変わり果てた伝説   作:ラスティ猫

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第五話:冒険の旅

 

 

 

 アリアハン大陸、二人の旅人が草原を歩いている。

 多くの人間の足跡が重なり、自然と形成された道なりに二人は進んでいく。

 そのうちの一人は琥珀色の髪をした少年であり、もう一人は右耳に十字架のピアスをした赤い髪の女性である。

 

 可愛らしい顔つきをした少年――メディの表情には疲れが見えていた。

 一方で女性のほうはと言えば、余裕気に笑みを浮かべていた。

 そんな同行者の様子を見て、恨めしそうにメディは苦言を呈した。

 

 

「あの、もう少し何とかならないですかね」

 

「何とかって? 何が?」

 

「戦闘についてですよ! ちょっとでも手伝ってもらうとかできませんかね!?」

 

「あら、妙なことを言うのね。アタシがホイミしか使えないのを知っている癖に」

 

「呪文が使えなくても、せめて叩くとか」

 

 

 そう、道中の魔物との戦闘、その際に自称僧侶であるリアは全く働かなかった。

 それどころか、変に敵を挑発して数を増やすことまであったのだ。

 結局一人で相手をさせられているメディの体には徐々に疲労が蓄積しているのだった。

 

 その不満を聞き届けたリアは、不思議そうにメディの顔を見ている。

 

 

「叩くって、この『ひのきのぼう』で?」

 

 

 何故か誇らしげにただの木の棒を掲げ、堂々と無能宣言を行う彼女を見たメディは諦めたように溜息を吐いた。

 

 ここまでの短い付き合いの間で彼はあることを悟っていた。

 この女性に対しては、自分の思ったことはしっかりと主張していかなければいけないと。

 でなければ、完全に相手のいいように使われてしまうと。

 

 しかし、彼は未だに気づいてはいなかった。

 結局主張しようがしまいが彼女のペースに乗せられてしまっているということに。

 

 

「……というか、よくそんな装備で街の外に出ようという気になりますね」

 

「あら、だって、アンタが守ってくれるんでしょ?」

 

「そのつもりではありますけど、ボクが信頼できるっていう保証はないわけでしょう?」

 

 

 メディの疑問はもっともだろう。

 初めて出会った相手に自分の命を預けることのできる人間が果たしてどれほどいるのだろうか。

 しかし、リアはきっぱりと言い放つ。

 

 

「保証なら、あるわよ」

 

「……なんですか」

 

「アンタが本気で探し物を求めているってことがその保証よ」

 

「どうして、そう言い切れるんですか」

 

「アタシ。人を見る目には自信があるの」

 

「だからといって――」

 

「話は最後まで聞きなさい。言っておくけど、もしアタシが死んだらアンタは一生賢者の石にはたどり着けない。その場所を知ることもできないでしょうし、もしできたとしても、手に入れることは不可能ね」

 

「なるほど、脅し、ですか」

 

「あら? 何のこと?」

 

 その発言の真偽はメディにはわからなかった。

 ただし、何の情報もない現時点では彼女の言葉を否定することもできない。

 事実、旅を続けてきて手がかりを得られたのは今回が初めてなのだから。

 彼女の持っている情報を引き出すまでは、今しばらく苦労が続きそうであった。

 

 メディは前途の気苦労を予測して、思わずため息を吐いた。

 

 

「……まあいいです。しばらくは、ボク一人でも十分対処できそうですし」

 

「あら、頼もしいわね」

 

「全然心がこもってませんね……《ベギラマ》!」

 

 

 話している間に近づいてきたいっかくウサギたちに向けて火炎が襲い掛かる。

 なすすべなく丸焼きになるウサギたち。

 こんがりと香ばしい香りが周囲に漂う。

 

 

「……可哀そうなウサギさん」

 

「だから、全然心がこもってませんよ」

 

 

 真顔でウサギへの同情を示す彼女に呆れたように言葉をかけるメディ。

 何でこの人は僧侶になろうと思ったのか、メディの胸中に率直な疑問が浮上した。

 

 

「リアさん、あなた、神への信仰心とかあるんですか?」

 

「……失礼ね。もちろんあるわよ……エールの蔵主と同じくらいには」 

 

「それ、ないって言ってるのと同義ですよね」

 

「失礼ね! アタシのエール愛を舐めないで頂戴!」

 

「あなたが神に失礼だと思いますけど」

 

 

 メディには納得がいった。

 なぜ、この僧侶がホイミしか使えないのかが。

 明らかに、信仰心が足りていいない。

 

 神から助けを借りることで奇跡を起こす僧侶の呪文を行使するには、神への信仰心が必要となる。

 自分自身の学習や経験によって呪文を編み出していく魔法使いとは異なり、僧侶は信仰心を育むことで新たな力を得ることができるのだ。

 裏を返せば、信仰心が変わらなければ、扱える奇跡も変わらないということだ。

 

 

「えっと、確認したいのですが、リアさんが僧侶になったのはいつですか」

 

「うーん、ざっと10年くらい前かしらね」

 

「筋金入りですね!?」

 

 

 見た限り彼女の年齢は20前後のようなので実に人生の約半分ほどを信仰に捧げていることになる。

 それにもかかわらず、彼女はホイミしか使えないのだ。

 絶対に向いていないと、メディは確信を持って言えた。

 

 

「というか、本当にけちよね、神って奴は。自分を信じる者にしか力を貸してくれないだなんて」

 

