ONI異界伝 はるけぎにあの双子鬼神   作:ローレンシウ

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第十七話 対土巨兵

 

 地上に残って、フーケのゴーレムと戦う……。

 それを聞いたルイズ、キュルケは、驚いたように目を見開いた。

 

「あなたは剣士。あれほど巨大なゴーレムと、剣で戦おうというのは無謀」

 

 タバサが、珍しく少し焦ったような調子でそう言った。

 

「そうでしょうか?」

 

 対照的に、当の音鬼丸本人は、あまり気負ったふうでもない。

 彼の妹である御琴もまた、唐突な兄の言葉にやや戸惑ったような様子はあるものの、焦った様子ではなかった。

 

「そ、そうよ。当たり前じゃないの、何を言うのよ!?」

 

 ルイズが、こくこくと頷く。

 このままシルフィードに乗せられてこの場を離れることになるのだろう、悔しいがどうしようもない、と思っていた彼女にとって、音鬼丸の言葉はあまりに予想外なものだった。

 自分がここに残って命を張るのはともかくとして、彼まで巻き込みたくはない。

 正直、自分でもあんな巨大ゴーレムに本当に勝てると思っていたわけではなくて、半ば自暴自棄になっていた面もあるのだから。

 

「あんなでっかいのを剣で倒せるわけがないわ! 早く、シルフィードに乗りなさいよ!」

「でも、るいずさんはさっき、『やってみないとわからない』と言っていました」

 

 音鬼丸はそう言って、地響きを立てて向かってくるゴーレムの姿を見つめた。

 

「たぶん、大丈夫です。ぼくは、もっと大きな相手とも戦ったことはありますから」

 

 あのゴーレムとやらは、確かに大きい。

 だが、少なくとも大きさだけでいうのなら、黄泉の国で何度も戦った『だいだらぼっち』ほどのものではないのだから。

 

「たばささん、しるふぃーどさん。わたしも降ります」

 

 自然体な音鬼丸と困惑するルイズを見ていた御琴が、そう言った。

 

「あ、あなたまで?」

 

 たじろぐキュルケに、こくりと頷く。

 

「わたしも、るいずさんの『つかいま』ですから。事情はよくわかりませんが、るいずさんにここで戦わなくてはいけない理由があるのなら、お兄さまと一緒にお手伝いをします」

「…………」

 

 タバサはそんな御琴と音鬼丸の顔を、交互に見つめていたが。

 ゴーレムがもう危険な距離にまで近付いてきたのもあって、黙って頷くと、御琴が下りたのを確認してからシルフィードを飛び上がらせた。

 

「よし。みんなで、あの『ごぉれむ』を倒そう」

「はい、お兄さま」

 

 気負った様子のない双子とは対照的に、ルイズは緊張した様子で迫りくるゴーレムを見上げた。

 

「ど、どうやって戦えばいいの?」

 

 先ほど一人で半ば自暴自棄に無謀な戦いをしていた時よりも、かえって不安そうだ。

 一度死にかけてやや冷静になったためか、あるいは自分の「使い魔」たちを巻き込むことになって責任が重くなったためか、いつもと変わらず落ち着いている様子な音鬼丸に指示を求めたくなったらしい。

 

「ええと、そうですね……」

 

 音鬼丸はリーダーシップを取るのは苦手なので、ちょっと困ったような顔になる。

 とはいえ、ルイズは明らかに戦いには慣れていなさそうだし、向こうの方から意見を求められているわけだし。

 兄としてこんな場面で御琴に丸投げするのもあれなので、ここは自分が方針を決めるべきなのだろう。

 

「……では、ぼくが前に出て『ごぉれむ』と戦いますから、御琴とるいずさんは後ろの方から援護してください。それでいいですか?」

 

 音鬼丸は、ごく簡単にそう指示をした。

 あまり長々と悩んでいる時間もないことだし、相手の手の内もまだよくわかっていないことだし。

 ひとまず前衛後衛だけ決めて、あとは臨機応変に対応すればいいだろう。

 

