イナズマイレブン 王の瞳が見た記憶   作:アリ酸

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14話:vs尾刈斗中 前半戦

 染岡の必殺技の完成に加え豪炎寺の正式入部から一週間。早くも廃部を後ろに控えた練習試合がやって来た。

 

 今回の試合相手は摩訶不思議な雰囲気を漂わせている尾刈斗中学校。何やら在り得もしない異常現象が試合中に起きると噂されている不気味でもある学校だ。おまけに天候も曇り空であることからか、異様な気味悪さが増してきている気さえしている。

 

「尾刈斗中監督の地木流灰人です。今日は宜しくお願いします」

 

 顧問の冬海先生が向こうの監督と握手を交わすを様子をベンチの隅で眺めていると、試合開始前だというのに何かが引っかかった。それが何かといえば柊は向こうの地木流監督とはどこかで見覚えがあるような気がしたのだ。はて、彼は一体誰だっただろうか。知り合いに似た人がいたような気がするという点までは思い出せたものの、そこから先がはっきりとは思い出せず、スッキリしない感覚が胸を不快にさせる。

 

「おや、君が豪炎寺君ですね。帝国戦でのシュートは見せてもらいました! いやはや実に素晴らしかった。今回はお手柔らかにお願いしますね」

 

 媚びを売るかのような物腰で地木流は豪炎寺に接する。まるで豪炎寺にしか興味ないという口ぶりに当然染岡が黙っていられる訳も無く、「アンタ達の相手は豪炎寺じゃない、俺たち全員だ!」と口にするが、向こうがとった態度は嗤笑。彼が直後に述べた言葉は「豪炎寺君と戦ってみたいから練習試合を申し込んだのですよ。弱小の雷門中学になど興味もありません」という明らかに小馬鹿にしたものだった。

 

 逆上する染岡を円堂が抑えている様子を見ながら柊は思った。未だ雷門は舐められてばかりのチームであり、これは”実に都合がいい”と。

 

 集合がかかり試合開始数十分前、ベンチにて全員が気を引き締めていると先程向こうの監督に言われたことが気に障っていたのか雷門メンバー全員はピリピリしていた。一触即発とまではいかないだろうが、無駄に力が入っている事は見ればすぐに分かる程だ。

 

「クソが! 向こうの連中め、ムカつくぜ。何が雷門に興味が無いだ。ふざけやがって!」

「落ち着けって染岡! ここで怒ってても始まらないだろう? プレーで見せてやろうぜ!」

 

 一番気が立っている染岡を円堂が抑え込む。やはり彼だけは誰よりもプライドが高く、おそらく今ここにいるメンバーではきっと精神的に不安定な状態といったところだろうか。別にカチンとくることは構わないのだが、中学生といえば精神面は完全に未熟。このままではプレーに支障が出ることもあり得るというのが心配だ。

 そこで柊はどう落ち着かせるべきかと考えると、全員一つ吉報を口にすることにした。

 

「随分みんな気を立たせて張り切っているね。実に良いことだが、もう少し力を抜きなよ。どうせ”この試合勝てるから”さ」

 

 試合を始める前から分かりきったような表情でベンチで足を組む。選手がピリピリしている中でそんな余裕を柊が見せているものだから、さすがの円堂も詰め寄ってきた。どうしてそんなことが分かるんだ、まだ試合は始まっていないぞと聞いてくるが、まるで未来予知でもしているかのように柊は口角を上げる。

 

「だって見てみなさいな、あの向こう選手たちの余裕の態度。舐めて掛かってくる相手ほど簡単に点を取りやすいチームはない。前に帝国学園から一点をもぎ取った時を思い出してみなよ」

 

 今柊が言った言葉に選手全員がふと帝国戦を思い出す。ズタボロにされながらいったい点をどうやって取ったか。それは豪炎寺というストライカーが助けてくれたのもあるが、慢心している帝国の虚を突いて点を取ったというのが正しい。

 

「予測してあげるさ。前半は豪炎寺君か染岡君のシュートで先制。そこから相手のスイッチが切り替わり始めて、ようやく勝負が始まる。見たところ運動能力に差はない、だから君達のプレーをしっかりできればまず負けることはない」

 

 あとは頑張ってねと告げた柊は、そのまま秋と春奈のもとへ寄って女子同士でサッカーの話をやり始めた。相変わらずいつもの柊の落ち着きぶりを見て、そこで染岡の逆立っていた気はようやく落ち着きを見せた。

