先駆者達の遺産   作:maple_forest

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第11話

 404小隊が二体のハイエンドモデルを降していたころ

 黒煙を上げる要塞砲の上で、二機のタチコマが周囲を警戒していた、

 

「ふぃー、まさか二機もやられちゃうなんてなあ。

 まったくもう、機動性を重視した分だけ装甲が薄いんだから無茶な使い方はしないで欲しいよね。

 君もそう思うだろ?」

 

 そう言ってもう片方のタチコマに喋りかけるが、首を傾げるように体を動かすだけで何も言わなかった。

 

「むむむ、『機動性を重視してるからこそ囮に最適なのでは?』だって?

 それはそうなんだけどさあ、熱光学迷彩で――『無差別砲撃で護衛対象が死ぬ可能性』?

 あー……うーん……おっと、そんな事より隊長さんに連絡しないと!」

 

 そう言って連絡を入れれば、すぐにマンション内まで来るようにとの指示がUMP45より通達された。

 

「さてさて、それじゃあ早速移動しようか。周辺警戒は怠らず、見かけたら鉄血のドローンは潰していこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マンションの下層。その内の一つの部屋に、404小隊と鉄血の人形が集まっていた。

 

「放熱用の髪が背中を守ってくれたのね……」

「んん……!」

「……痛覚は?」

「……ちょっとおかしくなってるけど、大丈夫」

 

 負傷したG11を甲斐甲斐しく世話をするHK416。

 HK416は何時も携帯しているバッグから医療道具を取り出すと

 G11の傷口にジェルを塗り込み、テキパキと包帯を巻いていく。

 

 UMP9は、鉄血人形と向かい合っているUMP45の護衛として後ろに控えている。

 鉄血のハイエンドモデル二体を拘束――物理的に拘束しているのではなく、電子錠を使って敵対行動を禁じていた。

 その状態で、アーキテクトを睨むゲーガーだったが、アーキテクトはへらへらと笑っている。

 

「お前は何を考えているんだ!」

「何って、死にたくないなあって」

「あの状態からでも逆転は可能だ! なぜ諦めたんだ!」

「いや、あそこで勝てても次に来るグリフィンの部隊に勝てる?

 あたし達の増援が先に到着する見込みは薄いと思うよ~?」

「お前は……!」

 

 アーキテクトに掴みかかるゲーガーだったが、彼女はそれを受け入れた。

 掴みかかられたまま、アーキテクトはUMP45へ視線だけを向けて口を開いた。

 

「ところでさあ、ゲーガーだけは見逃してくれないかなあって」

「ふうん?」

 

 思わず絶句するゲーガーと、興味深そうに相槌を返すUMP45。

 

「いやさあ、あたしってばこれでもゲーガーの上司で上級モデルなのよ。

 だからあ、情報源としてはあたしの方が優先度は上だしい?

 あたし一人いれば十分でしょ? ねっ? ねっ?」

 

 えへへ、と笑いながら懇願するアーキテクトに、今度は慌てた様子でゲーガーは食って掛かった。

 

「本当にお前は何を考えているんだ!」

「あたし、鉄血に未練ないのよね。

 それに、ゲーガーはドリーマーを見返したいんだよね?

 だったらゲーガーは鉄血に戻るかなって」

 

 さらりと言われたその言葉に意表を突かれたゲーガーは、思わず間の抜けた声を出す。

 

「……はぁ?」

 

 眉をひそめながらアーキテクトは言葉を続ける。

 

「ご飯に不自由しなくて寝れるのならどこだっていいよ。

 そもそも、生活基盤の全てを握られてるから従ってるだけだし」

 

 その言葉に思い当たる節がある404小隊は、顔には出してないが割と同情気味である。もちろん両者に。

 

「お前は仲間の事をなんだと思ってるんだ!」

 

 激昂するゲーガーだが、アーキテクトは僅かに面倒そうに表情を歪める。

 