「わ、わかったわ」

「御琴、いざという時にはるいずさんを守ってあげてくれ」

「わかりました、お兄さま」

 

 話がまとまったので、音鬼丸は軽く深呼吸をする。

 

「よしっ!」

 

 きっとした顔つきになって、気合いを入れて背負ったデルフリンガーを引き抜……こうと、したところで。

 

「あ、あれ……?」

 

 背中の方に回した手が空を切って、思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。

 いつもの場所に、デルフリンガーの柄がない。

 音鬼丸はそこで、はっと思い出した。

 先ほどゴーレムが不意にあらわれたときに、音鬼丸はルイズを探すために咄嗟にデルフリンガーを抜いて、小屋の外に飛び出したのだが……。

 

(……そ、そうだ。るいずさんを助けるのに走り込んだ時に……)

 

 ルイズが無茶をしてゴーレムに踏み潰されそうになったのを見て、あわてて走り込んで彼女を救い出したが、その時に持っていた武器は放り出してしまったのだった。

 そりゃあそうである。

 武器を手に持ってたら身体能力が向上するとかの珍しい使い魔能力でも持っているならともかく、ルイズと正式な契約をしていない音鬼丸や御琴にはそんなものはないのだ。

 となれば、一刻も早く駆けつけなきゃならないってときに、自分の身の丈ほどもある剣なぞを後生大事に抱えていたら邪魔になるだけだろう。

 当然、背負った鞘に納めてる暇もないから、そこらに捨てて猛ダッシュするしかない。

 

 ルイズや御琴も、彼がなにやらあわてているのを見て、剣がないことに気が付いたようだ。

 

「ちょ。ちょっとオトギマル! あんた、剣は!?」

「お兄さま。『でるふりんがぁ』さんは?」

「……ち、ちょっと置いてきちゃったみたいで……」

 

 二人に聞かれて、音鬼丸の顔がかーっと赤くなる。

 なんとも間抜けで格好悪い。

 

「お、置いてきたって! バカッ、逃げなさいよ!」

「……お兄さま……」

 

 それを聞いたルイズの顔色が変わる。

 御琴は、少々じとっとしたような目になったくらいだったが。

 

「ご、ごめん。急いでたものだから……」

 

 音鬼丸はきまり悪そうに苦笑した。

 とはいえ、そうそう呑気にもしていられない。

 既に間近に迫ってきたゴーレムが、こちらを叩き潰そうと拳を振り上げている。

 

「で、でも、まだぎーしゅさんからもらったのがあるし。大丈夫だよ!?」

 

 そう言って、咄嗟に懐から、彼にもらった予備の剣を取り出した。

 

「ギーシュが作ったナマクラなんかで、あんな大きいゴーレムを倒せるわけないでしょうが!」

「わかりました。援護します」

 

 ルイズは悲鳴のような声で叫んだが、御琴はすぐに兄をサポートする態勢に入る。

 彼女は素早く印を結び、精神を集中させて、法術を編んだ。

 

「《帝釈(たいしゃく)》!」

 

 大いなる天神の名を唱えることでその偉力を借り、味方の力を高める。

 音鬼丸の体の周りをほんの一瞬、宝珠のような輝きが巡った。

 

「たあぁっ!!」

 

 音鬼丸は唸りをあげて振り下ろされてきたゴーレムの拳を最小限の動作でかわすと同時に、それに伴って襲い来る風圧をものともせずに、その腕を斬りつける。

 帝釈の力で威力を増した刃がゴーレムの腕をざっくりと斬り裂くが、完全に斬り落とすには刀身の長さが足りない。

 しかし、音鬼丸は刃を返して立て続けに三度斬り込むことで、その手首を切断した。

 ゴーレムが右腕を持ち上げ直した時、手首から先はその場に残り、崩れ落ちて土の塊に還る。

 

「あいかわらず、惚れ惚れするような腕前ね」

「彼なら、あのくらいまでは当然」

 

 上空のキュルケとタバサは昨夜の彼の手並みを見ていただけあって、今さらこの程度で過剰に驚くことはない。

 

