勘違いしてなるものか 作:プータロー
私の彼への最初の第1印象は何処か冷めた人だな、という在り来りなものだった。
実際彼の目は凄い垂れ目でクラスメイトの皆も先生も最初は少し彼が下を向いているのを見ると寝ているんじゃないかと思っていたらしい。
らしい、というのは既にその誤解は解けていているからだ。
眠そうで何処か気だるそうにしている彼だけど実は成績はトップクラス。突然当てられてもしっかりと答えられるし話し掛けると相変わらず気だるそうではあるがしっかりと受け答えをする。
え?何故そんなにも隣の席の彼に付いて知っているのかって?それはクラスメイトの皆さん全員に聞き込みをしたからですっ!
実際私が転校をしてきて話し掛けてもぶっきらぼうで目は殆ど合わせてくれなかったし常に気だるそうにしていた。
きらわれてるのかなぁと思っていたけどクラスメイトの皆が言うには彼奴はそういう奴だ、けど実は良い奴だから悪く思わないでやってくれと。
それは直ぐに分かることになった。
「拓人っ、ここどうやって解くんだ?」
「あぁ、ここはな……」
「拓人お前弁当可愛いな」
「うっせーわ。タコさんウィンナー美味しいだろ」
「拓人くん……この女子の制服着てみない?」
「着るわけねぇだろ!?おい、馬鹿やめろ……やめろぉぉぉぉ!」
最初は全然気が付かなかったけど
彼の周りは不思議といつも人が集まる。彼はクラスの人気者。小テスト前は彼に出てきそうな場所を聞こうと皆が集まってくるし、お昼休みになるとお弁当を持った友達が相変わらず気だるそうにしている彼を引っ張って食堂に連れてったり、部活動でもエースとして後輩にも慕われているし先輩にも信頼されている。
そんな隣の席の彼だけど常に私に大して壁のようなものを感じるし何処か冷めた雰囲気をしていて。それが勘違いと分かるのは少し先の話。彼は表情があまり変わらない、だから今でもクラスの皆さんは彼の表情でどう思っているのか読み取る事が滅多に出来ないらしい。それも勘違いさせている1つの要因だと思う。
けど以前最初から彼の表情の変化が大体分かっていたって話したらクラスの皆さんに驚かれたっけ。
なんでだろう、ちゃんと表情は変わっているのに。
やっぱりそうやって壁を作ったりするのは勿体ないと何処か使命感のようなものを感じたのを覚えている。だってせっかく同じクラスの隣の席になったのに仲良くしないだなんてありえないですよ!
楽しくないのと楽しくやるのとじゃ絶対に楽しくやる方が良いに決まっているし何か困った事や悩み事があるのならそれをどうにかしてあげたい。一目見ただけでそこまで思うのは些か失礼だと今更思う。それはゴメンなさい。
先生に席を指定されてそこに座った私が最初にしたのはその隣の席の人に挨拶をする事だ。
「宜しくお願いしますねっ!如月……えっと」
先生は如月と言っていた。けど彼の下の名前が分からず言い淀んでいると眠たそうに垂れた目で心底面倒くさそうに私を見上げながら彼は口を開いた。
「拓人」
「拓人くんっ!」
面倒くさそうでも彼が教えてくれた事が嬉しくて思わず笑顔になる。よしっ、これが仲良くなる為の第1歩だ、心の中でガッツポーズをした。「……ん」と短く返事をくれていたのもあるが彼はめんどくさがり屋で本当は普通に良い人なのかも知れない。
その後先生が今日1日がんばろー、と教室を出ていった所で隣の席から溜め息が聞こえてきた。
む、早速これは私の出番ですか!
「どうかしたんですか?何か悩み事でしょうか?」
こう見えて私は沢山の人達の悩み事を前の学校でも聞いてきたのだ。ここで私がサクッと問題を解決すればきっとすぐに彼とも仲良くなれる筈。我ながら天才かもしれないです。
内心そんな風にドヤ顔をキメつつさぁ早くと彼が喋ってくれるのを待つ。
のっそりと机に這いつくばるように私を見上げる彼は何処か面倒くさそうだ。
気にするな、ってそんなの気にするに決まってますよ!
