コロニー船が埋まっている元鉱山街では大掛かりな工事が始まっていた。
そこは今や壁でそのほとんどを覆われ、浄化装置がフル稼働し、合金工場及び宇宙船の発着場が建設され始めていた。
壁の上では銃を持ち、二人組で歩哨に立っている人形がちらほらと見える。
「うーん、404小隊が周囲を処理しているせいかあまり見ませんね」
監視している色素の薄い金髪を毛先で緩くウェーブさせた人形――Gr G3がぽつりと呟く
と、その時、隣に居た灰色の髪をポニーテールにした人形――Gr PSG-1が急に銃を構えた。
「見つけた……!」
「うそっ、どこどこ!?」
慌てて周囲を見渡すが、G3の視界にはすぐにはとらえる事が出来なかった。
「……いただきます!」
「あー! 遅れてしまいましたかあ……」
ミュータントの頭をぶち抜いたPSG-1は満足気に頷いた。
「うーん、久しぶりに現実で銃を握りましたが、案外いけるものですね」
「むう、今回は負けてしまいました……」
「勝ち負けではないと思いますが」
そう言ってPSGー1は苦笑するが、G3は頬を膨らませた。
「それはそれ、これはこれです。やはり役に立つと言う充足感は欲しいものです」
「ええまあ、気持ちは分からないでもないですが」
PSG-1は頷くと、僅かに振り向き壁の内側を見た。
そこでは誰もが一生懸命働いている。明日を自分達の手で良い日にするために。
「やりがいのある仕事とはいいものですね」
「ええ、そうですね」
そう言って二人は頷きあい再び荒野へと視線を向けると、遠くからは一台の軍用車が見える。
「噂をすれば、と言う奴でしょうか」
「なるほど、こういう事を言うのですねえ」
のんびりと二人で会話を続けるが、ふと404小隊と関連する事を思い出していた。
「あちらに出ているタチコマちゃん達、大丈夫でしょうか?」
「うーん、あの子達はあの子達で賢いから大丈夫だとは思いますが……」
最近では四機ともAIが発達し、積極的に人形ともコミュニケーションを取っていた。
今ではタチコマ達はちょっとした人気者だ。
「無事だといいのですが……」
PSGー1は小さくため息を吐くと、頭を振り、自分の仕事に集中するのだった。
一方、噂をされているタチコマ達だが――
「待てゴラァ!」
「ひぇぇぇぇぇぇ、お助けぇぇぇぇぇぇ!」
「ぴぃ!? 弾が掠った! 掠ったよう!」
廃墟街にて怒声と銃声、そして幼い少女の悲鳴が響き渡る。
ここでは今、鉄血と謎の勢力が小競り合いをしている。
「――それで、実際に働くのは研修を終えてからになるんだけど」
「……あの」
そう、船長率いる勢力がついにイエローゾーン付近で活動を開始したのだ。
とは言っても、大々的にではなく、ひっそりとした草の根活動ではあるのだが。
噂の幸運の蒼い蜘蛛ことタチコマを使い、困っている人形を自分の船へと招待しているのだ。
「チィ! ちょこまか動くな! 黙って斬られろ!」
「ぎゃああああ! なんで、なんで僕なの!? この間君のブレードを折ったのは416機じゃないかぁ!」
「ひ、ひどい! いきなり僕を売るなんて!」
「うるせぇ! お前らのエンブレムはしっかり見たんだ!」
刀を持った鉄血人形に追われているタチコマは二機。
それぞれ崩し字でHK416、UMP9とペイントされている。
「じゃぁ折った方も分かるでしょ!」
「折ったのはそっちだが、その後お前が煽ってきたんだろうが!」
「うぎゃあああああ因果応報!?」
叫びながらもギリギリのところでブレードを避けたUMP9機。
そこから少し離れ、HK416機がマニュピレーターを振りながら体を揺らす。
「やーい、僕は追われてた子を助けただけだもんねー!」
「お前も後で叩っ切るに決まってんだろ!!」
「救いは無かった!?」
黒髪の鉄血人形はぎゃあぎゃあと騒ぎながら刀を振り回し、二機のタチコマを追ってビル群へと消えていった。
UMP45のエンブレムが描かれているタチコマは気にせず人形へ説明を続けている。
「それでね、ちゃんと研修中の生活も保障するし、お給料も出るんだよ」
