もう一度ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 作:夜桜 楓
かつて一人の少年は物語の英雄に憧れ、自らも物語の英雄のようになるためにそして、ダンジョンで可愛い女の子と出会うために迷宮都市オラリオにやって来た。
そして、少年はダンジョンで多くの仲間たち、憧憬に出会い、数多くの苦難を乗り越え英雄と呼ばれるまでになった。
ダンジョンを最下層まで攻略した英雄
前人未到のレベル9にたった一人上り詰めた英雄
黒龍を討伐した英雄
その数多くの少年の功績に多くの人々、そして神々は驚嘆した。
そんな、英雄も人の子
神の恩恵を授かっていても寿命という壁は越えられない
英雄の名はベル・クラネル
多くの英雄譚を残したベル・クラネルは自らの死期を悟り、かつて彼が団長を努めるファミリア、ヘスティアファミリアのホームであった教会の跡地に来ていた。
今は教会の祭壇のみが残されており、ベルはその祭壇に腰を下ろす。
「ベル君、どうしたんだいこんなところに来て」
そこで、ベルに声をかける神物が現れる。
「神様、神様こそどうしてここに?」
その神物はかつて英雄に憧れていた少年に恩恵を授け、少年だった英雄が所属するファミリアの主神
神ヘスティア
ヘスティアはベルの横に腰を下ろす
「君がホームから出ていくのが見えてね、身体の調子は大丈夫なのかい?」
「はい、今日は少し良いのでなんだか、ここに来ないといけない気がしたので」
「そうか、だが懐かしいね、ここに居ると僕が君と出会った頃のことを思いだす。まるで昨日のようにね」
「それは、僕もですよ。色んなファミリアから入団を断られていた僕を神様に見つけて頂いて家族にしてもらいました。今の僕が居るのは、神様のおかげです」
「よせやい、今の君が居るのは君の努力の賜物だよ。それに、感謝するのは、僕の方だよ。一人ぼっちだった、僕の家族になってくれてありがとう」
かつてのホームの跡地で行われる神と英雄の会話は、まるで別れを告げる会話のようだった。
「神様、少し眠くなって来ました・・・」
「そうか・・・なら特別に僕の膝を貸して上げよう!」
ヘスティアがそう言うとベルは迷いなくヘスティアの膝の上に頭を乗せる。
かつての少年だった頃の彼なら顔を赤くして慌てていただろう。
「なぁ、ベル君、君はかつて僕に言ったねダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?とどうだい、答えは見つけられたかい?君は少し先に天界で待ってておくれよ、僕はもう少しこちらに残らないといけないからさ、必ず君を見つけてもう一度言うんだ・・・僕の家族にならないかい?ってね、暫くのお別れだ」
この日、物語の英雄に憧れ冒険者になり、そして英雄になった少年の一つの物語が幕を閉じた。
彼の葬式には、迷宮都市オラリオに居る神々、冒険者、そして、彼を慕っていたファミリアの仲間たちや街の住民たちまで訪れた。
その中には、彼の主神であるヘスティアと犬猿の仲であったロキやかつては、彼が死んだら魂を追いかけると言っていたフレイヤの姿まであったという。
「あの子は本当に逝ってしまったのね、ヘスティア」
「フレイヤ、君にベル君を追わせやしないよ」
「分かっているわ、かつての私ならともかく今の私にその気はないわ」
「あの色ボケ女神がずいぶんおとなしなったなー、そう思わんかドチビ」
「ロキ、君もベル君を見送りに来てくれていたのか」
「まぁ、あの少年にはうちの団員も色々世話になったからなー」
「そうか、ありがとうロキ」
「ドチビがうちに礼を言うなんて気持ち悪くて寒気するわ、それにしても最初はドチビの子の癖に生意気なーっとしか思ってなかった少年がここまで上り詰めるとはなー、ホンマに惜しい子を無くした」
「ロキ、ヘスティア、私はもう行くわね」
「あぁ、フレイヤもベル君の見送りありがとう」
「うちもそろそろ帰るわ」
彼の葬式が終わり、ロキとフレイヤも帰り、ヘスティアは一人呟いた。
「またね、ベル君、また僕達が出会うその日まで」
ベルは目が覚めると目の前には空を突き抜けるほどの高さを誇るバベルがあった。
(そんな、僕は確かに死んだはず、、、それにここは)
ベルは周りを見渡していると、そこで声をかけられた。
「ベル君?どうしたの?こんなところで、これからダンジョン?」
ベルが声をした方に顔を向けると自分の目を疑った、そこにはかつて、ベルのアドバイザーをしていたエイナ・チュールがそこに居た。
「・・・・・エイナさん」
「うん・・・そうだけど、どうしたのそんなに驚いた顔して」
「えっと・・なんか若返りました?」
「ほほぅー、私はまだ19だぞー!ほらほら、あやまれー!!」
ベルがそんなことを言うとエイナは、ベルの頭を胸の上で抱きしめながらそう言った。
(まてまてまて!19!?エイナさんが!!)
ベルはエイナの年齢を聞き、もう一度周りを見渡す。
(確かに、僕の知ってるオラリオと少し違う。正確には僕が冒険者になったばかりの頃のオラリオだ。)
「エイナさん、ごめんなさい!本当にエイナさんって19歳ですか?」
「むぅー、そんなに私って老けて見えるのかな?」
目に見えるように落ち込むエイナにベルは少し慌てて訂正する。
「い、いえ!違うんです!エイナさんの雰囲気が大人っぽく見えたので!」
「・・・まぁ、そう言うことにしといてあげる」
エイナは少し顔を赤くして納得してくれたようだ。
(エイナさんが本当に19歳なのはわかった。と言うことは、ここは過去のオラリオ、時間が戻った!?)
「それはそうと、ベル君!君はまだ冒険者になって1週間しか経ってないんだから深くまでダンジョンに潜っちゃダメだよ!」
(冒険者になって1週間?確かアイズさんに5階層で助けられたのもそれぐらいの時だったよな)
「あのエイナさん?僕ってミノタウロスに追いかけられて血まみれでギルドまで走ってきましたよね?」
「・・・ベル君、君はいったい何階層まで降りるつもりなの?上層にミノタウロスなんて居るわけないでしょ。というかそんな不吉なこと言ってると本当になるよ」
(エイナさんの反応からしてまだアイズさんとはあって居ない)
「ですよねー!冗談ですよ!」
「・・・なんか、今日のベル君、へん」
「ハハハッ・・・じゃ僕はもう行くのでエイナさん!サヨウナラーー!!」
ベルは走ってその場から逃げ出した。
(ここが過去のオラリオであることは分かった。なら一旦、神様に会いに行こう。神様なら何か知ってるかもしれないし)
こうしてベルは主神のもとに向かうのであった。
これは、物語の英雄に憧れた少年が英雄を目指す物語では無い
これは、一人の英雄が少年に戻りもう一度出会いを求める物語