騎士(キチ)王   作:ひつまぶし。

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 クソニートには早起きは苦です。

 最果てにエタりかけたけど、わたしは元気です。






19 円卓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が王がキャメロット城にある大きな部屋の中で語る。いつの間にか帰って来たマーリンが我が物顔で我が王の隣に立っているのが妬ましい。

 マーリンがどこからか持って帰って来た大盾を木で覆ったそれの傍に立って演説をされている我が王。

 この場にはこの時のために集められた我が王が声を掛けた騎士たちが集っている。

 

 ケイ、ガウェイン、ガヘリス、アグラヴェイン、ガレス。加えてトリスタンとランスロット。何故自分がここにいるのかと言いたげなベディヴィエールもいる。

 更に、ランスロットの繋がりで何人かの騎士がここにいる。見慣れない顔があるのはそれだろう。

 集うは、13人の騎士。アーサー王に選ばれた騎士たち。

 

 

「まずは集まってくれて礼を言う。それぞれに治める領地がある中、こんなことのためだけにな」

 

 

 既にある椅子。高名な芸術家が作ったと聞けば納得できる豪華な椅子は人数に合わせて用意されている。

 その中でも我が王のためだけに用意された椅子は他と違って更に豪華だ。

 我が王はその椅子に触れながら演説を続ける。この場を用意した理由と、集めた理由。

 雄弁に語る我が王。その横顔だけで満足でございます。

 

 

「俺はアーサー王。ブリテンを統べる騎士王だなんだと言われるが、王である以前に一人の人間だ。

 だから、できないこともある。誰かの助けを必要とすることもある。ここにいるケイにも、アグラヴェインにも、ベディヴィエールにも助けてもらっている。

 幻滅したか? 天下のアーサー王が誰かの助けを必要とすることが? どれだけ幻想を抱いても、現実はこれだ。もっともやってはならねえのはできないことをできないままにして放置すること。それで大惨事を招くくらいなら俺は喜んで誰かに助けを求める。

 で、だ。長くなったが俺が言いたいのは王である俺一人の決定だけでは追い付かないことがある。故に、俺が考えられるだけの最高の騎士を集めた――」

 

 

 ぐるりと騎士を見渡す我が王。とても凛々しいお顔をされている。好き。

 

 

「故に、俺はここに宣言する。王だの、臣下だの。そんな垣根を超えた新たな体制を作ることを。

 その名も、円卓の騎士! 誰もがここで意見を言い、最善の方法を探るために話し合うこの場を設立することを!」

 

 

 ダンッと我が王が円卓の真ん中にあるそれを叩く。

 部屋を満たすように神秘の力が広がるのを感じる。こういった準備をしたのはマーリンだろう。ここまでの術を使えるのはマーリンだけだ。

 となれば、この円卓のある部屋はマーリンが施した魔術の工房。色々な仕掛けがされているに違いない。

 そのマーリンが我が王に指示を仰がれたようだ。

 

 

「これからお前たちが円卓の騎士である証を渡そう。これはマーリン以外、作れない代物だから偽造は不可能。正真正銘の騎士の証だ」

 

 

 そういえば、アグラヴェインが言っていたな。

 我が王がはんこなるものを使い始め、暫く経つと各地で偽造されたサインが見られるようになった。無論、そんな不届き者は拷問した末に殺してやりましたが。

 我が王には褒められたが、ケイとアグラヴェインにはこっ酷く叱られた。偽造したサイン、はんこを作った黒幕なる者が裏にいるから情報を引き出したかったと嘆かれた。

 まあ、そんな黒幕はちょちょいと見つけましたが。こう、我が王への溢れる愛が為した技ですな。

 

 結果、関係していたのはローマ。ヴォーティガーンの子飼いであるサクソン人をローマが引き継いで雇ってブリテンを内側から崩そうと画策したようである。

 ピクト人もサクソン人も鬱陶しい輩だ。最近、ブリテンの各地で暴れまわって作物を台無しにされたりと被害が無視できない状況になっている。

 その対策のためにも、民に希望の象徴として円卓の騎士を結成したのだろう。

 メンバーは名だたる有名な騎士。ガウェインは太陽の騎士として、ランスロットは湖の騎士として。最強の騎士として有名な二人をはじめとして優秀で気高い(?)騎士がいれば安心もする。

