イナズマイレブン 王の瞳が見た記憶   作:アリ酸

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9話:vs帝国学園 後半戦

 後半戦の開始。

 ベンチで握りこぶしを作っている柊が見たのは、7年前に一度経験した地獄の試合風景と何一つ変わらない光景だった。

 

 後半の帝国ボール。そこでデスゾーンと呼ばれる必殺技の炸裂。それを始めとして帝国学園はラフプレーに近い必殺技を多用する試合展開に持ち込み始めた。風を操り暴力的な風圧でボールを奪うサイクロン。連打による何倍にも威力が倍増された百裂ショット。慈悲の無い必殺技は雷門イレブンを傷つけ、体力、精神力を削り取っていく。

 

「審判! こんなものやめさせろ! 怪我で済まなくなるぞ!!」

 

 見ていられないと柊が審判に向けて抗議を申し上げるが、まるで聞く耳が無いかのようにプレーは続行される。数秒に一回づつ迫りくるボールの脅威。もはやトラウマになってもおかしくはない。

 

『雷門まるで歯が立たない! 風丸が体を張って円堂を助ける場面があったものの、状況は何一つ変わらない! 打つ手なしか!?』

 

 柊はこんな相手に都合のいい試合ばかりあってたまるかと、ベンチに思いきり拳を突き立てた。

 翼の動かし方を教えた? そうだ、その通りだ。だが、空が存在しなければ翼がある意味がない。買収された審判に、まともに試合をする気のない相手チーム。こんな状況で翼など意味があるものか。こんなものスポーツでも何でもない。

 

「――影山零治ッ! サッカー部のお前といい、野球部の”陽海(ひのうみ)無限(むげん)”といい、どうして帝国の総帥達はこうも汚い真似を!」

 

 柊の怒りに満ちた声と鋭い視線が、未だ高みの見物を決め込んでいる影山へ向けられる。だが、むしろ返ってくるのは不気味なほどまでの笑みと、うなじを冷えた手で鷲掴みにされるかのような寒気さえ覚える眼光。

 

『貴様のいるべき場所はそこではない。強者は強い場所にいるべきだ。そのためにも雷門のような雑魚は淘汰されるべき害虫だという事を教えてやろう』

 

 まるで言葉にしなくとも脳内に直接響いてくるような感覚。視線を交えた際にぐるぐると頭の中が回り始めるのを柊は感じる。

 

 次第に右眼がズキズキと痛み始めるようになった。同時に過去の傷跡をほじくり返されるかのようにフラッシュバックしてくる記憶。

 骨折によって自由の効かなくなる脚。指先に力が入らず物をろくに持てなくなる指。失われて反応できなくる聴覚。かつて共に切磋琢磨していた野球部員達が相手チームによって壊されていく様子。思い出したくもない記憶に今の雷門イレブンが重なろうとしていた。そして、かつて帝国によって負わされた右眼の外傷。一瞬にして真っ暗闇の中に引きずり込まれた当時の自分の記憶も、心の奥底に仕舞っていた引き出しからゆっくりと顔を出そうと蠢き始める。

 

「冬海先生、棄権だ。このままじゃ、彼らは二度とサッカーが出来なくなるぞ!」

「え!? し、しかし……!」

「しかしもなにもない! これは試合じゃない、一方的な蹂躙なんだ! まともに相手はサッカーをしていないんだぞ。これ以上やれば未来が潰れることになる!!」

 

 最初から警戒しておくべきだった。こんな暴力的な展開を見せられるのは野球部だけだと思っていたが、サッカー部でもこんな事が起こるとは。不破柊、お前という女はなんて浅はかな考えをしていた人間なんだ。もっと考えれば予想できたことだろうに。柊は己を恨みながら、ただひたすらに後悔という念に頭を蝕まわれることとなった。

 

「どうだ不破柊。少しは心変わりでもしたか? これはまだ序の口に過ぎないぞ」

「こ……このッ……!!」

 

