先駆者達の遺産   作:maple_forest

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第9話

 今日は404小隊の一週間に一度の補給日である。

 彼女達は廃墟街郊外の立体駐車場にトレーラーを隠し、そこを根城としていた。

 404小隊のトレーラーの隣に、同タイプトレーラーが停められており、そこでは船長とUMP45を除く全員が作業を行っていた。

 

「……いったいなにを話し合っているのかしら?」

 

 ふと、HK416が自分達の船長達の方を向いて呟いた。

 

「船長はもうそろそろ船に来て欲しいみたいだよ?」

 

 その呟きに、隣でタチコマの整備を手伝っていたスコーピオンが反応した。

 

「……まだ二ヶ月とちょっとよ、早くないかしら?」

「船長としてはもう二ヶ月って所かな。もともとそんなに疑ってなかったみたいだし」

 

 私もだよ、と言って朗らかに笑うスコーピオン。

 彼女も船長と同じで、最初からあまり疑っていなかった。

 

「……あなた達、ちょっと人が良すぎる気もするのよね」

 

 悪い人に騙されないかしら、と小さく呟いたHK416だが、内心はそう悪い気はしていなかった。

 他人に信じてもらえると言うのは、それだけで嬉しいものである。

 今まで冷遇されていただけに尚更に。

 

 HK416は知らず知らずのうちに頬を緩めていたが、彼女はそれに気付く事無く作業を続けていた。

 

「ま、どう転んでも悪いようにはしないみたいだし、安心してて良いんじゃないかなあ」

 

 その噂の渦中の人物であるUMP45と船長は、トレーラーから少し離れた所で向かい合っている。

 彼女達は補給品の目録をチェックしながら、ゆったりと会話を進めていた。

 

「そちらももう大分落ち着いたようですね」

「ええ、だから、そろそろあなた達もこちらに本拠を移してはどうかと思ってね」

 

 船長は目録からちょっとだけ顔を上げ、UMP45へちらりと視線を向けた。

 

「タチコマを追加で三機入れてもらったばかりですが……」

「断られる可能性も考えて、一応ね」

 

 その言葉に、困ったように、しかし嬉しそうにUMP45は瞳を伏せる。

 

「なんとも……もう、反応に困る方ですね、船長さんは」

「まあ、ウチに来て欲しいのは本当よ。心配だし」

「私達の心配より、船長さんは自分の身を心配した方がいい気がしますが……」

 

 UMP45は思わず半眼で言い返したが、船長は肩を一つ竦めようとした。

 

「ん……?」

「どうしましたか?」

「ええと……いや、周辺をドローンで警戒しているのだけれども何か変なものが見えたわ」

「ちょっと待ってください、視界の共有を……鉄血のドローン?」

「……なにあのメインストリートにある大砲、凄い速度で展開してるわ」

「まさかここで砲撃を……?」

 

 船長が飛ばしていたドローンからの映像で、鉄血のロゴが付いた三基の砲台が角度を微調整しているのが見える。

 なんどか調整を繰り返した後、その砲台は砲撃を開始した。

 砲撃は遠くのビルに着弾し、そのビルを凄まじい勢いで破砕していく、

 

「……総員作業を中断、撤収準備!」

「急いで! 鉄血が砲撃を始めたわ!」

 

 船長が指示を、UMP45が状況を。

 一瞬だけ視線を合わせると、二人はトレーラの方へと駆け出した。

 

「なんでこんなところに!?」

「無差別砲撃……テストでもしてるって言うのかしら」

 

 スコーピオンは慌ててタチコマからケーブルを外し、AIを起動させた。

 

「あれぇ? もうメンテ終わったんですか?」

 

 のんびりとした様子のタチコマだったが、流れてきたイメージで瞬時に状況を把握した。

 

「うわっ! 目覚めと共にいきなり大ピンチだぁ!」

「言ってないで自力でコンテナに戻って!」

「うわわわっ、了解~!」

 

 船長はトレーラーに近寄ろうとしたが、その直後、彼女の背筋に悪寒が走った。

 ドローンの映像が、砲撃を追っている。

 船長の思考が加速し、着弾地点を正確に割り出した。

 

 

 ――直撃!?

