吉良と同僚の奇妙な冒険 インフィニット・ジャーニー   作:わたっふ

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第14話 冒険者ギルド実技講習会

 

〜エンドリフト草原〜

 

 

フィラスに連れられた同僚、吉良、拓男含む駆け出し冒険者一行は、バルティアン壁外に位置するエンドリフト草原と呼ばれる広大な土地に足を踏み入れる。

見つめる先には無限に続くとさえ思わせるほどの地平線、左右には冒険者を阻むがごとく聳り立つ山々があった。

 

「それじゃあみんなにはそれぞれ登録した時の武器と同じ武器を使って実践をしてもらうよ。それを見てあたしが評価するから、まずは自由にやってみよっか」

 

その言葉を合図に、揺れ動く草むらの中から3匹のモンスターが姿を現す。

突然目の前に現れた脅威に冒険者一行がたじろく中、同僚と拓男は歓喜の声を上げていた。

 

「大丈夫大丈夫!この子たちは変身能力を使っている冒険者くんたちだよ。襲ったりしないから安心してね」

 

ホッと安堵の息を漏らす一同。

そしてフィラスは青いブヨブヨとした物体を【スライム】

懸命に羽ばたきながらチューチューと奇妙な声を発するコウモリのような生物を【レッドバット】

猫背の小さな人間のような、緑色の肌とりっぱな棍棒を持っている者を【ゴブリン】と紹介した。

 

「まず実技の相手をしてもらうのはこのスライム君ね!この子は物理技が通用しない厄介な子なんだ〜ほいっと」

 

初めにスライムを一同の前に連れ出すと、フィラスはそう軽く前置きしてから目にも止まらぬ速さで真っ二つに斬り捨てる。

小鳥の悲鳴のような叫びをあげた数人の冒険者らは、どろりと形が崩れ落ちる無残なスライムの姿を見てたまらず口元を両手で覆い隠す。

周りの者たちも、見慣れないグロテスクな物体を目の当たりにして顔を顰めていた。

 

「へーきへーき。物理技が効かないって言うことを確かめるためさ。ほら見てて?」

 

だがそんな彼らに対し、フィラスは尚も声色を変えずに続ける。

すると不安げな空気を一掃するかのように、ドロドロに崩れた身体はまるで時を遡るがごとく元の形へと再生していく。

 

「「おぉっ!!」」

 

「「すげーっ!」」

 

興奮気味に声を震わせる一同。

よほど褒められたのが嬉しかったのか、スライムの頬に当たるかどうか怪しい部分がほんのりと赤く染まる。

 

「よしじゃあ魔導士の子、手上げて?」

 

「「「はいはーい!」」」

 

「んーじゃあそこの君!」

 

「え……あ、はい!」

 

手を挙げた魔導士職の冒険者の中から、フィラスは一番若そうな小柄な少女を選出する。

人前に出た少女はもじもじと恥ずかしそうに身体を捩りながら、見上げる姿勢のまま不安を口にする。

 

「緊張しなくても大丈夫!はい、さぁしっかりと持って?」

 

無造作に地面に置かれている木で出来た杖を拾い上げると、戸惑う少女に手渡して両手を優しく重ねる。

背後に立たれながら耳元でそれだこれだと手解きしている姿は、保育園や幼稚園の先生を彷彿とさせた。

 

「魔導士はね、杖に対してイメージを持たせてあげることが大切なの。相手にどんなことをしてやろうかっていう具体的なイメージを持つことで魔法が撃てるのさ。けれど使用者にあったダメージ上限や攻撃の規模ってのがあるから、最初からそんなに強力な攻撃は出来ないから注意してね?」

 

顔だけを振り向かせつつ、緊張感に震える少女からそっと手を離す。

しっかりと構えを整えた少女は冒険者一同が見守る中、当てやすく身体を広げて待ち構えるスライムに狙いを定める。

 

「さっ心の中でイメージするの。小さな炎をスライム君の身体に当てるイメージを湧かせてみて?」

 

「は、はいっ!」

 

威勢よく返事をした少女の目つきが変わる。

キィッと獲物を狙う虎のような鋭い視線を向けられたスライムは、プルプルと少し身体を震わせていた。

 

「ぐ───っやぁっ!」

 

溜めに溜めた声を出し上げると同時に、杖の先端に赤いオーラが纏う。

すると次の瞬間、それは火球と化してスライムに向けて放たれた。

反動で後ろへと突き飛ばされた少女を抱きかかえるフィラスは、多少大袈裟とも捉えられるほどにその功績を讃えた。

それに続いた各所からの歓声に気をよくした少女であったが、的となったスライムのメラメラと燃え上がる姿を見て不安に駆られる。

 

「ほら、まだまだこれからだよ?がんばれがんばれ!」

 

「オゴォ……ゴプッ」

 

巾着袋から青い水の入った小さな瓶を取り出したフィラスは、スライムの前にしゃがみ込んでその液体を垂らす。

焼け焦げた身体が、その炎すら取り込んでみるみるうちに再生していく。

ぴょんぴょんと元気に跳ねるスライムを見て、不安な表情の少女の顔に笑顔が戻った。

 

