騎士(キチ)王   作:ひつまぶし。

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 新元号おめでとうございます。特にコメントはしません。
 一つ言えるのであれば、安永とか期待してた町の肩透かしっぷりは涙を誘いました。

 ブリテン編で書くことがなくなってきてカルデア編に浮気し始めるクズ作者とは私のことです( ー`дー´)キリッ
 可愛いモーさんを闇堕ちさせたいクソ作者です( ー`дー´)キリッ





16 変化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば。

 我が王の独壇場でしたな。ブンッ、と剣を振るうだけで蛮族が吹き飛ぶのだから。

 

 ピクト人と呼称される輩は人間とは思えない怪力で騎士を蹴散らす様を見せ付けられては、どっしりと構えていた我が王も腰を上げざるを得なかった。

 鳥野郎とクソ野郎が奮闘していたが、野生じみた戦いをするピクト人相手では手古摺るらしく、苦戦をしているのは見えた。

 私は我が王の護衛を優先して前線には出なかったが、確かに戦いにくい。

 

 うーむ。私としては我が王の雄姿を見れるから戦うのは構わないが、騎士も我が王がいるから必死で戦わないように見えてしょうがない。

 我が王を引き出すためにわざと戦線を下げているようにも見えるのだ。無論、アグラヴェインも気付いている。

 となれば、わざとなのだろう。キャメロット城に帰ったら全員の根性を叩き直してやる。お前達よりも狼たちの方が活躍していたのは情けないと思わないのか。

 

 

「ピクト人マジプレデター」

 

 

 ぐでえ、と天幕の中で溶けているかのように寝転がる我が王。

 

 ――我が王――。

 

 

「だめ」

 

 

 くぅーん。

 

 

「あんなことをしでかしといて膝枕させてもらえると思ってんの? 枕役は狼で十分だから」

 

 

 小さく唸るのは我が王が飼う狼の群れでそれなりの大きさを誇る一匹。床に身を投げ出して我が王の枕代わりになっている。ズルいぞ。

 罰として膝枕の役目を与えられなくて悔しい。そんなことだけで禁止するのはないと思う。

 

 

「ま。隠していたけどこのアホは女性だから」

 

 

 指差してくる我が王はこの場に他にいる人間、久しぶりに戦線を共にした鳥野郎とクソ野郎。トリスタンとランスロットに私の性別を明かした。

 何とも言えない顔をしているのはトリスタン。あれは性別を隠していて、どう反応をすればいいのかと困惑しているな。

 逆に、トリスタンと似たような顔をしているのはクソ野郎ことランスロット。微妙に演技臭いが、このクソ野郎は一対一で顔を合わせると口説いてくることを考えると演技をしている確率が高い。

 勘は良からぬことを考えている、と訴えてくる。

 

 残念だったな。私の身と心も我が王のものだ。お前みたいなクソ野郎に許すわけがないだろう。

 

 

「王よ、女性を騎士として使うのはいかがなものかと」

「そういうのはアルトリアよりも勲功を立ててから言うもんだぞトリスタン。言っとくが、武功はアルトリアの方が上だぞ。

 というか、誰よりも優秀なアルトリアを使わないとかアホしかしないぞ」

 

 

 ビシビシと突き立てるようにトリスタンを指差せば、アイツの顔が面白いように歪むのが見える。

 うむぅ。我が王の故郷ではここまで男尊女卑の風潮はないと言っていた。そんな素晴らしい場所があるのかと興奮したものだ。

 まあ、文句を言うならそいつよりも優秀であれということだ。

 無駄に優秀な人間は粗を探すよりも自分を磨くことに集中する。あくまでも私の経験談だが、嘘ではないだろう。

 

 我が王もそうだ。武は誰よりも強いが、それを鼻にかけることもないし、人のためあれと使えるお方だ。

 しかしまあ、少ししたらその力を使って世界を滅ぼすんですが。

 

 

「で、だ。今回お前らを呼んだのはある誘いがあるからだ」

「誘いですか?」

「そうだ。並々ならぬ力を持つ騎士として、俺からの提案みたいなもんだ」

 

 

 だからこそ、割り当てた領地からわざわざ来てもらったと我が王は言う。

 一つだけ言うのならば。ランスロットはいらなかったと思うのですが、我が王よ。

 

 

「じゃあ言うぞ。お前ら、俺直属の部隊に入れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、モードレッド」