 

 

「――危ない!」

「えっ――?」

 

 船長は自身の身を考えるよりも早くUMP45を突き飛ばした。

 空より超高速で飛来した砲撃が立体駐車場の屋根へ着弾、炸裂。

 爆発により天井が崩落し、瓦礫が彼女達に降り注ぐ。

 いくらかした後、砲撃音は離れて行った。

 

「あいたたたた……船長、だいじょう――ぶ?」

 

 瓦礫を押しのけ、スコーピオンが見たものは

 

「づっ……ぐぅ……!」

 

 苦悶の表情を浮かべ、瓦礫に左足を挟まれ、頭部を負傷した船長の姿だった。

 

「船長……!?」

 

 慌てて船長へと近寄るスコーピオン。

 船長の左膝から下が完全にひしゃげ、止めどなく血が溢れている。

 

 突き飛ばされたUMP45は瓦礫の下敷きにならずに済んだが、目の前の光景に目を見開いた。

 だが、彼女は歯を思い切り噛み締め、拳で己の額を強く打つ。

 

(バイタルは……船長はまだ死んでない、気絶しただけ……! なら、私がやるべきことは)

 

 そうして肺の中の空気を一度全て吐き捨てると、思い切り声を張り上げた。

 

「404小隊はタチコマに搭乗、敵の大砲の目を引くわよ!

 スコーピオン、私達が囮になるから、戦闘開始したら撤退の準備を!」

「……分かった!」

 

 飛び込むようにタチコマの操縦席に乗り込み、UMP45は各種センサーを最大出力で起動した。

 外に出るや否や、粘着ワイヤーで一気に高度を上げ

 彼女は瞬時に敵ドローンの位置を把握すると、そのカメラの向きに注視した。

 

「鉄血のドローンのカメラが今こちらを向いた。やはり、こちらを認識していたわけではない。

 でも、指揮者が必ずいるはず……!」

 

 UMP45は舌打ちをすると、自身の電子戦機としての能力を最大限に活用する。

 

「敵の通信量が増大している……指揮者はあそこ」

 

 タチコマの観測機器のズームを最大にし、敵の姿を確認と同時に地形の把握に努める。

 そうしている内に、次は彼女の乗るタチコマを狙って砲撃が放たれる。

 

 ワイヤーを切断し壁を蹴り、跳躍。

 タチコマが居た場所に砲弾が着弾し爆炎を上げた。

 爆風に煽られながら次の壁へ張り付き、再び液体ワイヤーを射出し、空を飛ぶように移動。

 

「相手の目がこちらに向いたわね……」

 

 UMP45は、彼女の機体に追随するHK416機から通信が入ったのを確認すると、すぐに回線を繋げた。

 

「45、どうするの?」

 

 HK416の声は平坦なものであったが、付き合いの長い彼女には、冷静に振舞おうとしているのがすぐに分かった。

 大恩ある船長を傷つけられた今、HK416の内心は嵐のように荒れ狂っている事だろう。

 

「もちろん、お引き取り願うわ」

「息を?」

「できればね。でも、本命は船長の脱出」

 

 UMP45は冷ややかに言い放つ。

 彼女にとって、船長は自分達の恩人であり、自分達を受け入れてくれた人である。

 恩義もある、感謝もある、そして何より、その甘さはがなんだかんだ言いながらも好きだった。

 G11や9のようにうまく甘えられなかったが、何時かはとも思っていた。

 

「必ず報いは受けさせてやる……!」

 

 UMP45もまた、ぐつぐつと煮え滾るような怒りを感じていた。

 彼女は怒りのままに、されど、冷静に敵を追い詰めるべく思考を加速させる。

 

「各員、次の交差点でタチコマから降りて奇襲を仕掛けるわ」

「でも45姉、敵のドローンが無数に飛んでるよ」

「見つかったら奇襲にならないよ……?」

「一時的にだけど、死角を作る」

 

 そう言って、UMP45はタチコマのチェーンガンの照準を鉄血のドローンに合わせた。

 

「タチコマ、次の移動は地面すれすれまで近づけて……!」

「りょ~かぁい!」

 

 UMP45はタチコマを跳躍させ、屋上から身を躍らせる。

 それと同時にチェーンガンが火を噴き、近くのドローンを破壊。

 

「さあ、行くわよ!」

 

 落下中のタチコマはビルの壁面へ粘着ワイヤーを貼り付け、機体の軌道が弧を描く。

 搭乗員を乗せた後部が地面すれすれを掠り火花を散らす。

 

「ハッチを開けて!」

 

 ほんのわずか、タチコマの軌道が上向いた瞬間、UMP45は操縦席を蹴った。

 彼女の体が少しだけ浮き上がり、しかしすぐに頭から落下を始める。

 

