変わり果てた伝説   作:ラスティ猫

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勇者一行視点です


☆第七話:勇者の旅路~ナジミの塔~

 勇者一行は、レーベの長老の家へと入るための鍵を求めにものみの塔を訪れていた。

 この塔の最上階に住んでいる老人が持っているという話を聞いたからだ。

 

飛龍(フェイロン)! そっちへ行ったぞ!」

「承知!」

 

 伝統衣装に身を包んだ武闘家は、独特の構えを取る。

 それを気にせず、大きな蛙の魔物「フロッガー」は彼に襲いかかる。

 

「フッ……間抜け蛙、貴様の動き、止まって見えるぞ!」

 

 そして、滑らかな体捌きで、一瞬の間に魔物の腹部に二度殴打が叩き込まれる。

 「ゲェ」といううめき声とともにフロッガーの体が石でできてた壁へと叩きつけられる。

 衝突した場所には小さくクレーターができた。

 

「うわあ、相変わらず化物だ、この人」

 

 そう言って、少し遠い目をしているのは、小さな杖をもった女魔法使いのサラだ。

 彼女の記憶が正しければ、このナジミの塔に住み着いている魔物はアリアハン周辺のものとは段違いの強さのはずだ。

 だと言うのに、一行は全く苦戦する様子を見せない。

 

 マヌーサで幻を見せてくる「じんめんちょう」は彼女が認識するよりも早く、僧侶のルーナのバギで粉々になっているし、通常剣士泣かせの「バブルスライム」も、勇者アルスの卓越した剣と呪文の前ではまるで敵ではなかった。

 

 彼らの旅は何の障害もなく順調に進んでいた。

 しかし、この少女にはそれが不満なようだった。

 

(これじゃ……私の出番がまったくない!)

 

 しびれを切らした彼女は、三人に抗議する。

 

「ちょおーといいかな、お三方!」

「なんじゃ、どうしたのじゃ、サラよ?」

 

 いきなりテンションMAXで呼び止めた彼女の姿に、怪訝そうな表情をする三人。

 アルスとルーナはまた始まったとばかりにため息を付いている。

 

「もうちょっと、もうちょっと……」

「もうちょっと?」

「……私にも活躍させてよ!!!」

 

 駄々をこねる彼女を、アルスが諭す。

 

「サラ、魔法使いには魔力を温存してもらうのが、ダンジョン攻略での鉄則なんだよ。基本的には深部に行けば行くほどに強力な魔物が巣食っているからね」

「ええー、でも、ルーナだって呪文使ってる!」

「私は魔力がなくなっても戦えますから」

 

 そう言って彼女は右手に持った金属製のメイスをサラに突きつける。

 

「それに、あれぐらいの低位の呪文、いくら使っても魔力切れなんて起こさないですし」

「……ぬぐぐ」

 

 ルーナの正論に、黙らせられるサラ。

 その悔しそうな様子を見かねて、飛龍(フェイロン)が二人に提言する。

 

「まあ、確かに、あまりに温存しすぎても腕がなまってしまうかもしれんのう。少し、サラにも戦わせてみてはどうじゃ」

「ふぇ、フェイロン!」

 

 救いの主を見るように輝いた目で彼のほうをみるサラ。

 その様子を横目に彼は「それに」と続ける。

 

「正直、サラの実力を見てみたいのじゃ。儂は、一度もサラが呪文を唱えるところを見たことがないからのう」

「さっすがフェイロン! 話がわかるっ! 二人共、今の聞いたでしょ? ここは私に任せてちょっと皆は休んでなって!」

 

 アルスは少し悩みながらも渋々といった様子で頷いた。

 

「……わかった。でも、問題が生じたらすぐに止めるよ」

 

 アルスの言葉に、ルーナが少し驚いたように小さく呟く。

 その声色からは不満がありありと感じられる。

 

「……アルス、正気ですか?」

「……仕方ないだろ、ずっと五月蝿いのも迷惑だし。飛龍もああ言ってるし」

「……飛龍(フェイロン)はあの子のポンコツさを知らないからです」

 

 二人のこそこそ話を訝しがるサラだったが、それよりも今は許可が出たことが嬉しかった。

 足を止めている三人に先行し、歩みを促す。

 

「ほらほら! 皆、早くいかないと日が暮れちゃうよ?

