イナズマイレブン 王の瞳が見た記憶   作:アリ酸

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第一章:新たな蹴球指導者
1話:河川敷での出会い


 四方八方から波のように襲いかかってくる大音響。目の前のダイヤモンドには9人の敵と、3人の味方。電光掲示板には赤く光る二つの死のランプ。大きく息を吸い込み、心の波を鎮めるように深呼吸を一回。覚悟を決めて再びルーティンを済ませると、彼女は誰もが注目する特等席へと立つ。

 

 手に馴染んだ黒のグローブごしに体の一部となった一本の武器。構えれば相手は己を殺そうとやって来る。それに抗おうと全身全霊を込めて一撃を振るうが、手応えはない。変わりに黄色の警告信号が一つ点灯し死へ一歩近づく。続けてもう一撃を繰り出すが、今度は手ごたえはあるもののダメージは入らない。同じようにまた一歩死へ近づく。警告信号の点灯数は二つ、次はもう無い、あと一歩で自分自身は死ぬ。当然自分が死ねば味方も消えてなくなる。だというのに歓声はより一層大きくなっていく。

 

 彼女は笑った。自分こそが今ここにいる主役だと。それと同時に彼女は一撃を振るうと、あの歓声が一瞬だけ凍結したように静まり返り、直後に大歓声へとなり変わった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「――ねぇ! ちょっと、ねぇってば!!」

「――うぅ……ん?」

 

 からだのあちこちが痛い。鈍器で叩かれた後のように痛い。そう思いながら彼女は目を開けると、目の前で一人の少女がサッカーボールを片手にのぞき込んでいた。

 

「う~ん、どうしたのさ。私に何か用?」

「お願いがあるの。ちょっと聞いて!」

 

 河川敷の天然ベンチと名付けた石の上から体を起こすと寝起きの目をこする。暖かい風が頬を撫でるように吹き抜けると続け様にあくびを一回。ここはどこだ? ああそうか、自分はここで横になっていたらいつのまにか寝ていたのか。

 寝ぼけた様子で目を覚ました彼女は周りをキョロキョロと見渡す。意識は完全には覚醒していない。太陽の光が慣れない目を容赦なく攻撃してくる。そんな彼女へと向けて少女は言った。

 

「今日友達が一人来られなくなったの。だから代わりに一緒にサッカーしてくれない?」

 

 少女は笑いながらサッカーボールを掲げると先程まで熟睡していた彼女へと手渡した。目をパチクリさせながら彼女はう~んと悩むような素振りを少し見せるが、日の光を見て頭の中のスイッチが切り替わると、そっと返事が口から出た。

 

「サッカーって……私やった事なんてほとんどない初心者だけどいい? 投げたり捕ったりするのは得意だけど蹴るのは本当に音痴なんだ」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ! 一緒にやろっ!」

 

 サッカボールを受け取った直後に服の袖がグイッと引っ張られた。「ちょっと待って!」と口にするが少女の力は増すばかり。目覚めた彼女は寝起きで力が入りきらない体をされるがままに少女に連れられて行かれた。

 河川敷の真ん中にくれば小学生の少年少女たちが既に数人揃っていた。とはいってもそれはいつも見ているメンバーであり、顔も大体覚えているような子たちである。

 

「みんなー! いつも端っこで寝ているお姉ちゃんが一緒にやってくれるって! 円堂ちゃんが来るまで特訓しよー!」

 

 少女の声と共に周りにいた子供たちが歓喜の声を上げる。サッカーを一緒にすることがそんなに楽しみだったのだろうか。彼女はそんな事を思ったが、目の前にいるのが純粋な子供である以上その程度のどうでもいい疑問なんてすぐに消え去っていった。

 

 今日はこれといって特別に忙しい日でもなかった。むしろ暇な一日だったといってもいい。なんと言ったって現在在学中の大学は学費が払えないため休学中。せいぜい最近の時間に費やしている事なんてバイトか勉強か今みたいに昼寝か。そう考えてみれば、子供と遊ぶことだってたまにはいいかもしれないと彼女は思った。

 

「そういえば、お昼寝のお姉ちゃんの名前ってなに~? 私は如月(きさらぎ)まこ!」

「お昼寝のお姉ちゃ……コホン、私は不破(ふわ)(しゅう)。勘違いしないで、あれはただ寝ているんじゃなくて精神統一。決して暇だから寝ている訳じゃない、分かった?」

「せいしんというつってなに~?」

 