「ふっ!」

 

 呼気と共に身を捩じり、足から着地。

 そのまま勢いを止める事無く全力で道路を駆け抜けながら通信を開く。

 

『各員戦術マップを開いて……相手の指揮者はコの字型のマンションの中央に陣取っているわ。

 416とG11は左右に展開、マンションの中層で待機。9は私に続いて援護』

 

 マップの青い光点を動かしながら、UMP45は説明を続ける。

 

『各員無線を封鎖。2分で配置に付け』

 

 小隊員が了解の意思を示すと同時に、UMP45は全力で駆け抜ける。

 後ろを追随していたUMP9は、思わずと言った様子で呟いた。

 

「45姉、滅茶苦茶キレてる……でも、そうだよね」

 

 激する事が無い姉の普段と違う様子に慄くが、同時に納得もしていた。

 

「……怖いけど、気持ちはわかるから」

「私だって怒りを吐き出して喚き散らしたいほどよ。でも、今は目的達成が先決」

 

 G11とHK416はそう言うと、UMP45達から離れる。

 彼女達は路上に止めてあった廃車の屋根を蹴り、ビルの3階の縁に手をかけ軽々と窓枠を越えて行った。

 

 UMP45はビルとビルの隙間に入り、迂回して敵を目指す。

 冷却するために呼吸が激しくなり、口から白い息が漏れる。

 路地裏を飛ぶように駆け抜け、体が軋ませながらひたすらに進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、タチコマ達はとにかく派手に動き回り、敵の目を引き付けつつ砲台を目指していた。

 砲撃音が鳴り響くと同時に建物が崩れ去っていく。

 今現在、育ったAIは9とよく一緒に居たタチコマだけだ。

 故に、残りの三機の指揮はそのタチコマが戦術人形のダミーリンクのようにして指揮を執っている。

 

「これは厳しいなあ……経験値はいっぱい貯まりそうだけど」

 

 機動をランダム化させ、縦横無尽にビルの隙間を飛び回る。

 しかし――

 

「きゃああああああ、ついに一機やられたぁ!!」

 

 その内の一機が、ついに敵の砲撃を受けてしまった。

 煙を噴き、バラバラになりながら落下していく。

 

「パターンを読まれたんだ……!

 何とか相手に取りつかないと、このままじゃまずいぞう……!」

 

 逸る気持ちを抑え、タチコマは思考を高速化。

 ビル内に一瞬だけ侵入し、別口から再び目立つように跳躍し、発砲する。

 

「大分近づいてきたけど……!」

 

 そこで、タチコマの観測機器が相手の大砲に備え付けてある機銃に気が付いた。

 

「げぇっ……!」

 

 銃口が火を噴き、タチコマを追い散らさんと猛威を振るう。

 しかし、ここでタチコマも引くわけにはいかない。

 タチコマもまた、覚悟を決めて突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(タチコマの悲鳴……一機やられたのね)

 

 タチコマの甲高い悲鳴から、UMP45は状況を正確に判断していた。

 ドローンを警戒し、マンションの裏から侵入。

 荒い息を無理矢理抑えながら壁を背に座り込み、ドアの影から相手の様子を窺った。

 

(……やっぱり鉄血のハイエンドモデル、それも二体)

 

 鉄血人形の特徴である青白い肌。

 黒髪を左側で結い、ロケットランチャーとサブマシンガンが一体化したような巨大な武器を装備し

 もう片方は白髪で前髪を軽く揃え、腰まである後ろ髪をストレートに流し

 アサルトライフルの上下にブレードを備え付けた武器を持っている。

 

 黒髪の鉄血人形が慌てているが、UMP45からしてみれば好都合である。

 

(タチコマはよくやってくれているみたい……そろそろ時間ね、皆は配置に付いたかしら)

 

 無線の封鎖はまだ解かない。仲間を信じ、相手の動き、音に意識を傾け、ただ静かにその時を待つ。

 頭の中でカウントダウンをし、愛用している発煙手榴弾を手に取った。

 

(3……2……1……今ッ)

 

 UMP45はカウントダウンが終わると同時に立ち上がり、無線の封鎖を解除。

 彼女の戦術マップに青い四つの光点が浮かび上がる。

 

「馬鹿なっ、奴らどこから!?」

 

 白髪の鉄血人形の驚愕の声を聴きながらUMP45は笑みを浮かべる。

 彼女は発煙手榴弾を投げ込むと、自身もまた煙幕の中に突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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