吉良と同僚の奇妙な冒険 インフィニット・ジャーニー 作:わたっふ
仗助たちとのラストバトルに敗北した吉良は、現場に駆けつけた救急車に轢かれ幽霊になった。
そんな彼に杉本鈴美は「振り向いてはならない小道」で自分の背中を見せることで「振り向かせる」罠を張る。
しかし、事前に父親からその情報得ていた吉良は回避し、逆に彼女を「振り向かせ」てここでの平穏な生活を取り戻そうとする。
だがそんな吉良の行動も既に予測していた彼女は、愛犬アーノルドの奇襲で無理矢理吉良を「振り向かせ」て最後の裁きを下すのだった。
「何ィィィイイイイイイイイイ!?」
襲いかかってくる無数の黒い手に、スタンド【キラークイーン】諸共、体を鷲掴みにされた吉良。
「裁いてもらうがいいわッ!吉良吉影」
「わ、わたしは……!わたしはどこに連れていかれるんだ!?」
これまで感じたことのない程の恐怖に、吉良は声を震わせながら鈴美に問いかける。
「さぁ?でも────」
「安心なんて無いところよ。少なくとも」
鈴美がそう言い終わると同時に、吉良は未知のパワーで終わりの見えない永遠の暗闇へと引きずり込まれていく。
故に、その希望のカケラすらない一言が吉良の最期に聞いた言葉となったのだった───
四方を暗闇に閉ざされた世界に吉良は立っていた。
どこまでも永遠に続く謎の空間を彷徨い続けているが、一向に出口というものは見られない。
「………」
最初の頃は独り言を呟いてなんとか耐えてきたが、何日も歩いているうちにそれさえも苦痛に感じてくるようになってきた。
生前では考えたこともなかった【寂しさ】というものを味わい、吉良の心は段々と崩れていく。
試しに【キラークイーン】を出してみると、何時もと同じように彼は自分の側に立ってくれた。
死後の世界でもまたこうして巡り会えたのは、自分の幸運からだと吉良は考える。
「………?」
返事をする事のない彼へ一方的に語りかけながら、それからさらに数十日の時が過ぎたある日のこと。
もう口を開く事も、足を動かすことも出来ないほどに衰弱しきっていた吉良の前に、一筋の眩い光が差す。
久しぶりに見る白い光に目を輝かせ、吉良は何度も転びながら必死になってその光に手を伸ばした。
すると光に指先が触れた瞬間、吉良は視界に映り込んでくる雲1つない青空に目を眩ます。
「───どこだここは……?」
視線を落として辺りを見渡す吉良。
暗闇に閉ざされていたはずの場所に広がる景色は、中世ヨーロッパ風の町並みと異様な姿をした者たち。
それら全てが、謎の手に連れ去られていく前に居た杜王町とは真逆のものであり、吉良は心の底から溢れ出してくる不安感に冷や汗をかいた。
「手………ハッ!」
記憶を辿って自分の身に起こった惨劇を思い出し、吉良は目を見開いて辺りを警戒する。
この世界に来る直前、杉本鈴美が放った【安心なんて無いところ】という言葉。
もしそれが本当だとしたのなら、ここは吉良にとって『害』となりうる者が存在していることになる。
それも、一瞬の安心さえも感じさせないほどの者が────
「な、なんなんだお前らはッ!?」
体を震わせながら、道行く人々に指を指して叫び散らす。
そんな吉良の動向に不思議と人は集まりだし、気が付けば辺りに人だかりが出来始めていた。
彼らの発する言語は、外国語をほぼマスターしている吉良でさえ聞いた事のないようなものばかり。
そしてその容姿は普通の人間と変わらない者も居れば、ちらほらと長く尖った耳を持つ者も見受けられる。
以上の点から推測するに、吉良は異世界に迷い込んでしまった───いや、正確には『奴らに連れてこられた』ということを一瞬の内に理解した。
「くそっ……!」
無遠慮に降り注がれる大量の視線の嵐に耐えかねた吉良が、視界の隅に映った路地へと駆け出す。
いつ誰が自分を襲ってくるか分からない状況下で、無意味に目立ち過ぎてはいけないと感じてのことだった。
大通りから横へとずれ、入り組んだ細い道を進んでいくと、石造りの橋の下に流れる水路へと出た。
辺りはシーンと静まり返っており、聞こえてくるのは自分の荒い呼吸音のみ。
太陽に照らされてキラキラと煌めく水面を見つめながら、今後の生活を不安がる吉良。
と、そこへ、コツコツという足音と共に、誰かがこちらへと向かってくる気配がした。
胸を押さえて前屈みになりながら、吉良はゆっくりと振り返る。
見れば水路へと続く路地の出口に、5人の男たちが不気味な笑みを浮かべて立っていた。
見た目は皆20代前半くらいで、薄汚い服装をした悪人顔。
そしておまけに彼らの手には、小型のナイフや鉄パイプなどの凶器が握られている。
「なっ………」
やはりこの世界には、自分の追い求める『安心』は存在しないのだろうかと吉良は思った。
「mpgdt4h?jyqm37agg!!」