「でも、ミコトちゃんも何かしたみたいに見えたけど……」

「ミコトは図書館で、自分たちは遠い地から来た貴族だと言っていた」

「へえ。系統魔法には見えなかったけど……まさか、先住魔法の使い手だとか?」

「わからない」

 

 音鬼丸と御琴に交互に視線を走らせながら、タバサは小さく首を傾げた。

 眼下で戦いが続いている時にこんな話をしているのは呑気なようだが、彼女らも戦いの行方からは目を離さず、いつでも介入できるようにしている。

 自分たちが無暗に攻撃してもあのゴーレムには通じない以上、精神力の無駄遣いをしても意味がないので、今は温存しているのだ。

 

「……いずれにせよ、どうやってゴーレムに致命傷を与えるかが問題」

「そうね。手首を落としたくらいじゃ、こたえないだろうし。……そういえば、偵察に行ったミス・ロングビルは大丈夫かしら?」

「ゴーレムはここにいる。フーケも、それを操作することに集中しているはず。差し迫った危険はない」

「いよいよとなったときにはオトギマルを助けに入らなきゃだし、ここを離れるわけにもいかないか。……なら、あたしたちの方でどっかにいるフーケを探し出して叩くっていうのは?」

「シルフィードがもう探している。でも、木が多すぎて難しい」

 

 一方で、ルイズのほうは目を丸くしていた。

 

(……す、すごい……)

 

 音鬼丸が、ギーシュのワルキューレはまだしもあんな大きなゴーレムとも、それも剣なんかでまともに戦えるだなんて、タバサやキュルケのような戦いの心得がない彼女はまったく思ってはいなかったのだ。

 驚いたのは、彼女ばかりではない。

 身を隠してゴーレムを操っているフーケも、少なからず動揺していた。

 

(ちっ、やるじゃないか。たかが剣士だと思って、油断したよ)

 

 だが、名の知れた大盗賊だけあって、これしきのことでいつまでも手をこまねいているほどお粗末ではない。

 すぐに頭の中で次の手をまとめると、ゴーレムに残る片方の拳を振り上げさせ、音鬼丸を叩き潰しにかかる。

 

 ルイズもそれを見てはっと我に返ると、自分も音鬼丸を援護するべく、あわてて呪文を唱えた。

 振り上げられた腕を火球で攻撃しようとしたのだが、例によって失敗し、的も外れて、腰のあたりで小さな爆発が起きただけ。

 もちろん、ゴーレムはびくともしない。

 

「うう……」

 

 ルイズは悔しげに顔を歪めた。

 そんな彼女の姿をやや気遣わしげに横目に見ながらも、御琴は次の法術を編む。

 

「《大地の護り》」

 

 音鬼丸の周囲を、一瞬だけ茶色がかった靄のような輝きが取り巻く。

 堅固なる大地の力を借りて、味方を防護する法術だ。

 このような強化術で味方の力を高め、長期戦に備えるのは、強敵を相手にするときの常套手段の一つである。

 強力な攻撃術を使ってゴーレムを直接叩くことも考えたが、敵の力量もまだ掴めていない状態では勝負を焦らず堅実に戦った方がいいだろう。

 

「よしっ」

 

 妹のサポートを受けた音鬼丸は、剣を構え直して身を低くした。

 左右の違いこそあれど、先ほどと同じ攻撃だ。

 音鬼丸はあわてることなく、また同じように身をかわすと、素早く手首を斬りつける。

 

 が、しかし。

 

「……あっ!?」

 

 彼が斬り込む寸前に、フーケは『錬金』の魔法を使って、ゴーレムの拳を手首のあたりから鋼鉄の塊に変えた。

 斬りつけた手に、固い衝撃が伝わる。

 それでも刃は手首の中ほどまで食い込んだが、そこまでだった。

 作りの甘い刀身は予想外の負荷に耐え切れず、ばきんと甲高い悲鳴を上げて、中ほどから折れてしまう。

 

(『まほう』には、こんなこともできるのか)

 

