先駆者達の遺産   作:maple_forest

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第12話

 遭遇戦から二週間後。

 今、コロニー船の工房にて、UMP45の新しい体への換装が行われようとしていた。

 記憶の転写には404小隊員が立ち会い、複数の監視機器の元で作業が行われる。

 

「……ここまでする必要あるのかな」

「ここをなあなあにすると後から問題が起きるって船長が言ってたよ」

 

 G11とUMP9がデータをモニターをしながら作業中の船長を見ていた。

 HK416は二人に僅かに視線を向けた後、スコーピオンへと視線を移した。

 

「当然と言えば当然なのでしょうけど……」

「いやまあ、あたしの場合はもう仕方なかったし」

 

 苦笑しながらひらひらと手を振るスコーピオン。

 

「あの時は死ぬよりかはマシだって思ってたんだよねえ。

 強制的に同期されたかと思えばガンガン押してくるし。

 気恥ずかしさでやけっぱちになって受け入れたけど」

「……感情だって、やろうと思えば擬装できるものね」

「まあねえ。物も言葉も与えずに人形に言う事を聞かせるなら、嘘っぱちのでデータで塗りつぶせば良いわけだし」

 

 モニターから顔を上げ、昔に思いを馳せるようにスコーピオンは呟く。

 

「今の気持ちも、もしかしたら船長から植え付けられたものかもしれないね。

 与えられた部屋はボロボロで

 食事だって腐ったものを出されてるのかもしれない

 そもそも新しい体も本当は無くて、優しくされた記憶すら嘘かもしれない」

 

 HK416はスコーピオンの言葉に表情を曇らせる。

 

「はぁ……やめてよ、そのよくあるAIのお手軽扱い三点セット」

 

 電子データで感情を満足させ、不満を無くす手法だが

 ふとした拍子に現実との差異に苦しめられ、長く続けば精神が崩壊する。

 

 

 

 与えられたはずのものが無い。与えられたはずの愛がない。

 

 

 

 憂鬱そうなHK416に、スコーピオンは一度肩をすくめて見せる。

 

「だけどさ、なんでもかんでも疑ってたらキリがない、何もかも信じられなくなるなんて、あたしは嫌だ。

 だからまあ、こう言うのは必要な措置なんだろうね」

「なるほどぉ……」

 

 スコーピオンはHK416にそう言うと、横で聞いていたUMP9とG11が感心したように頷いていた。

 目の前では、処置の終わったUMP45が目を覚まし、船長と簡単な問診を重ねている。

 彼女の元の体は修復され、個人で大切に保管する事になっている。

 

「有線による共有も万能ではないわね。でもまあ……人間もきっと同じなのでしょうね」

「お薬から催眠に暴力まで、人を操る手法はなんでもあるしね。

 普通は本当の心なんて分かりはしない。だから、対話をしたり、一緒に行動したりして信頼を積み上げていくんでしょ」

「結局は原始的な手法に戻るんだねえ……」

 

 UMP45の処置が終われば、次はG11の体の換装だ。

 問診を終えたUMP45が部屋を出ようとしている。

 

「まあ、一時はこのネタで船長をイジるけどね!」

「あんたも結構いい性格をしてるわよね……その内本気で泣きそうだから、ほどほどにしてあげなさいね」

 

 そう言って、HK416は呆れるように息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕虜となった鉄血の二人は、それぞれ別の部屋を与えられていた。

 

 ゲーガーの与えられた部屋は凄惨極まりない状況だった。

 ゴミが溢れ、読まれた本は散乱し、衣服はその辺りに広がっている。

 下着姿でベッドからのっそりと起きたゲーガーは、部屋の惨状を見てため息を吐いた。

 

「……鉄血にいた頃は、エージェントに部屋の掃除を手伝って貰っていたが」

 

 そう言うとゲーガーはガシガシと頭を掻いた。

 彼女は今、ここに来てからのほとんどを室内で過ごしている。

 

「捕虜が勝手に出歩くのもどうかと思うんだがなあ……」

 

 船長は船外と重要区画以外ならどこに行くのも自由だと二人に言い含めると、後は特に制限を設けなかった。

 真面目なゲーガーとは違い、アーキテクトは色々と見て回っているらしい。

 IDカードを手に取り、今日の朝食を買いに行こうと服を着こむと、ドアのインターフォンが鳴る。

 