ネクタイを掴まれ、2人の男に服を引っ張られながら路地裏へと連れ戻される。
するとその中の1人が吉良の背中に重い蹴りを入れ、地面に倒れこんだ様を見て狂ったように笑い散らす。
それに続いて、周りの男たちも一斉に腹を抱えて吉良を嘲笑った。
「ぐっ………」
堪え難い屈辱と怒りに襲われた吉良は、懐にしまっていた財布を【キラークイーン】の能力で爆弾に変える。
そして極自然にその財布を地面に落としたかのように男たちに見せ、それに引っかかった1人の男が不思議そうに財布を手に取る。
首を傾げて周りの男たちを呼び集めた男が財布の中身を抜き出した瞬間、吉良は爆弾のスイッチを押して起爆させた。
「jag8p!?」
一瞬の出来事に、吉良の背中を蹴った男が悲鳴をあげて後ずさる。
財布を手に取った仲間が突然内側から爆発したかと思うと、次にその爆風で他の3人が上半身を吹き飛ばされてしまったからだ。
一体何が起こったのか分からない男は、あまりの恐怖に腰が抜け、無様にも地面に尻餅をつく。
「第1の爆弾……触れたものを爆弾に変える能力……」
財布を拾って懐にしまい込み、ゆっくりと立ち上がって男を睨みつける吉良。
その姿を見て短い悲鳴をあげた男は、左手に持つ小型ナイフを構える。
だがその刃は見えない謎の力によってへし折られてしまう。
「『勝てる』と思い込む事は、何よりも『恐ろしい』事だ。そんな道具でわたしを倒せるとでも思っているのかね?」
「m、mgp4tw……mpwjj!」
このままでは殺されてしまうことを悟ったのか、男は吉良が裾についた汚れに視線を向けた瞬間に勢いよく立ち上がって駆け出す。
「『キラークイーン』」
だが吉良のその言葉が路地裏に響くと同時に、男は両足の感覚を失って地面に倒れ落ちる。
ジンジンと熱くなっていく下半身に異変を感じた男が足を確認する。
するとそこには、膝から下を失った足の断面から止めどなく溢れ出てくる真っ赤な血溜まりが出来ていた。
「aaaaaa⁉︎」
「叫び声というのは、どの世界でも一緒みたいだね」
スーツに着いた汚れを払いながら近づいた吉良は、目を見開いて涙を流す男の顔面に重い一撃を叩き込む。
地面に背中を打ち付け、だらだらと口から血を吐き出す男の胸ぐらを掴んで起き上がらせる。
「それはそうと、君は今まさか逃げようとしたのではあるまいな?男だろ?」
だらし無く垂れ下がる顔を除き込み、ネットリとした口調で問いかける。
喉に血が詰まって上手く声を出せないのか、男は手足をばたつかせて必死に抵抗している。
「幸い、ここは入り組んだ路地裏。多少の叫び声なら他人に聞かれる心配はない。戦いの場所を選ぶには、必ず相手が優位に立った場合をも考えなければならない」
「──!──!!」
「痛みというのは苦しいものだろう? でもな、わたしもさっき君のように地面に這いつくばったんだ。だから君もわたしを見習って同じ痛みに耐えろ……」
「──!!────!?」
「わたしを見習うんだよォォオ!!!エェッ!?」
込み上げてくる感情に身を任せ、髪を掴みにした吉良は男の頭を地面に何度も叩きつける。
すると喉に詰まっていた血が一気に吐き出された事で言葉を発する事が可能になった男は、意識が朦朧としている中で命乞いをする。
「gqdj21m!!m、mtax!」
「もしかして『助けて』と言っているのかなぁ?フフ……だめだめだめだめだめだめだめだぁめ。君は死ななくてはならないんだ……わたしの『平穏な日々』を妨げる者は生かしておけないよ」
「a……aa……」
「おっと、君にはわたしの言葉がわからないんだったな。ならばもう用済み、という訳だな?ん?」
男の額に人差し指を当ててグリグリと押し付けた後に突き放し、吉良は「ふぅ」と一息付いて頭を抑えながらその場に倒れ込む。
「j、jpgaaa───!!」
「………」
するとその瞬間、完全なる無防備を晒した吉良に向けて男が叫ぶ。
一発逆転の大勝負に出たのだろう。
しかし、吉良はそんな男の一枚上手を行っていた。
男が側にあった折れたナイフの破片を手に持った瞬間、その体は内側からの爆発に耐えられず粉々に消え去る。
「ハァ…ハァ……ぐっ…頭痛がする…吐き気もだ……何故わたしがこんな目に会わなきゃならないんだ………」
暗闇の世界での疲れと先程受けたダメージが、一時の危機を乗り越えた吉良に束となって襲いかかる。
──その時だった。
遠くからこちらへ向かって駆けてくる足音が聞こえる。
それは段々と近づいて来て、吉良の寄りかかる壁のすぐ隣で止まった。
また敵かとため息をついて顔を上げた吉良は、そこで思いもよらぬ人物と再開することとなる。
『吉良ッ!!』
「同……僚……?」
ここに居るはずのないかつての友に、吉良は驚いた表情を見せて掠れた声を上げたのだった。
会社員になったので、投稿遅れます……ごめんなさい!