吉良と同僚の奇妙な冒険 インフィニット・ジャーニー 作:わたっふ
「………んぁ?」
暗闇から解放された同僚は、そうなんとも間抜けな声を上げ、ゆっくりと目を開ける。
ぼんやりとしていた視界が良好になるにつれ、今自分が立たされている状況を理解し始めた。
「ここは一体どこだぁ?」
辺りを見渡すと、見覚えのない広大な緑の大地が広がっていた。
透き通るような青い空、そしてゆったりと流れていく白い雲。
それは今いるこの世界が、意識を失う前にいたあの世界とは全くの別物であるということを訴えかけているように同僚は感じた。
「こんな時はまず状況判断だな。えーっと、会社に行くときに民家の爆発に気を取られて………確か変な矢が横腹に刺さったんだよな……」
今自分が置かれている状況を把握するために、これまでの時間を振り返る同僚。
脳内で鮮明に覚えている あの死ぬ程の激痛はいつのまにか消えており、実際に自身の横腹を確認するも、刺された筈の傷跡は綺麗さっぱり無くなっていた。
「おっかしいな。一体全体どうなってやがる……いてっ!イッテェェ!!」
これは夢だ。
そう思った同僚が、両手でほっぺを摘んで横へグイ〜っと引っ張ってみる。
我ながらよくこんなベタなことをしたなとは感じているが、痛みくらいでしか確認が取れないと思ってのことらしい。
そして案の定、ジンジンと痛み出したほっぺに涙を流しながら、今体験していること感じていること全てが現実のものである事を確信した同僚は、自身の安全を確保する為にと周囲の探索を始めた。
「それにしても、随分とファンタスティックな世界だな……これじゃあまるで───」
《ぽぎゅっ!》
「ん?何か踏ん───」
歩き出して僅か数歩足らず。
足裏から伝わる柔らかな感触と鳴き声を聞いた同僚は、ゆっくりと視線を地面へと向ける。
するとそこには顔を踏まれて体を激しく揺さぶる、ハリモグラと思わしき生物がいた。
───いや、ハリモグラにしては異常なまでに発達した両前足が目立つ。
「な、なんだこいつッ!?」
その謎の生物を目の当たりにした同僚は、素早く足を引っ込めて距離を取る。
すると頭を抑えつける足の拘束から解放された謎の生物は、全身に生えた棘を逆立てて同僚を威嚇した。
シュー、シュー、と荒い呼吸を繰り返す姿を見る限り、同僚に対して怒り……いや殺意さえ抱いているようだ。
「ひ、ひぃっ……!
目の前の脅威から感じる生命の危機に、同僚は冷や汗を流しながらゆっくりと後退る。
熊と遭遇した時などに背中を見せて逃げると良くないと聞いていたが、果たしてこの謎の生物にそれは通用するのだろうか?
逆にこの姿勢のままでは、謎の生物が襲いかかってきたら反応し切れずにザックリと逝ってしまうかもしれない。
だが相手の素早さを把握していない状態で、不用意に逃げるのは危険すぎる。
「(れ、冷静に考えるんだ……何事も冷静に対処すれば大丈夫なんだッ……! 落ち着け……落ち着け……ドウドウドウ……)」
謎の生物につられるように、ハァ…ハァ…と荒くなる同僚の呼吸。
だが着実に間合いを取っていることに、少しずつだが心は落ち着きを取り戻そうとしていた。
「(よし良いぞ……このまま離れていけば───)」
《ギュゥゥゥ……》
「…………」
だがそれを許すまいと、背後から聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくる。
同僚はその異常事態に言葉を詰まらせ、恐る恐る顔だけを振り向かせた。
するとそこには先ほど見た謎の生物とそっくりの個体が、態勢を低くしてこちらを睨みつけていた。
「う、うわぁぁぁぁあ!?」
あまりの恐怖に声を抑えられず、同僚は叫び声をあげて尻餅をつく。
するとそれを合図とした謎の生物は、大きく口を広げて同僚の首元目掛けて飛びかかってきた。
舞い散る大量の唾液を見て、確実に自分を捕食対象としか見ていないであろう謎の生物。
こんな死に方は絶対に嫌だ。
そう思った同僚は無駄なあがきと知りながらも、目を固く閉ざして最後の抵抗と言わんばかりに両手を振り回した。
その時だった────
「!?」
全身に強烈な電気が走ったかと思うと、何かが地面に倒れ落ちる音がする。
そして体を震わせながら片目を開けた同僚は、そこで口から血を吹き出して絶命している謎の生物を目撃した。
その腹部には、巨大な握り拳で殴られた跡がクッキリと残っていた。
「な、なん……え?これ……俺がやったのか……?」
目をつぶっている間に何が起こったかは不明だが、これではっきりしたことがある。
1つ──今の自分は何らかの影響により、このおかしな世界に転移してしまったこと。
そしてもう1つ。
異世界転移ならではの特別な力を持っているということッ!!それだけッ!!
「おうおう、よくも俺をビビらせてくれたなぁハリクソモグラ野郎。痛い目に遭いたくなきゃさっさと逃げるんだなぁ〜〜?」
「ギ……ギギ…」
余裕のある顔つきで近づいてくる同僚に、もう一匹の謎の生物は態勢を低くして威嚇する。
「やめとけ!やめとけ!究極生命体と化した俺に、お前のチンケな攻撃は効かないんだ」
腰に手を当ててニヤリと笑う同僚。
そして甲高い鳴き声を発した謎の生物は、超脚力を持って天高く舞い上がり、落下スピードを駆使して上空からの攻撃を仕掛けてきた。
「やれやれ。言葉は通じるんだか通じないんだか……」
《ギッシャァァァア!!》
広げた前足の爪が横へと伸び、細長い刃物のようなものへと変化する。
「へぇ〜そんなこと出来るのか。凄いな……だが所詮、この俺の前では無力よッ!!」
風を切りながら迫り来る謎の生物。
だが同僚は空を見上げながら、一歩たりともその場から動こうとはしなかった。
『真っ正面からぶっ飛ばす』そう心に決めていたからだ。
「おおッ! なんだか演出もいい感じだなぁ!」
拳を引き、両手に力を込める。
すると不思議なことに、体の周りに波打つように揺れ動くオレンジ色のオーラが現れた。
「よぉし!異世界転移の力、見せてやるぜッ!!」
声高らかにそう叫び、同僚はこれから始まる異世界生活に心を弾ませる。
だが同僚はまだ知らなかった……
とある者たちにしか見えない【スタンド】という存在を────