 しかもその筆頭がアーサー王、我が王だ。まさに象徴となろう。

 

 

「で、だ。円卓の騎士となったお前らは今まで通り、それぞれの領地を治めるだけではなく小さな国として統治をしてもらう。最低限の報告だけはしてもらうが、基本的にはやりたいことがあれば自分の判断で進めろ。俺やアグラヴェインの指示だけでは追い付かない部分があるのは事実だからな」

 

 

 本当であれば、我が王自らが視察などを行ってアグラヴェインと協議するのが正しいのだが。

 如何せん、移動に時間が掛かる。カヴァスやラムレイ、ドゥン・スタリオンを使えば普通の馬よりは早く到着するだろうが、視察団を使うのだから足りない。

 前は視察団をアグラヴェインが作って各地に送っていたが、蛮族が暴れるせいでそれも困難になった。

 故に、必要な物資の提供やら情報の共有が困難になって飢餓に喘ぐ村が出てきているのが現状なのだ。

 

 その点を我が王がいつもクルマ? やらヒコウキ? がどれだけ便利かわかったわと呟いておられた。

 やっぱりあの方は凄いな、と優しい顔で笑う我が王に心が撃ち抜かれました。ちゅき。

 

 個人的には我が王にそんな顔をさせるのがどんな人間か気になりますが。

 

 

「あと、情報の伝達には少し待て。マーリンが帰って来たことで前から考えていた策が実行できそうだ。これが上手く行けばある程度の問題は解決できる。

 まあ、ある程度だけで全部が解決できるわけじゃないがそこは頑張るわ」

 

 

 笑う我が王。ニカッが似合う笑い方は不安を吹き飛ばしてくれる笑顔だ。

 実際、なんとかすると言った我が王は大体のことはなんとかするのでその辺の信頼は厚い。

 もしも私であれば、一人で抱えてなんでも解決しようとして自滅していただろう。我が王は誰かの助けを借りることに躊躇はしない。

 大事なことこそ、ほうれんそう大事。と親指を立てながら仰る我が王は王としては王らしくない考え方だ。そこも素晴らしく、好きなところなのだが。

 我が王ちゅき。

 

 

「締めになるが、人材を雇う時は男女は置いといてな。親が騎士だから、豪族だからと言う奴ほど役に立たんことがある。お前らも人の上に立った経験はあるだろうからそれぞれの価値観で人を見極めるようにな。

 特に女性は凄いぞ。手先は器用だし、美味い飯も作ってくれるし、何よりも容姿で癒してくれる。女が騎士にはなれないなんて誰が決めた? 女性騎士筆頭のアルトリアを見てみろ。戦果だけならこの場にいる誰よりも高いんだぞ……ちょいと頭はアレだが」

 

 

 ムフー! 我が王に褒められた!

 ドヤーンと胸を張って自慢してみる。苦笑する者、頭を抱える者――そして、嫌悪感を感じている者を感じた。

 うむ。不穏分子発見。あとで報告して我が王に褒めてもらおう。

 幾重にも検討を重ねてもわからない部分はあるのだとアグラヴェインが言っていたのは正解だったようだ。

 

 さて。円卓の騎士は結成された。

 今日からは私はサー・アルトリアだ。アルトリア卿とは変わらないが、我が王にその名で呼ばれた時は歓喜で体が震えましたとも。

 

 席も我が王に近い隣にしてもらった。

 ヌフフフ。この円卓であれば、他の者には見えない設計。ならば、隠れて我が王に触れることができるフフフフフ――。

 

 

 

 が、すぐに席を変えられた。何故だ! まだしていないのに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ちゃん」

 

 

 ――。――――。

 

 

「……ほれ、起きろマスターちゃん」

 

 

 パコンと自分の頭に衝撃が走る。

 と、同時に自分の頭にかかる靄のようなものが一気に晴れるのを感じた。

 暗闇が晴れると、見えた。変わり果てた召喚ルームの様を。

 

 

「大丈夫ですか、先輩」

「脈を調べるからね。そのまま寝てていいから」

 

 