「あの……今自分が物凄く罰当たりな発言をしている自覚あります?」

 

「あら、大丈夫よ。神様はすごく寛大なお方だから。この程度の不敬は笑って許してくださるわ」

 

「……随分と自分に都合のいい解釈ですね。というか言ってること矛盾してません?」

 

 メディの指摘にきょとんとしているリア。

 この人につける薬は恐らくないのだろうと、メディは感じた。

 今日何度目かの溜息を吐きながら、彼は考える。

 

 

(この人と一緒に行動して、果たして大丈夫なのだろうか)

 

 

 

 

 

 

 あれから小一時間ほど歩いた二人は、レーベの町を訪れていた。

 アリアハン大陸の北部に存在するこの町は普段ならばとても穏やかな町である。

 しかし、今日は賑やかであった。

 

 熱の冷め切らない様子の住人たちの様子を奇異に感じたメディは、そのうちの一人に話を聞くことにした。

 

 

「随分と賑やかなようですが、何かあったのですか?」

 

「ああ! アリアハンを出発された勇者様方が、先ほどこの町に到着したんだ! 今はもうその話題で持ちきりだよ!」

 

「……なるほどね」

 

 

 どうやら、その原因は勇者にあったようだ。

 

 

「それで、その勇者とやらはどこにいるのかしら?」

 

「ん? 勇者様か? 勇者様ならカギを探すとかっていってナジミの塔に向かったみたいだぞ」

 

「ナジミの塔……ですか?」

 

「何だ、嬢ちゃんたちよそ者か。アリアハンの西側に大きな塔があっただろ? こっから考えると南になるか。見晴らしのいいところからならこの町からでも見えるはずだぜ。以前はバコタっていうならず者の根城になっていたみたいだが、今はそのバコタを捕まえたっていう爺さんが暮らしているって話だ」

 

 

 村人Aの言う通り、遠くのほうに薄っすらと高い建築物が見える。

 というか、ならず者からカギを奪う爺さんって……元気過ぎるだろ。

 メディはスーパー爺さんの存在に想いを馳せる。

 

 

 一方で、男の口から何度も飛び出してきた「カギ」という言葉にリアは反応したようだ。

 

 

「カギって……何のためにそんなもの探しに行ってるのよ」

 

()()()()()()だよ」

 

「……は?」

 

 

 男の口から出てきた知らない単語に、リアは目を丸くする。

 説明不足なのだから無理はない。

 まほうのたまというのがカギとどんな関係があるというのか。

 

 

「そのまほうのたまというのは一体何なんですか? そして、カギとどんな関係が?」

 

「まほうのたまっていうのはな、このアリアハン大陸を脱出するのに必要な魔道具らしい。この町の長老が持っているんだが、一つ問題があってな」

 

「問題、ですか?」

 

「ああ、肝心の長老が家から全く出てこないんだ」

 

 

 つまり、長老に会えないためにまほうのたまが手に入らないと。

 何となく話が見えてきたメディ、しかし同時にいくつかの疑問も浮かんだ。

 

 

「つまり、長老の家の扉を開けるためにカギが必要だってことですか?」

 

「まあ、そういうことみたいだな」

 

「……というか、その長老、風呂場で死んでるんじゃないの?」

 

 

 リアの不謹慎な発言に三人の間に沈黙が生じる。

 見たところ、村人の男もその説を否定できないらしい。

 

 

「それに、窓でも突き破って入ればいいじゃない」

 

 

 野蛮な発想ではあるが、世界の命運がかかっているときにわざわざ回り道をする必要がどこにあるというのか。

 彼女の意見ももっともである。

 

 

「いや、それは無理なんだ」

 

「どうしてよ」

 

「長老の家には二重三重の結界が張られていてな、入り口の扉からしか入れないようになっているんだ」

 

「……わけがわかりません。自宅にそんな結界を張って、どれだけ臆病なんですか」

 

「まあ、長老様のことだ、何か深いお考えがあるに違いない。もしかしたら、勇者様方への試練なのかもしれん」

 

「確かに、それだったら、納得がいく気もしますね」

 

 

 ようやく、メディの疑問が氷解した。

 リアのほうは何やら納得がいかないようであるが。

 

 

「……カギなんてなくても」

 

「どうかしたの、リアさん?」

 

「いえ、何でもないわ。どうでもいいけど、その勇者たちが帰ってくるまでは外の大陸には行けないってことね」

 

「まあ、そうなるな」

 

「なるほど、状況は把握できました、教えていただきありがとうございます」

 

 

 メディは丁寧に説明をしてくれた村人にお辞儀をする。

 

 

「いやいや、こんなことは朝飯前よ! 嬢ちゃんたちも旅人なんだろ? 何もない小さな町だが、ゆっくりとしていけよ!」

 

 

 そうして手を振る村人を背に、二人は今後の動きの相談を始める。

 

 

「さてと、どうしようかしらね」

 

「勇者たちが他大陸への経路を開いてくれるでしょうから、帰ってくるのを待ちましょう。彼らの後ろについていくのが一番楽に外に出ることができそうですし」

 

「そうね。ちょっと早いけどさっさと宿にでも行きましょうか」

 

 ざっと指針を決めると、二人は宿へと向かった。

 

 

 

 

 余談だが、宿屋にいる少年には性別を見抜く力があるようだ。

 一発で男だと見抜かれ、メディの機嫌が少し良くなったのはまた別の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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