見知らぬ森へと迷い込んで数分経った。
もう一度落ち着いて周りを見てみる。
目に入るのは、数多くの木、木、木と、緑で埋め尽くされていた。
しかし、何故俺はこんな所にいるのだろうか……
確か俺は昇降口を出て、直ぐに帰宅するつもりでいたはずなのに。
まぁ今焦っても仕方ない。
こういう時は、素数でも数えて心でも落ち着かせよう。
2.4.6.8.10……ん?これ偶数じゃね?
しかし本当にここは何処なのだろうか。
俺がもし金髪イケメンの様なリア充だったら、まず人を探して訪ねるかもしれないが、あいにく俺はボッチである。
上手く人を見つけられたとしても、話しかけることが難しいし、噛んだりしたら恥ずかしくて立ち直れそうにないので、まずは状況の確認をすることにする。
先ずは持ち物確認からだ。
えーと、制服、カバン、圏外の携帯、財布……いや、これでどうしろってんだよ……
まぁいい。次は今の状況についてだな。
現時点で考えられるべき可能性は3つ。
1つ目…これは夢である。
2つ目…ドッキリ。
3つ目…未知の場所。いわゆる異世界というもの。
この中で可能性が高いものは……1つ目は痛覚があったし、あのタイミングで寝るとも思えないから多分違う。
2つ目も、ドッキリにしてはやり過ぎると思うし、何よりもそんなことする人は、俺の周りにはいないので違う。
異世界という線も考えたが、そんなことは現実で起こるはずもない。材木座なら喜びそうな展開だが、既に厨二病を卒業してるので、そんな馬鹿なことは考えない。
以上を踏まえた上で導き出される答えは……どれもハズレだろうという事だな。
うん。まじで分かんねぇ。
「はぁ、まじでここからどうすりゃいいんだよ」
悩みながらも、少し歩いて周りを見渡す。
すると、視界の端の方に、大きな建物のようなものを捉えた。
段々と近づいていくにつれて、その建物は巨大な赤い館であることが判明した。
「にしても随分とデカイな。まだ距離があるのに既に俺の家と同じ位の大きさじゃねぇか」
その大きさに圧倒されながらも、館を目指して進む。
やがてその館に着いたところで、門の前に佇む一人の女性を確認した。
その女性は赤色の混ざった茶髪の長髪で、チャイナドレスを身にまとっていた。
顔立ちは美しく、スラリと伸びる足にチラリと覗く太ももがなんとも言えないくらいエロいのだが、何よりも驚くべきことがあった。
「zzZ」スヤァ…
「立ったまま寝てる…だと…」
そう、門の前に佇む彼女は、立ったまま熟睡していた。
にしても凄いな。こんなに堂々と睡眠を取るなんて……
俺も少しは見習って、今度から何が何でも睡眠し続けるようにするか。
本当なら、勇気をだして声を掛け、少しでもこの状況を良くしたいのだが、目の前の彼女がこの様子ならば仕方ない。
俺はくるりと振り返り、再び来た道をもどることにした。
じゃあな。いい夢見ろよ。
そう心に思い、いざ歩もうとした時、後ろから悲鳴が聞こえてきた。
慌てて振り返ると、そこには先程立ったまま睡眠をとっていた女性と、銀髪メイドがいた。
ついでに、チャイナドレスの女性の頭の上には、ナイフが突き刺さっていた。めっちゃ痛そう……
「全くあなたは、少しは真面目に仕事したらどうなの」
「すみません…」
「次からは気をつけなさいよ」
どうやら先程の睡眠の罰として頭にナイフを刺されたようだ。
いや物騒だな。睡眠しただけでナイフ刺されるとか、どこの世紀末だよ……
てか、あの銀髪メイド一体いつ来たのだろうか…
「あら?あなたは」
考えて事をしていたら、銀髪メイドに見つかってしまったようだ。
「あ、ども」
「見慣れない格好をしているけど、紅魔館に何か御用ですか?」
この館は紅魔館と言うらしい。赤く巨大な館にピッタリな名前だと思った。
「いや、えっと、実は気が付いたらこの森にいて、ここが何処なのか分からなかった時偶然この館を見かけましたので、何かこの場所について知ってることなどがないかと話を聞きに来たところです」
「なるほど。あなたは外の世界から来たという訳ですね」
ん?外の世界ってなんだ?
「あぁそれと、申し遅れました。私はこの紅魔館にてメイド長を務めさせていただいております、十六夜咲夜と申します。そしてこちらが…」
「紅魔館で門番を務めています紅美鈴と言います」
と、2人の女性が自己紹介を済ませる。
「あ、ご丁寧にどうも。俺は比企谷八幡って言います」
こちらも簡単に自己紹介を済ます。
「ところで、先程仰っていた外の世界ってのは何ですか?」
「ここは、あなたのいた世界とは違う世界です。あなたのいた世界から結界で隔絶した世界、幻想郷という所です。ここでは、あなたのいた世界のことを外の世界と言います」
外の世界、結界、幻想郷……ねぇ。直ぐには信じられそうにないけれど、目の前のメイド長さんが嘘をついてるとも思えないし……
「もし宜しかったら、紅魔館でお世話しましょうか?」
「え?」
「もうすぐ日が暮れますし、見たところ泊まる場所もまだ無さそうですし、しばらくの間紅魔館にいてはどうでしょうか」
こちらからしたら、願ってもない申し出なのだが、急に世話になっても大丈夫なのか。
ここは断っておいて、自分で泊まれるところを探した方がいいのではないだろうか。
「いえ、流石にいきなりお世話になるのは申し訳ないですし、自分でどうにかしようと思います」
「そう仰らずに、きっとお嬢様も歓迎して下さると思いますわ。さ、どうぞこちらへ」
そう言って門を開き、中へ通そうとする。
ここまで言われると、逆に断る方が失礼な気がする。
ここはお言葉に甘えることにしよう。
「では、よろしくお願いします」
「はい、承りました」
門をくぐり中へ入る瞬間、一応門番の彼女にもお礼を言おうと顔を向けると、どこか悲しそうな、そして、申し訳なさそうな、そんな顔をしていた。
門番である紅美鈴さんにお礼を言った後、銀髪メイドこと十六夜咲夜の案内され、紅魔館の中へと足を踏み入れた。
案内される中で俺は、先程の彼女の顔が、頭から離れないでいた……