変わり果てた伝説   作:ラスティ猫

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第二話:船乗りと門出

 

 眠った大王イカが起きる前にと、船は静かに進路を再開した。

 一つの危機を救った当の救世主はというと――

 

 

「……ったく、大王イカとか関係なく船が沈むところだったぜ。近くに俺がいてすぐに消したからよかったが」

 

「す、すみません」

 

 

 ――乗組員の控室で説教に遭っていた。

 

 それも当然だろう。

 もし仮に炎が船に燃え移ってでもいたらまず間違いなく船は全焼していただろうから。

 この日は快晴、それに加え強い追い風であった。

 

 進む上ではとてつもない好条件であったが、火も止まらないような天気である。

 自分の軽率な行動に気づいた少年は、大王イカと戦っていた時の余裕そうな表情が嘘のように極まりが悪そうに目を伏せていた。

 そんな彼を見かねて、老齢の船乗りが助け舟を出した。

 

 

「じゃが、このお嬢ちゃんが助けてくれたかげで、今こうして船は進んでいるわけじゃろ? 今この船が無事である、それで十分じゃよ」

 

「船長、なに自分の株だけ上げようとしてんすか」

 

 

 男の言葉に、目を逸らす船長と呼ばれた老人。

 彼に助けを求めようと視線を送る少年だが、ゆっくりと頭を振られてします。その様子を見て絶望の表情に変わる少年。

 

 

「まあ、今ここに俺たちが無事でいんのは嬢ちゃんのおかげなのは確かだ。本当にありがとうな」

 

「ボクは自分のためにやっただけなので、気にしないでください」

 

 

 確かに、少年の行動は間違いなく自分のためでもあるのだ。

 船が沈んで困るのは彼も同じだったのだから。

 それでも彼らにとって彼が救世主であることには変わりはない。

 

 

「何か礼をさせてくれないか」

 

「礼……ですか?」

 

「ああ、俺たちにできることなら何でも言ってくれ」

 

 

 その言葉に、少年は少し考える。

 そして、かねてからの目的である探し物について尋ねる。

 

 

「それなら、一つお聞きしたいのですが、お二人は『賢者の石』について何かご存じでないでしょうか?」

 

 

 少年のその言葉に船乗りの男は顎に手を当てて少し考えるそぶりをする。

 しかし、全く心当たりがないのかすぐさま申し訳なさそうに答える。

 

 

「悪い、俺は聞いたことがねえな、船長は?」

 

 

 船長は何かを思い出すかのように語りだした。

 

 

「そうじゃなあ、その石のことかはわからないがのう、大分前に船乗り仲間がきれいな赤い石を見つけたとか言っておったのう」

 

 

 その言葉に、少年は目を光り輝かせる。

 

 

「本当ですか!?」

 

「本当じゃよ。儂は嘘はつかんからな」

 

「それで! その方は今どこに?」

 

「早まるでない、その石じゃがな、そのあとそやつの船が海賊に襲われたときに奪われてしまったそうなのじゃよ。加えて、その海賊団のこともよくわかっておらぬのじゃ。おそらくはその石は今頃奴らのアジトにでもあるのじゃろうが」

 

 

 それを聞いて、少年は残念そうに肩を落とす。

 

 

「そうですか……残念です。でも、手掛かりがわかっただけありがたいです」

 

「力になれなくてすまぬのう」

 

「こっちで何かわかったら連絡するぜ。嬢ちゃんの名前を聞いてもいいか?」

 

「ボクの名前はメディです」

 

「メディか。珍しい名前だな。それならコンタクトはいくらか取りやすい。ちなみに俺の名前はフルードだ。こっちの老いぼれ船長がボアだ」

 

 

 ボアはフルードの紹介に顔を顰める。

 

 

「勝手に儂のことまで紹介するでない! 自分で説明しようと思っておったのに……やが、そういうことじゃ。儂らの船は基本的にアリアハンとバハラタ間の貿易船なのじゃ。もしお主から連絡を取りたいときには港を訪れてくれ」

 

 

 彼らは主にバハラタからの香辛料の輸送により儲けを得ている。

 もっとも有名なものは黒胡椒であるが、その他にも数多くの香辛料の産地であるバハラタ。

 肉の長期保存に有用な香辛料は、アリアハンにおいても重宝されており、非常に高値で取引が行われている。

 

 

