先駆者達の遺産   作:maple_forest

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第6話

 食事の後、グリフィンからの連絡を受けたUMP45は、404小隊が集まっていた部屋を出た。

 別の部屋に入り、瓦礫に腰を掛けて通信のやり取りをする。

 

「――はい、了解しました」

 

 短い時間で通信は終わる。

 命令の内容は簡素なものだった。

 逃げた人形を始末しろ。ただそれだけだ。

 

 企業側からすると逃げた人形、あるいは違法に改造された人形など、自社の評判を落とす存在でしかない。

 邪魔になれば消す。単純な話だ。

 

 UMP45は一つため息を吐くと、再びどこかへ連絡を取ろうとするが、そこにHK416が入ってきた。

 

「……今回の任務は何?」

「言わなくても大体分かるでしょう?」

「そう……」

 

 この場所に移動した時点で、HK416は大体の事を察していた。

 グリフィンや企業からの依頼を受けなければ生きてはいけない、それは彼女も理解している。

 だが感情は別で、この人狩りならぬ人形狩りに、彼女は不快さを隠せない様子だった。

 

 表舞台に返り咲くどころか、ますます遠ざかるような任務だけが回される。

 汚れ仕事を行う度に、自分は帰れないのだと理解させられる。

 それが、HK416にはたまらなく嫌だった。

 

「ただ、今回はまともに受ける気は無いわ」

「……どういう事?」

 

 不可解そうに眉を顰めるHK416に、UMP45は何時もの微笑みを浮かべたまま、指を立てた。

 

「受け皿があるじゃない」

「あの話を利用する気?」

「そうよ」

「……そうやって、他の人形を使って安全か確認するわけね」

 

 そう言ってHK416は不快そうに吐き捨てる。

 UMP45は特に気分を害した様子もなく、軽やかにHK416へと近づいた。

 

「私はね、生き延びるためならなんだってするの」

「ええ、そうね。あんたはそう言う奴だわ」

「そう、そういう人形なの――よく考えてHK416、このままだといずれ使い潰されるのは分かるでしょう」

「だけど……!」

「逃げ道はいくらでも確保したいの。お願い、分かって」

 

 そう言って瞳を閉じたUMP45をHK416は睨みつけると、足音荒く去っていった。

 

 

 ――そう、私は部隊の仲間が生き延びるためならなんだってするのだ。

 

 

 UMP45は仲間のためならどんな泥だって被ってみせる。

 HK416が去ったのを確認すると、UMP45はすぐに本命の人物へ連絡を取った。

 

「もしもし――UMP45と申します。お昼はUMP9達がお世話になりました。

 ――はい、船長さんの想像の通りです」

 

 UMP9から得たデータの中に、船長への連絡先が入っていた。

 UMP45は勝負所はここしかないと思っていた。

 遅くなればなるほど、立場が不利になる可能性もある。

 故に隠し立てすること無く、自分達の事情を全て曝け出すと決めていた。

 

「ええ、それで相談が――実はグリフィンから任務を受けたのですが

 ――はい、グリフィンの依頼の内容はその通りです。

 それで、ですね、一名ほどこちらの社会に執着が強い人形が……はい。

 出来れば話を合わせて……」

 

 お互いある程度考えを予想できていたらしく、とんとん拍子に話がまとまっていく。

 

 

 ――そう、途中までは。

 

 

「あの……え? 就職説明会? 他の人形と一緒に?

 ええと……心配しなくていいと申されましても、その……。

 ええ……? はあ、活躍の機会、或いは待遇をきちんと保証、継続すれば彼女なら……恐らくそうだと思いますが……」

 

 段々とUMP45の首が傾げていく。

 何時もの微笑みも、だんだん困ったような表情へと変わっていく。

 

「ええと、難民扱いになる、ですか。

 人工生命体にも人権……? あ、はい。

 ……急患、ですか? あ、いえ、こちらこそ夜分遅くに申し訳ありません。

 ありがとうございました。では、また明日のお昼に」

 

 通信を切ってしばらく呆然とするUMP45。

 やっとの事で口から絞り出した言葉は

 

「どういうことなの……?」

 

 と言う困惑しきった感情の発露であった。

 ぶっちゃけ、1200万年前のAI(仮)が現代に復帰したとは考えつかないだろう。

 しかもそれが宇宙開拓時代を超え、技術の発展と共にロボットを一生命体と認め、人権まで与えた文明の出とは誰も思うまい。

 

