先駆者達の遺産   作:maple_forest

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第13話

 砂塵が吹き荒れる荒野の中、一台の軍用車が行く。

 中には四人の人形――404小隊が乗っていた。

 

 運転席にUMP45、助手席にはUMP9が後部座席にHK416が目を閉じて座っている。

 後部座席に乗る彼女の首筋からはケーブルが伸びており、車の各種センサーを操作している最中だ。

 膝の上にG11の頭を乗せ、ゆったりとその髪を撫でる。

 

 彼女達は今、コロニー船が埋まっている鉱山周辺の警戒を行っていた。

 コロニー船だけでは空間が足りなくなってきたため、鉱山外で拡張工事を行っているのだ。

 

 UMP45はフロントガラスに積もる砂塵を落とすために、ワイパーを作動させた。

 

「風が強くなってきたわね……」

「うへぇ、この辺って汚染溜まりがあったよね。

 ……ELIDが出てきたら困るなあ」

 

 砂塵には汚染物質が含まれている。

 洗浄する手間を考えUMP9が表情を曇らせると、HK416がため息を吐いた。

 

「9、あんたが余計な事言うから」

「うぇ……本当に?」

 

 HK416が首筋からケーブルを引き抜く。

 車に備え付けられているセンサーとの接続が切れ、HK416は急速に変わる視界にめまいを覚えた。

 

「まあいいわ、新しいボディと装備を実際に試すには丁度いいし……ほら、G11起きなさい」

「……敵?」

「そう、出番よ」

「ん……分かった」

 

 目をこすりながらゆっくりと身を起こすG11。

 一つ大きく欠伸をすると、己の銃を手に取った。

 

「ぬああ、こんな時に来なくたって! もうやだもー!」

「はいはい、喚かない」

 

 UMP45は苦笑しながらUMP9をたしなめ車を停めた。

 HK416は鼻歌を歌いそうなほどの上機嫌さで銃に弾を込めた。

 

 外の風は更に激しく吹き荒んでいる。

 G11は防護服を着込み、窓をそっと撫で、薄っすらと微笑んだ。

 

「頑張ったら、船長褒めてくれるかな……」

「船長さんなら褒めてくれるし報酬もくれるわよ――さあ、張り切って駆除しに行くわよ」

 

 そう言ってUMP45は運転席から飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉱山の外では既に工事が始まり、その勢力圏を広げ始めていた。

 崩落の恐れがあるため鉱山には手を付けず、周辺区域に合金工場やその他施設

 更に汚染物質を遮断する壁を建造し、徐々に浄化区画を増やしていく予定だ。

 

 輸送艦と防衛プラットフォームの製作はそれなりに順調に進んでいる。

 コストダウンのため、一番安価な装備であるレーザーや小型マスドライバー、デフレクターを製作中で

 ある程度部品ごとに組み立てたら輸送艦で宇宙に運び、建造を開始する。

 

 船長は作業のほとんどを人形に任せると、自分は不明な、或いは破損したデータの解析に勤しんでいた。

 作業しやすいよう仮想モニターを投影し、それを目で追っている。

 

「……ふう」

 

 船長は額に手を当てると、僅かに頭を振った。

 時折、彼女は幻聴に悩まされている。

 言葉ははっきりと聞き取れず、それが彼女を悩ませていた。

 

 そうして作業に集中し幾許かの時間の過ぎ去った。

 ふと、一つの映像が目に留まる。

 

 それは甲殻類のようにも見える巨大な生物だった。

 だが、甲殻は上部に上半分だけに広がっており、下部はおぞましい肉塊と、そこから無数の触手

 そして、中央の口からは牙が見える。

 

 そこから更に別の情報が浮かび上がる。

 おそらくその生物の体内なのだろう、周囲の壁は人の内臓のような色をしている。

 粘膜の壁から血管のような線が無数に伸びており、その中央には肉に包まれた巨大な眼球が支えられている。

 

「これは……!?」

 

 幻聴が一層酷くなる。

 激しい耳鳴りと頭痛に苛まれ、彼女は意識を失いそうになるが、歯を食い縛り、意識を繋ぎとめた。

 そこに、彼女の脳裏にはっきりとした声が響く。

 それは――

 

「プレスリン……」

 

 呟いた直後、情報が一気に開示される。

 

 

 

 

 

 ソレは宇宙の果て、別の銀河より追い立てられてきたものである。

 ソレは星々を喰らい、苗床にするものである。

 ソレは尽くを喰らうと、再び旅立つものである。

 

 

 

 

 

 意識を失いそうになりながら、彼女は一つの言葉を聞いた。

 

 

 

 ――危機(クライシス)に備えよ。

 

 

 

 体を支えられなくなり、船長は机へと倒れ込んだ。

 幻聴は鳴りやんだが、起き上がる気力がわかない。

 

「船長ー、入るよー……船長ー?」

「んん……スコーピオン?」

 

