明化能力『メタマテリアル光歪曲迷彩』に酷似していた。

 駆け巡る思考が、スキャニングに映らなかった理由を解明するも手遅れ。

 死亡した隊員の隣に立つ副隊長へ、ザザのエストックが翻される。

 

「ほう……」

 

 副隊長は死にはしなかった。

 彼は不意打ちであったにも関わらず、あの一瞬で状況を判断すると、AK74を盾にエストックを防いで見せたのだ。

 さらにそれだけでは終わらない。

 アサルトライフルは近接武器のように操られ、銃口がザザへと向けられる。

 3点バーストの発砲音。

 ザザは――無傷。

 黒星はすでにホルスターへ収められており、フリーの左手が銃口を制したのだ。

 

「撃て!」

 

 残った隊員が援護射撃を行うも2人の距離が入り乱れて当たらない。俺もファイブセブンを構えたが、狙いさえつけられい有様だ。

 副隊長は後方へ跳びつつ再び射撃。

 ザザは銃弾をエストックで弾き、物ともせずに距離を詰め直す。

 

「通常弾は効かないようですね」

「貴様では、俺を、止められん」

 

 ガードに使ったAK74が貫かれる。

 

「――あとは任せます」

 

 副隊長が武器を捨てるのと、ザザがエストックを引き抜くのは同時だった。

 両手を開けた副隊長が素手での組み技を試みる。それを読んだザザは一歩後ろに退がり、左手を前にしてカウンターの構え。不意に副隊長の手が自身の腰へ伸びると、ザザが前に出た。

 ワンモーションでその場に落ちたのは、1個のグレネード。

 安全ピンは抜かれている。自爆狙いの特攻だ。

 

 ザザの腕が鋭い軌跡を描いた。

 心臓を狙った一突き。副隊長が徒手空拳で逸らして、命中したのは左胸。HPはギリギリ残っているもエストックが力技で胴体を引き裂く。流石にこれではHPも残らない。副隊長は糸が切れたように動かなくなり『Dead』のタグが頭上に浮かんだ。

 でも起爆直前のグレネードは、プレイヤーが死亡したくらいで消滅しない。

 同士討ちの懸念がなくなり、残された隊員もアサルトライフルで乱射する。

 エストックで防ぐには膨大な量の銃弾。それでもザザのHPは減らなかった。副隊長の死体を盾として活用されたためだ。

 プレイヤーの死体は破壊不能オブジェクトとしてしばらくその場に残される。

 

 グレネードは起爆前に足蹴にされ有効範囲から外れた。放物線を描き俺へと襲い掛かるそれを、銃の一射で撃ち落とし空中で爆発。

 ライフルはリロード中。タイミングが悪い。

 彼を落とされれば再び1対1か……。隊員へと向かうザザを止められるのは俺しかいなかった。

 

「ザザァアアアアアア!」

 

 見え梳いた、大振りの一閃。

 躱されても構わない。

 カウンターを警戒してのフェイントだ。

 今は1秒でも時間を稼いで、援護を――。

 

「臆したな」

 

 横を、抜けられる。

 

「待てっ!」

 

 連撃に繋げるが遅かった。

 短い刀身ではザザの背に届かない。

 手を伸ばすように追い縋るが、俺たちの距離は遠退く一方だった。

 

「死ねえええええええ!」

 

 リロードを終えた隊員のアサルトライフルが火を噴く。

 それでもザザには通用しない。

 予測線がもたらす情報を的確に捌き、回避しきれないものだけを斬り払っている。相殺しきれないダメージはあるものの、HPの減少量など1割にも達していなかった。

 小口径の威力では足止めすらままならず、無為に費やされた弾丸が火花と変わって、尾を引くように近づいていく。

 

 隊員は距離がゼロになる前に銃を投げつけると、コンバットナイフを抜いた。

 互いに単発系ソードスキルのモーション。

 大気を震わせる鋼の音色。

 勝負は一合では着かなかった。

 技量は即座に敗れるほどの差はない。

 あるいは、ザザのHPを加味すれば上回れるのではないかと期待を持てるほどだ。

 