『ゲーガー、ご飯食べにいこっ!』

「分かった、すぐに出る」

 

 部屋の惨状を見られてはたまらないと、足早にゲーガーはドアへと向かうのだった。

 

「こっちこっち!」

「おい、そんなに手を引っ張るな」

 

 しばらく道路を歩き、居住区画を抜けると、そこには作りかけではあるが、洋風のたたずまいの街が広がっていた。

 ゲーガーは物珍しそうに視線を彷徨わせる。その隣でアーキテクトはにこにことしていた。

 

「ほら、こっち!」

「ああ、分かったから……」

 

 また、二人で歩を進めると、緑溢れる公園が視界に入る。

 広場では少数ではあるが屋台も出ており、いい匂いが鼻孔を刺激する。

 

「やっほー、パン屋のお姉さん」

「あら、アーキテクトさん、おはようございます」

 

 パン屋のお姉さん――m45は笑顔で小さくを手を振った。

 彼女は屋台周辺の掃除をしており、箒を片手に持ち直していた。

 

「うん、おはよー」

「……おはよう」

 

 ゲーガーは気まずげに、逆にアーキテクトは屈託のない笑みで挨拶を交わす。

 m45はゲーガーの様子に苦笑するが、すぐに屋台へと戻ると手を洗い、被せてあったカバーを外した。

 

「おおー……昨日より種類が増えてる」

「畜産の子達が頑張って色々作ってくれてるんですよ」

 

 物珍しそうにパンを見るゲーガーとアーキテクト。

 保温機に入った調理パンが屋台に並べられており、おやつのような甘いものから、がっつり食べれるものまで種類は様々だ。

 

「これは……ホットドッグか?」

 

 ソーセージが挟んであるパンを目にしたゲーガーが少し驚いたように目を見開いた。

 

「ええ、戦前では気軽に食べられたらしいですね」

「放射能の雨とかで穀物作るのも一苦労の時代に、凄い贅沢だよねえ。

 ――それじゃ、ホットドッグとシナモンロールを二つずつくださいな!

 ゲーガーもそれでいいよね?」

「あ、ああ……興味はあるな」

「ふふ、シナモンロールは自信作なんですよ。すぐ食べられます?」

「うんうん、そこのベンチで食べようかなって。あ、お金は私が払うよ!」

「お、おい、自分の分は自分で払う、お前は確か、建築物の色んなデータを買って金がないって」

 

 船長から生活費は支給されている。

 ゲーガーがカード取り出そうとするが、アーキテクトはいいからいいから、とその手をそっと押し止めた。

 

「あたし、これでも稼いでるんだから!」

 

 アーキテクトの言葉に、ゲーガーの思考回路が止まる。

 稼いだってなんだ? どうやって稼いだのか? むしろお前は捕虜なのに何をやっているんだ

 様々な言葉が浮かんでは消える、

 

「あら、ご存じなかったのですか? アーキテクトさんはこの前から建設現場で色々とお仕事をなさってますよ」

「ふふん! 実はこの辺りの区画はあたしが作ってる途中なんだ!」

 

 なんたって建築家だから! と言って胸を張るアーキテクト。

 

「はぁっ!?」

 

 驚くゲーガーだったが、驚かれたアーキテクトは気ままにm45と会話を再開させていた。

 

「今度はどんな風にするんですか?」

「いずれは天気なんかも再現するって言ってたから、それに合う感じにしたいなあ」

「霧の町でしたか」

「そうそう。いずれ引き払うって言ってたけど、それまでに色々試して経験増やしたい!」

「いいですねえ……私もいずれ自分のお店を開くのでその時はお願いしますね」

「うんうん、任されました!」

 

 今は農作業と屋台を兼業しているm45だが、いずれはパン屋一本に絞りたいと考えていた。

 二人は更に会話を続ける。

 

「天気の再現まで出来る辺り凄いよねえ」

「環境に対応するためだったり、ストレス軽減のためでしたね。

 グリフィンの宿舎も似たような理由でしたが、規模が違いますね」

「鉄血にも似たような感じでモニターを窓に見立てて映像流してたっけ」

「私達は地下室で管理されてましたけど、そちらも?」

「だねー。下級の子達は倉庫だったけど」

「やっぱりどこも似たり寄ったりなんですねえ……」

 

 うんうんと頷きあう二人。

 ゲーガーは周囲に目を配らせ、アーキテクトの仕事を見ていた。

 

「おっと、別のお客さんが来たみたいだからあっちで喋ろ!