「さて、それじゃあ次の子やってみよっか」

 

「「俺がやる!!」」

 

「「私がやる!!」」

 

「お、おぉ……時間がないんだよなぁ……まぁ、でももう全員やっちゃおっか」

 

興味津々の冒険者たちにたじろぐフィラスは、その熱い想いに答えるべく本来の実技研修の時間を大幅に超える時間をかけてみんなに教え込んだ。

魔術士の魔法を使った戦い方には引き継ぎスライムを、弓士には対空中用にレッドバット、残った剣士・斧術士・格闘士・槍術士には基本となる対地上用の立ち回り方を事細かに伝えた。

辺りはすっかり暗くなり、街の灯りが壁の上から漏れ出してきている。

 

「ふぅ───しっかし、あの女の子が俺たちよりも相当強いって変な感じだな。ちっ……あとこれしかねぇのかよ」

 

箱の中にある残りのタバコの本数を確認し悪態をつく同僚。

人は見かけによらずとは言うが、いざ目の前にするとなかなか実感が湧かないものである。

 

「井茂木 拓男と言ったかな。間違っていなければだが、君も外からこの世界へ迷い込んだとみるが?」

 

独り言を呟く同僚を横目に、吉良は気色の悪いにやけ顔をフィラスに向ける拓男に話しかけた。

思えばこの【井茂木 拓男】という者、名前や服装から日本人であることはわかるが、それ以外のことは何も分かっていない。

素性の知らない者と一緒に居るというのはなんとも居心地の悪いものだと、新入社員のころを思い出しながら吉良は無意識に睨みを効かす。

 

「そ……そっすね。自分は2週間前……くらい…に……っすぅぅぅ」

 

「そうかい」

 

冷淡な吉良の視線を受け、蛇に睨まれた蛙のように固まる拓男。

どうも先ほどから目を合わせようとしないのが気になって仕方がない。

拒絶されることにはなんとも思わない吉良だが、出会って間もないうちにこうもあからさまにされると流石に気にしてしまうようだ。

 

「やっぱりこりゃあ俺たち、別世界に迷い込んじまったんじゃあねぇか?思えば俺も変な矢にここ貫かれて意識無くなったっけな」

 

服の上から右横腹をさする同僚。

どういう原理でこんな世界に飛ばされてしまったかは定かではなかった。

だが自身の記憶に残る最後に経験したことを同僚が告げると、それに続いて拓男がこの世界に来る前に起きた出来事を語り出す。

 

「自分の地元に、昔から伝わる噂話があったんすよ」

 

聞けば拓男の地元にはとある都市伝説があったとのこと。

病死・自殺・他殺問わず、現世に強い執着心がある者が迷い込んでしまうとされる場所があり、そこでは走ってはいけないとされていた。

とある日、運悪く強盗が自宅に押し入った際リビングにて鉢合わせし、首と腹を刺されたことにより刺殺される。

しかし意識が遠のいた後、拓男は見知らぬ路地に立っていたという。

赤黒く渦巻く空や、一部分だけ黒ずんだ大きなシミが滲んでいる壁など、非日常的な光景に涙目になりながら出口を求めて駆け出してしまう。

すると背後から「グゴゴゴ」と何かが追いかけてくる音が聞こえ、振り返るよりも前に無数の腕に全身を鷲掴みにされる。

必死に足掻くもどうしようもなく、拓男はそのまま引きずられるようにして闇の中に取り込まれてしまう。

そして再び目を開けるとこの世界に「異世界転移」なるものをしていた。

これが井茂木 拓男が体験した出来事だった。

 

「なんかすげぇ怖いな……俺ちびっちまうかもしれねぇ」

 

「ふむ…」

 

一連の拓男の話を聞き終えた吉良が、何やら深く考え込むように顎に手を当てる。

 

「どうした吉良?」

 

「ああ…いや、わたしもそれと同じようなことが起きたな、と思ってね」

 

「お前もかよ〜詳しく聞きてぇな!」

 

「いや、わたしのことはいい。話したくないのでね。それよりも───」

 

過去を話すことを強く拒否した吉良。

失踪してから一体何があったのかを問いたかった同僚は、少し不貞腐れた態度をとりつつも吉良の視線の先を追って顔を上げる。

 

「おまた〜!」

 

すると講習を終えたフィラスがこちらに駆け寄ってくるところだった。

3人の元に辿り着くと、他の駆け出し冒険者たちの特徴やらを楽しそうに語り出した。

教育者として人を観察するのが好きなようだ。

 

「あっ、ところであんた誰?」

 

「井茂木 拓男っす!よろしくオネシャス!」

 

一息ついたフィラスが、ずっとそばに居座る拓男にむけて言う。

それに対し目をきらつかせながらに答えた拓男は、興奮気味に体を震わせた。

 

「たくお…くおた……おたく…おっ!オタク!いいねぇ〜オタク!よろしくぅ〜♪」

 

「お……オタク……ダメージが……」

 

どうやら今日も、フィラスワールドは絶好調のようだった───

 

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