イナズマイレブン 王の瞳が見た記憶   作:アリ酸

10 / 16
いよいよ10話まで来ましたね。
ブックマークしてくれている方々ありがとナス!


10話:一難去ってまた一難

 空はいつものように夕焼けだった。

 雲も無く、視界に満遍なく飛び込んでくる夕陽の光。何一つ普段と変わらぬ光景だというのに、それが今はなぜかいつも以上にスッキリとした綺麗な光景だと柊は感じていた。

 

 横目で隣を見ればすり傷だらけの顔で笑顔を見せている円堂が視界に入り、いつものように河川敷の道を歩いていれば、温かい風が優しく包み込むように肌を撫でていく。本当に今日という日は大変な一日だった。冷めない興奮に、思い出すだけで高鳴る心臓の鼓動音。それはいつも一人で帰っている帰路の道で、今は隣に円堂がいるからだろうか。自然と彼の見せる笑顔につられて自分の眉も下がってしまっていることに柊はふと気付いた。

 

「いい試合だった。――とは言いきれないが、全然悪いものでもなかった。助けてくれた彼、すぐに帰ってしまって残念だったね」

「そうでもないさ。雷門はこれからもっと強くなる。豪炎寺はその背中を押してくれた、それで十分だ!」

 

 柊も今日初めて知ることになった豪炎寺修也という名前。実力・センス、どれも今日の試合を見れば疑う余地のないほどにピカイチな選手だった。結局彼は円堂達を助けてくれたもの、試合が終わればユニフォームを置いてすぐに立ち去っていった。サッカーをするのは今日限りだと去り際に残して。

 

 いい事もあれば残念な事もあるのが現実であるが、あの豪炎寺がサッカーをやらないと言っても、円堂はいつもと変わらない眩しい笑顔を見せていた。普通の人間であれば、あれだけの実力を持った人材なら様々な方法を駆使して仲間に引き入れることを考えるだろう。諦めるはずがない、ダイヤモンドが目の前に転がっているなら拾おうとしない訳がない。それが弱小であるのなら、なおさら。だが円堂は彼を引き止めることはしなかった。理由は分からないが、彼に対して思っていたことがあったのかもしれない。

 

 円堂守。彼はどんな時でもポジティブに物事を考え、常に前向きな姿勢でいる。豪炎寺がもうサッカーはやらないと目の前で言ってもだ。空元気なのか、それとも豪炎寺の意思を尊重してなのか。それは柊は円堂ではないためハッキリとは分からないが、もし己が円堂守と同じ立場だったのならば彼のように前向きではいられなかっただろう。柊にとって円堂のメンタルはまさに羨ましいもの以外なんでもなかった。

 

「柊さんには感謝だぜ。今日の帝国戦では柊さんがいなかったら、今頃どうなっていたか」

「いや、私はむしろ謝るべきだ。最後にしか助言をやれず、大勢の選手は怪我を負った。自分の無力さが……不甲斐ない……」

「ハハッ!! 柊さんでもそんな表情をするんだな! いつもは大人な雰囲気を見せた表情をしているのに」

「なっ……!? 普段は高校生みたいとか言っているくせに、からかわないでくれ。私は意外と臆病者なんだぞ?」 

 慌てた様子で弁明の意を見せる柊に「相変わらず面白いな柊さんは」と円堂が更に笑う。友達と言える人間がこの辺にはほとんどいない柊にとって、こんなふうにいじられるのはいじられるのは久しぶりだ。つい、ぷいっと柊は円堂から顔をそらしてしまう。再び円堂はその姿に笑みを見せると続け様にこう言った。

 

「柊さんが考えてくれた弱点くすぐりリズム運動(特訓メニュー)。あれを体験した奴らが言ってたんだ。”怪我を負ったことに変わりはないが、あの特訓のおかげでボールは見えていた。だから危ない場所への直撃は避けられた”ってな! それに試合後半で柊さんが考え付いたカウンター、凄く良い発想だったと思うぜ。あの作戦を聞いた時、イケるって俺は思ったよ!」

 

 円堂が一人でガッツポーズをすると、その通りだと同調するかのように彼の影も同じ動きを見せる。果たしてこれではどちらが支えている側なのか分からない。柊は今度は照れくさそうに顔を背けると円堂に見えないように小さく頬を赤らめさせた。――でも、これでいいのかもしれない。どんなに野球が上手かった選手であろうと、比例してサッカーも上手いとは限らない。柊はその典型的な例だ。だったら、支え、支えられ、そうしていくことのどこに可笑しなところがあろうか。柊は実感した。自分はまだまだ未熟である、だから彼らと共に成長していけばいい、と。