 

 そのテンションとは裏腹に、ずーんと沈み込むアルスとルーナ。

 二人の様子を見て、何も知らない飛龍(フェイロン)は疑問を浮かべる。

 

「アルス殿、ルーナ殿? 何もそこまで嫌がらずとも」

飛龍(フェイロン)、貴方は知らないからそう言えるのです」

「知らないとは?」

「まあ、見てればわかるよ」

 

 そう言って、三人は周囲を警戒しながらも先頭を進むサラに続いていく。

 

 

 しばらくすると、サラが何かを見つけたのか「あ!」と声を上げる。

 その瞬間、アルスとルーナは飛龍を担ぎ、後ろへと下がった。

 当然突然運ばれた飛龍(フェイロン)は訳がわからない。

 困惑する彼を置いて、二人は緊張感に包まれている。

 

「……始まるぞ」

「……そうですね」

 

 そこからの光景に飛龍は唖然とした。

 

「あ! じんめんちょう! イオラ!!」

 

 一匹のじんめんちょうを大きな爆発が襲う。

 

「なんと、サラは詠唱無しで中位呪文を使えるのか!?」

「……ええ、魔法使いとしての才能だけなら、あの子は凄いわ」

「……でも、感心していられるのは今だけだよ、飛龍(フェイロン)

 

 次の瞬間、衝撃の光景が広がることとなる。

 

「あ、こっちにも、あっちにも! イオラ、イオラ、イオライオラ!!!!」

 

 あっちこっちで起こる爆発の連続。

 もはや塔が崩れるのではないかというくらい、大きな揺れが三人を襲っていた。

 その光景を見て飛龍(フェイロン)は先程までの二人の言動の意味を完全に理解した。

 

「な、何なのじゃ、あれは……」

「……あの子、一度呪文を使い始めると、暴走して他人の話が聞こえなくなるのです」

 

 飛龍(フェイロン)はサラの呪文によって次々と屠られていく魔物、そして破壊されていく周囲の床、壁、天井を見て言葉を失う。

 しかし、このままではまずいと思い二人に声をかける。

 

「こ、このままだと、崩れるのではないか!?」

「ああ、まずいな。ルーナ、頼む!!」

「……はあ、だから私は反対したのです……【封印、束縛、閉塞、その願い顕れること叶わず――マホトーン】!!」

 

 光が、ルーナから前方にいるサラの方へと走っていった。

 

「イオライオライオラオラ!!!! オラオラオラオラオ……ら?」

 

 突然呪文が使えなくなったサラは困惑し、それと同時に背筋に悪寒を感じた。

 彼女が恐る恐る後ろを振り返ると、そこには……

 

「……えーと、すみませ、ん?」

 

 鬼の形相をした三人がいた。

 飛龍からも、普段の余裕が失われていた。

 

「よおーくわかったぞ。二人が、お主に呪文を使わせなかった理由が」

「あ、あははははは……ノってきちゃうと、つい……」

「こんなところであのような広範囲の爆発呪文を使うものがおるか!! お主はこれから呪文禁止じゃ! 後ろで大人しくしておれ!!!」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 始めて見る飛龍のあまりの剣幕に、思わず横の二人もたじろいでしまった。

 当然、直接向けられたサラの恐怖は並々ではなかっただろう。

 その後、塔を登りきるまで、彼女は一度も呪文を使わせてほしいとは言わなかった。

 

 

 