「ちちうえ!」

 

 

 嬉しそうな顔でアーサー王に抱き着くのは娘であるモードレッド。いやあ、ほっこりしますね。

 まさかアーサー王に留守番を言い渡された上にモードレッドのお守を頼まれた時はどうしようかと思いましたが、モードレッドの遊びに付き合うのも楽しいものでした。

 

 アーサー王の武勇伝を聞きたいと聞かれた時は慎重に考えに考えた上でイメージが崩れないようにするのに一層の努力をしましたが。ええ、大変でした。

 頭のおかしいアーサー王のマトモなエピソードはいくつかありましたが、モードレッドの望むような理想像に適う話をするとなると迷いましたとも。

 

 ところで、アルトリア卿が凄まじい目をしているのですが。こう、なんちゅう目してんだと言いたくなる顔ですね。

 小さな子供にも嫉妬するアルトリア卿はいつも通り、と。

 

 

「おう、ベディくん。お守、ありがとな」

 

 

 いえいえ。楽しい時間を過ごせました。

 それよりもアーサー王、その手にあるものは?

 

 

「ん? カヴァスからのプレゼントだ。アイツの子供の一匹を俺の子供に、ってさ」

 

 

 アーサー王の腕の中で気持ち良さそうに眠る狼の子供。カヴァス譲りの白い毛がふわりと立っているように見える。

 カヴァスの子ということは将来、あそこまで大きくなるのだろうか。

 

 モードレッドに狼を渡すのですか?

 

 

「ああ。とある諺があってな。“子供が生まれたら犬を飼いなさい”ってな。俺もそうだったからモードレッドにもあげようかと思ったわけだ」

 

 

 ?

 

 

「おっと、まだ続きがあったんだった。あーっと……

 “子供が赤ん坊の時、良き守り手になるでしょう”

 “子供が幼少の時、良き遊び相手になるでしょう”

 “子供が少年期の時、良き理解者になるでしょう”

 “そして子供が青年になった時、自らの死をもって命の尊さを知るでしょう”

   だったな、うん」

 

 

 ……うむ。まあ、なんだ。

 アーサー王はたまにこうして良い事を言うのだから魅力的なのだろうと感じさせられた。

 

 

「俺が言ったんじゃないからな? とある国の諺だから」

 

 

 どこの国だ。ローマなのか?

 

 

「というわけでモードレッド。今日からこの子はお前の相棒だ。大事に育てるんだぞ」

 

 

 眠っている狼の子供をアーサー王の足にしがみついているモードレッドに手渡す。その衝撃で起きたらしい狼の子供がアーサー王から離れたくないとばかりに暴れ始めるのは当然だろう。

 恐る恐る、モードレッドが暴れる狼の子供を抱けばいやいやと暴れる。

 

 

「わっわっ」

「懐かれるのも第一歩だな」

 

 

 狼の子供を宥めようと頑張るモードレッドを撫でるアーサー王の笑顔は完全に父親の顔。人間、意外な面があるんだなと思わされる。

 正直に言えば、最も父親に似合わないお方だと思っていたのだが。

 

 

「まずは名前を考えることからだな」

「ちちうえー」

 

 

 未だに暴れる狼の子供に、モードレッドが泣きそうになりながらアーサー王に助けを求める。

 アーサー王が遠征している間、ずっと寂しそうにしていたのが嘘のように表情が豊かになるモードレッドは父親大好きな子供なのだろう。泣きそうになりながらも楽しそうに見える。

 

 

「じゃ、ベディくん。今日までお疲れ様。もう少し休みを取ってから本来の仕事に戻ってくれ」

 

 

 わかりました。アーサー王はどうされるので?

 

 

「ケイとアグルくんと緊急会議だ。遠征で厄介なことになっちまったからな」

 

 

 厄介なこと?