 

「それじゃまたね円堂君。しっかり体を癒しておくように」

「ああ! 次は河川敷で練習しているからまた来てくれ!」

 

 夕陽を背に手を振る円堂と別れ、柊は自身のアパートに向かって歩み始めた。

 共に歩いていた円堂が消えた事で静かになる河川敷の道。夕陽の光がキラキラと反射する河川を見つめれば何だか懐かしい光景が蘇る。これは確か7年前に柊が行った試合で無惨にも醜態をさらした時のことだろうか。

 

 今日の試合後のことだ。結果的には今日の試合が勝利で終わった事から、雷門中のサッカー部は残存が決定。廃部という未来は消え去ることになった。正直なところ、この話はどこかでずっと似たような記憶があった。それは自身のかつていた桜城学園の野球部と始まりがそっくりだったこと。帝国学園に滅多打ちにされたわけではないが、かつて柊のいた桜城学園野球部も始まりは無残な結果からスタートだった。――ただ、柊の野球部と雷門のサッカー部で違ったところ、それは相手に何か印象を与えて試合を終えたか否かにあったところか。

 

 雷門は一点を奪い、相手は棄権したため勝利した。だが柊のいた野球部は、一矢報いることも出来ず、相手が飽きて帰ったから勝利となった。そんな過去を今思い出した。忘れようにも忘れられない苦い記憶。今思えば柊も雷門があのようにならなくて本当に良かったと感じている。もし同じ結果になっていれば、どれだけ精神的負荷が彼らに襲いかかっていたか。周りからは嗤われ、罵られ、晒される。あの時の精神的苦痛がどれほど大きいか。柊にとって今思い出すだけでも堪ったものではない。

 

 今日はいつも以上に疲れた。帰ったらまずはゆっくりと湯船に浸かってから、食事を済ませ、今日の総評でもつけるとしようか。そんなことを考えながら柊はひと伸びしていると、自宅まであと少しという距離で目に留まるものが現れた。黒く塗られた車に、黒スーツの男達。よく映画やゲームで出てくるあっち系の人間を想像すれば分かりやすいだろう。見るからに明らかに関わってはいけなさそうな人たちだ。なぜあんなのがこの辺にいるのかは分からないが、こういう時は見知らぬふりをして通り過ぎるのが最善の行動である。

 

 柊はそそくさと横を通り過ぎようとすると、一瞬、ほんの一瞬だけ偶然にも視線が交わってしまった。向こうが顔を覗き込むようにじっと見つめていた気がしたのだ。そのおかげか反射的に視線の方向を向いてしまったのだ。おそらくだが、あれで向かないという方がおかしい。

 やばっ、と思いつつ早く立ち去ろうとすると肩にずしりと重みがかかる。まるでものすごく思い肩掛けリュックを急に背負わされるような感覚に、後ろを振り返れば黒服の男達がまるで「どこへいくんだ」と言わんばかりに柊の肩に手を置いていた。

 

「――不破柊だな? 総帥が待っている、ご同行願おうか」

「な、なんだ、お前達は! 私の何の用だ?」

「話は後だ。車に乗れ」

「――ッ! 私の肩に触るなッ!!」

 

 肩に乗せられた手を払いのけると、柊は急いでこの場を離れようとする。冗談ではない、なぜ自分の名前がこんな人達に知られているのか。彼らの言う通りにしたら何をされるか分かったものじゃない。

 しかし次の瞬間、左手を一気に締め付けられる感覚が走る。痛いという声を上げる暇も無く、男の太い手が自分の手首をがっしりと握っていたのだ。無理に動かそうとしても巨大な岩に手首が繋がれてしまったかのようにビクともしない。柊がいくら運動神経がよかろうが彼女もまたれっきとした女性だ。いくら抵抗したところで握っている手を振りほどこうにも、大の男には筋力では敵わなかった。

 

「な、何をする! くそっ、やめろ! 放せ! 自由にしろ!!」

「抵抗するな! おとなしく言うことを聞けッ!!」

 

 洒落にならない、こんなの誘拐だ。何でこんな目に遭わなければならないんだ。恐怖心に煽られながら、無駄な抵抗だと分かっていても、言うことを聞くまいと必死になる。しかし次の瞬間、聞き覚えのある声が車の中から聞こえてきた。