「だから、ゲーガーの事は好きだから見逃してほしいってお願いしてるんじゃん。

 後は……デストロイヤーも可愛いから好き。他は割とどうでも。

 ……あ、ドリーマーは嫌いかなデストロイヤーイジメるし。あいつのやり口ホント嫌い。

 と言うか好きになる要素がないよ」

「な、あ……!」

「あたしがさ、デストロイヤーと色々約束するのよ。

 出撃が終わったらご飯食べよーとか、遊ぼーとか。でも、あの子は全部忘れて帰ってきた。

 ……なんでだと思う?」

 

 顔を俯かせ少しだけ声を低くしたアーキテクトに、思わずゲーガーはたじろいだ。

 アーキテクトとは対になる形で組まされたゲーガーだが、彼女のそんな姿は初めて見た。

 

「わざとよ……あの子はドリーマーの遊び半分でわざと殺されたの。

 約束を口にしてもきょとんとして、その後に気まずそうな顔をするの」

 

 あれは凄く寂しかったなあ、とアーキテクトは小さく呟く。

 

「他にも新参者のウロボロスとかいたけどさあ、あれも自分の方が上だって私達を見下してるよね?

 きっと、あいつ等は私達をデストロイヤーみたいに使い捨てるわ」

 

 

 

 ――それでもゲーガーは、あいつ等を信じられる?

 

 

 

 そう言った後、アーキテクトはまたへらりと笑う。

 へらへら笑いだすアーキテクトを見て、ゲーガーは沈痛そうな表情を浮かべる。

 

「お前……」

 

 人形にはよくある事だな、とUMP45は思った。

 事実、彼女も一度、手酷く使い捨てられている。

 気が狂いそうなほどの怨嗟の果てに、今こうしていられるのは奇跡のようなものなのだろう。

 

 事情を知ってしまい、彼女達に対する敵意は幾分か和らいでしまった。

 とは言え、このままでは何時までも話が脱線しそうな雰囲気を感じ、そこでUMP45が口を挟んだ。

 

「まあ、事情は分かったけど。実は私達、グリフィン所属じゃないのよ」

 

 これに驚いたのはアーキテクトである。

 先ほどまでの神妙な雰囲気は消え失せ、一気に場が騒々しくなる。

 

「はぁ!?」

「いや、ウチの大事な上司があなた達の砲撃に巻き込まれてね。

 私達が囮になったってわけ。お互い運が無かったわね」

「えええ……最近じゃ誰もいないと思ったのに!?」

 

 アーキテクトはがっくりと肩を落とし、ゲーガーは口をパクパクさせている。

 416は頭痛をこらえるように頭を押さえ、G11は立ったまま寝ようとし、UMP9は苦笑している。

 UMP45だけは気にしないまま、次の質問を口にした。

 

「ところで一つ聞きたいのだけれど」

「なに?」

「もし、動体目標……車なんかが作戦区域を移動してたらどうしてた?」

 

 僅かに考え込んだアーキテクトだが、すぐにその質問に答える。

 

「いいテストになると思って撃つかなあ」

「……そう、無駄ではなかったのが救いね」

 

 UMP45は一つ大きくため息を吐くと、自分の手に残った銃の残骸に目を向けた。

 その銃は、もう一人の自分との絆であり、そしてその絆を断ち切ったものでもあった。

 そうして、仲間を、家族を救って壊れたのだ。

 

 

 

 

 

 ――ねえ、これで良かったのでしょう?

