ONI異界伝 はるけぎにあの双子鬼神   作:ローレンシウ

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第十五話 追跡

 

 どこからともなく現れた巨大ゴーレムが宝物庫を襲った、その翌日の朝。

 大穴を開けられた宝物庫の前には教職員らが集まり、てんやわんやの大騒ぎをしていた。

 犯行の現場に居合わせた目撃者として名乗り出たルイズとキュルケ、それにタバサ、音鬼丸、御琴が呼ばれて、脇のほうに控えている。

 

「なんだこれは! 一体、誰の仕業なんだ?」

「宝物庫から、なにか盗られたのか!」

 

 遅れてきたためにまだ状況を把握できていない教師たちに、先にいた教師の一人が宝物庫の壁の一角を指し示す。

 そこには、犯人からのメッセージが刻まれていた。

 

『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 

 フーケとは、トリステインの各地に出没しては貴族の所有する財宝を盗んでいくことで恐れられている、メイジの盗賊である。

 ルイズらも、この間訪れた武器屋で、その名を聞いたことがあった。

 金庫の壁を『錬金』で土くれに変えて潜入するばかりでなく、時には白昼堂々、豪快に巨大ゴーレムで打ち砕いて中の財宝を奪い去っていくことさえあるが、集まった魔法衛士たちを蹴散らすほどの強さもあって、いまだに正体はわかっていない。

 現時点で判明しているのは、おそらくトライアングル・クラスの『土』系統のメイジであるらしいということだけで、素性はおろか年齢や性別さえも判然としない大怪盗なのだ。

 

「ええい、下賤な盗賊風情が、この魔法学院にまで手を出してくるとは! 我々も舐められたものだッ!」

「衛兵はいったい何をしていた!」

 

 教師たちはひとしきり憤慨した後で、今度は責任の所在を追求し始めた。

 そんな大人たちの様子に、音鬼丸と御琴は顔を見合わせる。

 

「誰が悪かったかなんてことを言い合うよりも、盗賊を追いかけた方がいいんじゃないかなあ?」

「そうですよね。でも、追いかけようにも手がかりはないみたいですし」

「うーん。ここにひいおじいちゃんがいれば、占ってもらえたかもしれないけど……」

 

 音鬼丸は、最近秘女乃から占いを習っているという曾祖父の妖奇老のことを思い出して、小さく首を傾げた。

 最初こそあてになるのかと思ったが、なにせあの琥金丸らが三百年後の未来からやってきたなどという、予想外にもほどがある事実をぴたりと言い当てたのだから、大した腕である。

 

「ええい、衛兵などあてにはならん! 所詮は平民ではないか、フーケを捕える力はない。連中に責任を負わせるのは無理筋というものだ!」

「そうだ、それよりも当直がいたはずだろう。当直の貴族は誰だったんだね!」

 

 そんな二人をよそに教師らの追及は進み、最終的に昨夜の当直であった貴族、シュヴルーズに問題があるという話になったので、彼女は青ざめて震えあがった。

 なにせ、メイジだらけの学院を襲ったり盗みに入ったりする者などいるはずがない、居心地の悪い門の詰め所に一晩中いるなど無駄なことだと思って自室で熟睡していたのだから、言い訳もできない。

 

 しかし、そこにやってきた学院長のオールド・オスマンが、彼女を責める一同を嗜めた。

 

「ミセス・シュヴルーズが当直の役目を怠っていたのは事実であろうがの。私が思うに、諸君らの多くも普段からまともに当直など務めてはおらんかったのではないかな?」

 

 彼が一同を見渡してそう言うと、教師らはみな、居心地悪そうに顔を伏せて押し黙った。

 

「であれば、たまたまフーケが入ったのが昨夜だったというだけのこと。責任は我々全員にある。もちろん、諸君らの怠慢に気付いていながら、まあメイジだらけの魔法学院に賊など入るはずもなかろうと思って見逃しておった私自身も含めてな」

 

 その宣言にシュヴルーズがえらく感激して抱き着いてくると、オスマンはよしよしと彼女の尻を撫でた。

 御琴が汚いものを見るような目になって、ぼそっと一言。

 

「不潔です」

 

 平民の身で不敬にもほどがあるっちゃああるのだが、誰も咎めない。

 オスマンはこほんと咳払いをしてシュヴルーズから離れると、真面目な表情を取り繕った。

 

「さて、犯行の現場を見ていた目撃者がいると聞いたが?」

「こちらの五人です」

 

 コルベールが進み出て、自分の後ろに控えていたルイズらを指し示す。

 まあ、生徒や使い魔である彼女らが、ただの野次馬でこの場に来たのであればとうの昔に教師らに追い払われているだろうから、言わずもがなではあるが。

 オスマンに詳しい説明を求められたので、一同を代表してルイズが見たことを話し始めた。

 