 机に突っ伏していた船長は、スコーピオンの呼び声と、ドアをノックする音にのろのろと反応して見せた。

 軽く頭を振り、入出の許可を出すと、彼女は再び映像に目を通す。

 

「これは……」

「うわあ……宇宙にはこう言う生物もいるんだねえ」

 

 スコーピオンは船長の背に回ると、肩口に頭を乗っけて映像を興味深げに見ている。

 そうして表示されているデータに目を通すと、嫌そうに顔をしかめた。

 

「これっていずれはあたし達が相手にする事になるのかな?」

「どの程度で来るのか、本当に来るのか分からないけどね……」

 

 船長は眉間に手を当て揉み解す。

 幻聴は既に鳴りやんでいるが、脳に負荷をかけられたため、未だに頭痛がしていた。

 

「船長、ちょっと休憩したら?

 ほら、お菓子と飲み物も持ってきたし」

「……そうね、そうしましょう」

 

 手渡された飲み物を口に含み一息つくと、船長は顔をしかめながらデータを脇にやった。

 お菓子を二人でつまみながら、とりとめのない話をする。

 

「やっぱり美味しいとか、楽しいとか感じられるのはいいね」

「そうねえ、やっぱり娯楽は大事よね。やる気に繋がるし」

 

 保存食ばかりであったが、この所、人形達があれやこれやと自分たちが持っていたスキルを発揮するようになっていた。

 そうして食事情が劇的に改善され、今もこうしてその恩恵を預かっている。

 

「うーん……ちょっとした疑問なんだけど」

「なにかしら?」

「どうしてあたし達に感情なんかつけたのかなって」

「親しみを持たせるとか、人間が不快感を覚えないようにした部分もあるのでしょうけど」

 

 そこで船長は一度言葉を切ると、腕を組んで瞳を閉じた。

 

「テストしてるんじゃないのかしら?」

「テスト?」

「そう、テスト」

 

 首を傾げるスコーピオンに、船長は片目だけを開け、指を一本立てて見せた。

 

「人間の記憶を完全に写し、人間の脳の働きと変わらないモノを作り上げる」

「それって……ああ、永遠の命って奴?」

「そう、その前準備」

 

 スコーピオンは二度ほど頷くと、そこで首を傾げた。

 

「でも、それって人間じゃないとか差別が起きるんじゃ?」

「そこはほら、世代を重ねるごとに新しい技術への忌避感とか薄れていくものだから」

「むむむ……じゃあ、人間が脳を機械化したら、人形と人間が一緒になるって事?」

「頭脳は同じでも、結局は区別されて奉仕種族として扱われるだけじゃないかなあ……」

「夢も希望も無かったかー……」

 

 がっくりと肩を落とすスコーピオンだったが、船長は笑って手を振った。

 

「今は夢も希望もあるじゃない」

「あたし達はねー」

「ふむ」

 

 船長は一つ頷くと、新しいデータをスコーピオンの前に表示して見せた。

 その内容は都市の再開発――船長とスコーピオンが初めて拾った場所であり、404小隊と出会った場所。

 そこを人間を交えて再建する案であった。

 

「これ、本気?」

「まだ計画立案の段階ねー。とりあえずはウチの周りを奇麗にして、軍事施設をしっかり整えてからね」

「ああ、うん、そこは大事だね」

 

 そこでも、とりあえずは人形の保護から進める事になるだろう。

 

 

 

 現在、人類は三つの区域に分けて生活をしている。

 

 一つはグリーンゾーン。

 壁に覆われ、汚染区域が無く、人間が人間らしい生活を営める場所である。

 とは言え、嵐の日は放射能汚染の危険が高まるため、そこも安全とは言い難いが他二つよりマシである。

 

 もう一つはイエローゾーン。

 ここは放射能汚染の危険に日々晒されており、グリーンゾーンに住めない貧民等が苦難に喘いでいる。

 雨などでELIDに感染するものが後を絶たず、治安は最悪の一言である。

 

 そして最後にレッドゾーン。

 汚染地帯であり、人が入ろうものならすぐにELIDに感染し、死に至るだろう。

 ここではミュータントを相手に軍が活動している。

 

 

 船長達は現在レッドゾーンを浄化し、勢力圏を拡大している。

 そこから少し離れた、限りなくレッドゾーンに近いイエローゾーンを再建しようと言うのである。

 幸いな事に、ミュータントの数が少なくPMCで処理できることもあって、軍の目もほとんど向いていない。

 ある意味、立地条件に恵まれたと言っても良いだろう。

 

「とりあえずは草の根活動よ。少しずつ頑張っていきましょ」

「はぁい……あ、そうだ」

「ん?」

 

 スコーピオンは映像データを再生し始めた。

 そこには、VRゲームで複数相手に連戦連勝を重ねるスコーピオンが映っている。

 