 

 しばし考えに耽っていたUMP45だったが、皆が待つ部屋へ戻ると、UMP9の隣に腰かけた。

 

「45姉、どうしたの?」

「船長さんの居た座標を教えてくれないかしら?」

「いいけど……」

 

 マップを広げ、UMP9は指をさした。

 その位置を確認し、UMP45はすぐに立ち上がり、自分の装備を整えていく。

 

「45姉?」

 

 不思議そうに首を傾げるUMP9に、UMP45は目線をやる事もなく口を開く。

 

「船長さんと連絡を取ってみたのだけれど、なにやら問題が起きたみたいなの。

 気になるから、様子を見てくるわ」

 

 そう言って自分の銃を肩に提げ部屋を出ようとするが、それを見たUMP9は慌てて装備を整えだした。

 

「夜間は危ないよ! ほら、G11も起きて!」

「んんー……眠いよぉ……」

「船長がなんだか大変なんだって!」

「……ちょっと待って、準備する」

 

 のっそりと起き上がったG11を見て、HK416が目を見開き驚いていた。

 仕事中でも寝る事を優先するような人形が、いつもよりはっきりと起きて見せたのだ。

 HK416は大きくため息を吐くと、彼女もまた装備を点検し始めていた。

 

「……興味が湧いたわ。私も同行するから」

「……え、明日は雪が降るの?」

 

 眠たげな眼をこれでもかと見開くG11。

 その態度に、HK416の短過ぎる――起爆まで0.5秒の導火線に火が点いた。

 

「あんたに言われたくないわよ!」

「いだだだだだ! 本気でつねらないでぇ!」

 

 怒りのままにG11の頬をこね回すHK416。

 G11は大体いつも余計な事を言ってはHK416に怒られているが、今日は特に酷かった。

 

「……遊んでないで行くなら早く準備をしてくれないかしら」

 

 その様を見たUMP45は、微笑んだまま、しかしどこか呆れを含んだように呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 404小隊が船長のトレーラーに辿り着くと、そこには大量の人形の姿があった。

 人形達は誰も彼もが傷を負っており、頭部に包帯を巻いたものや、手足を失っているものまでいた。

 トレーラーのコンテナに備え付けられたライトを点け、外で検診を行っているのが見える。

 

「腐食した部分が原因で誤作動を起こしてるのね……。

 周囲のパーツにも悪影響が出そうだし、いっそ切除した方がいいわ――感覚は?」

「その、痛覚も切れなくなってて……それで耐えきれなくて……」

 

 船長はまともに傷口の手当てを受けれなかった人形の治療を行っていた。

 人形とケーブルを繋いだ端末を操作し、傷口周辺の感覚器を外部から停止させた。

 

「ちょっと待ってね――これでどう?」

「あっ、痛くなくなりました!」

「よし、切るわね……っと後は応急処置で中の洗浄を――」

「船長、こっちの人形の洗浄終わったよ!」

「なら汚れが入り込まないように傷口を埋めてから治療テープ貼っといて!」

「分かった!」

「あの、すみません、包帯が切れちゃって……」

「ああ、m45さん……あっちのコンテナに入っているはずです」

 

 そこは野戦病院もかくやといった様子で、船長とスコーピオンの二人が慌ただしく動き回っていた。

 

「うわ……」

「凄い事になってるわねえ……」

 

 思わず呆然としたUMP9と、何時もと変わらないUMP45。

 

「ちょっといってくる」

「……」

 

 ふらりと船長の元へと移動するG11。

 そして――

 

「……そう、いずれ、私もこうなるのね」

 

 ――苦し気に呻くHK416。

 

 きっと、補給もままならず、装備や部品の更新も認められず

 いずれ型遅れになって敵に敗れ、朽ち逝く未来を幻視した。

 思い描いてしまった未来から目を逸らすように、HK416は僅かに俯き目を伏せた。

 

 そうして俯いているHK416の耳に、他の人形の叫び声が聞こえた。

 

「すみません、友達の意識が戻らなくて……!

 お願いします、助けてください!