 隣にはマシュとロマンがいる。

 ロマンは手首を触り、マシュは私の手を握ってくれる。アーサーさんはしゃがんで暗闇を生み出す原因を見ていた。

 アーサーさんの手には透明な棒が握られている。薄すぎて何かはわからないけど、何かを握っているのだけはわかる。

 

 

「モードレッド……」

 

 

 耳を澄ましてみれば、轟音の中から聞こえる違う音。アーサーさんが辛そうな顔をするのはそれが聞こえたからだろうか。

 女の子の泣く声。お父さんを求めるように延々と父上と言いながら泣いている。

 父であるアーサーさんは何を想っているのだろう。歴史では、モードレッドは父である()()()()()()()()()()()()

 

 信じられなかったんだと思う。自分が殺した父親がそこにいるなんて。

 だから拒絶して暴れたんだ。でも、あのアーサーさんのエクスカリバーを見てアーサーさん本人であると感じてしまったのだろう。だから、あんなに苦しんで泣いている。

 

 

「俺は、お前に期待しすぎたのかもな。俺の子供だから俺が死んでも立ち直って生きていけると思っていた。

 ごめんな。俺みたいになれると思い込んだ俺の間違いだった」

 

 

 アーサーさん……。

 

 

「お前を助けたいが、今の俺はお前を助けられるだけの力は振るえない。頑張って力を出しても情けない結果しか出せないほど弱くなっている……と、なればだ」

 

 

 はあああああ、と重い溜め息を吐くアーサーさん。

 あ、あれ? さっきまでシリアスな感じの空気がおかしくなってきているぞ?

 こう、一気にシリアスがブレイクする予感と言うか――。

 

 ぬううと振り返るアーサーさん。やりたくなさそうなことをやらねば、って思いが伝わってくる。

 透明な棒を地面に突き立てながら膝を突いているアーサーさんはやるやらないやるやらないと繰り返すようにつぶやく。

 

 

「マスターちゃん、円卓の女神は知ってる?」

 

 

 あ。円卓の騎士紅一点の女騎士ですか?

 

 

「そうそう。アルトリアってんだけどさ……詳しいことは置いとくが、この状況を打破しようと思うと俺以外の手段だとそれしか浮かばん――」

 

 

 ただ、とアーサーさんは繋げる。

 

 

「それと引き換えに俺の貞操が危うくなる」

 

 

 ――――え? てい、そう?

 

 

「うむ。四六時中、俺を逆レしようと襲い掛かってくるモンスターも同時に召喚することになるのだ」

「それくらいでカルデアをこれ以上壊されないなら陛下、受け入れてください」

「ロマニくん、いいかい? ブリテンの時もセックスアピールするような奴だぞ? なのに俺のいたブリテンから1500年は経っている今、どうなると思う?」

「……」

 

 

 うわあ。溜まりに溜まった性欲が爆発しますね、それ。

 

 

「しかも俺が預けてるもんあるからそれをネタに交換条件でヤらせろとか言いそうなんだよ、アイツ。無駄に現代の知識を身に付けてるせいで色んな体位とか試したがるのも容易に想像できる」

「さて、陛下。ここでお知らせがございます」

「ん?」

「その件のアルトリア様ですが――陛下が没した後、聖槍の力で女神になって生きておられます」

「うん。まあ、知ってた」

 

 

 もう諦めているような顔をしているアーサーさん。アルトリアさんって人と大変な目に遭ってるんだとよくわかる表情をしている。

 

 

「そして、既に一度だけアルトリア様はカルデアに来ています」

「(´゚д゚`)」

「はい。カルデアの場所は知っていることになりますね」

「ぬああぁぁぁぁぁ……」

 

 

 地獄の底から響いてくるような声で呻く。そんなに嫌なのか。

 

 

「こん畜生! こうなったら自棄だ! 可愛い可愛いモードレッドを助けられるなら俺のチ〇コがもげようと関係ねえ!」

 

 

 えっ。それってもげるほど……。

 

 

「えー、コホンコホン。

 あーあー、俺の大好きなアルトリアさーん。俺の体を好きにしてもいいから俺を助けて「呼びましたか我が王」くださいなー。はええなオイ」

 

 

 うえええええ!? どなた!? どこから現れたの!?