 音鬼丸は魔法の汎用性の高さに舌を巻きながらも、ゴーレムが左手を動かす前に残った刀身に『炎熱』の炎をまとわせて、もう一太刀浴びせてやった。

 それで溶かし斬って左手も切断してやることができたが、同時に残っていた部分も砕けてしまう。

 彼はひとまず跳び退いて、ゴーレムから距離を取った。

 そこに、御琴とルイズが駆け寄ってくる。

 

「お兄さま、剣が……」

「うん。だめになっちゃったみたいだ」

 

 音鬼丸は残った柄を鞘に納めて懐に戻しつつ、どうしようかと考えた。

 先ほど放り出してしまったデルフリンガーを急いで拾ってくるか、術を使うか。

 それとも、転身して戦うか。

 ゴーレムは屈みこむようにして切断された手首を地面につけ、失った分の土を補充して、斬り落とされた両手の先を再構築しようとしている。

 上空から様子を見ていたタバサは、今なら攻撃が来ないと見て、シルフィードを降下させた。

 

「乗って」

 

 再度、そう促す。

 

「とりあえず、秘宝は回収できた。それで十分な成果のはず」

「そうよ。オトギマルの剣も折れちゃったみたいだし、引きあげましょう。無茶をするところじゃないわよ」

 

 ルイズは苦虫を噛み潰したような顔をしてはいたが、確かに魔法衛士も手をこまねいていた大盗賊から奪われた秘宝を奪還したというだけでも、大したことには違いない。

 なによりも、武器も失った使い魔を、これ以上の危険には晒せない。

 彼女は渋々ながら頷いて、シルフィードに乗った。

 音鬼丸と御琴も顔を見合わせて頷き合うと、それに倣う。

 

「でも、帰る前にろんぐびるさんと合流しないといけないのでは」

「もちろん、彼女を見つけてから」

 

 タバサは御琴の言葉にそう返事をして、ひとまずシルフィードを飛び立たせた。

 それから、上空を旋回しながら、ロングビルを探しにかかる。

 

 だが、一向に見つからない。

 

 ただでさえ木々が茂っていて見通しが効かないうえに、しつこくこちらを狙うゴーレムが腕を伸ばしてきたり、岩を投げてきたりするので、かなり危なっかしい。

 十分に高度を保っていればまずやられることはないだろうが、そんな高いところからではまともに探せないし、延々長引いてはシルフィードも集中を欠いて、うっかりやられてしまわないとも限らない。

 

「まったく、ミス・ロングビルも気が利かないわね……。こっちが上にいるのは見えてるでしょうに!」

 

 何か合図でも送って、自分の位置を知らせてくれればいいものを。

 もっとも、そんなことをすればフーケにも自分の位置を教えてしまうことになり、一人だけで地上に残っている彼女にとっては危険な行為なので、躊躇しているのかもしれないが。

 

「もう既に、姿を隠したまま離脱している可能性もある」

 

 タバサはそう指摘したものの、とはいえ、その可能性もあるというだけで、確実にそうだと断定はできない。

 ロングビルがまだ残っていることも十分考えられる以上、「先に帰ってると思って引き上げました」などというわけにもいくまい。

 となると……。

 

「ミス・ロングビルは、学院長の秘書を務めておられる人なのよ? わたしたちに断りもなく逃げ出すだなんて、そんなことをするとは思えないわ」

 

 そう言いながら、ルイズは一生懸命にあちこちに視線を走らせて、彼女の姿を探している。

 

「……あの。やっぱり、まず先に、あの『ごぉれむ』を倒しませんか?」

 

 さっきからじっとゴーレムの動きを見ていた御琴が、控えめにそう提案した。

 

「そうだね。ろんぐびるさんも、あの『ごぉれむ』が居座っているから、出て来られないんだと思う」

 

 音鬼丸も、そう言って賛成する。

 彼女だけでなく、さっき投げ捨ててしまったデルフリンガーだって回収して帰らなくてはならないわけだし。

 ゴーレムを何とかしないことには、それは難しいだろう。

 

「それができれば苦労はしないわよ」

 

