イナズマイレブン 王の瞳が見た記憶   作:アリ酸

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15話:vs尾刈斗中 後半戦

『さぁ、後半開始です! リードを許してしまっている雷門中学は逆転なるか!?』

 

 雷門中のキックオフで後半戦がスタート。最初にボールを持っていた豪炎寺がバックパスで後ろへと蹴り返す。

 

「豪炎寺! 何でファイアトルネードを打ちにいかないんだ! 今は柊さんの言っていたような動けない状況じゃないだろう!」

 

 円堂が豪炎寺に向けて声を荒げると、続いて染岡も「腰抜けめ!」と豪炎寺に向けて舌打ちをする。どうやらここに来てチームの乱れが出始めたようだ。

 

 豪炎寺の動きから彼が何か考えている事は柊には大体は予想がつく。おそらく相手GKの必殺技の原理を探っているのだろう。このままでは勝てない、今上がっても駄目だ、まだ早い、と。しかし、今相手にリードされている中で、豪炎寺が試みようとしている行動に気付けているのは彼女だけであり、他のメンバーはゴーストロックに対する焦りでそこまでの気が回ってはいなかった。

 

 豪炎寺は至って冷静なタイプ。対して染岡といえば熱い激情タイプ。いわゆる凹凸のある二人が今の雷門のストライカーたちだが、どうもその凹凸が噛み合ってはくれない。おかげで後半戦が始まってからは、豪炎寺と染岡どっちにパスを回したらいいのかバックにいる選手たちが揉め始めるくらいだ。こんな時に仲間割れをしている場合ではないというのに、敵ではなく味方に熱くなっている。勝てる試合といえど自滅ルートになってしまえば元も子もない。そのためにも今回の試合で一番の課題となるところはゴーストロックの攻略ではなく、ストライカー二人が理解し合うことだろう。

 

「ナイスカットだ風丸!」

「おう!」

 

 陸上部出身の足の速い風丸がゴーストロックをされる前にボールを奪うことに成功する。唯一まともに冷静さを維持している風丸、影野、壁山、三人のDF陣。現状それがせめてもの救いといったところだろうか。彼らがいるおかげでFWが攻撃しに行く時よりも落ち着いて柊は試合を眺めていることが出来る。

 だが、問題はここからである。DF陣が良い動きをしても点を取れなくては意味がない。どうやってパスを繋げていくかだ。

 

「ワレ、ワレ、ワレマワレ……、ワレ、ワレ、ワレマワレ」

「ど、どうしたんですか不破さん!? 急に向こうの監督みたいなこと言い始めて!」

「ひぃぃ~、ま、まさか本当に呪い~!? 私達にも移ったりしないですよね!?」

 

 DF陣がボールを支配し始めたあたりから、地木流と同じようにブツブツと柊は何か言葉を呟き始めた。

 明らかに前半では普通にしていた彼女が突然そんな様子を見せるものだから、ベンチで試合を見守っていた秋と春奈が動揺を見せる。目金にいたっては興味があるのか、それとも怖いのか、よく分からない反応だ。

 

 その光景は風丸を始めとしてDF陣、そしてGKの円堂にもよく見えていた。一体ベンチでは何が起きているんだと不安がよぎるが、そうしている間に相手はボールを奪わんと様々な手段を駆使してくる。

 もうこの試合何が何だかよく分からない、本当に勝てる試合なのかこれは。そう風丸が思い始めた時にふとは数分前に柊が言ったことを思い出した。

 

 ――どこへパスしていいのか分からなければ、パスを回せる人達だけでボールを回せ。FWには回さなくていい。

 

 小林、半田、宍戸、松野、栗松は染岡か豪炎寺のどっちにパスを出すのか揉めており、染岡と豪炎寺も波長が合わずに点を奪えずにいる。無理にパスを出そうものなら奪われるか、通ったとしてもゴーストロックの餌食だ。まさに今が柊の言っていたどこにパスを回していいのか分からない時だった。

 

 このままでは攻略なんて出来ない。そう踏んだ風丸は影野に向けてパスを出す。

 