 私にできる事なら何でもしますから……!」

 

 電脳を乗せた頭部に銃弾を受けたのだろう、頭の一部が抉れて消えている。

 それだけではない、腹部の臓器もごっそりと無くなっている。

 

「……まずいわね、臓器が無いから電脳の保全用の電力が生成できてない。

 あまり動かさないで、電力だけじゃない、脳殻の物理的な損傷も酷いわ。

 かなりきわどい状況で持ってる――そう、優しく抱き留めて、動かさないように」

 

 延長ケーブルを片手に船長が走り寄り、故障した人形を動かさないようそっと接続した。

 

「……急げばギリギリ間に合う。スコーピオン、他の子のバックアップを一時中断!

 全てのリソースをこの子に回すわ!」

「了解!」

「大丈夫、このまま行けば精神になんの欠損もなく助かるわ。ちょーっと申し訳ないけど、その態勢を維持しておいてね。

 ――他の子も欠損した部品を作らなきゃいけないけど、この子の場合は一から作り直しね……」

「あの、その……」

 

 人形一体を買う余裕など彼女達にはない。

 それは船長も分かっている。

 

「大丈夫よ、助けるわ。あ、でも、ちゃんと働いて返してもらうから」

「あ、ありがとうございます!」

 

 いいのいいの、と笑いかけながら船長は次の人形を診るべく立ち上がる。

 内心かなり焦燥感に駆られていたが、周囲を不安にさせるわけにもいかず、何とか笑みを取り繕って見せた。

 

 その時、HK416と船長の視線が合った。

 複雑そうな表情をするHK416を見て、船長が駆け寄る。

 

「あなたもどこかケガをしているのかしら?」

「あ、いえ、私はどこも……」

 

 ほっとした様子を見せるその顔に、思わずHK416は目を見張った。

 

 

 

 ――見知らぬ誰かに心配されるなど、何時ぶりだっただろうか。

 

 

 

「そう……? なら良いけど、何かあったらいつでも言いなさい」

「あ……」

 

 そう言って立ち去ろうとする船長の背に、衝動的にHK416は呼びかけていた。

 

「待ってください!」

「ん……?」

 

 怪訝そうな表情で振り返った船長にHK416は一歩踏み出していた。

 任務を遂行するならこの場の人形全てを処理しなければならない。

 だが――

 

「私も手伝います」

 

 ――彼女に協力するならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 他の仲間も手当てを手伝うべく動き出している。

 ならば自分一人だけ反発した所で意味は無いと自分を納得させていた。

 

「ありがとう、助かるわ!」

 

 そう言って船長は満面の笑みを浮かべて見せる。

 胸に過った安堵と小さな喜びに気付かないまま、HK416は走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで次の日の昼。

 404小隊は再び船長のトレーラーの前に集まっていた。

 トレーラーハウスから大きく伸びをしながら船長が、スコーピオンを連れ立ってゆったりと出てきた。

 

「ごめんなさい、待たせたわね」

「いえ、大丈夫ですよ~」

 

 ひらひらと手を振るUMP45に、船長は軽く頭を下げた。

 

 全ての人形を手当てし終える頃にはすでに朝日が昇っていた。

 船長が慣れないことによる気疲れで疲弊しきっていたのを見て、スコーピオン達は寝るように勧めた。

 それでも疲労が取れていないのだろう、どこか疲れた様子が見受けられる。

 

「それじゃあ、仕事について説明するけれども――」

 

 船長がぐるりと見渡せば、そこには404小隊と、昨日助けた人形達がずらりと並んでいた。

 

「ええと、その……ちょっと多くない?」

 

 最後の方は隣にいるスコーピオンにだけ聞こえるように呟いたが、スコーピオンは苦笑するだけで何も言わなかった。

 

「とりあえず、説明だけしちゃおうよ」

「そうね、来るかどうかは別だし」

 

 多分全員ついてくるんじゃないかなあ、とスコーピオンは思ったが、あえて何も言わなかった。

 船長が半ば現実逃避しているのに気づいていたからである。

 小声で住居が…食料が……とうわ言の様に呟いているのが聞こえて来るのだ。

 

「それじゃあ、トレーラーの壁に掛けてあるモニターに注目してくださいねー。

 仕事内容を簡単にですが説明いたします」

 

 そう言って船長は端末を弄り、モニターに映像を映し出した。

 船長が複数の農耕機を操りながら大地を耕す姿が映っている。

 大きな耕作地だが、よく見れば周囲は壁や天井で覆われており、それが大きな室内である事が分かる。

 

「これは農業プラントですね、大きな畑を耕すものから、室内栽培まで多岐に渡り生産する施設があります。

 ここでは畜産業も行いますので、動物達の管理も同時にする事になりますね」

 