 鬼道の不敵な笑みに、柊は返す言葉は出ない。

 自分が雷門イレブンと関係さえ持たなければこんな事にはならなかったのか? あのとき逆鱗に触れるような挑発をしたからこうなったのか? 帝国の言う事を素直に聞けばこの光景は終わるのか? もはや、自分でもよく分からなくなってくる現実に、柊の右眼は更に痛みを増すようになってきた。

 

 もう考えている時間は無かった。帝国学園が言うように、向こうの協力者となればこの光景は終わるかもしれない。いや、もうそれしか選択の余地はない。唇を噛みしめて、一番言いたくなかったことを口にしようとした瞬間――――

 

 

「――――まだだッ! まだ終わってないッ!!」

 

 信じられない姿が柊の瞳に映った。全員がもう動けないでいる中、円堂がただ一人「俺はまだやれるぞ」と目に光を宿して立ち上がっていたのだ。顔は擦り傷と打撲で痛々しくさせながら、なおそれでも二本足で地面を捉えている。普通に考えて有りえない光景だった。

 

 円堂はこんな状況に置かれても勝つ気だ。

 その表情と、光を失わない瞳。それが今、柊にとって燃える上がるような何かとなって心臓の鼓動を早めていく。そして一瞬。そう、たった一瞬だが、記憶の引き出しから忘れ物を見つけるかのように、大切な人の面影が円堂の姿と重なり合った。

 

 

 ――お前はメンタル強くないくせに意地を張りすぎなんだよ。どんな未来になろうと、お前はやるべきことはやった。それは間違いじゃないだろう? あとは仲間をもっと信頼して肩の力を抜きな。だろ? 柊……いや、柊璃(しゅり)

 

 

 それは錯覚かもしれないが、間違いなく柊にとって過去が現実となって舞い戻って来た瞬間だった。そして不思議な事に、ズキズキとした右眼の痛みが次第に和らぎ始めた。

 

『帝国がさらに追加点、これで19点目!! 雷門のキックオフで試合再開だが、目金以外誰も立ち上がることが出来ない!!』

「ひいぃ~ッ!! こ、こんなの嫌だ~!!」

『なんとぉ! 雷門のエースナンバー10を脱ぎ捨てて、目金が敵前逃亡か!? これで雷門は10人となってしまった!!」

 

 そうだ。彼らを信じてやれなくて、何が指導者だ。相手がまともに戦う気にないなら、まともに戦わざるを得ない展開にすればいい。こんなところで終わってたまるものか。実況の絶望に染まる声も今や意に返さないと、柊はベンチから立ち上がった。

 

「無様だな。お前は俺達から一点も取ることが出来ずに終わる」

「いや、まだだ! まだ終わっちゃいねぇ!!」

「ほう、これでもまだそんなことを言うか」

 

 雑魚は雑魚らしく地面に這いつくばっていろ。そう解釈できる笑い声が帝国から発せられると、再び円堂がボールと共にゴールネットへ突き刺さる。これでついに20点目……。

 誰もがもう駄目だと諦めていた。これで雷門サッカー部はお終いだと。

 

「いや、円堂君の言う通りだ。試合はまだ終わっていない」

「――! 柊さん!!」

「円堂君、またせてすまない。ようやく見つけたぞ、一つの”突破口”を」

 

 口角を上げて笑うのは帝国ばかりではない。今度はこっちの番だ。柊の見せた笑顔により、円堂の表情が一気に明るいものへと変わっていく。

 

「こんな局面で何を言い出すかと思えば……。笑わせてくれるじゃないか、不破柊。こんな雑魚共がいくら束になってこようと俺達の敵ではない」

「それはどうかな? 今からその雑魚に指を食いちぎられるかもしれないぞ」

「ほう、ならば見せてもらおうか」

 