「ほほー……やるじゃない」

「まあねえ、一番最初に来た人形として、やっぱいいとこ見せたいし」

「あはは、相手の子がセオリーに無い動きで困惑してるのが分かるわね。

 壁と壁を蹴って三角跳びとか、更に体の使い方が上手くなったわね」

「ふふふ、とは言っても……」

 

 次の映像はゲーガーとアーキテクトだった。

 ゲームの初期状態という事で最初は困惑していた二人だったが、そこは上級AI。

 すぐに順応して見せ、順調に勝ち星を挙げながら自分のデータの改造を繰り返している。

 

 その後、二人はチャンピオンであるスコーピオンと接戦を繰り広げていた。

 

「あら、この子達も大分ここに馴染んできたみたいね」

「うん、話せばわかる奴等だったよ。あたし等とあんま変わんない、使われる側だったし」

 

 改良を繰り返されているスコーピオンには敵わず、最後はまとめて焼夷榴弾で焼かれていた。

 とは言え、スコーピオンの方も腕を一本、胴体を半ばまで切り裂かれており、半壊と言った風情だった。

 

「うーん……やっぱりウチに欲しいな、この子達」

 

 建築関係に強く、戦闘力も高い。

 なによりコミュニケーション能力の高さが良い。

 どこに行っても強かに生き抜いていけそうな雰囲気がある。

 船長的に実に欲しい人材である。

 鉄血に返したくないのが本音である。

 

「え、あの二人ってもうウチの所属じゃなかったの?」

 

 その言葉にスコーピオンは驚いたが、船長もまたその反応に驚いた。

 

「えっ?」

「えっ?」

 

 お互いに目を見合わせ、首を傾げる。

 

「いやだって……もう完全に馴染んじゃってるし……」

「ああー……うん、今度ネットワークを再建して、それから鉄血さんの所と交渉しようと思ってたんだけど」

「そうなの?」

「そうなの。捕虜返還の代わりに休戦協定でも結べればこちらとしても嬉しいと思っていたのだけれども」

 

 二人は完全に居着くつもりである。

 もしも船長が亡命を断った場合、アーキテクトが泣いて縋りつき

 駄々っ子のように地面に転がる姿を今からでも思い浮かべる事が出来るスコーピオンだった。

 

「うーん、まあ、こちらに居着くにしても

 一度は鉄血さんと交信してみる必要はあるかと思うのだけれども……」

「それは……どうだろう」

「じゃあ、保留で」

 

 船長はあっさりと前言を翻した。

 彼女としては今の状態で変に敵対されても困る。

 

「いいの?」

「いいの、どうせ相手からしてみれば私達なんて非合法のテロリストと変わんないだろうし」

「鉄血もテロリスト扱いなんだけどなあ……」

「テロされた側なのにテロリストとはこれ如何に」

「人権の無い人形の抵抗ですし」

「うーん末法」

 

 そう言って二人はけらけらと笑う。

 

「船長はいっそ惑星の領有権の主張でもしてみれば?」

「1200万年前の? ないない、維持できなかった時点で無いも同じよ、そんなもの」

「ざんねーん」

 

 ひょいと肩をすくめるスコーピオンに、船長は苦笑を返す。

 そうしてふたりがぐだぐだと管を巻いていると、ドアが思い切り開かれた。

 

「船長さーん! あたし達ここで暮らしたいんだけど、亡命お願いしまーす!」

「おい、いきなり入るな! すみません、船長……」

 

 アーキテクトが満開の笑顔で、逆にゲーガーが申し訳なさそうに入室してくるのを見て

 二人は思わず笑いだしてしまった。

 

「えっ、なになに?」

「今、ちょうどあなた達の事を話していたのよ」

「ウチに来ないかなって話し、タイミングいいよね」

「えへへ、居ていいの?」

「こちらからお願いするわ。是非とも我が船に、あなた方の力が私達には必要です」

 

 そう言って船長は微笑むと、アーキテクトとゲーガーの手を取った。

 

「あなた方の仕事は素晴らしいものです、今後とも頼りさせていただきますね」

「うんうん、建築はあたし達に任せて!」

「ああ……ええと……微力を尽くします」

 

 アーキテクトは素直に照れ、ゲーガーは困惑の中に幾らかの喜色が見える。

 そうして、船長達は開発計画について討論を重ねる事となる。

 出来る事ならば、人類とは敵対したくはないが、今はまだ、どうなるか分からない船長であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい……遺跡だ、遺跡があったぞ!」

 

 地球上のどこかにある遺跡に、封印されたそれはあった。

 研究のために採取され、サンプルとして保存液の中に保管されてある肉片。

 人の内臓のような色をしたそれは、完全に活動を停止していた。

 

「なんだこれは……」

「迂闊に機器に触るなよ……まだどんなものか分かったもんじゃないんだ」

「……研究チームにデータを送れ」

「研究資料は……チッ! 言語が違うか」

 

 それは、今はまだ世に出る事はなかった。

 今は、まだ。

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