「……んーっ……」
翌日、眩いばかりの朝の光が差し込む部屋の中で、音鬼丸は一番に目を覚ました。
風の匂いこそ故郷とは違うが、なんともすがすがしい朝である。
隣で寝ていた御琴も、じきに目を開けた。
「おはよう、御琴」
「おはようございます、お兄さま」
互いに挨拶をして、それからルイズのほうを見ると、彼女はまだ高台にしつらえた寝床の中ですやすやと寝息を立てていた。
いつも一人で起きているのだろうし、気持ちよさそうに寝ているのを無理に早く起こすこともないと判断して、言いつけられていた下着の洗濯を先に片付けようという話になった。
が、困ったことには、洗濯用具がどこにあるのかが皆目わからない。
「うーん。見た感じ、部屋の中にはそれっぽいものはないみたいだけど……」
「戸棚の中でしょうか。でも、勝手にあけるのも……」
それに、自分たちはまず洗うための水場がどこにあるのかも知らないのだ。
昨夜のうちにルイズに聞いておけばよかったと思ったが、後の祭りである。
「仕方がないですから、外に出て探して、どなたかに会ったら聞いてみます。お兄さまはるいずさんが起きたときのために、ここにいてください」
そう言うと、部屋の中で見つけた金属製のたらいに見慣れぬ繊細なつくりの下着を入れて、部屋を出ていく。
そんな妹の後姿を、音鬼丸はじっと見送った。
「……御琴……」
あの子は昨夜、確かに一人で泣いていたようだった。
きっとまた、両親に心配をかけてしまったとか、兄に迷惑をかけてしまったとか、思い悩んで気持ちが沈んでいたのだろう。
自分にはそんなそぶりを見せないようにしているが、それでも今朝は表情が少し暗かったように思う。
ようやく家族の元に戻って穏やかな暮らしを送り始めた御琴が、時折思い出したように暗い影のある表情を見せることには、両親も音鬼丸もずっと心を痛め続けていた。
彼女は、何もわからない赤子の頃に攫われてどうしようもなかったとはいえ、十五年間も消息不明のままだったのである。
その間に邪神の傀儡とされて“佳夜”と名乗り、数多くの非道な行いに手を染めてきた。
力のある呪術者たちを主の障害となり得る存在として次々に抹殺していき、村々をそこに住む人々ごと津波で押し流そうとしたりもした。
他にもきっと、さまざまな邪な行いをさせられていただろう。
最終的には、とうとう邪神・天津甕星が復活してしまったことで、大袈裟ではなく日本中の人々を危険な目に遭わせることになった。
御琴の側からすれば、利用されていたとはいえずっと罪に塗れた生活を送り、家族を悲しませ続けてきたのだから、そのことで負い目を感じてしまうのは仕方がないのかもしれない。
だが両親や兄の側としては、十五年間も暗い生活を送ってきたからこそ、これからは幸せになってもらいたいと切に願っているのである。
(ぼくに、御琴を幸せにできる力があればなあ)
御琴はどうやら、先日未来からやってきた琥金丸という少年に、淡い想いを寄せていたようだった。
兄としてはやっと再会できた妹がもう自分から離れていくのだろうかといささか複雑な気持ちながらも、うまくいって幸せになってくれればと願っていたのだが、彼は元の時代に帰っていってしまったし。
一度はその時代まで彼を追っていくほどの大胆な行動に出たという御琴も、結局は迎えにいった伯父の天地丸に連れられて家に戻ってきた。
それについては本人の中で気持ちの整理はついているようだが、やっぱり少し寂しそうに見える。
ルイズのあどけない寝顔を手持無沙汰でなんとはなしに眺めながら、自分が御琴のためにできることはなんなのだろうかと、音鬼丸は兄としてそう思い悩むのだった。
・
・
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「ただいま戻りました」
洗濯を終えて戻ってきた御琴の表情は、幸いにして先ほどよりもずいぶんと明るかった。
話を聞いてみると、何でも同じく洗濯物を抱えた女性に出会って、洗い場に案内してもらったらしい。
その女性は『しえすた』という名前で、ルイズらのような『きぞく』ではない普通の人間で、この学院で働く使用人の女性だという。
「変わった使い魔が一度に二人もきたというので、しえすたさんたち使用人の間でも、わたしたちのことが話題になっているそうです。こちらの下着を洗濯するやり方も、丁寧に教えていただきましたよ」
楽しげにそう話す御琴の様子からすると、どうやらそのシエスタという女性に親切にしてもらって、仲良くなったらしい。