「もっとも、どんなに早くとも片道二週間はかかるからな。海に出てるときにはどうしようもないが。これでも、俺たちの船は最新式なんだぜ。普通の船だったら軽く一か月はかかるだろうからな」

 

 

 現在メディたちが乗っているこの船は既存の道具に魔法を組み込むことで高性能な魔法道具を作り出すことのできる魔法技師によって手掛けられた最新式のものである。

 

 この世界においてはただでさえ貴重な造船技術。それに加えてこの船は風の少ないときでも魔法によって推進力を得ることで、安定して進むことができる。これによって大幅な時間短縮が実現されているのだった。

 

 

「わかりました! それで、そちらから連絡をもらえるときはどうなるのですか?」

 

「ああ、バハラタとアリアハンには俺らの行きつけの酒場があるんだ。ちょっと待てよ今、そこの場所と名前を書いて渡してやるから……そこのマスターに俺と船長の名前を出してくれればそれで通じるはずだ」

 

 

 そう言って、フルードは羊皮紙に書きなぐるように店の名前と位置を示す。

 そして、その紙をメディへと手渡した。

 

 

「ご親切にありがとうございます!」

 

「なに、命の恩人なのじゃからこれくらいして当然じゃよ」

 

 

 こうして、予期せずに人脈を得ることができたメディだった。

 話がひと段落したところで、気になっていた話題を振る。

 

 

「ところで、一つ気になったのですが、先ほど、『この船は基本的に貿易船』だとボア船長が言ってましたよね。それだと乗客はあまり乗せないように思うのですが、今はいっぱい人が乗ってます。何かあるのですか?」

 

 

 メディの言葉に、フルードは驚いたように目を丸くする。

 

 

「まさか、嬢ちゃん知らないのか!?」

 

「えっと、何がですか?」

 

 

 その質問にボアが答える。

 

 

「アリアハンから勇者が旅立つのじゃよ。……何でも、あの英雄オルテガの息子らしいのう。あやつとは儂も長い付き合いじゃった。どんな立派な倅を持ったのか興味があるのう」

 

「勇者……ですか?」

 

「ああ。その反応だと、本当に知らなかったみたいだな」

 

「ええ、お恥ずかしながら、世情に疎いもので」

 

 

 そんな彼を呆れたように見る二人。

 

 

「……疎いなんてもんじゃねえぞ。サマンオサの英雄サイモンも行方不明だって話だしな。残り少ない人類の希望って奴だ……それを知らねえなんて、嬢ちゃん、一体どこから来たんだよ」

 

「えっと、結構な田舎です、たぶん」

 

「まあ、いいけどよ。だが、そんなに世間知らずだと一人で行かせるのが心配になるな」

 

「大丈夫ですよ。ボク、結構強いので」

 

「それを聞くのは三回目だ。強いのは知ってる。だけどな、これは人生の先達からのアドバイスとして受け取ってほしいんだけどな、世の中戦いの強さだけじゃ生きていけねえんだ。だから、くれぐれも警戒は怠るなよ、油断したら食われる。それがこの世界だからな」

 

「……肝に銘じておきます」

 

 

 真剣な眼差しで自分の話を聞くメディに満足したのかフルードは頷く。

 

 

「面倒臭い奴だと思うんじゃないかとも思ったが、ちゃんと聞いてくれてうれしいぜ」

 

「――そろそろ、港に到着するぞい。フルードお主も着港の準備に入れ」

 

「うっす」

 

 

 そう言って、彼は慌ただしく走っていった。

 

 

 

 

 

 

 他の乗客が降りていったあと、メディは最後に船から降りる。

 降りるときに、先ほどの二人が彼の見送りに来ていた。

 

 

「今回はお世話になりました。運賃まで無料にしてもらって本当によかったんですか?」

 

「命の恩人から金なんかとったら男、というか人間が廃るぜ」

 

「達者でな、お嬢ちゃん」

 

 

 最後まで好意的に接してくれる二人に、メディは心から感謝の念を抱いていた。

 大王イカが出てきたときには少し不運だとは思ったが、結果としては良かったのかもしれない。

 

 そこで、彼は一つ騙していた――というよりは訂正していなかったことを思い出す。

 

 

「あ、すみません、一つ言い忘れてました」 

 

「ん? どうした、嬢ちゃん」

 

「……ボク、男ですから」

 

 

 ――そう告げられた二人は、今日一番の驚きの表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 




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