 試合は雷門ボールから再スタートとなる。このキックオフでこれまでの地獄の光景はお終いだ。柊は円堂に向けて笛が鳴り響く前に指示を伝えようとすると、ここでさらに嬉しい誤算が訪れることになった。

 不在となった10のエースナンバー。それが乗り手を変えて舞い戻って来た。こともあろうに、その顔は円堂も柊もよく知っている顔。二人の知る限り、願ってもいない現状で最強戦力の持ち主だった。

 

『おおっ、何ということだ!! あれはフットボールフロンティアで一躍ヒーローとなった豪炎寺修也! こんなこと誰が予想できようか。目金に変わって彼が雷門のユニフォームを着て戻って来た!!』

 

「――豪炎寺!! 来てくれると信じていたぞ!」

「大丈夫か円堂! ——それと……」

「数日ぶりだね少年。きっとどこかで見ていてくれていると思っていた。だが、長話は無しだ。今は君たち二人が試合の要となる」

 

 時間が無い中、円堂と豪炎寺の背中に手を当て出来るだけ近くに呼び寄せる。

 

「へへっ、任せろ柊さん! それで、突破口というのは!?」

「ああ、いいか直接は言えないがよく聞いてくれ。彼らは攻撃の際、再び大勢で円堂君を攻撃してくるだろう。もう一度言うぞ? ”大勢で円堂君を攻撃”してくるだろう」

「大勢で攻撃? う~ん……。――あっ! まさか……!」

「そういうことだ。少年は始めから気付いていたようだね、流石だよ」

 

 柊は豪炎寺に向けて片目をパチリと閉じて見せると、豪炎寺もまた「ふん」と鼻を鳴らして小さな笑みをつくった。

 

 試合再開。

 二人をポジションに着かせると雷門ボールでキックオフ。雷門メンバーもまたこれ以上は好き勝手させるものかと悪あがきに近い抵抗を見せるが、再び繰り返すように最初のパスがスライディングによって阻まれてしまう。

 同時に「また帝国ボールに……!」と、秋と春奈の表情がまたもや不安げな色へと変わった。当然だ、ボールを取られれば雷門には成す術がないのだから。しかし、その一方で何一つ動じることなく柊は腕を組んでその動きを見ていた。慌てふためくベンチ陣の中、柊だけは表情を何一つ変える様子は見せることはない。まるで何かを狙っているかのように。

 

 柊にとってここまでは想定内だった。雷門がボールを奪われ、一気に帝国選手たちがゴール前に密集する。帝国はものの見事に予想どうりに動いてくれていたと。だが、問題となるのはここからであった。この作戦が成功する上で最も大切なこと。それは”円堂がボールを止めること”なのである。これが上手くいかなくては小さな突破口は閉ざされる。柊の作戦は言わば諸刃の剣と言っても過言ではないものであった。

 

「行け、デスゾーンだ」

 

 鬼道の声と共に、帝国の三人が空中で回転を始める。三角形が次第に収束していき、莫大なエネルギーと共に発せられる強烈なシュート。おそらく今試合の中で一番強烈であろう必殺技が今円堂に向けて再び放たれようとしている。

 

「円堂君、必殺技は放たれてから反応していては間に合わない! 撃たれる前に行動しろ! 所詮三人で打つシュートなんてのは力技だ。際どいコースは狙えない。余計な事は全部忘れて、ど真ん中で身構えてろ、雷門中の守護神!」

 

 シュート直前に柊の声が届いてくれたのか、円堂は笑顔をつくると共に力を溜めるような姿勢をつくる。すると、右手にエネルギーが電撃となって走り抜けるような現象が発生し、それが離れた位置にいる柊にも見て取れるほどに増加していった。

 これは絶対に止められる。そう確信に至った柊が今度は豪炎寺に向けて指示を出した。

 

「今だ少年! 円堂君を信じて走れ!!」

 

 帝国にとって予期せぬ行動だったのか、鬼道を始めとした帝国選手が「何!?」と声を上げる。合わせてシュートタイミングとなり、帝国の必殺技が今放たれる。

 