「そうか。あとで、ぼくからもお礼を言っておかないとね」
音鬼丸もそんな妹と同じように、にっこりと笑う。
御琴の明るい顔を見ていると、自分の気持ちも前向きになった。
(きっと、そこまで焦らなくても大丈夫だ)
幸い知人には、あの琥金丸たちが三百年後の世界から来たことをぴたりと言い当てたほどの占術の達人もいることだし。
両親も自分たちが戻ってこないとなれば、遠からず相談に行くだろう。
御琴のときのような邪神による妨害などの特別な理由がなければ、きっと自分たちがどこか別の世界にいるが危険な目には遭っていないことや、二人とも一緒にいることくらいは突き止めてくれるはずだ。
あるいは伯父の天地丸が、妹である母の相談を受けて自分たちを捜しにきたりもするかもしれない。
あの頼もしい伯父ならば、別の時代だろうが異世界だろうが、いざとなればどこにでも駆けつけてきてくれそうな気がする。
(せっかくこんな変わった場所へ来たんだから、帰れるようになるまではここでの生活を楽しもうとするほうが、御琴にとってもいいのかもしれないな)
もちろん、自分たちの方でも帰る方法を見つけるために努力しなくてはならないが、無暗に焦ればよいというものでもあるまい。
そんな焦りが伝われば、御琴がまた責任を感じて落ち込むことになるだろうし。
音鬼丸自身も正直なところ、また故郷の外にある新しい広い世界を見られるのかと思うとわくわくしていた。
故郷へ戻ったときに、両親に聞かせるいい土産話にもなるはずだ。
まあ、なんにせよそれは、まだこれからのこと。
とりあえず、今は……。
「……そろそろ、るいずさんを起こしたほうがいいんじゃないかな?」
最初は別に起こす必要もないだろうと思っていたのだが、どうも部屋の外のほうから聞こえてくる物音からすると、既に起き出している人が多そうだ。
昨夜はぐったりと疲れた様子だったから、もしかするといつもの時間よりもだいぶ寝過ごしているのかもしれない。
「そうですね。……るいずさん、朝ですよ?」
「……ふえ?」
御琴がそっと彼女の体を揺さぶると、ルイズは寝ぼけた声を漏らしながら目を開けた。
もぞもぞと体を起こして、くあー、とあくびをする。
「おはよ。……服ー」
「服がほしいのですか? はい、どうぞ」
御琴は頼まれるまま、素直に椅子にかかった制服を手渡してやった。
ルイズとしては、頼んだのではなく命令したつもりだが。
そのまま無造作にネグリジェを脱ごうかとしたルイズだったが、昨日さんざん破廉恥だのなんだのと説教されたことを思い出して、面倒そうに音鬼丸に断りを入れる。
「これから、着替えるわ。それが済んだら食事に行くから」
「あ、はい」
音鬼丸は素直にそう言って頷くと、先に部屋を出て二人を待つことにした。
その後、部屋の中ではルイズが下着もクローゼットから出せと要求したが、まるで見慣れないものばかりなために御琴にどれですかと尋ねられたり……。
ようやく必要なものを見つけて手渡したと思ったら、今度は着替えさせろとまで要求された御琴が、「さすがにそのくらいは自分でしないとお行儀が悪いと思います」と苦言を呈したり……。
ルイズから「これも使い魔の仕事のうちよ。昨日やるって約束したでしょ!」と言われて、やむなく着付けを手伝ったりと、一悶着あった。
一方、外の方では。
「おはよう。ル……あら?」
音鬼丸が部屋を出て戸を閉めた直後に、近くにある別の部屋の戸が開いて、中から人が出てくる。
姿を現したのは、健康そうな褐色の肌と燃えるような赤い髪を持つ長身の女性だった。
男の音鬼丸と比べても、かなり背が高い。
色気を振りまく肌蹴た豊満な胸の谷間が目に入って、音鬼丸はあわてて顔を逸らした。
その女性はしばしきょとんとしていたが、じきに何かを思い出した様子で頷いた。
「……ああ。確か、昨日ルイズが召喚した子の一人だったわね?」
「あ、はい。るいずさんの使い魔をしている、音鬼丸といいます」
音鬼丸は、そう言ってぺこりと御辞儀をした。
さっきはルイズと言いかけていたようだったが、まさか彼女と自分とを見間違えるわけもないし、この女性は最初からルイズが出てくるのを待って挨拶するつもりでいたのだろう。
してみると、彼女はルイズの友人に違いあるまい。
キュルケはそんな彼の全身を、値踏みをするようにじろじろと無遠慮に眺めやった。
「ふうん……、ルイズの使い魔にしては行儀がいいじゃないの。それに、なかなかかわいい子ね!」
(か、かわいい?)