だから私は食い下がって聞いてみたが彼は更に面倒くさそうな顔をする。むむむ、ちょっとそれは心外です。こう見えて私は数多の悩み事(※厄介事)を解決してきたプロなんですよっ!そうやって私は内心そうやって言いたいのを我慢して更に食い下がろうとした時だった。
彼が気にしないでくれ、と柔らかく笑ったのだ。
瞬間私はドキッとした。きっとその時私はマヌケな顔をしていたと思う。
恋をしたとかそういう意味ではない。ある意味気だるげで眠そうな彼が急に柔らかく笑ったからギャップがあったのは否定は出来ないけどそうじゃない。
私が悩み事を聞いてあげた友達がありがとうと一緒に向けてくれる感謝の笑顔とも違う。
純粋に相手を思っての優しさに溢れた笑顔。余りにも先程との彼とは不釣り合いな笑顔だなと思ったのは失礼だけどいきなりそんな笑顔を向けてくるのはちょっと反則だと思うんです。
動揺しまくる内心を抑え、私は笑顔を作る。いや多分抑えきれていない。この嬉しい気持ちはどうしても抑えきれない。
キモイ、とか思われてないだろうか。チラッと彼を見ると既に彼は私を見ていなくて最初に会った時と同じように気だるげに窓の外を見ていた。
何だか見られなくて良かったな、という気持ちと釈然としないモヤモヤと何かが胸の奥に引っかかっているのを感じた。
やはりというか彼は物凄く優しい。
何気ない気配り、良く周りを見ているんだなって思う。クラスで人気者なのも頷ける。
例えば休み時間私のところに集まってくるクラスメイトに質問攻めにあって混乱している時に「うっせぇな、ちった相手の事も考えろよ」と静かに注意してくれたり
授業中何も言っていないのに、初の授業で資料も教科書もない私に見えるようにプリントや教科書をさりげなく置いてくれり
もちろん前の学校とやってる内容も違うのでさっぱり理解出来ていない私に分かるように先生が言っているところをペン先を当てて順に示してくれたり
それだけではない。
特に私の心に響いて染みていったのはもっと違う優しさだった。
私はバカで先生の言っていることが上手く理解出来ず小難しい公式や数字を見ていると眠たくなってきて寝そうになっていた時だ。
ガン、と少し控えめに私の机が揺れてビクッと先程眠気に揺れ動いていた私の身体がピンっと姿勢正しく背筋が伸びる。チラッと横を見ると何処か呆れた様子で此方を見ている隣の席の彼。
転校初日に居眠りだなんてそれは呆れられるに決まってますよねー、と私は苦笑いをする。けど先生の話を聞く度に私は眠気に襲われその都度机が揺れて起こされる。そんな私がプリントの問題を解ける訳がなく結果は散々なことに。
赤いペンでピンっと間違いを示すマークだらけのプリントを眺めて項垂れる私を彼は横から点数を覗いて、ふっと鼻で笑ったのだ。
流石にそれにはムッとなった私は彼の赤マルだらけの満点なプリントを見て更に凹んだ。私だって分かっている、こんな風だからダメなんだ。私は姉妹にあんなにも迷惑を掛けたのに何一つ変わっていない。
そんな風に自己嫌悪している時だった。
「バカだな、さっきから寝てるからだろ。転校初日ぐらいちゃんと受けとけ、最初のイメージだけで内申点は割と変わるから」
そうやって彼は私を叱ってくれてアドバイスもくれた。それが本当に私にとって心に染みた言葉だ。
そんなさり気ない優しさがとても心に染みた。いつもお節介や悩み事を聞く側にいる私だけどこうやって姉妹以外の誰かの純粋な優しさに触れるのは何時ぶりだろうか。
その優しさが本当に心に染みる。
ここに来る前実は少し良くない事があった。私がバカなせいで姉妹には物凄く迷惑を掛けたのに何も言わず怒りもしない。けどその姉妹の優しさが私は辛かった。だって誰も悪くなくて私だけがバカだったのが悪いのに誰も私を攻めないんだ。
それが嬉しくもあってとても辛かった。同じ5つ子なのにどうして私はこんなにもおバカなのか。きゅっ、と胸が締め付けられて苦しくなる。
いつも隣にいてどんな事も5人で分かちあってきたのに初めて4人が遠くに見えて夜は肩を抱いてベッドの中で震えていた。
4人が遠くにいるのが悲しい、自分だけが取り残されているのが悔しい、迷惑を掛けているのに誰も責めてこないから私は私を許せない。
いつも5人で見ていた世界が、いつも背中が見えていた世界が急に一人ぼっちになったようで。
けど隣の席の彼は私を叱ってくれた。私の事情なんか勿論知ってる訳ないだろうしただのお節介というかそんな感じで言った言葉だと思うけど私にとってその言葉は何よりも響いてきた。
まだ自分を許せそうにはないけどそれでも少し楽になったように気がする。
だからもっと仲良くなったらいつかちゃんとありがとうって言いたいな。
「拓人くんっ、ありがとうっ!」
「……はっ?」
「なんでもないよーっ!」
隣の席の拓人くん
本作の主人公。顔の表情が仕事しないのでクラスメイトですら彼の表情を読み取る事は困難。しかし隣の席の四女は初見で看破、クラスメイトの女子は歓喜し男子はハンカチを噛み締めこれは運命だと噂した。ちなみに質問攻めにあってたときに言ったのは「うっせぇな、ちった相手(俺寝てるんだけど)の事も考えろよ」という意味。
ちなみに授業中の彼らのやり取りに気を取られすぎてこのクラスの平均点は軒並み下がったらしい。
中野さんちの四女
本作のヒロイン。多分主人公より主人公してる。こっちもこっちで勝手に勘違いしている模様。転校初日の次の日隣の席の彼に関してクラスメイト全員にに聞いて回った。女子は黄色い奇声を上げ男子は男泣きした。相変わらず授業中眠たくなるが彼が教えてくれるのでそれを楽しみにしている、次はバスケを教えて貰えないかなーと放課後デート(本人に自覚無し)を計画中。