 それじゃあ、パン屋のお姉さん、またね!」

「ええ、またいらしてくださいね~」

 

 アーキテクトはm45から包みを受け取ると、驚愕しているゲーガーを引きずって公園のベンチへと歩いていく。

 憮然とした表情でベンチに座るゲーガーだったが

 アーキテクトから包み紙と、途中で買った飲み物を受け取ると、一度ため息を吐いて気持ちを切り替えた。

 

「……いつから働いてるんだ?」

「え? 来てから二日後ぐらいかな」

 

 あっけらかんと言うアーキテクトにゲーガーは頭痛すら感じていた。

 

「お前なあ……」

「だって、あんなセンスの欠片もない建物見せられたら黙ってられないよ!」

 

 なお、豆腐建築の事を散々言われた船長は手酷い心のダメージを負い、虫の息になっていたが、それはまた別の話である。

 

「……建築関係のデータを買ったのは」

「参考にするにはちょうど良かったからね。まあ、船長さんは専門家じゃないから仕方ないけどぉ」

 

 

 

 

 

 

 建設関係でこれでもかと己の有用性を見せつけたアーキテクトは、今では現場の人気者だ。

 

「上級AI様……上級AI様が来てくださったぞ!」

「おお……救いじゃ、天の救いじゃ……!」

 

 と言って拝まれる始末である。

 照れた顔で頭を掻くアーキテクトを、その場の人形が攫っていき、そこからは仕事を見つけては熟している。

 

 

 

 

 

「それより冷めちゃうから食べようよ!」

「……そうだな」

 

 待ちきれないとばかりにホットドッグに齧り付き、その味を堪能する。

 ソーセージから肉汁が溢れ、それがパンに沁み込み味を膨らませる。

 

「んんー! そのままでも美味しいけど、調味料もつけちゃおう!」

 

 ケチャップやマスタード等の調味料も生産されており、小さな使い切り用パックから食べかけのホットドッグにかける。

 

「……味を変えられるのは良いな」

 

 最後の一口まで食べきると、ゲーガーは満足したかのように頷いた。

 口の渇きを覚えたゲーガーは飲み物に口をつける。

 中身はコーヒーだった。

 インスタントではなく、豆から挽くタイプで、香り高く、これもまたゲーガーを楽しませた。

 

「ここは、良い所なんだな……」

「だよねえ……」

 

 ぼう、とした様子で呟くゲーガーに、アーキテクトが穏やかに返事を返す。

 二人の間に沈黙が降りる。

 ゲーガーが視線を上に向ければ、そこには青空が広がっている。

 映像として映し出されるそれは、作り物でもゲーガーの心を落ち着かせた。

 

「……ふう」

 

 ゲーガーがため息を吐き、視線を戻せば、ちらちらと視線を向けてくるアーキテクトが視界の端に映る。

 

「……どうしたんだ?」

「……うーんとね、ゲーガーはまだ鉄血に帰りたいのかなって」

 

 その言葉に、少しだけゲーガーは考え込んだ。

 

「その、あたしが無理やり連れてきちゃったようなもんだし、怒ってるのかなって、それも悩んでて」

「そうだなあ……」

 

 ベンチに背を預け、再びゲーガーは空を見上げた。

 

「……怒っているわけではない、と思う」

「ホントに……?」

 

 ああ、と頷くと、再びゲーガーが口を開く。

 

「戸惑いが大きかったんだろうな。

 今まで考えたことも無かったが、お前が私との記憶を忘れてしまう事を考えたら」

 

 

 

 ――それがたまらなく嫌だった。

 

 

 

 ゲーガーは大きく息を吐くと、コーヒーを一度口にした。

 

「まあ、なんだ……未練はあるが、お前がここにいたいと言うのなら、お前を置いていくつもりはない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まあ、そう言う事だ。とゲーガーは言うと、静かに目を閉じた。

 

「そかー……じゃあ、お仕事いっぱい手伝って貰わないとねえ」

 

 そう言って二人は青空を見上げる。

 