確かに年齢相応よりも幼く見られることが多い気はするが、自分はもう十五を過ぎている。
あの天津甕星と戦ったりもして、ちゃんと一人前の頼れる男になったつもりなのにと、音鬼丸は軽く落ち込むのだった。
まあ確かに、目の前の女性よりは自分の方が、何歳か年下なのだろうとは思うが……。
「あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ、キュルケでいいわ。ルイズは、まだ中かしら?」
「はい。着替えてるところです」
「そう。それじゃ、待ってる間にこっちの使い魔も紹介するわね。フレイムー!」
キュルケがそう呼びかけると、彼女の部屋からのっそりと、虎くらい大きい真っ赤なトカゲのような生き物が現れる。
その尻尾は燃え盛る炎でできていて、口からも炎を舌のようにちろちろと覗かせており、音鬼丸のところまでむんとした熱気が漂ってきた。
音鬼丸はそれに怯むでもなく興味津々で、その生き物の傍に屈み込む。
「へえ。見たことのない妖怪だなあ」
自分が出会ったことのある体から火を放つ妖怪というと、不知火や火の車なんかが思い出されるが、それらとは明らかに違っている。
あるいは、異国の妖怪である火光獣とかの仲間だろうか。
「ヨウカイ? ……なんだかわからないけど、この子は幻獣よ。サラマンダーね!」
「『げんじゅう』の『さらまんだー』?」
キュルケは、得意げに胸を張った。
「そうよ。俗に火トカゲとも言うわね。ごらんなさいな、見事な炎の尻尾でしょ。ここまで鮮やかで大きいのは、間違いなく火竜山脈のサラマンダーだわ」
そう言ってフレイムの頭を撫でながら、「好事家に見せればお金に糸目をつけずに買い取ろうとするブランドもの」だとかなんとかさらに自慢を続けるキュルケに、音鬼丸は少し顔をしかめて曖昧な返事をした。
「は、はあ……」
音鬼丸は普段の外見こそ人間と変わらないが、父は妖怪の一種である鬼族であるし、母も半分は鬼族の血を引いているので、実際には人間よりも妖怪の血の方が濃いのである。
十五歳になるころには既に、自分の意思で完全な鬼の姿への転身を行えるようになっていた。
そんな音鬼丸が妖怪を金で取引する話などを聞いても、それは人間が奴隷売買の話を聞かされるようなもので、あまりいい気分がしようはずもない。
それにそもそも、このあたりでは本当に妖怪を金で売り買いなどしているのだろうか。
大抵の妖怪は人間と同じように知性があるし、力もほとんどの人間よりもずっと強いので、一部人間に友好的な者もいるが概して危険な存在として恐れられている。
ゆえに、日本ではごく一部の呪術師が使役したりすることはあっても、それを他人へ売買するなどおよそ考えられない話である。
あるいは幻獣というのは妖怪ではなく、このあたりに住む変わった動物の一種に過ぎないのだろうか?