「いや、あのね、あっちの子達は……」
「うんうん、ただの賑やかしだからほっといていーよ。えーっと、どこまで話したっけ? そうそう――」
「ええええ……」
困惑する人形を無視してUMP45機は話を進める。一体誰に似たのだろうか。
そうしている間にも二機のタチコマはビルの壁をすいすいと登り、刀を持った鉄血人形を引き離そうとしていた。
「やーいやーい! 上に行っちゃえば何にもできないでしょー!」
「うーん、そうやって君が煽るから怒るんじゃないかなあ……」
「違うよ! 元はと言えば君があの人のブレードをへし折っちゃったからあんなに怒ってるんだろ!」
「だってだって、見過ごせなかったんだもん」
「あの冷血の416さんの機体とは思えない君のゲロ甘っぷりは何なんだい!?」
「むしろ416さんはああ見えて中身ダダ甘だし! 冷血じゃないし! ちょっと余裕のない時にヒスるだけだし!」
「致命的じゃないか!?」
二機が壁に張り付いたままギャースカ騒いでいると、いきなりUMP45機から通信が入った。
『あ、今の録音したから』
『やぶへび!?』
安全圏でコントのようなやり取りをするタチコマ二機。傍から見ると馬鹿にしているように見えるだろう。
だが、黒髪の鉄血人形は獰猛に笑って見せる。
「はっ、なめんな……!」
そう言うや否や、黒髪の鉄血人形は腕を振り抜いた。
勢いよく投擲されたなにかは壁面に突き刺さるが、タチコマからは大きく外れている。
避けようと身構えたタチコマ達だが、軌道から当たらない事を確信すると、UMP9機が再び煽り始めた。
「へたっぴー!」
「え、あ、ちょ、これぇ!?」
「馬鹿が……!」
そう嘲る様に吐き捨てると、鉄血人形は大地を蹴った。
ビルの壁面に突き刺さったそれを蹴り、タチコマ達と同じ高度へと一気に詰める。
「ぎゃああ! 対策してきてるぅ!?」
「当たり前だ馬鹿野郎! 毎回毎回無対策で来てたまるかってんだこん畜生!」
「僕達は無性だけど一応女性人格っぽいなにかですぅー!?」
「知るか!!」
だが、刀の一撃は寸での所で避けられた。
刃が壁面を切り裂き、タチコマの装甲をほんの僅かだけ掠めていく。
「くそっ!」
「あっぶなぁ!」
空中で体勢を崩した鉄血人形は壁面を蹴ると、向かいのビルの部屋へと着地する。
ビルの対岸にて向かい合う形になった鉄血人形とタチコマだが、彼女は刀を握りしめ、姿勢を低くする。
一人では仕留めきれない事は分かっているのだ。相棒に援護を要請するべく通信を行うが、肝心要の相棒は返答を寄越さない。
「おいハンター! 援護はどうした!
……ハンター? どうしたハンター、返事をしろ!」
相棒の異常を感知した鉄血人形は、ビルから慌てて周囲を見渡す。
そう、そこにはG11と書かれたタチコマが座り込んだ白髪金眼の鉄血人形――己の相棒と対峙していた。
黒髪の鉄血人形は慌てて己が相棒の元へと走る。
「くそ、ハンターが狙われていたのか……!」
現在、404小隊用のタチコマは隠密性を活かし救助活動を行っている。
その際に、今のように鉄血人形と鉢合わせし、交戦状態に陥る事もあった。
そう、今や船長と率いる機械と鉄血工造は日夜暗闘を繰り広げている――
「あいつらも飽きないな……あ、この缶詰美味いな」
「……こっちのは?」
「まあ待て、ちょっと酒で口を洗ってからな」
「わくわく……」
――わけではなかった。
「なに食ってんだハンタァァァァァァァ!」
「いやなにって、温めた缶詰だが」
「そういう事じゃねぇよ、美味そうな匂いさせやがって!」
「食うか? これ美味いぞ、エクスキューショナー」
「オレが言いたい事はそう言う事じゃねぇんだよなあ……!」
笑って缶詰を差し出すハンターに黒髪の鉄血人形――エクスキューショナーはそう言って肩を落とした。
「……僕達は食べられないから、味を知るために代わりに食べてもらってる」
経験値美味しいです、と言ってからG11機は左のマニピュレーターからハンターへと伸びたケーブルを見せた。
「いやあ、役得と言えば役得なんだがな、難民用のじゃないのかこれ?」