 2人掛かりなら勝てる。そう思ったのも束の間。

 ザザの抜いた黒星が俺の足を止めた。

 近接戦をしているのに凄まじい精度だった。

 中々弾道予測線を振りきれない。

 

 覚悟を決めろ。

 俺は弾道予測線にコンバットナイフを添える。

 銃声。閃光。衝撃。

 腕ごと弾かれるが弾丸は逸れダメージは軽微だ。

 

「あぐっ……!」

 

 だが幸運は続かない。

 続く2射目は捌けずに足が貫かれる。

 バランスを崩し、俺は地面を転がった。

 この隙をザザが逃すはずない。

 

「チィッ!」

 

 死を覚悟するも、目に映った光景は隊員が決死の抵抗を持ってザザを止めたものだった。代わりに彼はHPを全損して『Dead』タグが表示される。

 最後に残してくれた時間で俺は立ち上がると、握りしめたコンバットナイフをザザに振り下ろした。

 今度はフェイント抜きの本命。

 ザザは物ともせずにそれを避ける。

 

「さあ、どうする! 残すは、お前だけだぞ!!」

 

 人数の差は4倍もあったのに……。

 それを覆すなんて、理不尽にもほどがある。

 敗北の色は濃厚だ。

 こんなの勝てるわけがない。

 

「それでも絶対にお前を止める!」

 

 すでに策を練る段階は過ぎた。

 あとは力の限り戦うだけだ。

 作戦が通用せずとも、俺は諦めていなかった。

 諦めきれず、最後の一線で踏み留まっている。

 散々売り払ってしまったが、どうやらまだプライドは残っていたらしい。

 友達の為に戦うという、譲れないプライドが。

 

「ザザアアアアアアアアアア!!」

 

 感情が実力を覆すなんて、そんな都合の良いことは起こらない。

 

「ヌッ……!?」

 

 けれども――エストックは押し返されていた。

 普通ならこんなことはありえなかった。

 ゲームシステムに設けられたSTRの数値がそれを許さないはずなのだ。

 答えはザザのHPバーのすぐ上。そこに表示された基礎ステータスダウンのバフだ。

 ガードの上からでもダメージが完全に無効化出来ないように、状態異常もまた加算されてしまう。本来防御効果の薄い近接武器でなら、ほとんど素通しだっただろう。

 

 考えられるのはリロード後に放たれた銃弾。

 あれはおそらくPvEに使われる弱体化弾頭だ。

 たった数十秒の攻防で、彼らは弱点を暴き、仲間に繋いで、勝機を見出していた。

 俺が足を引っ張らなければきっと……。

 

「この程度で、勝った気に、なるなっ!」

 

 ステータスで一時的に上回ろうとも、勝ったことにはならない。

 彼の真骨頂はパワーファイトではなく、ましてや高速の突きでさえないのだ。

 

 ザザは身体を引いて攻撃を誘っている。

 カウンターか? 違う。黒星を抜いた。バフは瞬間効果の高い弾のせいで効果時間が短い。狙いは牽制による時間稼ぎ。それに加え銃ならステータス低下の影響が少なく、俺には銃弾を防ぐ技術がない。

 

 ――これだ。

 彼の真骨頂は、戦闘の流れを即興で構築する頭の回転速度にあった。

 

 黒星の装填数はたった8発。

 クリティカルポイントに命中さえしなければ、決して脅威にはならない威力のはずだ。

 それにもかかわらず、攻めきれない。

 弾道予測線が心臓に向くたび集中力を削られる。力技は通用せず、最小限のステップで回避主体に立ち回るザザはAGI以上に機敏だ。捉えたかに思えば銃弾が身体を押し戻す。閃くエストックは多少遅くなっても十分に早い。

 

 HPは双方残り3割。

 近接武器が当たれば倒れる瀬戸際の攻防。

 過剰な集中のせいか、頭が焼けるように痛い。

 まだだ……。

 まだ、倒れるわけには……。

 

「終わりだ」

 