その辺りのことを尋ねてみたいとは思えども、なにせ向こうは妖怪という言葉を知らず、こちらは幻獣なる言葉を知らないのだから、そういう質問の意味を理解してもらうのにも一苦労であろうし……。
音鬼丸がぼんやりとそんなことを考えているうちに、着替えを終えたルイズと御琴が部屋から出てきた。
「おはよう、ルイズ」
「……おはよう、キュルケ」
あらためて彼女に挨拶をしたキュルケに、ルイズは露骨に嫌そうに顔をしかめながら短く不愛想な返事を返した。
「先にあなたの使い魔に挨拶をさせてもらってたわよ。あなたの使い魔はこっちのオトギマルと、ええと……」
「はじめまして、音鬼丸の妹の御琴です。よろしくお願いします、きゅるけさん」
そう言ってぺこりとお辞儀をした御琴に、キュルケが微笑む。
「ありがと、ミコトちゃんね。あなたもお兄さんと一緒でかわいいわね。それに、いつもぶすっとした誰かさんと違って、お行儀もいいし?」
揶揄するようにそう言ってから、キュルケはルイズと御琴にもフレイムを紹介した。
それが済むと、じゃあお先にと言いおいて、自分の使い魔を背後に従えながら颯爽と去っていく。
(あれ、一緒に行くつもりじゃなかったのか?)
キュルケは明らかにルイズが出てくるのを待っていたようだったから、てっきり二人は友人で、一緒に食事に行くのだと思っていたのだが。
ルイズの方はなんだか嫌そうにしていたし、キュルケは彼女をからかっているようだった。
もしかすると、あの秘女乃さんと砦角さんみたいな関係なのかなと、音鬼丸は考えた。
二人とも御琴を探す旅で自分に協力してくれた仲間なのだが、彼女らは十数年前にも天輪乗王という恐ろしい敵と戦うために共に旅をしたことがある間柄らしく、しかし性格的にはそりが合わないとのことで、秘女乃は砦角を苦手にしていた。
とはいえもちろん敵対しているわけではなく、十分に信頼はし合っており、いざとなれば危険を顧みずに助け合う仲間だった。
大人なので、自分たちの間の適切な距離間が分かっているのだろう。
もちろんルイズとキュルケはあの人たちほど大人ではないだろうし、戦友というわけでもないだろうけど、関係としては似たようなものなのかもしれない。
そんな音鬼丸の考えをよそに、キュルケの姿が見えなくなるや、ルイズは憤然と鼻を鳴らした。
「ふんっ、なによ! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって、これ見よがしに。今回はわたしだって、負けてなんかないわよ!」
「る、るいずさん……。その、なにをそんなに怒っているのですか?」
「きゅるけさんは、別に……」
「あいつはねえ、いつだってわたしに嫌味な態度をとるのよ!」
それから食堂につくまでの間、ルイズは当惑げになだめにかかる御琴と音鬼丸に、延々とヴァリエール家とツェルプストー家の代々の因縁とやらについて話して聞かせたのだった……。
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トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内でも最も背の高い中央本塔の中にあった。
一度に百人は着卓できそうな非常に長い机が、三つ並んでいる。
茶色のマントを身につけた一年生、黒いマントを身に着けた自分達二年生、紫のマントを身に着けた三年生に別れて座るのだと、ルイズは音鬼丸たちに説明した。
教師たちは、上階のほうにある別の席で食べるらしい。
どのテーブルにも、非常に豪華な飾り付けがなされている。
華美な燭台にいくつもの蝋燭が立てられ、花が飾られ、色とりどりの果物が盛られた籠がのっていた。
壁際には精巧な小人の彫像が並んでおり、この食堂はその小人たちの名にちなんで『アルヴィーズの食堂』と呼ばれているということだった。
「うわあ……。すごいところだなあ」
音鬼丸は目を丸くして、素直な感想を漏らした。
こんなに煌びやかで広い食堂は、日本各地の城でも見たことがない。