「ええと、昨夜、たまたまキュルケと中庭にいて……。そうしたら、いきなり大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです」

 

 そのゴーレムの肩にはローブで姿を隠した黒ずくめのメイジが乗っていて、宝物庫の中から何かを、おそらくは『破壊の杖』を盗み出してから、またゴーレムの肩に戻った。

 ゴーレムは城壁を越えて歩き去ったあと、最後には崩れて土になった。

 乗っていたメイジがどこに行ったかは分からない、と。

 

 ルイズは、自分たちが夜分に中庭にいた事情については伏せておいた。

 キュルケとの口げんかがヒートアップして二人で決闘まがいのことを始め、彼女がおどかしで撃ってきた火球を迎撃しようと呪文を唱えたら的が外れて本塔の壁のあたりを爆発させてしまったなどということを、わざわざ正直に申告して要らぬ叱責を受ける必要もあるまい。

 爆発したのはちょうど宝物庫の壁のあたりだったが、それが盗賊が壁を破ったことに寄与しているかもしれないなどとは、ルイズは思ってもいない。

 宝物庫の壁に穴を開けたのは身の丈三十メイルもあろうかという巨大ゴーレムのパンチなのだから、『ゼロ』の自分の失敗魔法による爆発などあってもなくても同じだと考えるのは当然だろう。

 

「タバサとオトギマルとミコトは、その後で駆けつけてきてくれたので。犯人の姿は見ていないと思います」

 

 音鬼丸らがそれを肯定すると、オスマンは難しげな顔をしながら、口ひげを撫でた。

 

「ふうむ。後を追おうにも、手がかりはなしというわけか……」

 

 オスマンがそう呟いた、ちょうどその時。

 彼の秘書であるロングビルが、この場に姿をあらわした。

 

「ミス・ロングビル! どこに行っていたのですか! 大変です、事件ですぞ!」

「ええ、すでに知っていますわ」

「今朝は来るのが遅かったのう。寝坊かね?」

「連絡も入れずに申し訳ありません。ですが、朝から調査をしておりましたので」

「調査、とな?」

「そうですわ。今朝方起きてきたら、大騒ぎだったもので。宝物庫の壁にフーケのサインがありましたから、早いうちに調べれば後を追えるかもと思いまして、すぐに調査をいたしました」

「なんと。仕事が早いのう……」

 

 オスマンは、感心したように頷いた。

 

「それで、何か掴めたのかね?」

「はい。フーケの居所がわかりましたわ」

「な、なんですと!?」

 

 コルベールをはじめ、一同が驚く中で、ロングビルは説明をしていった。

 近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていく不審な黒いローブの男を見たという情報があったのだという。

 

「おそらくその男がフーケで、廃屋はフーケの隠れ家なのではないかと」

「黒ずくめのローブ? それはフーケです、間違いありません!」

 

 ルイズがそう叫ぶと、周囲の教職員からもざわめきが起こった。

 

「ふむ……。その廃屋がどこにあるのかも、当然聞いてきたのじゃろうな?」

「はい、もちろんです。案内できますわ。徒歩で半日、馬なら四時間といったところかと」

「すぐに王室へ報告を! 衛士隊から兵を差し向けてもらわなくては!」

 

 コルベールがそう言うと、オスマンは目を剥いて怒鳴りつける。

 

「たわけが! 日々の務めを怠ってまんまと秘宝を奪い去られた上に、この上メイジが揃いも揃って盗賊一人捕えられずに王室へ助けを求めるしかなかったなどということになれば、恥の上塗りじゃ。そんな様で、明日からこの学院で一人前の貴族を育てようなどと言えるか!」

 

 年寄りとは思えない迫力に、みな一様に口をつぐんだ。

 

「第一、今からそんなことをしていては、実際に兵が送られるのがいつになると思うのじゃ。明日、明後日などということになれば、フーケはもうそこにはおるまい。我らの手で、直ちに捜索に当たらねばならん!」

 

 その言葉に、ミス・ロングビルが我が意を得たりというように微笑んだ。

 オスマンは咳払いをして、一同を見渡す。

 

「これより捜索隊を編成する。我こそはと思う者は、杖を掲げよ」

 

 しかし、誰もが困ったように顔を見合わせたり、指名されるのを嫌がる生徒のように床に視線を落としたりするばかりで、一向に杖を掲げる者は出てこない。

 なにせ、相手は魔法衛士も蹴散らしたことがあるという名うての大盗賊なのである。

 魔法学院の教師たちはみな腕利きのメイジではあるが、日ごろから戦闘訓練を積んでいるわけでもない。

 そんな相手と戦うことになるかもしれない捜索に赴くのは危険すぎると尻込みをしているのだ。

 

