変わり果てた伝説   作:ラスティ猫

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第一話:悪魔の十本足(ただし十本目は存在しない)

 

 

 

 澄み渡る青空の下、一隻の船が大海原に浮かんでいる。

 進む先、はるか遠くに陸地が見えている。

 

 ――アリアハン大陸。

 アリアハン一国のみが存在する大陸である。

 船は真っすぐにその方向へと進んでいく。

 

 船の甲板、そこには一人の少年の姿があった。

 

 肩まで伸びた柔らかな琥珀色の髪。

 大きく丸い緑色の双眸。

 そして、小柄で華奢な体躯。

 

 誰がどう見ても少女にしか見えない彼だが、実際の性別は男である。

 しかし、体に大きく男などとは当然書いてはいないわけで――

 

 

「おう! 嬢ちゃん! もしかして、その年で一人旅なのかい?」

 

 

 ――当然、こうなるわけだ。

 

 もっとも、この船乗りの男が悪気があってこのような間違いを犯しているわけではないことは過去の経験から少年のほうも百も承知である。

 だからなのか、彼はその間違いに憤るようなことはなかった。

 それどころか、満面の笑みで男に微笑みかけたのだった。

 

 

「はい! 少し探し物があるんです!」

 

 

 

 男は彼の花の咲くような笑顔に一瞬言葉を失ってしまう。

 しかし、「あれ?」と反応がないことを訝しがる彼の様子を見て我に返った。

 

 

「そ、そうなのかい。しかし、その年で一人旅なんて大変だろう? 最近は魔物の動きも活発になってるみたいだしな」

 

「そうですね。苦労することもありますが、大丈夫ですよ。こう見えて、ボク、結構強いので!」

 

 

 彼の口から出た『強い』という言葉が、あまりにもその容姿とかけ離れた概念に思われたのか、思わず男は呆けてしまう。

 それを冗談だと考え笑おうとする男だが、彼が背負っているものに視線を移して、納得したように頷いた。

 

 

「嬢ちゃん、もしかして魔法使いなのか?」

 

 

 少年の背中には三本の杖があった。

 それぞれの杖は長さが彼の背丈ほどもあり、傍目に見ると非常にアンバランスである。

 

 彼のほうも、自分の背負っているそれらを見て男が言ったのだとすぐに合点がいったらしい。

 少し考えた後、口を開いた。

 

「……まあ、そんなところですね! それより、あとどのくらいで港に到着するんですか?」

 

「そうだな、見えては来たが、まだしばらくかかるぞ……そうだな、()()()()()()()、あと二時間ほどじゃねえか?」

 

「あと二時間、ですか。結構かかりますね」 

 

 

 

 『何事もなければ』

 そう言った男の言葉は、盛大なフラグとなった。

 

 

 

 突然、大きく揺れ動く船体。

 乗員たちは驚きながらも自分の近くのものに捕まって体制を保っている。

 少し遅れて、一人の乗組員が大きな声を上げた。

 

 

「――ま、まずい!! 大王イカだ!!!」

 

 

 大王イカ、それは海上の船を襲い、触手で船体を締め付けて沈没させることから、『悪魔の十本足』という異名で恐れられている存在だ。

 海上で出会う以上、剣や槍などの近接攻撃はなかなか当てることができない。

 魔法使いがいなければまず、まともに戦うことすらできない相手だろう。

 もっとも、伝説の英雄のように剣から衝撃破でも飛ばせれば話は別だろうが。

 

 焦りながらも、船乗りたちが一般人を避難させていく。

 

 そんな中、少年は一人大王イカが現れたという方向へと向かっていった。

 

 先ほどの船乗りがそんな彼の様子に驚き、声をかけた。

 

 

「じょ、嬢ちゃん! そっちは危ねえぞ! 後は俺たちが何とかする! 嬢ちゃんは早く安全な所へ避難しろ!!!」

 

 

 船が沈むかもしれない状況において、安全な場所など果たして存在するのか。

 そんな疑問が生じるところだが、彼は純粋に少年の身の安全を心配しているのだ。

 少年はそんな男の気持ちを察したのか、「ありがとうございます」と感謝を述べた。

 

 しかし、男に言われたとおりに行動する気は全くなさそうである。

 

 少年は焦躁に駆られている、男に対して落ち着かせるようにこう言った。

 

 

「大丈夫ですよ? さっきも言いましたけど、こう見えて、ボク、結構強いんです」

 

 

 そう言って堂々と歩いていった少年を、男はもはや止めようとはしなかった。

 ただ、一人にはしておけないと判断したのか、近くにあった槍を持って急いで彼を追いかけていった。

 

 しかし、そこで男が見たのは、信じがたい光景であった。

 

 

 

 

 少年は、(くだん)の魔物を発見するや否や、「おお! 大きい!」などと呑気そうな声を上げる。

 大王イカのほうもすぐさま彼の存在に気づいたようで、睨みつけるようなその鋭い視線は今にも少年の腕でつかみ海へと引きずり込もうと画策しているようにも見える。

 

 しかし、少年はそれを身に受けてもなお余裕を崩さない。

 彼は流れるような動作で、右手を背中へと回し、三本の杖のうちの一本を握りこむ。

 大王イカの九本の腕のうちの一本が彼のもとへと勢いよく向かっていくが、彼は気にすることなく左手の人差し指を相手へと向ける。

 

 

「危ねえ! 嬢ちゃん!!」

 

 

 それを見てこらえきれず飛び出してきた船乗りの男。

 しかし、彼の心配は杞憂に終わる。

 

 

「――《ラリホー》」

 

 

 その言葉とともに、大王イカの体が脱力し腕の勢いが消失する。

 のしかかった腕の重みで傾く船体。

 しかし、続く彼の呪文とともに、その原因は取り除かれる。

 

 

「《ベキラマ》」

 

 

 一瞬にして現れた炎の波によって大王イカの腕が急速に燃えていく。

 これによって大王イカの脅威から船は解放されることとなった。

 しかし――

 

 

「――馬鹿野郎! 船の上でそんな呪文を使うやつがあるか!」

 

 

 少し配慮が足りなかったようで船乗りから雷が落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 




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