 

 アーサーさんがん? と聞きたくなるような言葉を言えば、いつの間にかアーサーさんの後ろに美女が現れた――アーサーさんの尻を撫でながら。

 じっくりと観察すれば、似ている。あの偽物のアーサー王に。冬木の聖杯の前にいた黒い偽物のアーサー王が成長したような姿をしている。

 ぬっと現れるアルトリアさんは尻を撫でながらアーサーさんに抱き着けば、首の後ろに顔を埋めて呼吸をしているみたい。

 うわあ。見せられない顔をしている。完全にお薬をキメたような顔をしている。

 

 

「我が王、お久しぶりです」

「おう。久しぶりと言いたいがのっけからセクハラはやめような」

「うむ。我が王の尻はやはり触り心地がようございますな。ムラムラしてきました

「やめろお前。ブレーキ壊してアクセルベタ踏みはやめろお前」

「1500年も我が王成分が不足しているせいでこうなっていますので。

 ところで、ついさっきなんでもすると言いましたね? その言葉に偽りはございませんね?」

 

 

 食い気味にアーサーさんにセクハラしながら問い掛けるアルトリアさん。押しが強すぎてこっちが逆に戸惑うレベルだ。

 というか、普通に女性側から男性にアピールすることに驚きなんですが。

 アルトリアさんの服装もサイズが少し大きいようにも見える。袖もかなり余ってるらしく、捲っていた。

 

 

「………………俺の体を好きにしていいからモードレッドを何とかしてくれ」

「お任せくださいWAGAOH!」

「言っておくが殺すのはなしだ。殺したらお前を嫌いになる」

「(´・ω・`)わかりました」

「アレは事故だ。モードレッドもお前も悪くない。悪いのは俺だ。だから、モードレッドは恨まないようにな」

「ええ、ええ。流石に1500年も経てば忘れるものです。特に我が王を好きにしてもいいと言われれば忘れもしましょう」

「お前……」

 

 

 良い事を言っているのに言っていない感が凄い。これだけでアルトリアさんがどんなキャラか把握できてしまったのがなんとも言えない。

 アルトリアさんの着ている服、ローブはアーサーさんが愛用していた遠征用のものとも判明した。だからあんなに大きかったのか。ちょっと恐ろしい。

 

 

「では、このハイパーロンゴミニアドでモードレッドを救いましょう」

「その頭が悪そうなネーミングは何だお前」

「あれからたまにマーリンと会って、その度にアップグレードしましたので。これは我が王のロンゴミニアドではなく、マーリンが作った決戦礼装のようなものです」

「マーリンもやっぱり生きてんのか。まあ、アイツの一部が俺の中にあるのを考えたらそれも妥当か」

「なにそれうらやましい」

「はいはい。あとでベッドで好きにしてもいいからモードレッドを早く救う」

 

 

 アルトリアさんが槍を横薙ぎにすると、アーサーさんのエクスカリバーの光に劣らない黄金の光が放たれて召喚ルームを包み込む。

 軽い掛け声の割には物騒な威力で恐々とする。アーサーさんの付き人みたいな人ならアーサーさんにも負けないほどの力を持っていると考えるのが普通なんだね……。

 

 

「これにて仕舞いです――我が王の仇ィィィィィィ!」

「言った傍からそれかよお前えええええ!」

 

 

 横に薙ぎ払い、更には突き出す。それによって完全に暗闇は晴れた。

 というか、最後の突きはオーバーキルではないだろうか――。

 

 アーサーさんが叫び、アルトリアさんが嬉々としてビームを撃つ。カオスな空間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 





 円卓結成+ドヤるアルトリアの巻。
 ちょいちょいとアルトリアがおかしいことをしているのはいつものこと。

 そしてカルデア編。
 前々からカルデア編ではどう動かそうかと頑張って考えてもアルトリアが暴走してあいつ一人でいいんじゃないかな状態に陥る。
 モードレッド救出のために自分の身を差し出すアーサーくん……薄い本案件かな?
 この後、アルトリアはこれ幸いと脅迫してヌッチョネッチョのドロドロの望んだ毎日を送れるでしょう――。
 ですが、R18板には行きません。皆さんの妄想で補ってください。

 そろそろ巻きでブリテン編を進めます。






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