「影野!」

「ああ……、俺達の存在感を出す時だ……」

 

 ボールが回って来た影野は、今度は壁山へ。三人が三角形を作るようにパス回しを始める。普通に考えれば異様な光景だ。ゴールの目の前でパス回しをしているなんて取られれば、すぐに絶体絶命だ。しかし、今できることは柊の言葉を信じてやってみること。それしかゴーストロックを攻略するヒントを得られる方法が無いのだ。

 技が決まれば奪われるのなんて既に分かりきっている事である。しかし今この場で唯一冷静な判断が出来るDF三人は、ヒントが得られそうなことを何もしないまま試合が終わるのだけは絶対にしたくなかったのだ。

 

「馬鹿め。何を考えているのか知らないが、ゴーストロックの前ではどんな小細工だって無力だ。ボールを頂くぞ!」

 

 幽谷を先頭に尾刈斗のメンバーが風丸たちの目の前までやって来ると再び呪縛の構えを見せる。何度も見せられて来た構えに、他のメンバーが「また奪われるぞ」と息を呑む。

 

「ゴーストロック!!」

「マレ、マレ、マレトマレ!」

 

 地木流の言葉が幽谷の声に重なると、必殺技が発動。再び足が硬直したように動かなくなった。

 

 

 

 

 

 ――だが、それは雷門の足ではなく、尾刈斗側の足がだ。

 

 

『おぉっと、どういうことだ!? 尾刈斗中の足が急に止まったぞ! 何が起きたんだ!』

 

 角馬の実況に煽られるように尾刈斗中の選手たちが必死に動こうとしているが、表情は必死であるものの一歩も踏み出せてはいない。ビックリしているのは向こうだけでなく雷門の選手たちもだ。一体何が起きたのか理解できる者なぞ現れる訳も無く、その場にいた選手たちは誰もが不思議そうな顔を見せる。そんな光景に向こうの監督である地木流が焦った様子で声を荒げ始めた。

 

「何ですと!? どうして自分達にゴーストロックが!?」

 

 そう、確かにゴーストロックは発動した。それは紛れも無くしっかりと。しかし、発動させたのは雷門イレブンにではなく、自分達の足にだ。よほどガチガチに固めたのか、数秒経った今もピクリとすら動いていない。

 一体なぜこんな事が起きたのか。地木流は困惑していると、彼の耳へとある言葉が聞こえてきた。

 

「ワレ、ワレ、ワレマワレ。ワレ、ワレ、ワレマワレ……あ、バレてしまった」

 

 地木流が次に見たものは”催眠術”の言葉を呟く柊の姿。それが視界に入った途端に彼は「ゲッ!?」と青ざめた様子で断末魔のような声を上げる。

 

「お、お前は……不破!? ど、どうしてここに!?」

「やぁ、久しぶりだね地木流くん。相変わらず君らしい戦法だ」

 

 なぜお前のような人物がいるんだと柊は指を差されるが、「最初からいたのに気付かなかったの~? そういうところ昔から変わらんね~」とケラケラと笑ってそれを受け流し試合に注意を向け直す。

 ”旧友”である彼とはじっくり話したい柊だが、今はそうはいっていられない。そんなことは試合が終わってからだ。

 

「秋さん、春奈さん、君たち二人だけに相手が使う必殺技の種明かしをしてあげるよ」

 

 一通り笑った後、試合を見ながら柊が二人に向けて口にする内容は至ってシンプルだった。先程呟いていたのはある一種の”催眠術”であり、相手の使うゴーストロックと原理が全く同じことを柊はしていただけのことであったのだ。

 そもそも呪いなんて大袈裟に言ってはいるが、サッカーの時だけ都合よく発動する呪いなんて聞いた事なんて無い。せいぜい考えられるものなんて、種も仕掛けもあるトリックだ。ゴーストロックもそのうちの一つと言っていい。

 

 ゴーストロックというものは攪乱する動きに、繰り返しの言葉(ループワード)を加えることによって催眠へと導入させる。雷門イレブンは相手の動きで視覚と、地木流の言葉に聴覚を惑わされ、見事に催眠にかかっていたのだ。