「きっと、明日も良い日になるよ」

「そうか……そうだといいな」

「いずれはデストロイヤーなんかも連れてきて、一緒にご飯食べてさー」

「……ああ」

「そんで私達が建てた家で一緒に暮らすの」

「……悪くないな」

「でしょでしょ? よっし、そうと決まれば今度船長さんにお願いしてみようかな」

「とは言え、私達は捕虜だぞ? ……たぶん」

 

 この扱いで捕虜と言うのは無理があるな、とゲーガーは思った。

 

「うーん、亡命しますって言えばあっさり受け付けてくれそうな気もするけど」

 

 アーキテクトは人差し指を頬に当てると、小首を傾げる。

 

「まあ、そうだが……ちょっとおおらか過ぎる気もするが」

「そこに助けられてるしねー。ほら、あっちの子」

「ん……?」

 

 アーキテクトの視線の先に、紫がかったの黒髪の人形が清掃をしていた。

 

「あれは……鉄血のリッパーか?」

「そうそう、自我が薄かった子なんかもここで再生されて、育ってきた子は一緒に仕事を始めてるの」

「それは……大丈夫なのか? 私達が言えた義理ではないが、その、色々と」

「むしろあの子達が居たから順応が速かったのかも。

 一緒の所属になればノーサイドで! って船長が言ってた」

「意味が分からん……いや言いたい事は分かったが、いいのかそれで……」

 

 アーキテクトが手を振れば、リッパーもまた手を振り返し、小さく一礼し、次の作業場に向かうべく立ち去って行った。

 

「まあ、今日はオフだから、食べたら遊びに行こうよ」

「そうなのか」

「うん、なんだかVRゲームが出来たんだって」

「ほー……」

 

 アーキテクトは興味深そうにしているゲーガーの耳へ顔を近づけた。

 

「VRゲームとは名ばかりで、人形達が独自に技術研究してるんだって」

「んなっ!?」

「シー……義肢とか内部の部品とかを今の技術力に合うように、無理なく改良するためのデータ取りで戦闘訓練も行える。

 ゲーム内の仮想通貨でパーツを買ったりして、自分を強化するの」

「最終的にはそれが自分の体の設計図になると?」

「……たぶん。仲良くなった子が教えてくれたんだよ」

「なんでそんな事を……」

「その、この間の私達との件がきっかけだって」

「どう言う事だ?」

 

 訝しげな表情で問うゲーガーに、神妙な顔でアーキテクトが言葉を返す。

 

「ここの子達って戦争が嫌で逃げてきた子とか使い捨てられた子が多いらしくて

 その、戦闘行動に忌避感があるらしいって」

「それであの小隊と船長達が戦場に出てたのか?」

「うん……で、甘えてばかりいられないから、トラウマの克服も兼ねてって」

「そうか……」

「私達も、改良してもらって戦場に立てれば」

「そうか……なるほどな。しかし、船長は知らないのか?」

「本当の目的は言ってないみたい」

「……言わなくていいのか?」

「際限なく甘やかされそうだからって言ってた」

「なるほど……」

 

 難しい顔をしたゲーガーがぽつりと呟く。

 

「あまり、上に立つのに向いている人ではないな」

「それ、本人も言ってた。だから、いずれは管理者降りたいって」

「それは……と言うか、お前色々突っ込んだ事を聞きすぎじゃないか?」

「えへへ……ぐいぐい行くと色々教えてくれるよ」

 

 時々ゲーガーは思う。こいつ、実は全部狙ってやっているんじゃないかと。

 

「『柔軟な対応を求められる開拓中の今は良いけど、それが終われば絶対に降りる! 絶対にだ!

 そんでどっか小さい家でも貰って隠居する』って力説してたよ」

「管理者ってのは大変なんだろうな……」

 

 遠い目をして呟くゲーガー。

 

 

 性格の破綻した、仲間を平気で犠牲にする上級AI二人の対応に苦慮し

 その上子供っぽいトップの補佐をしながら家事を熟すエージェントの姿が思い浮かぶ。

 割と彼女も本気で苦労人である。

 

 

 半ば現実逃避しながらシナモンロールを一口齧れば、甘さが口いっぱいに広がり、それをコーヒーで口直し。

 

「うん、美味いな」

「美味しいよね」

 

 何事も無かったように食事を再開し

 今頃自分達のせいで苦労しているであろうエージェントの事を全力で脇に置く二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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