 

「フン、確かにその通りかもな。少し頭が冷えたぜ」

 

 染岡は冬海よりも顧問らしいことをしている柊に対して信頼を置いていた。必殺技の完成させるきっかけを作ってくれたり、的確な事をハッキリ言ってくれたり、そのような日々の行いから彼女の言葉は染岡にはよく通る。だから直ぐに彼は今の自分が冷静さが周りに比べ欠けていることを自覚した。もし今ここで同じことを言ったのが別の人だったらこうはいかなかったかもしれない。

 

 

 

 ——試合開始のホイッスルが鳴り、前半の開始。

 

 最初にシュートを放ったのは尾刈斗側だった。

 紫の火の玉が分身して襲いかかってくるような『ファントムシュート』。それが円堂を打ちのめしてゴールネットに突き刺さろうと牙を向けるが、神の手を持つ円堂もまた黙ってそんなことを許すわけがない。尾刈斗の必殺シュートは『ゴッドハンド』と衝突するが、次第に手中にて威力を失い静止する。セーブ成功だ。

 

 両手で指を差しながら「いいねソレ!」と柊は円堂を誉め称える。いくら優秀なシュートといえど、帝国の放ったシュートに比べれば大したことはない。凌いだ後はこっちの攻撃だ。

 

 円堂から風丸、風丸から少林寺の順でボールが渡り、そして少林寺がパスしたボールは染岡へとつながる。

 必殺技の構えから続けて現れたのは青きドラゴン。ひたすらに練習して身に付けた『ドラゴンクラッシュ』はそう簡単には止められるような技ではない。相手のゴールキーパーは成す術も無く点を許し、柊が予想していたように最初の先制点が雷門へと入った。

 

『ドラゴンクラッシュ炸裂ぅ! 染岡のシュートによって先制点を奪ったのは雷門中だァー!!』

 

「ッしゃああぁぁぁ!! どうだ、見たか!!」

 

 実況の角馬が熱く盛り上がる中でガッツポーズをする染岡。それを見て尾刈斗中監督の地木流が「何ですって!?」とうろたえる表情を見せる。先制点を入れた染岡をベンチで褒め称えながらその様子を見れば実に面白い。こういうのがあるからいいのだ。舐められるのは相手から点を取りやすいというメリットも生まれ、自分より下と思っている連中からは様々な反応が見られる。本当にゲームが進めやすくて有り難いというのが柊の感想だ。

 

 それから再び染岡にボールが渡れば、またもや『ドラゴンクラッシュ』によって追加点が入った。これで2対0、試合の運び出しはとてもいい。――だが、問題はここからだ。

 

「まさか豪炎寺君以外にこんなストライカーがいたとは驚きましたよ、雷門中のみなさん……。――雑魚が調子に乗ってんじゃねえぞ! テメェら、そいつらに地獄を見せてやれ!!」

 

 監督である地木流の口調が一気に変わったかと思えば、キャプテンの幽谷を始めとした選手たちの雰囲気もガラリと変わる。不気味に口元を歪めているのを確認できたかと思えば、今度は柊達とは隣側にいるベンチから呪文のような言葉が聞こえてきた。

 

「マレ、マレ、マレトマレ……、マレ、マレ、マレトマレ」

 

 ぶつぶつと口ずさむ地木流を見て、ここでハッと柊は先程から胸に引っかかっていたことが何なのかを思い出した。それと同時にベンチを立ち上がると円堂達に向けて指示を出す。

 

「警戒! 反撃が来るぞ! 相手の動きに惑わされるな!」

 

 尾刈斗中の攻撃に対して雷門は迎撃態勢を取る。しかし、不思議な事に今まで普通にしていた選手たちの動きが明らかにおかしい。何かありもしないところを見ている者もいれば、変な所に動く者さえいる。しまいには……、

 

「――え? あ、あれっ!? 半田さん!?」

「少林!? 何でお前が俺の前に!?」

 

 向こうの侵攻の阻止に行ったはずの半田と少林寺、宍戸と松野がなぜか敵ではなく自分達をブロックするような形で向かい合う。側から見れば明らかにおかしい挙動だったというのにもかかわらず、本人たちには自覚が無い。その間に尾刈斗中はゴール目掛けて一気に登り上げる。