 

 

「ああ。アルトリアのアホが俺を逆レしようとしてトリスタンとランスロットに性別がバレた」

 

 

 ( ゚Д゚)

 

 

「そんな反応になるわな。俺は泣きたいよ」

 

 

 アーサー王――おいたわしや。

 

 モードレッドが気付かずに娘になっているわ、アルトリア卿は隠していた性別をバラすわ。下の騎士は好き放題するアホがいるわ。

 運が悪いってレベルじゃない。

 

 そして何故アルトリア卿はドヤ顔なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これは、まだカルデアが聖杯探索(グランドオーダー)に乗り出して間もない頃の話。

 

 準備は整った。心強い味方である()()伝説のアーサー王本人も協力してくれることになって、一気に壊滅状態に追い込まれたカルデアはなんとかやっていけそう。

 ダ・ヴィンチちゃんもロマンも伝説のアーサー王が味方なら光明が見える、とまで言わしめるほどの力を持ったアーサーさんなら、何があっても大丈夫という謎の信頼を持てる。

 

 

「はっはっは。本来の力の三割も出せないクソ雑魚だけどおじさん、頑張りますよ」

 

 

 いやいやいや。その三割だけでもアーサー王を騙るセイバーを倒したのはビックリですよ、アーサーさん。

 

 イギリス大繁栄の礎、イギリスの象徴ともいえるアーサーさんはヨーロッパ方面の人間なのに、妙に日本人っぽい見た目をしている。

 もう王様じゃないから、と教科書に載っていた服とは違う服装に着替えているせいもあってか、妙に親しみやすい近所のおじさんのイメージがある。

 無精髭なのに、不潔な印象はない。トレードマークと言わんばかりにとても似合っている。

 

 何故かとても楽しそうに笑っているアーサーさん。

 今、アーサーさんが()()()()()振るえる力は大地を切り裂くほどの剣技と断罪の剣シャスティフォルのみ。代名詞であるエクスカリバーとアヴァロンはないそうだ。

 それでも、エクスカリバーを持っていたアーサー王の偽物を倒したのは素直に凄いと思う。

 しかも、三割の出力の割にはカルデアの電力の六割を賄えるほどの潤沢な魔力を持っているのだから英雄としては破格だと思う。

 個人的には、生きた伝説であるアーサー王ならなんら不思議なことではない、と思えるのだから凄まじい。

 

 

「さーて。ガチャガチャタイムだな、マスターちゃん」

 

 

 わーい。ガチャガチャタイムだー。

 

 

「あの、立香ちゃんも陛下も。英霊を呼び出す儀式なんだからもう少し言い方をですね」

「好きな英霊とか呼べない時点でガチャ以外の呼び方があるだろうか。いや、ない。故に、サーヴァントガチャと読んでも過言ではないのだ」

 

 

 ないのだー。

 

 

「…………アーサー王陛下ってこんな人間だったのか……?」

「わっはっは。王と言えども、王もまた一人の人間。暴れたくもなるし、好きなことをしたくもなる。それをできるだけ抑えてブリテンを治めたんだから王でなくなった今、好きにしてもいいだろう。

 それに俺はブリテン随一のビックリ人間の称号もあるんだぞ。命名はケイだ」

 

 

 確かに、アーサーさんは付き合ってて楽しい人だと思う。冗談を言えば、返してくれるし、愚痴も聞いてくれる。距離感もタイミングによって変化するのでそこもまた、好きになる点だと思うんだ。

 

 

「アーサー王の右腕、サー・ケイですか」

「おう。アイツには世話になった。王になれと迫って来た時はどうかと思ったが、王をやってよかったと思っているし、ベストな結末ではなかったが、ベターな結末に持ち込めたのはアイツのおかげでもある。アイツがいなきゃ、今頃はイギリスどころかヨーロッパの一部が地図になかっただろうよ」

「サー・ケイ、僕は猛烈にあなたに感謝をしている――!!」

 

 

 朗らかに笑うアーサーさんとは対称に、ロマンは歯を食い縛るように円卓の騎士で最もアーサー王に尽くしたと言われるケイさんに感謝をしているみたい。

 アーサー王を裏切った騎士とは、と聞かれると真っ先に挙がるのはそのサー・ケイ。アーサー王に尽くすために血を吐きながらも反旗を翻したって歴史的考察は間違いじゃなかったんだ。

 でないと、アーサーさんがあんなに嬉しそうに自分を裏切った人間を語らない。絶大な信頼と感謝の意がアーサーさんから伝わってくる。

 

 

『もしもーし。楽しそうなとこ、悪いけどこっちは準備ができたよ』

「おう。ロマニくんや、始めようではないか」

「ハァ、わかりました。レオナルド、召喚(システム・フェイト)を起動してくれ」

『あいあいさー』

「マスターちゃんは俺の後ろにね。危ない奴が来たら危ないからな」

 

 

 アーサーさんがズボンのベルトに紐を括り付けてぶら下げているシャスティフォルを持ちながら優しそうな顔で言ってくれた。

 

 ではではお言葉に甘えて。

 ……ロマンも?