 

「じゃあ、今不破さんが今言っていた言葉は……」

「そう、秋さんの考えている通さ。ずっと雷門のパス回しの動きに合わせて”回れ(マワレ)”って暗示をかけていたんだ。向こうが動きを封じる必殺技(ゴーストロック)ならば、今こっちがやったのは目を回させる必殺技(ゴーストロール)といったところかな。単純な子供だましでしょ?」

「なるほど! だから尾刈斗の選手はありもしない味方へと技をかけてしまったのですね。本当に策士ですよ、そんな洞察力どうやったら身に付けられるんですか!」

 

 はしゃぎだす春奈の頭を軽く撫でると、「取材は試合後にね」とだけ告げて円堂の方に視線を向ける。すると彼もまた今の柊の行動で相手の技が”催眠術”であると気が付いていたようだった。

 となれば後は対処するだけだが、時間が残り少ない。果たして間に合うだろうか。

 

「ヒャハハハッ! 今さら分かってももう遅い! 対処できるものならしてみやがれ! やっちまえテメェら!!」

 

 己らを縛っていた必殺技が解けると、今度こそ雷門にゴーストロックがかけられる。ボールは再び幽谷に渡り、ゴール前で再び円堂と一対一。ダメ押しの追加点を奪わんと、幽谷は『ファントムシュート』を打つために飛び上がる。

 

 正念場である。ここで止められるかどうかが勝敗の分かれ道だ。

 円堂の足を封じるゴーストロックは無理やり動かせるようなものではない。暗示を解かなくては動かせない。

 

 ——そんな時に円堂がとった行動は大きく声を張り上げることだった。

 

「ゴロゴロゴロ! ドッカーーーン!!」

 

 まるで喝が入れられたかのような衝撃に、直後円堂は自分の足が動くことを確認する。右でも左でも、ジャンプする事さえできる。だがボールは既に目と鼻の先にまでやって来ており、今からゴットハンドをしては間に合わない。せっかく暗示を解いたもののこのままでは追加点だ。万事休すか……。

 だが、円堂守はそれでも期待を裏切らない男だった。GKはキャッチすることが絶対なんてことはない。新必殺技である『熱血パンチ』によって際どいコースの弾を弾き返すことに成功したのだ。その瞬間に動揺する尾刈斗中と、ワッと嬉々として騒ぎ出す雷門中。試合の流れが円堂によって今変わった。

 

「暗示をかけられたならば、打ち消せばいい。全く円堂君らしいですね」

 

 ヒヤヒヤさせてくれるといった表情で目金が眼鏡を上げる。まさにその通りだと柊も今の目金の言葉に同情するほかない。ゴーストロックの攻略がまさか力押しとは思いもしなかったが、それでも攻略できたことに変わりはないのだ。あとは攻撃で点を奪うだけだ。

 

 豪炎寺と染岡に目を向けると、相変わらず一方的に染岡が豪炎寺をいがんでいるのが分かるが、いい加減にしろとばかりに円堂が全員に向けて激を入れる。

 

「お前ら! 俺達はまだまだ弱小なんだ! サッカーは一人で点を取るんじゃない。それぞれが守って、繋いで、決める。それがサッカーだろう!? 一点は皆で取る一点だ! 皆は豪炎寺だけではなく染岡も信じろ! そして染岡は豪炎寺を信じろ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間に全員の表情が変わった。たちまち雷門メンバー達は円堂が今言った言葉を心の中で復唱すると、何かを決心した様子を見せる。

 

 直後に円堂から始まったボールはやがて誰にも阻まれることはなく、やがて染岡のもとへ。この間、尾刈斗の選手がいくらボールを奪おうと決してボールに触れることはできなかった。

 

「染岡! 相手の手を見るな! あれも暗示だ! 平衡感覚を失いシュートが弱くなるぞ!」

「――! お前まさか、最初からそれを探っていたのか!?」

 