 ザザを縛る拘束が解かれる。

 ステータスは元の値へ戻り、イニシアチブは簡単に奪い返されてしまった。

 弾けるような刃の旋律。

 火花と共に命の灯が散っていく。

 コンバットナイフで受けては駄目だと理解しながらも、他に術がない。

 戦いの幕が下りる。その寸前。

 

「「――――っ!?」」

 

 研ぎ澄まされた感覚に頭上からボスモンスターでも現れたのではないかというほどの重い圧を受けて、俺たちは反射的に距離を取った。

 降ってきたのは紫の閃光。

 黒いコートを棚引かせた1人のプレイヤー。

 黒猫の剣士――キリトだ。

 

 彼は落下の勢いのままザザが立っていたコンクリートの地面を熱で焼き斬ると、フォトンソードを瞬時に構え直す。

 

「エリの居場所を教えてもらうぞ。ステルベン。いいや、ザザ……!」

 

 キリトは盾を回収してこなかったようで、片手が空いている。そのおかげか非常に速く、彼は残像を残してザザへ迫った。

 たしか彼は元々片手直剣オンリーのスタイルだったか……。盾がないというのはまったくハンデにならないらしい。

 

 フォトンソードの刀身は実体がないため、エストックをすり抜けていた。それもあってか、あれほど圧倒的実力を見せていたザザが、今度は手も足も出ずに防戦を強いられている。

 黒星のトリガーが引かれるも、超至近距離の銃弾をキリトは即応して切断すると、間髪入れずザザへ襲いかかる。

 距離を取ろうとしてもザザは振り切れていない。

 まるで俺とザザの差を見ているかのようだ。

 このままいけば、すぐにザザは負けるだろう。

 あとは安全圏内で黙って見守っていればいい。

 そんな悪魔の囁きに、プライドが邪魔をする。

 

 俺がザザの友であるなら。

 ――金本敦(ジョニーブラック)であるなら勝って見せろ。

 一度は捨てたプライドを拾い集め、前へ進む。

 

 黒星が狙いを定めた。

 弾道予測線は正確に俺を捉える。

 同じ轍は踏まない。

 防御の難しい下半身への攻撃。

 腰を落とした俺は、コンバットナイフで今度こそ銃弾を防ぐ。

 

 ザザは地面を滑るようにキリトの斬撃を掻い潜る、足元の死体に触れようとした。

 盾にするつもりではない。

 彼が触れたのはポーチの中のグレネード。

 コンバットナイフを投擲。

 ザザの手が貫かれる。

 違う。彼の狙い通りだ。

 今のはフェイント。

 すでに迎撃の体勢が整っている。

 間合いの中だ。

 避けられない。

 コマ送りに映る視界。

 キリトはフォトンソードを振るう。

 ザザが死んでも攻撃が消えることはない。

 しかし剣先は頬を掠めただけ。

 キリトがフォトンソードの柄で払い除けたのだ。

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 武器は己の拳。

 

 

 

 ソードスキルはいらない。

 

 

 

 PoHに教わった格闘技術に乗せて。

 

 

 

 積み重ねてきた自分をぶつける。

 

 

 

 躱そうとするザザ。

 

 

 

 振り抜いた拳は――ようやく彼に届いた。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 ザザは『Dead』のタグを乗せて倒れている。

 よもやここから動き出すことはないはずだ。

 

「ブラッキー。後は任せた」

「ちょっと待てどういうことだ!?」

 

 今の状況を中継で確認しているはずの()へ向けてハンドサインを送ると、すぐに視界が暗転して、キリトの声は聞こえなくなった。

 溺れたかのような不快感に苛まれるも、次第に重力の感覚や、皮膚の感じる暖房の温かさを取り戻していく。瞼を開けば淡い照明と殺風景な部屋の天井が瞳に映った。

 荒い呼吸のまま、身体の気怠さを無視して上体を起こすと、取り囲んでいる4人の姿を確認出来る。彼らは大会でも協力してくれた治安維持部隊のメンバーで、ここは所沢駅から徒歩3分の距離にあるインターネットカフェの団体部屋だ。

