吉良と同僚の奇妙な冒険 インフィニット・ジャーニー   作:わたっふ

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第10話 吉良の望まぬ相即不離

翌朝───

 

朝日が照らす窓際のテーブルにて、何やら騒がしい物音で目を覚ました吉良。

横にはぐったりとした表情で眠るフィラスの姿があった。

昨晩、フィラスが厨房の方へと連行されていくのを見届けた後、店主に事情を説明してこの【冒険者ギルド】と呼ばれる建物の中にある酒場に居座らせてもらっていたのを思い出す。

 

「一体何事です?」

 

「お、おぉ旅人さんかい。いやそれがな───」

 

大広間に出来た人集りの中で叫ぶ、赤く染まった包帯を巻いた男2人組。

1人は左足と右肩を、そしてもう1人は横腹に引き裂かれたような深い傷を負っている。

そんな彼らの姿を見た吉良の問いに、厨房で料理を作り続けている店主は事の成り行きを語った。

 

 

───時は遡る事1時間と少し。

酒場の開店作業を進めていた矢先に、荒い息遣いと共に駆け込んできた彼ら。

その2人は冒険者に与えられる階級で上級に位置づけされる『B+ランク』という熟練者であり、少々名の知れた者たちでもあった。

そんな彼らがこれ程の負傷を負ってしまう程の何かがあったのかと、周囲にいた別の冒険者たちが2人に質問するが

 

「知らないほうがいい」

 

と、虚脱した様子でそう繰り返し唱えているばかりだと言う。

 

「という訳で、一体何が起こったのかさっぱり分からずじまいなんだ。直前に受けていたクエストは無し。かと言って無断で危険地区に行ったとも考えられん」

 

「危険地区?」

 

「───あぁ。この街の近くのリバル山という山があるんだが……十数年前だったか。登山した人々が次々に原因不明の失踪をしてしまうという怪奇事件が起こってな」

 

店主は調理台を拭く手を止め、近くの壁にかかっていた写真を手に取りながら話す。

一層低くなる口調からは、店主の抱く怒りや悲しみといった感情を捉えることができた。

 

「当時のギルドが総力を上げて解決しようと乗り出して、数日後に山頂付近で失踪者と思わしき者の衣類を見つけたんだが……」

 

「──?」

 

と、そこで口を噤んだ店主は、何か言いたげに拳を握りしめて視線を逸らす。

その様子が大切な人を失った屋守男の様に見えて、吉良はそれ以上の追求をやめた。

そして俯いて何も喋らなくなった店主を横目に、未だ騒ぎが収まらない中央ホールを横切って吉良は足早に冒険者ギルドを後にした────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重い扉を開けると同時に、その僅かな隙間から射し込む太陽の光。

晴れ渡った雲ひとつない青空を見上げる吉良の心には、狼狽と安堵の念が渦巻いていた。

視線を下ろすと、彼らを乗せてきたであろう荷車が道端に無造作に投げられている。

薄らと血痕が浮かんでいる荷台からは、それほど遠くない所から運んできたのだと察することができた。

 

「さて、先程の件も少々気にはなるが……先ずは今日の寝床と賃金を稼ぐとするか」

 

しかし、今は他のことよりも自分の安心が優先だと考えた吉良は、通りを行き交う人々に混じり街中を歩く。

陽気な客引きたちの威勢の良い声。

それぞれが開いている出店には、見たこともないような果物や薬草を始め、食肉や生魚などが売られていた。

 

「すみません。少し尋ねたいことがあるのですが」

 

その中の一角、なんとも怪しげな雰囲気の漂う店に目をつけた吉良は、執筆中の黒いコーブに身を包んだ女性に話しかける。

 

「あ、はい?」

 

すると女性は、手に持っていた虫めがねとインクの付いた筆を置いて吉良の方へ振り返った。

そして作業中に申し訳ないと一言添え、この街で職を探すにはどうしたらいいかと言う吉良。

その問いに対し不思議そうな顔を見せた女性は、まるで何を当たり前なことをと言わんばかりの表情でただ一言───

 

「ギルドくらいですね」

 

「ふむ…」

 

そう突っぱねるように言い放った女性は、小声で吉良が客人では無かったことに悪態を吐きながら作業に戻った。

想像していた通りの回答に、渋々店を出た吉良。

やはり手っ取り早いのはギルドでの依頼だと、改めて思い知らされた。

おそらく、この町の誰に聞いても同じ答えが返ってくるだろう。

 

「さて……どうしたものか──」

 

「おいおい、そこの若いもん!ちょっとこっちに来なよ!おぉい!」

 

すると顔を上げた吉良に向かって、向かい側に立つ店の店主が大声で話しかけてきた。

何か用があるのかと不思議に思った吉良は、足早に通りを横断して反対側──海鮮類が並ぶ店の前へとやってくる。

 

「どうした深刻そうな顔して。占いで悪い結果でも出たのか? 気にすんなって! それより、ほら見てけよ。新鮮なヒシ貝とカシワメが入ったんだ。良かったら試食していくか?」

 

その言葉に、先程の店が占い屋であることを今になってようやく気付く。

あの女の態度は気に入らないが、今度は客として今後の運勢を占ってもらうのも悪くない。

そう思いながら吉良は、軽く腹を満たそうと店主にオススメされた貝と白いワカメのような見た目の食材をまじまじと見つめる。

 