 

「――放してやれ。彼女は元野球選手だ。大事な腕を故障されてはこっちの面目が立たん」

 

 聞き覚えのある声を発した人物とは今日で二度目の顔合わせだった。

 なぜ彼がここにいるのか分からないし、あの見えない瞳が何を考えているのかも分からない。ただようやく出来たプライベートに時間を邪魔しに来たということだけはハッキリと分かった。家に帰ってゆっくりしようと思っていた矢先に今会いたくない人物とこんな形で遭遇、柊にとってはいい迷惑だった。家まであとほんの数百メートル、たった数百メートルだったというのに、彼に会ったおかげで温かい湯船、食事、睡眠……今さっき考えていた事がどんどん遠ざかっていく。ただでさえ精神的に疲れているというのに、まだ今日はすり減らさなくてはいけないのか。用事があるのならもっとマシな方法があるだろうという気持ちを押さえながら柊は抵抗を止めると、念のために聞くことにした。――今日こっちのチームを散々痛めつけてくれた鬼道有人がまた何の用があるのかと。

 

「私にどんな用かな。帰りたいんだが……」

「そうはいかない。悪いが総帥がお前のことをお呼びだ。”交渉”をしたいと」

「……交渉? 私と何の交渉を?」

「それは今ここでは話せない。乗ってくれ、頼む」

 

 今日の試合の時に見せた高圧的な態度ではなく、普通に誰とでも接するような大人しめの口ぶりに柊へと頼み込む鬼道。はて、彼はこんな人物だっただろうかと柊は違和感を覚えるが、返事を返す前に後ろの男達に後部座席に押し込められてしまう。痛いし苦しいし狭い。そしてむさくるしい。相変わらずこれでは誘拐だと、流石の柊も舌打ちをしながら怒りを露わにしようとするが、再び鬼道の謝罪で違和感を抱くと共に黙り込んでしまった。

 

 黒の普通車にガチムチの黒服男三人、中学生の男一人、大学生の女一人。ただ一人女である柊にとっては今すぐにでも息がつまって死んでしまいそうな空間だ。経験上むさくるしい空間には慣れているからいいものの、窮屈勘だけはどうも否めない。こんな姿で柊が非力な女性らしく大声でも上げれば、側から見れば通報待った無しだろう。まぁもっとも柊自身中性的な性格であるためか、そんなことは滅多な事でもない限り有りえないのだが。

 

「急にこんな事をして本当に申し訳ない。いや、すみませんでした不破さん」

「え? あぁ……本当にいい迷惑だよ。……というか、君はそんな人だっただろうか? もっとトゲトゲしているイメージがあったのだが……」

「あれは帝国学園キャプテンとしての鬼道有人であり、今目の前にいるのは一人の中学生としての鬼道有人です。サッカー部で活動している時とプライベートで使い訳なければ、流石に精神的に来るものがありますからね」

「へぇ~、君のような人でも精神的に来る、か。思いもしなかった」

「それはお互いさまでしょう。少なからず、あなたに今日”機嫌取りを行う人間”と言われた時や、総帥の言われるがままに”雷門を痛めつけている間”は良い気分はしなかった」

 

 予想だにしていなかった言葉が鬼道の口から出たものだから、思わず柊は目を見開いてしまう。試合の時は至って冷徹、戦う相手は完膚なきままに叩きのめす無慈悲な攻撃。フィールドであんな姿を見せてくれていた彼から、”雷門にした行為を気にかけていた”なんて言葉が出てきたのだ。驚かない方が逆におかしい。

 

「それで、その交渉の話っていうのは?」

「はい。俺も詳しく聞かされていないので分からないのですが、総帥はあなたの”右眼を治す”と言っています」

「――! ……右眼を治す……ね。じゃあ、それだけ私は君達に”調べられてる”ということか。どうりで最近ストーカーがいた訳だ」

「総帥はあなたの力を欲しがっています。もちろん、今日の試合で俺達もそう感じました。総帥の指示ではなく、俺達の本心から」

「……そう」

 

 無関心そうな返事と共に会話はそこで途切れた。

 柊は高級車に乗せられているのに気分が上がらなかった。それは今の鬼道が話したことでなのか、それともただ単に乗り心地が悪い下手クソな運転をされているせいなのか。窓の外さえ見られない車内で座席にもたれかかると、柊はつまらなそうな表情をするとともに腕を組んでゆっくりと目を閉じた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。