 というつじゃなくて、とういつ。子供に対してなに訳分からん言い訳をしているのだと、柊は自分に呆れながら歩き出した。さて、サッカーボールを蹴るのなんて何年ぶりだろうか。もしかすると中学ぶりかもしれない。懐かしいなぁ中学時代は。

 

 子供たちとサッカーをするうえで、今日の特訓のメニューはドリブル練習らしい。適当に子供たちの行う準備運動に柊は一緒に参加し、そして気が付けば特訓のメニューがスタートだ。

 

「よっ、あ…ありゃ?」

 

 さすがにドリブルなんて簡単。ポポポ~ンと上手くいくだろう。そんな甘い考えでいた柊に現実が襲いかかる。テレビなどで見るようにグングン動けるかと思いきや、真っ直ぐは移動できても左右に上手く動けない。無理やり動こうとすれば、ボールと体はお互いが嫌い合っているかのように反対方向へと動き出す。

 ブランクがあるなんて可愛い言い訳ができるかと思いきやそんなレベルでは無かった。特訓が始まってみれば、子供たちが凄まじく上手い。もはやプロかというほどに! というのは冗談で、あまりにも柊自身が下手過ぎで相対的に子供たちが上手く見えていたのだ。

 

 もともと柊自身サッカーがほぼ素人でボールを蹴るのが音痴といえど、本当に今この場にいる小学生たちと同レベル。いや、それ未満かと思えるほどだ。

 

「馬鹿な、私自身ここまで下手くそだとは驚いた。これもある意味才能なのだろうか?」

 

 咄嗟にそんな事を柊は口にしてみれば、小学生たちが彼女の方を向いていた。

 これは笑われても仕方がないな。そう思ってどう言葉を返してやろうかと考えていたところで、まこが口を開いた。

 

「不破ちゃん、初心者にしてはすっごい上手だね! 変な方向にボールが飛んでも咄嗟に反応できるなんてすごいよ!」

 

 ——すっごい上手。もしいい歳した人間に言われれば皮肉をありがとうと返していただろう。しかし目を輝かせて純粋に自分自身を褒めてきた少女に柊は「えっ」と間抜けの声を漏らしてしまった。

 

「そうそう、あんな無駄な動き多いのに息一つ上がってないのもスゲーよ! 何かスポーツでもしていたのか!?」

「僕スタミナないから特訓付けてよ!」

 

 まこの第一声から次々とやって来る称賛の言葉。驚きだった。馬鹿にされると思っていた。でも、その時ふと垣間見た気がした。どんな些細な事でも人の長所を尊重し、全員で喜び合う。それはかつて自分がスポーツに没頭して頂点を目指していた時のことを。

 

「よしてくれ。これじゃ君達の練習相手にすらならないよ」

「そんなことないって! 不破ちゃんとサッカーやってると凄く楽しいもん。私だけじゃない、皆がそう感じているよ!」

 

 汗が光る彼女らを見てみれば柊の瞳に全員の笑顔が映る。それは本当に楽しそうであり、喜びに満ち溢れている。そうだ、これは本当に好きな事に夢中になっている人達の姿だ。

 

 ——確信した。目の前にいる小さな彼女らは大好きなのだ。サッカーというものが。

 

 

 時間が過ぎるのはあっという間だった。太陽は傾き、気が付けば辺り一面は真っ赤な景色。正直夕方になるまで子供たちとサッカーに没頭するとは柊自身も思ってもいなかった。

 

 そんな様子で日が沈むまでもう少しだけ続けようと思っていると、ふと河川敷の階段から大きな声が聞こえてきた。変声期を終えた少年の声だ。ふと振り返れば視界に映ったのは額に巻いたバンダナ。そしてゴールキーパーがはめるグローブ。

 

「あ、円堂ちゃんだ! おーい!」

 

 まこが我先にと声を上げると、一緒にサッカーをしていた子供たちも嬉しそうに声を上げ始めた。

 

「おや、どうやら新しいお友達の登場みたいだ。私の出番は終わりかな」

 