「見てるだけじゃあ腹は満たされねぇだろ? 遠慮すんな」

 

「これは……」

 

ほら、と差し出された先の尖った小枝のようなものに、カシワメに包まれたヒシ貝が突き刺さっている。

それを申し訳なさそうに受け取った吉良は、躊躇うことなく口に運んだ。

 

「(悪くないな。それにしても爪楊枝か。中世の文化には無いはずだが)」

 

目を瞑りながら深く考え込む吉良の姿を見て、店主は口に合わなかったかという心労で少々心配そうだった。

そんな店主の視線に気付いた吉良は、爪楊枝を返して美味しかったよと僅かながらの笑みを浮かべた。

 

「吉良……?」

 

とその時、背後から聞き覚えのある声が投げ掛けられた。

すっかり安堵の情に包まれていた吉良の額に、不吉な予感がたんまりと溶け込んだ汗が滲み出てくる。

 

「やっぱり吉良じゃあないかッ! 全く〜〜探したぜオイ!」

 

「ど、同僚……」

 

そこにいたのは、昨日のスーツ姿のままの同僚だった。

【キラークイーン】で貫いた際の腹部の穴は、裁縫されて塞がれている。

 

「いきなり居なくなるなんてよォ〜〜せめて紙にでも行き場所は書いとけ!書いとけ!」

 

「ぐっ……」

 

少しの嫌悪感を抱いた表情を目に秘め、満面に気色を湛える同僚の顔を斜めに見返す。

相変わらずのその甲高い声に耳を痛めつつ、吉良は肩を組もうと手を伸ばしてくる同僚の手を払い除けて向かい合う。

 

「なんだよォ? 照れてんのか? らしくないぜ吉良。あっそうだ。今からラヴァンさんに教えてもらった冒険者ギルドに行くんだが、良かったらお前も来いよ〜〜ってか行こうぜぇ!」

 

息切れひとつ見せずに淡々と喋り続ける同僚。

そんな彼に圧倒されていた吉良は、不意に背後に回った同僚に急かすよう背中を押され、返事を返す間もなく半ば強引に連行される。

 

「お、おい…」

 

「良いから! たまには付き合えよなぁ〜!」

 

「また見に来てくれ。今度は買ってってくれよ〜」

 

そして案の定断りきれずに流され、吉良は再び冒険者ギルドの前の広場までやってきた。

 

「でっかいな〜! ゲームじゃあサイズ感はあんまり分からなかったが、実際に見てみると迫力あるなぁ〜!」

 

遊園地に来た子供のように目をキラキラさせる同僚。

こいつといると目立ってしょうがないと内心思いつつ、駆け足で先を行く同僚とある程度の距離を取って後を付いて行く。

そして重い扉を開けてギルドの中に入った同僚は、当然のことながら視界に映り込む負傷した冒険者の事を吉良に告げた。

 

「同僚……一つ言っておくがあんまり厄介ごとに首を突っ込むんじゃあないよ。何かしらの理由で変なことに巻き込まれでもしたら……」

 

「おぉい! 大丈夫かよあんたらァ!?」

 

「───話を聞けよ」

 

不機嫌なシワを眉間に作りつつ、吉良は深いため息とともに食堂の椅子に腰をかけた。

遠目で見る同僚の姿は、出会った頃となんら変わっていないように感じる。

10年以上の同期、そして未婚者同士という理由での日々のしつこい誘い故か。

 

「(あいつの顔も見飽きたな…)」

 

しかしこう思うのも、ほど良い関係を続けてきたからなのだろう。

吉良自身、気に喰わない奴には無理に接触することは避けていたが、あの同僚は何故か突き放す事ができずにいた。

仮に強く言って距離を取ろうとも、すぐに忘れたかのように接してくる。

だから吉良は───自然と考えるのをやめた。

 

「吉良!吉良!」

 

「え、ぁ……なんだい?」

 

ボォーっとしていた吉良は、自身を呼ぶ同僚の言葉にふと我にかえる。

こうやって気軽に話しかけてくれること自体は、どちらかと言えば嬉しい。

それに、この世界では同僚のような奴でもやはり心強く感じてしまう。

そんな自身の心に呆れ果てながら、吉良は同僚の話に耳を傾ける。

 

「あの2人に聞いても何があったか分からず仕舞いだからよォ〜〜俺たちで解決するって宣言してきた!」

 

「───は?」

 

一瞬、同僚の言った言葉が理解できなかった。

『解決』『宣言』

頭の中でぐるぐると周る単語が、吉良の思考回路を破壊しようとしている。

そしてその答えを知ろうと、同僚が指差す方向に視線を向けた。

 

 

「頼むぜあんたら!」

 

「オレっちも協力するから、この2人の仇を撃ってやろう!」

 

「私も手伝うわ。何か情報見つけ次第、掲示板に書き込んでおくよ!」

 

 

まるで油を注がれた炎のように、負傷した冒険者2人を取り囲む集団が猛々しい気勢に満ち溢れている。

そんな光景に思わず目を丸くした吉良は、奮起する同僚の顔を睨みつけて───

 

「俺たちで解決して、有名になっちまおうぜ吉良!」

 

「………(やはりこいつはいつか殺す)」

 

今までの想いを全て消し去り、同僚を始末することを心に誓ったのだった。

 




仕事が忙しすぎて手がつけられない……(泣)
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