 ルイズがじとっとした目になるが、タバサは彼らの方に顔を向ける。

 

「……方法は?」

 

 実際、彼女もそれを考えていたところだったのだ。

 正面からただ攻撃しても倒せそうにないが、あれはおそらく自分やキュルケと同じ、トライアングル・クラスのメイジが作ったゴーレム。

 メイジとしての『格』が同等である以上、落ち着いて対策を練れば倒せない相手ではないはず。

 御琴にも何か考えがあるのなら、まずはそれを聞いてみたい。

 

「ええと、考えてみたんです。あの『ごぉれむ』は、少しくらい傷ついても、土を取り込んで直してしまうみたいですね。でも、全身が凍っていたら、それはできないんじゃないでしょうか?」

 

 彼女は皆の顔を見ながら、段取りを説明していった。

 とはいえ、ごく単純なことだ。

 

「わたしとお兄さまであの『ごぉれむ』を凍らせて、『ふーけ』がなにかする前にるいずさんたちが砕いてしまえば、倒せるんじゃないかと思うのですが……」

「え? あなたとオトギマルが、あのゴーレムを凍らせる?」

 

 キュルケがきょとんとする。

 ルイズも彼女と同じような感じだったが、音鬼丸は目を輝かせて、大きく頷いた。

 

「さすがだね、御琴。よし、それでいこう!」

 

 それから、他の面々を見る。

 

「みなさんも、それでいいですか?」

 

 ルイズらは互いに顔を見合わせたが、ゴーレムを倒せるというのなら、別に異論などあるはずもない。

 

「そ、そりゃまあ……。あんたたちが、できるっていうのなら……」

「そういえば、あなたたちは遠方から来た貴族らしいわね。ここはお手並み拝見といきましょうか」

「任せる」

 

 御琴は頷いて、音鬼丸の方を見る。

 話がまとまった以上、速やかに行動あるのみだ。

 

「では、あの『ごぉれむ』の全身を凍らせるために、お兄さまは雨を。それから、わたしが吹雪を呼びます」

「うん、わかった」

 

 音鬼丸は先ほどの御琴と同じように印を結び、精神を集中させると、手を掲げる。

 彼の掲げた掌から強い法力(ハルケギニアでいうところの魔力)が放出され、天に昇っていく。

 たちまち、上空の一点がにわかに搔き曇り、分厚い黒雲が生じ始めた。

 次いで、掲げた手をゴーレムに向ける。

 

「法術、《落水破(らくすいは)》!」

 

 そう叫んだ途端に、水桶をひっくり返したかのような激しい集中豪雨が、ゴーレムの巨体が立っている範囲だけに狙い済ましたかのように降り注ぐ。

 

「てっ、天候の制御!?」

「……先住魔法?」

 

 驚く少女らが見守る前で、雨の中に霞んでぼやけたゴーレムの巨体に大量の水が浸み込み、その体がどろどろになっていく。

 ぼたぼたと濡れた泥が零れ落ち、動きが鈍る。

 とはいえこれだけでは、完全に崩れ落ちるまではいかないだろう。

 

 そこへ、雨が収まった頃合いを見計らって、今度は御琴が術を紡いで掌を掲げた。

 法力が天に昇ると同時に、上空で消えかけていた黒雲が再び厚みを増し、周囲の空気が急速に冷え始める。

 彼女はそれを、ゴーレムに向けて追い打ちをかけるように撃ち放った。

 

「《風雪乱舞》!」

 

 風が逆巻き、ゴーレムの巨体を包み込むようにして、局所的な吹雪が巻き起こる。

 強烈な冷気に包み込まれた泥塊は、たちまち凍り付き始めた。

 単に吹雪を放っただけでは、おそらく土ゴーレムは体表しか凍らず、巨体の動きを止めるまでには至らなかっただろう。

 だが、事前に音鬼丸の浴びせた大量の水が浸み込んで全身が泥化していたために、ゴーレムは体の深い部分から凍り付いて、完全に硬直する。

 

「今です、みなさん!」

 