 染岡はハッとすると、ここで豪炎寺が今までしてきた行動の意味を理解する。それとともに豪炎寺という男の能力を素直に称賛すると、自分の不甲斐なさに気付く。どうして俺はこう一人で突っ走って周りが見えてないのかと。

 だったらもう、いがみ合ってなんかはいられない。円堂が言ったように一点は皆の一点だ。染岡は目の前にDF二人が立ちふさがった瞬間に豪炎寺に目掛けて『ドラゴンクラッシュ』をパスとして放った。

 青き竜はやがて豪炎寺のもとへやって来ると、今度は豪炎寺の蹴りが重ねられることによって赤き竜へと変わる。またしても新必殺技だ。それはドラゴンクラッシュにファイアトルネードの威力を加えたものに等しく、ゆがむ空間を突き破り、大きくネットを揺るがした。

 

『ゴール!! 追いついた、雷門の新必殺技により同点だ!!』

 

「キタコレ。こういうのを待っていたんだよ」

「新必殺技。あれはドラゴントルネードとでも名付けましょうか」

 

 目金の隣にて、染岡と豪炎寺に向けて両手の人差し指を突き出しながら「良いシュートだった」とウインクをすると、二人は少し顔を赤くしながらガッツポーズを向ける。まさに凹凸が噛み合う瞬間だった。

 その後も猛進撃は終わらず、雷門中は『ドラゴントルネード』で追加点を奪い逆転に成功。そして後半戦の終了と共に、練習試合は雷門中の勝利という形で幕を下ろした。

 

 

 

 ——試合終了から数時間後。

 尾刈斗中がグラウンドを去った後で、円堂達は反省会を開いていた。

 

「よくやってくれたみんな! 今日の試合は俺達の大きな成長になる試合だった。特に染岡と豪炎寺、よく最後の場面で逆転してくれた!」

 

 円堂が染岡と豪炎寺の肩に手を置いて白い歯を見せる。

 ゴーストロックの攻略、新必殺技の誕生。柊から見れば豪炎寺と染岡もそうだが、ゴーストロック攻略のきっかけを作ったDF三人、そしてファントムシュートを何本もセーブした円堂、後半戦でFWに息を合わせ繋ぐことに尽力したMF、全員がこの試合はMVPに見えた。

 

 やはりこの雷門は大きな可能性を持っており、進化のスピードが尋常ではない。それがよく見て取れていた。

 腕を組みながら反省会を黙って聞いていると、いよいよ解散かなと思っていたところで円堂が今度は皆の前で柊の名前を出す。

 

「今回の勝利は柊さんがヒントをくれたおかげでもある! 感謝している、ありがとう!」

 

 円堂の声に続いて全員が続け様にお礼の声を述べ始め、柊はキョトンとした表情をしてしまう。まさかこんなふうにお礼を言われるなんて思ってもいなかったのだ。まじまじと顔を見られながら、そんな言葉をかけらるものだから柊は途端に顔を背けてしまう。夕陽のせいなのか、それとも照れてなのか彼女の頬には真っ赤な色が差している。

 

「やめてよ、私そんなこと言われるようなキャラじゃないから……」

「ああ、もしかして照れてんのか不破? ほほう、だったらもっと褒めてやるよ! 可愛い顔を向けてみな」

「うっ、からかわないでよ染岡君! こんな大勢からお礼言われれば誰だって照れるに決まっているじゃない」

「ハハハッ! 口調が崩れてるぜ? 照れるとこんな可愛らしい反応するんだな。いつものクールな不破柊はどこへ行った?」

 

 柊の反応を見て皆が笑い声やら笑みをグラウンドで広げると、つられるようにして赤みを帯びた頬が緩む。もうここまでくれば豪炎寺に続き、柊も雷門の一員と言ってもいいだろう。

 フットボールフロンティアまではあと少し。円堂が「フットボールフロンティアに乗り込むぞ!」と意気揚々に声を上げると、それに続き全員はかけ声と共に大きく手を突きあげるのだった。




とりあえずこれで一章はお終いです。
次回番外編をはさんでから二章となります。
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