 

 

 

 

 

「45姉……?」

「9……ううん、なんでもないわ」

 

 複雑な思いを込めて銃を見つめるUMP45。

 心配そうな表情で見つめるUMP9に、彼女は小さく手を振った。

 

「それじゃあ、どうするの?」

「私達はグリフィンの裏切り者なのよね、戦闘データを見られても困るから」

 

 UMP45が言い切る前に、アーキテクトはその身に縋りついた。

 

「えええ、ちょっと待ってよぉ! 私まだ死にたくない!」

「……あなた達だって、バックアップを」

 

 UMP45に抱き着きながら彼女の身を揺らすアーキテクト。

 それを情けないとゲーガーが思いながら、アーキテクトの腕を取ろうとしたが――

 

「だって、バックアップがあったって、次のは同じ顔をした別人じゃん!」

 

 その言葉に、思考を止められた。

 

「中継設備も壊されちゃったから、リアルタイムでデータ残せないし!」

「少し、落ち着いて」

 

 UMP45をがくがくと揺さぶるアーキテクトを、UMP9がなんとか押し止める。

 消耗した体をを立たせているのもつらい状況だ。

 正直助かったと言う念を込めてUMP9を見れば、彼女は一つ頷いた。

 

「とりあえず、鉄血にも帰せないとなるとウチに来てもらう事になるのよね。断れば――」

「うん、いくいく! もうゲーガーも諦めていくしかないね! 上司命令!」

「あ……ああ……分かった……」

 

 どこか消沈した様子で頷くゲーガーにアーキテクトは首を傾げた。

 が、しかし、グリフィンの部隊もそろそろこちらに到着するだろう。

 急いで離れなければならない。

 

「……タチコマ? そう、もう来たのね」

 

 UMP45は高速暗号通信を用い、タチコマに指示を出した。

 グリフィンの部隊を先に要塞砲へと誘導し時間を稼ぎ、タチコマ達は光学迷彩で相手を振り切ってもらう。

 ここから先は無線を使わない方がいいだろうと、各員に指示を出す。

 

「グリフィンの部隊が到着したそうよ。ここからは時間との勝負なんだけど……」

 

 今この状態でまともに動けるのはUMP9とHK416のみ。

 この状況で鉄血の二体が協力的だったのは不幸中の幸いだろう。

 

「……待って45姉。足音が聞こえる」

 

 しん、と室内が静まり返る。

 徐々にではあるが、足音がこの部屋へと近づいてきている。

 緊張感が高まる中、HK416とUMP9が足音を消し、玄関をリビングから見張る。

 そして、玄関の前で足音が止まると、独特なリズムでドアがノックされる。

 

「……スコーピオン?」

「……そう、あたしよ」

 

 UMP9が玄関へと近づき、HK416が銃を構える。

 そして、そっと玄関を開ければ、彼女達のよく知るスコーピオンがひょっこりと顔を出した。

 

「やっほー、助けに来たよ」

「ふう、ちょっと冷や冷やしたけど助かるよぉ」

 

 UMP9は嬉しそうにスコーピオンの手を取り、ぶんぶんと上下に振った。

 スコーピオンが中に入ると、鉄血人形と一緒にいる事に驚き、UMP45へと視線を向けた。

 

「捕虜よ」

「捕虜でーす」

 

 片腕で楽しそうに手を振るアーキテクトを見て微妙そうな顔をしたスコーピオンだが、

 後ろでG11が大丈夫だとサインを送ってくるのを見て、この場での言及は止めた。

 

「それじゃあ、ちょっと離れた所で船長が待ってるから、急ごう」

「……船長が?」

「うん、船長が機を見て偽装データ流すから、急いで」

「分かったわ」

 

 UMP45とスコーピオンは頷きあうと、すぐに移動する準備を整えた。

 UMP9はUMP45を、HK416はG11を背負い、その前をゲーガーとアーキテクト、そして先頭をスコーピオンが進む。

 グリフィンの人形はタチコマの陽動に引っかかっているが、後詰の部隊がマンションの方へ向かっている。

 

「よし、間に合った」

「さあ、みんな乗り込むわよ」

 

 スコーピオンが運転席、HK416が助手席へ。

 残り全員がコンテナの方へと乗り込んでいく。

 

「無事で何よりね」

 