 御琴の言葉を受けて、いち早く我に返ったタバサが杖を掲げ、呪文を唱え始めた。

 次いで、キュルケとルイズも。

 

 巨大な氷柱が胸に突き立ち、バキバキと大きな亀裂を入れる。

 立て続けに熱容量の高いマグマのような高熱火球が放たれ、急激な温度差と水蒸気爆発によって、四肢を砕く。

 それから、体のあちこちで弾ける爆発が、次々にゴーレムの体をひび割れさせ、崩れさせていった。

 

(あと一押しだ)

 

 このままルイズらに任せておくだけでも片はつきそうだが、フーケが何か対処してこないとも限らない。

 ここでとどめの一撃を叩き込んでおく「べきだと、音鬼丸は考えた。

 今は武器がないから、使うべきは……。

 

(……あっ。そうだ)

 

 音鬼丸はそこで、先ほど回収した『破壊の杖』のことを思い出した。

 この際だし、ちょっと使わせてもらうくらいのことは別に構わないだろう。

 減るものではないし、後でまた封印し直しておけばいいのだから。

 

 そう判断すると、音鬼丸は先ほど懐にしまい込んだ、こちらでは『破壊の杖』と呼ばれているらしい『竹光』を取り出した。

 両手で掲げるようにして持ち、握り込んだ拳に『隠忍』の力を籠める。

 

「『はかいのつえ』よ。お前の真の力を見せてくれ!」

 

 音鬼丸がそう呼び掛けると同時に刀身が光り出し、竹製だったはずの刀身がにわかに、磨き抜かれた鋼のように輝き始めた。

 ただ輝いているだけでなく、渦巻く風のような霊気を纏っている。

 

「こ、これは!?」

「……!」

「オトギマル。あなた、破壊の杖を使えるの?」

 

 ルイズらが目を丸くする中で、自分もゴーレムに何かとどめになる攻撃を加えようかとしていた御琴は、はっとしたような顔になった。

 

「お、お兄さま? まさか、それは」

「うん。手に持った時に感じたけど、やっぱり『彼』が持っていたのと同じものみたいだ」

 

 音鬼丸はそう言って剣を構え、既に半ば崩れかけたゴーレムを見下ろした。

 それから、気合を込めて、剣を振り下ろす。

 

「やああっ!!」

 

 真の力を引き出された『風神の剣』の威力に、剣術『真空斬り』のそれが加わって、鎌鼬と呼ばれる妖怪のそれなど比較にならぬほどの強烈な空気の断層が発生し、ゴーレムに襲い掛かる。

 ゴーレムはすでに崩壊しかけた上体と下半身をまとめて真っ二つに両断され、完全に崩れ落ちて氷と泥土の山に還った……。

 





たいしゃく(帝釈):
 ONIシリーズに登場する法術の一種。
 4および5では味方単体の攻撃力を上昇させる効果。
 4では対象を味方全体にすることも可能(効果はやや低くなる)。

だいちのまもり(大地の護り):
 ONIシリーズに登場する法術の一種。
 4および5では味方単体の防御力を上昇させる効果。
 4では対象を味方全体にすることも可能(効果はやや低くなる)。

らくすいは(落水破):
 ONIシリーズに登場する法術の一種。
 5の解説によれば、激しい雨を降らせて敵を攻撃する。
 対象は敵単体もしくは全体(全体化した場合はやや威力が低下する)。

ふうせつらんぶ(風雪乱舞):
 ONIシリーズに登場する法術の一種。
 5の解説によれば、吹雪で敵を凍えさせる。
 対象は敵単体もしくは全体(全体化した場合はやや威力が低下する)。

しんくうぎり(真空斬り):
 ONI4に登場した剣術で、京にある剣道場で「とらまさ」という名の師範に勝てば習得できる。
 剣を振るって真空の斬撃を放ち、敵単体にダメージを与える。
 いわゆるイヅナとかカマイタチとかそういった類の技だと思われる。
 炎熱よりも威力は高いが消費が倍近くあり、コストパフォーマンスはあまりよくない。
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