 このような事件が起こったものの、その後の進行はいたって順調だった。

 特に苦戦をすることもなく、一行は塔の最上階へと上り詰めた。

 最上階では、一人の老人が四人を待っていた。

 

「そろそろ来る頃じゃと思っておったわい」

「そりゃ、あれだけ爆発が起これば、誰か来たって思いますよね」

 

 アルスは横に視線を向けると、その先でサラが目を泳がせている。

 しかし、老人の発言の趣旨は違ったようだ。

 

「いや、夢で見たのじゃよ」

「夢……ですか?」

 

 アルスが老人の答えに不思議そうな顔をする。

 一方で、サラはその答えを聞いてニヤリと笑い、ルーナに小声で耳打ちする。

 

「……や、やばいですよルーナさん、このお爺ちゃん、完全にボケちゃってます。たぶん鍵の場所とか忘れちゃってますよ」

「……だ、大丈夫です。ああいうのは叩けば治ります」

「ま、まさかのブラウン管方式!?」

 

 言ってから、サラはしまったとばかりに手で口を抑えた。

 ルーナは怪訝そうな顔をしている。

 

「ぶらうんかん?」

「い、いえ、なんでも無いです!」

「……ご、ごほん!」

 

 わざとらしく老人が咳払いをする。

 恐らくは、二人の会話が聞こえていたのだろう。

 飛龍(フェイロン)はその様子にため息を吐く。

 

「申し訳ない、ご老人。二人の非礼。儂からお詫び申し上げる」

「ふぉっふぉ、良いのじゃよ。いきなり夢で見たと言っても老人の戯言だと思われるのは自然なことじゃ。重要なのは、君たちがここへ来てくれたこと、そして、私が君たちにこれを渡すことじゃ」

 

 そう言って、老人は懐から何かを取り出し4人の前で手を開いた。

 

「これは……」

「鍵……ですね!」

「ただの鍵ではないぞ。何か気づくことはないかのう?」

 

 そう言って四人は鍵を注視する。

 最初に気づいたのはルーナだった。

 

「鍵先の三本の出っ張り、もしかして動くのでは?」

 

 彼女の答えに、老人は感嘆の声を上げる。

 

「お嬢さん、よくわかったのう。そのとおりじゃ。この鍵は、この出っ張りの動きによって、様々な錠前に対応できるようになっておるのじゃ」

「なるほど、シンプルですね! というか、そんなんで開くものなんですね。防犯意識どうなってるんですかね」

「……ですが、この方式だと開けられる鍵は限られそうですね」

 

 ルーナの発言に、サラが疑問を呈する。

 

「どういうこと?」

「一部の錠は、特別な呪文が込められていないと開かないものがあります。込められる呪文は『アバカム』というもので、本来は優秀な魔法使いにしか使えない呪文です」

「……随分と詳しいのだな、ルーナ殿」

「……いえ、たまたま聞いたことがあるだけですよ。私のような聖職者は何かと人には言えないような話を聞く機会も多いので」

「なるほどのう」 

 

 鍵について詳しいルーナに驚いた飛龍(フェイロン)だったが、彼女の説明に納得する。

 一方でルーナの発言に老人は感心していた。

 

「ほう、若いのに博識じゃな。まあ、この鍵でも、あやつの家に入るのには十分じゃろう」

「レーベの長老と知り合いなんですか?」

「ほほほ、知り合いなんてものじゃないぞ。あやつとの思い出を語れば時間がいくらあっても足りないくらいじゃよ」

 

 そして、どこか遠い目をする老人。

 その気配に、サラは嫌な気配を感じ、流れをぶった切って突然口を開く。

 

「じゃ、じゃあ、私達はこれくらいで! 先を急ぐので!」

「そ……そうか?」

「ア、アルス、ルーラで戻ろう、ぱぱっと!」

 

 少し残念そうにする老人をよそに、サラはアルスに帰還の呪文の使用を促す。

 勢いに押されている彼を、老人が静止する。

 