 ゴール前の砦として壁山と影野の二枚岩がそうはさせんと立ちふさがるが、ここで噂に聞くある必殺技が繰り出された。

 

「俺達を止めようなんて無駄だ! ”ゴーストロック”!!」

「マレ、マレ、マレトマレ!」

 

 地木流が放った言葉の後、最後の門番である円堂を含め、壁山と影野の動きがピタリと静止する。動かそうにも動けず、それは強力な磁石のN極とS極がくっつき合うかのように地面と足が離れない。これは、円堂達雷門イレブンが事前にDVDで目にした足が動かなくなるという現象だった。

 

「あ、足が……」

「動かないッス!」

 

 影野と壁山の間をすり抜けて、ゴール前で幽谷が放った『ファントムシュート』はネット目掛けて飛んで行く。円堂も同じように足が動かず、ゴッドハンドは不発。ここに来て1点を奪われてしまった。

 

『ゴールッ! 一体何が起きたのか! 雷門イレブン、棒立ちのまま得点を許してしまう!!』

 

 腕を組んで黙ってその様子を柊は見つめていると試合は再会。奪われたなら奪え返せばいいと染岡が再び上がって行き、必殺技である『ドラゴンクラッシュ』を放つ。――しかし、

 

「な、馬鹿な!?」

 

 同じ技が3回も相手に通用するとは限らない。染岡の渾身の必殺技はいとも簡単に『ゆがむ空間』の中へと吸い込まれ、ゴールを阻まれてしまう。染岡は驚きで目を丸くしているがそんな暇は今はない、今度はカウンターだ。

 ディフェンス勢が再び防衛を行うも、しかしここでまた『ゴーストロック』が繰り出される。今の雷門には成す術もなく2点目。これで同点だ。

 

「クソッ、これがDVDで見た呪いだと!? こんなものまやかしだ!」

「落ち着け染岡、奴らはどこかがおかしいと言っているだろう!」

 

 相手の動きに何か仕掛けはないのかとじっくり探っている豪炎寺に対して、そんなものに見向きもせずに突っ込んでいく染岡。まさに格好の餌食とはこのことであり、『ゴーストロック』は予兆も無く忍び寄ってくる。

 前半はさらに点を入れられ、逆転されたところで終了した。

 

 

「ゴーストロックか。子供だましとはいえ、味な真似を……」

 

 地木流に対し懐かしそうな視線を向けながら柊が舌打ちをする。

 はて、これから先彼らが逆転できるためにはどうさせるべきか。そんなことを考え部室に向かう。

 

 部室の中で集まっている雷門メンバーはやはり、あの謎現象に悩んでいた。壁山が怖がる中、風丸や豪炎寺など頭がキレる人達を中心にはなぜあんなことが起こるのか必死に頭を働かせている。

 足が動かなくなるのはもしかすると向こうの監督の言葉が何か関係しているのではないか。ふと円堂がそんなことを口走ったところで、柊はフッと笑う。

 

「柊さんは何か分からないか? あのゴーストロックってのが一体何なのか」

「ん? 私は最初から分かったぞ」

「何!? それは本当か! どうして教えてくれなかったんだ、アンタあくまでも俺達の指導者だろう!?」

 

 俺達には負けたら廃部という未来がまだ残っているんだ。そんな気迫を見せながら風丸が柊に詰め寄るが、柊の手が伸びたかと思えば口元に人差し指を置かれ、「ンムッ!」という声を最後に発しようとしていた言葉が中断される。

 

「練習試合なんだからそこを考えるのが君達のやることだ。それに言ったはずだ、君達のプレーをすれば勝てると。つまり攻略できるんだ」

「だが、簡単に言ってくれるけども今じゃゴーストロックの対処法が全然掴めないぞ!」

「分かった。なら私が試合中に攻略のヒントを口にしてあげるとも。どこへパスしていいのか分からなくなったら、パスできる人達でボール回しをしていてごらん。FWにボールなんて回さなくていいから」

 

 いわゆる攻めなくてもいいからパス回しだけを行え。そんなことを口にした柊に向けて全員が「正気かよ」と奇異な視線を向ける。何せこっちは一点リードされているというのに、攻めずしてどうやって勝つのか。

 

 しかし、雷門メンバーは次の後半戦で衝撃を受けることになる。まさか彼女の言ったことが試合の流れを変える鍵となることは、今は誰も知らない。

 

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