「「「デスゾーン!!!」」」

 

 シュートを放った三人の声が重なると共に、禍々しきオーラを纏うシュートは威力を上げていく。ここでシュートを止められなければ作戦は失敗だ。止めてくれ円堂君。柊は祈るように円堂を信じていると、まさにそれに応えるかのように円堂の手が金色に光輝いた。

 

「こんなところで終わってたまるか! ”ゴッドハンド”!!!」

 

 吸い込まれるかのようにデスゾーンが光る手の中に入ったかと思えば、完全に威力が無くなったボールが円堂によって握られていることになった。

 

『デ、デ、デスゾーンが止まったぁ!! 雷門中キャプテン円堂の必殺技炸裂~!! 帝国のシュートをついに防いだ~ッ!!」

 

 驚きのあまり帝国側ではその光景には目を丸くして見開いている者がほとんどだ。予想を超える事態が起こったのだ。必殺技と呼べるシュートが雑魚と馬鹿にしていた人間に止められたのだから驚かない方がおかしい。

 

「……ふふふっ、やってくれたな円堂君。野球以外でこんなに興奮したのなんて初めてだ。すごいな君は」

 

 反撃の刻。柊が口にしていた突破口が今まさに開かれる。

 帝国は強い、ドリブルもシュートもブロックも、何もかも雷門より何歩も強い。しかしそれでも、目に見える程の弱点はあった。――”慢心”という大きな弱点が。

 「雑魚」だと口にしながら大勢でゴール前に上がって来ていたおかげで、帝国の陣地はガラガラだ。今の状況ならば”カウンター”にさえ転じられれば小学生にだってゴール前にボールを持っていける。それが豪炎寺修也というストライカーなら、点を入れてくださいと言ってくれているようなものだ。

 

「豪炎寺、頼むぞ!!」

 

 円堂からのボールが豪炎寺まで繋がる。まさに柊が頭の中で描いていた通りの構図だった。

 次の瞬間には豪炎寺は受け取ったボールを蹴り上げ、赤き炎を足に纏い回転力を加えてシュートを放つ姿勢をとる。

 

「ファイアトルネード!!」

 

 直後、帝国のゴールネットが揺れたのは、まさに圧巻の一言だった。炎の渦が槍となって突き刺さる。その凄まじいシュートは見る者を魅了し、柊さえも興奮で鳥肌を立たせた。

 試合を見ていた人達は誰もが思った。まさかこの状況から本当に得点をもぎ取るとはと。そして歓喜と驚愕の声があちこちから上がることになった。

 

『雷門中ついに得点ー!! 窮鼠猫を噛むか!? あの帝国からついに貴重な1点を奪い取ったー!!』

 

「ふっ、想像していた以上に面白い情報を得られた。錆び付いていない豪炎寺のシュート、試合状況から最善の策を練り上げた不破柊の洞察力、そして眠れる力を隠して持っていた円堂守、か。――お前達、総帥からの命令だ、引き上げるぞ。情報収集は終わりだ」

 

『おおっと、どういうことだ!? 帝国メンバーが続々と背を向けていく! これはまさかの試合放棄か!?』

 

 鬼道は面白い余興であったと柊達に笑みを見せると、実況の角馬が言うように帝国メンバーを連れて引き返していった。それはいわゆる向こうが棄権したという表記であり、審判の口からも「帝国学園の試合放棄のため、この試合雷門中の勝利!」と宣言がされる。

 

 結果論的な勝利かもしれないが、勝利は勝利だ。間違いはない。グラウンドを見れば雷門イレブンはガッツポーズを取りながらこのひと時を味わっている。柊は安堵の息を吐くと、力が抜けきったかのようにベンチへと腰を落とした。




オリジナルキャラの名前が出てきましたね。
オリジナルキャラはたくさん出してもワケワカメとなると思うのでゆっくり少しずつ出していきます。
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