「若い勇者様、一つだけ、いいかの?」

「なんでしょうか」

「お主が相手にすることになる魔王バラモスは、強大な力を持つだけではない。狡猾じゃぞ。ゆめゆめ侮るでないぞ」

「……ご忠告、痛み入ります。ですが、安心してください。魔王バラモスは、俺が必ず……倒しますから」

 

 その力強い返答に、老人はある男の存在を思い出していた。

 

(……本当に、お主と似ておるな)

 

 だが、老人はアルスの様子に少しだけ引っかかりを感じた。

 

「ほほほ、頼もしいのう。じゃが、もう一つだけ老いぼれからのアドヴァイスじゃ。勇者アルス……憎しみで剣を振っては、魔王は倒せぬぞ」

 

 忠告するその顔つきからは歴戦の強者の風格が滲み出ていた。

 ハッとして老人の顔をじっと見るアルス。

 しかし、老人の表情は既に元の柔和なものに戻っていた。

 思わず冷や汗をかくアルス。

 

「……わかりました」

「それなら、安心じゃ」

「――アルスー! まだー!?」

 

 しびれを切らしたサラの呼びかけが開いている扉の向こうから聞こえてきた。

 

「元気なのが、呼んでおるぞい」

「はは、みたいですね。それじゃ、行ってきます」

「ああ、気をつけてな」

 

 アルスは深くお辞儀をすると、仲間の方へと駆けていった。

 

 

 

 戻ってきたアルスの姿を見て、サラは深く息をつく。

 

「はあ、危なかった。あのお爺ちゃん、もう少しで私達の時間を消し飛ばすところでしたよ!」

「消し飛ばすって……」

「いやいや、年配の方の昔話を侮っちゃ駄目ですよ!! ちょっと気を抜くと同じ話を何回も話しだしますからね! 無限ループですから!」

「サラ、儂はお主がご老人を怒らせるのではないかとヒヤヒヤしたわ」

 

 飛龍(フェイロン)飛龍(フェイロン)で安心しているようだ。

 

「それにしても、あの方、底が知れませんね」

「ああ、そうじゃな。全く実力が推し量れなかったのう」

「え!? あのお爺さんそんなにすごかったの!?」

「……サラ、貴方って人は」

 

 二人から呆れた目で見られるサラ。

 

「た、確かに、ただのお爺さんがこんなところに住んでるわけ無いとは思ったけど……でも、ただの変なお爺さんだと」

「……本当に、誰ですか、このポンコツの塊を旅に連れてきたの」

 

 ルーナは疲れたように零す。

 

「……あはは、じゃあ、村に戻ろうか。皆、準備はいい?」

 

 アルスの確認に、三人は頷く。

 四人が互いに手を繋ぐと、アルスの「ルーラ」という声とともに、四人の姿がその場から消えていった。

 




[設定]

・イオラ
難度:中位
詠唱:――
効果:それなりの大きさの爆発を引き起こします。範囲は半径2~3mくらいのイメージ

・マホトーン
難度:中位
詠唱:【封印、束縛、閉塞、その願い顕れること叶わず――マホトーン】
効果:ゲーム同様対象の呪文を封じる効果。術者から光が対象へと伸びていき、それが当たることで魔封じの効果が現れる。そのため、軌道が見え、回避することもできる。

・まほうのかぎ
 この作品ではアバカムの呪文が封じられているという設定です。
 ゲームではアバカムで開ける錠をまほうのカギでは開けませんが、それは鍵に呪文を封じ込めるという技術的な制限で、本来の効果よりも制限がかかるという理由付けを一応考えてます。イメージとしてはアバカムは魔力で鍵自体の形を作り出し、まほうのかぎは鍵先を補う形で魔力が固まるといった感じですかね。そのため込められた魔力で補いきれない錠は開けられないといった感じで。


 呪文の詠唱分は完全にオリジナルです。
 適当に即興で考えてるので、雰囲気で流してください。


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