 UMP45達がダイニングに移動すると、そこには蒼い顔の船長が居た。

 

「……船長、どうして?」

 

 先に入ったG11が、嬉しそうに、だが、困惑したような表情で船長に問う。

 

「あら、言ったでしょう? あなたを捨てないって。約束は守るわ」

「――!」

「有事の際にはあなた達に協力する。これも約束だったわね」

 

 次にUMP45とUMP9を見て穏やかに笑う船長。

 G11はソファへと倒れ込んだ。

 少しだけ鼻をすする音が聞こえるが、誰も何も言わなかった。

 

 しかし、船長の左膝から先が無いのを見て、UMP45は思わず俯いた。

 

 

 

 ――庇われなければ、死んだのは私。私が守らなければならなかったのに。

 

 

 

 アーキテクトは完全に意気消沈してしまったUMP45を見て、バツが悪そうな顔をした。

 自分がどうなっても泰然としていた彼女が、これほどまでに表情を変える相手なのだ。

 大切に思っている事など、誰にだってわかる。

 

「ああもう、そんな顔しないの。この程度、帰れば治るんだから」

「ですが――」

「ほら、おいでおいでー」

 

 そう言って船長は両手を広げた。

 ふらふらと、誘蛾灯に誘われるように船長へと歩み寄るUMP45。

 

「あなたはちょっと自分で抱え込み過ぎるきらいがあるからね。

 今回のは仕方ない。そもそも私が悪いのだし」

 

 船長はUMP45をそっと抱き寄せると、労るように優しく頭をなでる。

 

「……そんなこと、ないです。私がちゃんと気付かないといけなかったのに」

 

 抱きしめられたまま、UMP45は胸の内で小さく頭を振った。

 暖かさに甘え、頷いてしまいそうになるが、それだけはダメだとこらえてしまった。

 

「それじゃあ、両方悪かったことに――ああ、いえ、鉄血が悪かったことにしましょう」

 

 それに困ってしまった船長だったが、UMP45の肩に両手を置き、目線を合わせた後

 所在なげに立っているゲーガーとアーキテクトに悪戯っぽく笑って見せた。

 

「うぇ!?」

「……むぅ」

 

 驚くアーキテクトに唸るゲーガー。

 いきなりふられた二人はたまったものではないが、それを見たUMP45は小さく笑った。

 

「……そうですね、そうしてしまいましょう」

「後はお互い気を付けるという事で」

「……はい」

 

 もう一度船長が肩を叩くと、お互いくすくすと笑うのだった。

 

「……いいなあ」

 

 ぼんやりとそれを見ていたアーキテクトが呟いた。

 羨ましそうにしてる彼女にゲーガーはそっと寄り添った。

 

「……」

「ゲーガー?」

 

 寄り添ったのはいいが、彼女は何も言わず、ただ困ったように視線を彷徨わせている。

 

「……!?」

 

 周囲の生暖かい視線に気づいたゲーガーは顔を真っ赤にしたが、今度は身動き一つできずにいる。

 

「あはは、ゲーガーったら恥ずかしがってる……でも、ありがと」

 

 アーキテクトは少しだけ照れた表情を浮かべ、ゲーガーに礼を言う。

 いくらか場の雰囲気が解れた所で、船長が一度手を叩いた。

 

「さて、とりあえず出発ね。鉄血のお二人さんも座ってちょうだい」

「はーい」

「……分かった」

 

 鉄血の二人は大人しく席に座った。

 UMP45とUMP9はは船長の両隣に、G11はソファにうつ伏せでぐったりとしている。

 トレーラーが動き出すのを確認した後、船長はゲーガーとアーキテクトへと自己紹介すると一度目を閉じた。

 そうして一度息を吸い込むと、静かに口を開くのだった。

 

「――それじゃあ、今後の事についてちょっとお話ししましょうか」

 

 

 

 

 

 












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