 そう言って次の映像に移ると、そこには大きな端末の前に立ち、操作をしている船長の姿が映し出される。

 

「ここは発電施設になります。ここでは発電機の稼働と、各施設への送電状況を管理するお仕事です。

 一番重要とも言える施設で――」

 

 発電施設について軽く説明を終えると、またもや映像が切り替わる。

 鉱山内ではドリルが地面を掘り進める映像と、またしても船長が機械を動かし、鉱石の搬出作業を行っている。

 

「ここでは鉱石を採掘する作業に従事していただきます。

 これまで見たどの作業も、基本的に機械を動かす作業ですので、皆さんには新たなプログラムを――」

 

 また次の映像は溶鉱炉で働く船長の姿、行政府で事務処理する船長の姿。

 都市部のガレキを重機で片付ける船長。ロボット組み立て工場で働く船長の姿。

 何をするにしても船長の姿しか映っておらず、船長の姿はもはやゲシュタルト崩壊寸前。

 

 この時点で集まった人形は嫌な予感がしていた。

 あ、これ色んな意味でやばい、と。

 

「職業選択の自由を、と言いたい所ですが緊急事態ですので作業はこちらが割り振る事になります。

 作業に余裕が出てきましたらその辺りは追々と。

 ここまでの時点で、何かご質問は?」

 

 しんとした空気が周囲に満ちる。

 誰もが思わず周囲を顔ぶれを見渡した。

 

 ――だれか質問してよ

 ――私達とは違う意味で悲惨すぎて、ちょっと

 

 ぼそぼそと小声で話し合う人形達。

 ちらりと船長を見れば、その笑みが引き攣っているのが分かる。

 

「……はい」

 

 静まり返った空気の中UMP45、意を決して手を挙げた。

 

「どうぞ」

「ええと、船長さん、さっきから船長さんの姿しか映っていないのだけれども……その、現在の労働者の人数は」

「わたくし、ひとりです」

 

 船長のそのセリフに、UMP45はそっと視線を逸らした。

 UMP45だけではない、その場にいた誰もが一斉に視線を逸らしたのだ。

 

 ――大体途中から予想はついていたが、これはあんまりだろう。

 

 船長は死んだ目で語りだす。

 

「色々とね、あったのよ。本当に色々と……。

 それでね、私達滅茶苦茶胡散臭いし本当の事は実際に来てもらえるまで言えないし。

 下手に知られたら帰すわけにはいかなくなるし。

 だからゆっくり信用を得て少しずつ引き抜いていこうと思ったら初日から大忙しだし。

 そもそも自分の事は未だに思い出せないし……!

 地球は滅びそうだし……!

 ええと、その、もう――」

 

 割といっぱいいっぱいなのか、支離滅裂な言動を取り始めた。

 そして最後には、美しいまでに頭を下げた。

 

「ぶっちゃけとても大変なので助けてください……!」

 

 最終奥義、泣き落としからの懇願発動である。

 その様があまりに見ていられなくて、UMP45は隣にいるスコーピオンに視線を移した。

 

「うん、言いたい事は分かるけど、あたしの体もロールアウトしたのがここ最近で……

 それに、あたしが居たとしても、働き口はそれこそ腐るほどあるのよね」

 

 映像見たし分かるでしょ、とスコーピオンが言えば、周りの人形も大いに頷いていた。

 

「割り当てられる人材が枯渇しているのが現状なんだ」

「ああ、そうなんだ……」

 

 何とも言えない空気が周囲に漂い始めるが、UMP45はこれでは話が進まないと判断した。

 

「船長さん、あなた疲れてるのよ。説明は終えたのだし、今日はもう解散しましょう?」

「うう……なんと言うかごめんなさい」

 

 およそ2年間、昼夜問わず全力で駆け抜けてきた影響がここに来て爆発してしまった。

 醜態を晒し恥じ入った船長は顔を真っ赤にし、それを少しでも隠そうと両手で顔を覆った

 

「いや、うん、肉体的にはそうではなくても精神的に壊れる事は人形でも人間でもあるからね」

「うん……落ち着いてから、後日またきちんと話し合うという事で……」

 

 周囲からの憐憫の眼差しを受けながら、全員が立ち去るまで船長は顔を覆い続けるのだった。

 後日、鬱だ死のうと嘆く長身の美人が居たとか居なかったとか。

 

 

 

 

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