「なんじゃ、おらんのか? この機にフーケを捕まえて名をあげようと思う貴族は、ここには誰もおらんのか!」

 

 オスマンがそう声をかけても、まだ杖は上がらない。

 まあ、よくよく考えてみると、教師なんてのは概ね安定志向の強い人間が就くことが多い職業なのである。

 危険を冒してまで一発あてて名をあげてやろう、などという山っ気の強い人間は、そうそういるものではないだろう。

 

(だとしても、貴族としての誇りだとか、ここは責任をもって行かねば教師として生徒に示しがつかんからとかはないんかい)

 

 オスマンが内心でそうぼやいて、溜息を吐いたあたりで。

 音鬼丸と御琴が顔を見合わせて頷き合うと、杖などは持っていないので、控えめに手を上げる。

 

「あの、すみません。ぼくらでも大丈夫でしたら、行きます」

「盗まれた場所に居合わせたのに逃がしてしまったわたしたちにも、責任があると思いますから」

 

 そして、彼らとほぼ同時に、俯いていたルイズも、顔の前にすっと杖を掲げていた。

 

「……え? あんたたちも?」

「あっ、るいずさんも行くんですね」

 

 別に示し合わせていたわけでもないので、ルイズは少し驚く。

 周囲の教職員の間から、ざわめきが起こった。

 

「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」

 

 シュヴルーズがそう言ったが、ルイズはきっとした顔で言い返した。

 

「誰も杖を掲げていないじゃないですか。杖を持たないオトギマルとミコトが手を上げているのに、この魔法学院の貴族は、誰も!」

 

 その音鬼丸と御琴については、誰も止めるものはいなかった。

 平民ごときが出しゃばって、という不快感を抱く者もいないわけではないが、自分がやらねばならなくなるかもしれなかった面倒かつ危険な役目を少しばかり剣の腕に覚えがある命知らずが変わって引き受けてくれるというのなら大助かりだ。

 

「…………」

 

 それまでは黙々と本を読んでいたタバサが顔を上げ、本を閉じて一歩進み出ると、自分も杖を掲げた。

 

「ミス・タバサまで? あなたは他国からの留学生でしょう! こんな危険なことに……」

「彼らには借りがあるから」

 

 キュルケも肩をすくめて苦笑すると、彼女の隣に並んで杖を掲げる。

 

「ツェルプストー! 君まで……」

「ヴァリエールには負けられませんし。それに、友人が行くのに、放ってはおけませんわ。ゲルマニアの女は情が薄いだなんて、思われては困りますもの」

 

 そんな彼女らの様子を見て、オスマンは相好を崩した。

 

「そうか。では、君たちに頼むとしよう」

 

 それを聞いて、シュヴルーズは生徒にそんな危険なことをさせるわけにはと反対したが、それでは君が行くかと言われると口ごもって、体調が悪いからなどと言い訳をする。

 オスマンはやれやれと溜息を吐いた。

 

「ここにおる者はみな、このような捜査に関しては素人であることは否めまい。言い換えれば、生徒も教師も大差はないということじゃ。むしろ、彼女らは、まがりなりにも敵の姿を見ておるのだし……」

 

 彼は話しながら、一人一人に顔を向けていく。

 

「……ミス・タバサは、母国ガリアから若くしてシュヴァリエの称号を与えられた騎士だと聞いているが?」

 

 タバサは特に返事をするでもなくぼうっとしたような顔をしたままだったが、周囲の教師たちはざわめいた。

 キュルケやルイズも、驚いたような顔をしている。

 

「しゅばりえ? きし?」

「なにか、立派な身分なのでしょうか。おさむらいのような?」

 

 音鬼丸と御琴が、首をかしげた。

 

「オサムライ? それがなにかは知らないけど、『シュヴァリエ』というのは王室から与えられる爵位……身分をあらわす称号のことよ。年金も与えられるわ。貴族の爵位としては最下位だけど、業績をあげた者だけが得られる実力の証なの」

 

 そんなルイズの説明をよそに、オスマンは言葉を続ける。

 

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアでも優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身も優秀な『火』の使い手だと聞いているが?」

 

 キュルケは自信たっぷりに微笑み、胸を張って髪をかき上げた。

 次は自分の番だと、ルイズも負けじと胸を張ってみせる。

 オスマンは困ったように少し考え込んで、こほんと咳ばらいをして目を逸らしながら言葉を紡いだ。

 

「えー、なんじゃ……その。ミス・ヴァリエールは、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女であるからして。しかも……」

 

 話しながら、逸らした目を音鬼丸と御琴の方に向ける。

 