 今来た円堂と呼ばれる少年のもとへ子供たちが寄っていくのを見届けると、柊は腰に巻いていた上着を羽織り退散の準備を整え始める。実に充実した時間だったと言えよう。これで夜活動するにあたってのモチベーションが保てる。そう思いながら皆に別れの言葉をかけようとしたところで、あの少年は柊のもとへ一気に駆け寄って来た。

 

「もしかして、あなたがこいつらの面倒を見てくれてたんですか!? ありがとうございます! 俺、円堂守って言います! 雷門中でサッカー部のキャプテンをやっています!」

 

 雷門中。その名を柊はよく知っていた。なぜならそこには小さな頃に色々と縁のあった学校。彼女にとっては忘れもしない記憶がたくさん詰まった場所だ。

 

 確か雷門中は過去に無敗を誇る程にサッカーの凄い中学校だったと噂されていた。今はどうか分からないが、そんな場所のキャプテンと言葉を交わせるなんて光栄だ。一気に円堂が駆け寄ってきたことで驚いていた柊だが、今目の前にいるのがあの雷門中のキャプテンだということに自然と興味が沸きあがって来た。

 

「不破柊です。面倒を見ていたというより、たまたま一緒に遊んでいただけですよ。みんな良い子たちですね、私も久しぶりに楽しめました」

「敬語はよしてください、見た感じ俺より年上じゃないですか!」

「ん、そう? なら円堂君、君も私に敬語なんていらない。気を使われるのって好きじゃないんだ。頼むよ」

 

 波長が合うというのはこのことだろうか。今現在22歳の柊にとって中学生相手に会話しても話なんて特に弾みもしないと思っていたがまさかその逆だ。今さっきしていたサッカーの話題が上がった途端に、円堂との会話が火が付いたように盛り上がり始めたのだ。それは勢いが増すばかりで消えることを見せない。

 

 柊が彼、円堂と会話をしていて思ったことは『彼は馬鹿なんだな』だった。それは馬鹿の中でも群を抜いての馬鹿、『大馬鹿』だ。しかしそれは悪い意味での大馬鹿ではない。いい意味での大馬鹿だ。彼はサッカーに対してどこまでも夢中になれるサッカー馬鹿だ。その姿は誰よりも生き生きしていて、誰よりもサッカーを愛して、そして誰よりも今は眩しかった。

 

「なぁ柊さん、よかったらまだ帰らないで一緒にサッカーをしようぜ! 上手い下手なんて関係ない、楽しもうぜ」

「望むところだ。こうみえても数年前までは結構名の知れたスポーツ選手だったんだぞ。サッカー選手じゃないけどね」

 

 サッカーは見ることはあってもやる事はほとんどなかった。それは柊自信がサッカーに関しては音痴であり、出来ないとずっと思い込んでいたからだ。

 しかし今日ここで再び始めた結果どうだろう。それは本当に上手下手なんてものは関係なく、ただ楽しいとしか言葉で表せないほどの時間だった。柊は久しく忘れていた、この感覚を。

 

「くそっ、上手いな円堂君」

「ハハッ! 良いシュートだったぜ柊さん!」

 

 最終的にゴールキーパーの円堂を相手にみんなでシュート練習をする特訓が始まった。

 もちろん柊のシュートはバシッという音と共に防がれてしまう。簡単には入らない。それでも円堂の見せるあの姿にどこか懐かしい気持ちと、嬉しさが今にも込み上げてきそうだった。

 

 

 日が沈み、特訓という名の練習を終えると柊と円堂は共に帰路の道を歩いていた。

 

「今日はスッゲー楽しかったよ。よかったらまたやろうぜ、柊さん!」

「いいとも。またやろうか、私も面白かった」

「そうだ、よかったら今度雷門中に顔出してくれよ! 俺の仲間達にも柊さんの事を紹介したいんだ」

「ふふ、まぁ縁があったらこっそり顔を出させてもらうよ」

 

 円堂守。それは不破柊にとって運命ともいえる出会いだった。

 楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去り、今日という一日が幕を下ろす。そして明日がまたやって来る。日常というのはそういった毎日の繰り返しだ。そのサイクルの中で自分がどれだけ有意義に時間を過ごすかが人生というもの。

 どんな形であれ、柊にとってはこれが始まりであった。この円堂守との出会いが、人生を変える一つの分岐点であると。ただ、まだその事は本人は気付く由もない。




誤字脱字あればオナシャス!
更新は3日に1回を目指して行きたいでやんす!
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