「……一応、僕のポケットマネーから出してる」
「お前らのトップは、戦車にも金渡してんのか……」
「……うん」
地面にべったりと張り付くようにしているG11機を見て、エクスキューショナーは大きく溜息を吐くと缶詰とフォークを受け取った。
「なんかもうやる気でねえ……」
「思えば最初から交戦する意思無かったからな、こいつら」
アーキテクトとゲーガーが消えた後、調査に向かったのがこのエクスキューショナーとハンターの二人だった。
同じころ、偵察に出ていたタチコマ達がボロボロの人形を見つけ、416機が救助している最中に丁度遭遇してしまったのだ。
そうなった後はタチコマはひたすら逃げ続け、途中で光学迷彩を起動し振り切ると言った事を数度繰り返していた。
相手は戦う気も無く、人形を回収すれば消える。
それが分かった所でエクスキューショナーの気は晴れない。
なんとかしてとっ捕まえてやると意気込んでみたものは良いものの、毎回逃げられることを繰り返し、彼女は一つ学んだ。
人形を助けに来るのなら、人形を人質にすれば誘き寄せる事が出来るのだと。
そうして刀で人形を脅していた所を見つかり、チェーンガンでブレードをへし折られてしまったのが前回の話である。
ちなみにハンターは手持ちの火力では無理だと割と早い段階で諦め、G11機とオセロしたりカードゲームしたりして遊んでいたりする。
「……ああくそ、本当に美味いのがなんかムカツク」
「……美味いならいいじゃん、戦うとかよりメンドくなくていい」
「本当にやる気ないなお前」
「なーいー……」
最初こそ殺意マシマシで襲ってきていた鉄血の二人だが、今では完全に、最初は強く当たってあとは流れで状態である。
「説明終わったよー」
「おつかれー……」
「お前らはお前らで本当にマイペースだよな」
「別に完全に敵対してるわけじゃないし」
「まあ、オレ達もなにがなんでも殺せってわけじゃないしなあ……」
そう言ってエクスキューショナーはがりがりと頭を掻いた。
「あ、そうだこれ……はい」
「あ? なんだこれ」
UMP45機から手渡されたものを見て、エクスキューショナーは怪訝な顔をする。
今までこう言ったものを手渡される事など無かったからだ。
「えっとねー、ここをこうして、と」
タチコマがその物体を操作すると、空間に映像が投影される。
「ホログラムか……?」
「おい、エクスキューショナー、あそこに居るのはアーキテクトとゲーガーじゃないか?」
「なんだと!?」
霧の町に佇む二人に、エクスキューショナーとハンターが反応した。
そうして映像はどんどん二人に近づいていく。
『あ、これもう映ってるの?』
『そうらしいな』
『やっほー、みんなー、げんきー?』
『おい、ちょっとは真面目にやれ……』
『えー? いいじゃんいいじゃん。気にしたら負けだって』
『何に負けるんだよ……』
そう言いながら、アーキテクトは明るく自慢話を開始するのだった。
何を作った、美味しいものを食べた、みんなと遊んだ等だ。
ゲーガーはゲーガーで、鉄血を抜ける事を詫び、今の生活が充実している事を報告している。
それは見る人が見れば普通の生活ではあるのだが、それが難しいのが今の時代であり人形達の立場だ。
完全にエンジョイしている二人を見て、エクスキューショナーは思わず叫ぶ。
「やっぱお前らの所に居たのかよ!!」
そう言って叫んだ後にエクスキューショナーはふと、ある事に気付いてしまった。
「い、いやまて、こ……この映像を報告としてエージェントに見せろと……?」
エージェントは今、早く計画を遂行したいとゴネる主を抑えるのに必死である。
ただでさえ所属不明の勢力が現れ、困惑している状況。
そうして心労を重ねているところに転職に成功しましたと自慢する元部下の映像だ。
もうブチ切れて良いんじゃないかな?
「わたしはついて来ただけだからな。頑張れよ、エクスキューショナー」
「オ、オレも転職しようかなあ……」
「……それはそれでいいかもしれんなあ」
そう言ってハンターは凄くイイ笑顔でエクスキューショナーの肩を叩くのだった。