「彼女は春の召喚の儀において、二人もの使い魔を召喚した。これは極めて異例なことで、非凡な才能のあらわれと見ておる。現にその片割れは、平民ながらあのグラモン元帥の息子であるギーシュ・ド・グラモンと決闘をして勝ったという噂だが?」

 

 コルベールも、彼の言葉に同意するように頷いた。

 彼が何者なのかはわからないが、先日の決闘の折に見た動きは生半な魔法衛士などは相手にもならないであろう程のものだった。

 もちろん、そうは言っても巨大ゴーレムに対して剣では無力だろうが、メイジの護衛としては頼もしい。

 

 オスマンは、すっかり静かになった教師たちを見渡して、威厳のある声で言った。

 

「さて。異論のある者、この五人に勝てるという者がいるのであれば、前に出たまえ」

 

 しばらく待ったが、誰も動かない。

 オスマンはあらためて、ルイズら五人のほうに向き直った。

 

「魔法学院は、諸君らが貴族としての義務を果たすよう努めてくれることを信じ、それに期待する。ミス・ロングビルは彼女らを案内し、手伝ってやってくれ」

 

 

 五人は、学院側が用意してくれた馬車に乗り、ロングビルを御者兼案内役として、さっそく出発した。

 襲われたときにすぐに飛び出せるよう、馬車は貴族が普段使うような乗用馬車ではなく、屋根のない荷車のようなものにしている。

 座り心地は悪いが、このようなときには致し方ない。

 

「御者なんて、付き人にやらせればいいんじゃないですか?」

 

 道中、キュルケはロングビルにそう話しかけた。

 身分の高い貴族、それも女性が自ら馬の手綱を取るなんてことは、普通はまずないものだ。

 

「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですので」

「え? でも、あなたは学院長の秘書じゃないですか」

 

 そんな立派な役職に就いている女性が、貴族の身分もなくした没落メイジだなんてことがあるものだろうかと、キュルケは訝しむ。

 

「オールド・オスマンは、貴族だ平民だというようなことには、あまりこだわられないお方のようですから」

「学院長とは、古くからの縁でも?」

「いいえ。知り合ったのはここ最近になってからですわ」

「ふうん……」

 

 それはまた懐が広いというか、不用心というか。

 

(誰かからの紹介とか?)

 

 いささか興味をそそられたキュルケは根掘り葉掘り詳しい経緯を聞き出そうとしたが、ルイズに止められる。

 

「なによ。どうせ暇なんだから、おしゃべりしようと思っただけじゃないの」

「あんたのお国ではどうなのか知らないけど、聞かれたくないことを無理に聞き出そうとするのは、トリステインでは不躾なことなのよ」

 

 それがきっかけで、また二人が言い合いを始め、火花を散らし始める。

 

「やめてください! けんかはよくないです!」

「そうですよ。大事なときなんですから、仲良くしないと」

 

 御琴と音鬼丸が間に入って、そうとりなした。

 

「……ま、オトギマルがそう言うならね」

 

 キュルケは肩をすくめると、そう言って、色気たっぷりの流し目を音鬼丸に送る。

 音鬼丸はきょとんとしていたが、御琴は何かを察したように、ぴくりと片眉を動かした。

 

「えっと……。それは、ありがとうございます。でも、どうしてなんでしょうか?」

「だって、あなたはあたしのダーリンですもの」

「だぁりん? ……あの、それって何のことですか?」

「あら、ご存じないの? かわいい方ね。いい、ダーリンっていうのは……」

 

 キュルケは艶っぽい笑みを浮かべて、音鬼丸のほうににじり寄ろうとした。

 が、そんな二人の間に、御琴がさっと割って入る。

 

「お兄さま。るいずさんもさっき言われていましたし、きゅるけさんにあんまりしつこく聞くのはよくないですよね? やめてあげてください」

 

 笑顔だが、何か雰囲気が怖い。

 よくわからないが、有無を言わせないような気配を漂わせている。

 

「……う、うん。御琴がそう言うのなら」

 

 音鬼丸は緊張した様子で、こくりと頷いた。

 こういう時の妹には逆らわない方がいいと、経験から理解しているのだ。

 

「あら。あたしは別に、そんなことなんて気に」

 

 御琴は、そう言いかけたキュルケのほうにくるりと振り向いた。

 

「きゅるけさん。兄がご迷惑をおかけしました。目的地に着くまでは、静かに英気を養われていてくださいね?」

 

 笑顔だが、ものすごく威嚇するような威圧感を放っている。

 キュルケは思わず、ごくりと息を呑んだ。

 

「いいですね?」

「……え、ええ」

 

 かくかくと頷くと、ささっと後ずさって、離れた場所に座り直す。

 彼女は馬車が目的地に着くまで、そのまま、借りてきた猫のように大人しくしていた……。

 

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