「わたしたちはここトリステインの魔法学院で、ただ魔法を学ぶだけじゃなく貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないの」
ルイズは得意げに指を立てて、そう講釈した。
「お料理も、すごく多いみたいです……。朝からこんなに食べられるのですか?」
御琴は、机にずらりと並んだ鳥の丸焼きやら、鱒の形をした焼き菓子らしきものやら、洋酒の瓶やらを見つめて、首を傾げながらそう尋ねた。
まあ、ルイズらが本当にこの異郷の地に住まう鬼族だとするならば、人間よりも遥かにたくさん食べられるのだとしても別に不思議ではないが……。
「まさか。みんな好みのメニューも違うし、好きなものを食べられるようにいろいろと並べてあるだけよ。残ったものは、まあたぶん、使用人とか使い魔が食べるんでしょ」
ルイズが平然とそう答えたのを聞くと、兄妹は揃って、無礼にならない程度にではあるが、顔をしかめた。
食べ物を粗末にしないよう躾けられ、作り過ぎた分はあらかじめ近所へお裾分けすることが習慣になっている身としては、明らかに食べ切れない食事を食卓に並べてその食い残しを人に渡すというのはどうも感心できなかった。
御琴は、邪神の手先として生活していたころに上級の妖怪たちが似たような退廃的な食事の仕方……部下たちに山ほど用意させ、ほんの少し手をつけただけで今日のは口に合わないと言って捨てさせるとか……をしていたり、自分も彼らと同じ食卓についたりしたことがあったのを思い出すので、なおさらいい心持ちがしない。
とはいえまあ、みんなそうしているのならこの土地ではそういう習慣なのだろうし。
昨日の件はともかく、何から何まで自分たちの倫理観をルイズに押し付けようなどという気はないが……。
「あの……。わたしたちは、食べるものはいただけるのでしょうか?」
御琴がそう尋ねると、ルイズは当然よと言って頷いた。
反抗的で役立たずな使い魔なら躾のために食事制限などと言うことも考えねばならないが、この二人は要求も出すがまあまあ忠実にやってくれているし、優秀だし。
何よりも、異国の地でとはいえ貴族の血を引いているというのなら、それなりのものは用意せねばなるまい。
「ここに席は用意できないけど、使用人たちにわたしの命令で食事を出すようにと言えばいいわ。あっちに厨房があるから、そこへ行きなさい」
ルイズはそう言って厨房の方を指さしたが、兄妹はそれを聞くと顔を見合わせて頷き合った。
「ありがとうございます。でも、よければるいずさんの食べ切れない分を分けてもらえませんか?」
「ええ、わたしたちは使い魔ですから。特別扱いをしていただいては他の使い魔の方にも失礼ですし、るいずさんの食べ残しをいただきます」
少しでも食べ物を粗末にしないためにはその方がよいだろう、という考えから出た言葉だった。
詳しい話し合いなどしなくても、半身同士、互いに同じことを考えているときには何となく気持ちが伝わるのだ。
兄妹は渋るルイズを説き伏せると、彼女の食卓からいくらかの料理を皿に取り分けてもらい、お礼を言って厨房に向かった。
二人は厨房でシエスタら使用人たちと少し言葉を交わしたりしながら、楽しく朝食を済ませた。
食べ慣れない料理ばかりだったが、味はいずれも濃くておいしかった。
「お味噌汁とはちがいますけど、この『すーぷ』というのはとってもおいしいですね!」
「うん。それに、こっちの『しちゅー』もおいしいよ。とろっとしてて、すごくいろいろな種類の野菜と鳥の肉が入ってるみたいだ」
とはいえ、ずっとこうした食事が続くと、故郷の味も懐かしくなってくるだろう。
(おいしいけど、こっちには煮物はないのかなあ?)
音鬼丸は母がよく作ってくれる自分の大好物のことを思い浮かべて、そう考えた。
占術の達人:
高野丸の妻である秘女乃……ではなく、彼女から占いの仕方を教わった妖奇老(天地丸・高野丸の祖父で音鬼丸と御琴の曽祖父)と、5で琥金丸に秘女乃が紹介してくれた岩国村の巫女のことです。
秘女乃は非常に力のある占い師でしたが、高野丸との間に跡継ぎをもうけたことで5の時点では占いができなくなっています。