 

 

「僕は非力な医療部門の人間だからね。弱い英霊でも殺されちゃうから」

「ロマニくん、あとでロードオブザリング三作貸しな」

「それくらいならいくらでも!」

 

 

 アーサーさんの後ろに回れば、ロマンも一緒に来た。

 ロマンと一緒にアーサーさんの背中の陰から召喚陣を見ていると、眩しい虹色の光が満ちているのがわかった。

 

 

『これは――大当たりだ! 間違いなく高位のサーヴァントが召喚される!』

「――――」

「陛下?」

 

 

 アーサーさん?

 

 背中から見えるアーサーさんの横顔は笑顔ではなく、戦いに臨む時の表情だ。いつでもシャスティフォルを抜けるように、準備もしている。

 と同時に、召喚陣の光が集まって人の形をしていく。光で見えないその人物は――。

 

 

「サーヴァント、セイバー」

 

 

 ――よく、似ていた。あの偽物のアーサー王に。

 この世の全てに絶望したかのようにどこまでも昏く、飲み込まれそうな闇を抱えた目をした女性だった。

 顔も、絶望に彩られていた。疲れ切ったような目の隈。綺麗だったであろう髪の毛はボサボサで美しいであろう容姿を台無しにしていた。

 ガリガリガリ、と金属が擦れ合う音が聞こえる。片手で握っているだけの大きな剥き出しの剣が召喚ルームの床に傷跡を残している。

 

 

「――モードレッド?」

 

 

 アーサーさんが、とても驚いたような声を出す。

 モードレッド――それが確かなら、アーサー王最後の血の直系。そして、円卓の騎士の中で最も呪われた運命を辿った王の子。

 

 

「――――――――嘘だ

 

 

 聞いた者をどこまでも闇に落とすような声が聞こえてきた。

 

 

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ――」

生きているはずがない。父上は父上は父上は――」

 

「ロマニくん! マスターちゃんを頼む!」

「へっ?」

『ロマン! そこから離れるんだ! そのサーヴァントの魔力が暴走しかかっている!』

 

だって

 

 

 ぞわっと冷や汗が背中から噴き出したのを感じた。

 気が付けば、私は誰かに体を掴まれてその場から離れていた。

 

 ブツブツと呟いていたサーヴァントが顔を上げる。

 ズキリ、と心が痛んだ。なんて悲しい顔をしているんだろう、と思った。あんなに悲しそうに笑いながら涙を流すなんて。

 

 

父上はもう死んでいるもんなあ

 

 

 凄まじい音。そして衝撃。辛うじて捉えた目は、アーサーさんとサーヴァントが互いの剣をぶつけ合っている光景だった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 身バレするも、特に何とも思わないアルトリア。トリスタンとランスロットを嫌ってる模様。
 トリスタンの場合は武功を奪われたことを根に持ってるし、ランスロットはただキモイと感じている故にこの反応です。
 今まで二人が出なかったのは、別で治めている土地で頑張っていたからです。しっかりとケイやアグラヴェインを通じて報告は受けてますよ、と付け加えておく。
 そして動き始める円卓の騎士プロジェクト。既に何人かを見つけている状態で、追加の騎士を探している時にあんな目に遭うアーサーくんとそれを見るアルトリアを考えたら愉悦った。

 可愛い可愛いモーさんは狼の子供をプレゼントされるの巻。
 ことわざは祖父から聞きました。飼っていた犬を亡くして、祖父の母から聞いた言葉を今でも覚えていたので引用。
 モードレッドが狼を飼うのは寂しい思いをしないようにとのアーサーくんの計らい。蛮族滅亡に忙しいからしょうがないね。
 え? アルトリア? もう手遅れだよ。



 カルデア編の序章の一部を公開。既に何話か書いているのでそこから引用していくつかの話を削除している感じです。
 アンケートの結果、アーサーくんの世界線が多かったのでそっち方面で進めます。
 モードレッドが暴走した理由は近日、投稿するのでお楽しみに。
 え? もう闇堕ちしているって? セイバーじゃなくてバーサーカーとかアヴェンジャーだって?

 書きたかったんです! 許してください何でもしますから!















 取り敢えずお気に入りが六千行ったらオマケでアルトリアの世界線も書く。




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