吉良と同僚の奇妙な冒険 インフィニット・ジャーニー 作:わたっふ
第1話 伝説の始まり 同僚は矢じりと惹かれ合う
何処にでもあるような平和な街《杜王町》
そんな閑静な朝の住宅街を、1人の男は歩いていた。
ボサボサの髪と、だらしない服装をしたこの男の名は【同僚】
とある事情により名前は仮名となるが、どうか許してほしい。
「あいつは戻ってくるんだ……無事に帰ってくるんだ……」
亀友チェーン店に勤めている同僚は、同期の【吉良吉影】という男を気にかけていた。
時には家に招いてゲームをしたり、またある時は会社の仲間と一緒に旅行したりもした仲だ。
だがある時を境に、それは終わりを告げてしまう。
それは【吉良吉影の失踪】だった。
彼がいなくなる前日、同僚は血まみれの吉良と会っていた。
頭から血を流しているその姿を見てすぐに救急車を呼ぼうとしたのだが、吉良は「大丈夫だ。心配いらない」の一点張り。
親友というほどの仲ではなかった為か、同僚もそれ以上吉良に対して声をかけてやれなかった。
「………クッ…!」
あの時、無理矢理にでも引き止めておけば良かったと今になって後悔している。
だが過ぎ去った過去はどうやっても変えることは出来ない。
それがこの世界の理であり、運命なのだ。
「おっと……そろそろ走らないとまずいな……」
ふと視線を上げると、小さな時計台が目に映り込んできた。
出社時間まで後10分弱しかないことに焦りを感じた同僚は、服を着直してネクタイをギュッと締め、勢いよく地面を蹴って走り出す。
と、その時だった───
「吉影ェェェエ!!!」
同僚が走り出した瞬間、直ぐ隣にある極普通の一軒家から誰かの断末魔が聞こえてくる。
一体何があったのだろうと、同僚は足を止めてその声が聞こえた家へ視線を移した。
「ど、どうし───うわっ!?」
そして間髪開けずに荒々しい爆発音が続き、家のあらゆる場所から黒々とした煙が立ち上る。
「「なんだなんだ?」」
「「何あれぇ〜!」」
先程の爆発音を聞いた近所の住民らが、次々と家から飛び出してくる。
同僚の横を通って爆発した家へと集う野次馬は、どこか楽しげにも見受けられた。
「こんな時に何を面白がっているんだッ……!」
人間というものは、無意識のうちに常日頃から何かしらの刺激を得ることで生きてきている。
退屈のない人生は、人類が夢見る境地なのだと、どこかの偉い学者が言っていたのを思い出した。
「早く消防車呼ばなきゃ……吉良の時と同じ失敗はしないッ!!」
ポケットから携帯電話を取り出した同僚は、急いで119番通報をする。
そして遠くから消防車のサイレンが近づいてくるのを聞き、同じような過ちを繰り返さなかったことに安堵した。
「怪我人が居なければいいんだがな……」
そう呟いて携帯電話をスーツのポケットにしまい込む。
「おっとマズイ。あと5分しかないじゃあないかッ!」
再び時計台を見た同僚は、目を見開いて額に大量の汗をかく。
爆発現場がどうなっているのかとても気になるが、会社に遅刻するわけにはいかない。
会社帰りにでも確認は出来る、そう結論付けて会社へと向か─────
「んぐッ……!?」
おうとした。だがッ!!
「な、なんだこれはッ!?」
味わったことのないような激痛を感じ、同僚は腹部を確認する。
すると、同僚の横腹に矢のようなものが突き刺さっていた。
その存在に気付いた同僚は何が起きたのか分からない状態でそれを見つめる。
だが湧き出す恐怖感と生命の危機に、総毛立つような顔色で矢に手を伸ばした。
しかし同時に勢いよく動き出した矢は同僚の手をすり抜け、徐々に体の中へと入り込んでくる。
ジンジンと体が熱くなるにつれ、服の下から滲みだす赤い液体は広がっていく。
「ぁ……ぁ…」
目の前に広がる景色がぐるぐると渦を巻き、同僚は堪らず膝から崩れ落ちた。
視界がゆっくりと中心へ向けて狭まっていき、それに比例するかのように周りの音が段々と遠くなっていく。
「(吉良………)」
そして目の前が完全なる闇に閉ざされる寸前、同僚の脳裏に浮かんで来たのは吉良との楽しかった思い出の日々だった─────