 

 BoBの大会中は不正防止のためログアウト機能が一部制限される。

 こうして外部からアミュスフィアの電源を落とすなどしなければ、ゲームから出られないのだ。

 俺は手を借りて立つと、急ぎ部屋を飛び出す。

 向かったのはザザのいる総合病院。

 走ってもすぐ着く距離だが、時間が惜しい。

 隊員の1人が運転するバイクに跨ると、俺は凍えるような夜風を切った。

 

 信号待ちも少なくあっという間に病院に着くと、受付に事情を話して面会を求める。

 半信半疑であったが、馴染みのナースであったことが幸いして俺たちは通路を通してもらえた。もちろん警備の人間は同伴だ。

 

 ザザの病室は上層階。

 ゆっくりと進むエレベーターが煩わしい。

 扉が開くと同時に逸る気持ちで俺は駆け出した。

 背後から静止する声が聞こえるも止まれない。

 憶えている病室へ跳び込めば、大会は終わったのかベッドの上で起きていたザザの姿が目に入った。

 彼の手にはのっぺりとしたプスチック製の円筒が握られている。

 

「馬鹿野郎がっ!」

 

 それが何かはわからずとも、何をしようとしていたかは予想がついていた。

 夜の病院であることを気にも留めず、俺は声を荒げて彼に殴りかかる。

 GGOやSAOに比べれば貧弱なパンチだったが、それ以上に彼の身体は貧弱だ。

 殴られた衝撃で握られた凶器を取り落とすと、ザザは何故ここにいるのだと言わんばかりの視線を向けてきた。

 

「お前の考えなんてな、お見通しなんだよ……」

 

 彼はきっと死のうとしていたのだ。

 SAOと同じと言ったのだから、負ければ自分も例外にせず、死ぬつもりだという予感があった。彼はそういう人間だ。

 

「最後の、頼みだ……。逝かせてくれ……」

「嫌だ! 約束はどうすんだよ!」

「遺書が、ある。知っていることは、全部書いた」

「そんなものが欲しかったんじゃねえんだよ!」

「――金本さん!?」

 

 警備員に羽交い絞めにされ、引き離される。

 

「俺はなぁ……。ただ友達が欲しかったんだよ。それだけで十分だった。なのになんで皆離れていくんだよ! 俺が嫌いなのか!? 俺を……置いて行かないでくれよ……」

 

 俺は惜しげもなく涙を流し、感情を吐露した。

 誰がいようと関係ない。友達のために泣くことを、恥かしがる必要なんてないのだから。

 羽交い絞めにしていた警備員は力を緩めて俺は冷たい床へ手を突く。

 

「俺の、完敗か……」

 

 ザザは小さな声で諦めを言葉にした。

 

「お前は、強くなった。俺よりも、ずっとな……。俺は、お前のように、なりたかったのかも、しれないな……」

 

 俺だって……。

 ザザみたいに強くなりたかった。

 強ければ、もっと望むがままに出来たかもしれない。俺だけの手でザザを止めて。エリにゃんも助けて。PoHと並び立って。

 そんな風になりたかった。

 

「自由が、欲しかった……。いいや、違うな……。得られないから、何もかもを、壊してしまいたかったんだ……。お前も。ラフィン・コフィンも。俺自身の、ことさえな……」

 

 それが限界を試すように強者へ挑み続けた、SAOから続くザザの隠してきた核だったのだろう。

 けれど破滅願望を口にした彼は、憑き物が落ちたような表情をしていた。

 

「知るかよ。そんなこと……」

 

 流石の俺も、そこまで付き合ってやる気はない。

 

「そう言うと、思っていた」

 

 SAOの終わりに見た光景を思い出す。

 彼は笑顔は特徴的で、困ったように笑うのだ。




お待たせしました。BoBはこれにて終幕。
次回はエピローグでGGO編も最終回となります。
シノン好きの方には申し訳ない。
私もシノンは好きなキャラクターなのですが、彼女の出番はありません。

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