西暦勇者行進曲-暗躍する謎の三人組-   作:黒歴史ノート

1 / 6
01. 十人十色のプロローグ

 だいたいの始まりは、明治の末期くらいでした。

 当時の新政府は、なんやかんやで国家神道の設立に乗り出します。

 それで何をしたかといえば、祝詞のついでに般若心経が唱えられたり、とりあえず事件があったから祠を作っておこうという大雑把な信仰を廃して、"ぼくの考えた正しい神道"を作る事にしたのです。そして、お寺にある御神体や小さな祠は壊す事にしたのでした。

 神様達にとっては驚きの暴挙でしたが、人間達は大真面目でした。

 欧米列強へ対抗する、お国の精神的な支柱が必要とされるご時世だったのです。神道の体裁を整えるのに、ややこしいお寺は邪魔でしたし、小さなお社は御立派様だったりゴマンダー様だったり淫祠邪教っぽい雰囲気を醸している物が多く、補助金を出してまで維持したくありませんでした。そうして、某県では政府のご機嫌取りに県の偉い人が大胆に忖度して、九割の神社が潰されて、鎮守の森は材木として売り払われる結果になりました。

 大空襲があったわけでもないのに神様達は家を無くして、途方に暮れました。

 そして、それを見ていたのが天の神様でした。

 

 天の神様は地上の神様達の困った様子を見かねて、自分のところへ匿うことにしました。

 

 天の神様は、藤○さんの考えた特別な神様の住処、もとい高天原から地上を見ており、世界的な神様アウェーの潮流を鋭く見抜いていました。だから、地上の神様達も高天原に誘って(藤○さんの氏神様は高天原のプレミア感が損なわれると反対しましたが)のんびりしてもらって、人間達が頭を冷やすのを待つのが良いと思ったのです。きっと人間達も文明開化の熱狂が落ち着けば、また神社を作ってくれる筈だと、地上の神様達を宥めたのでした。

 それならばと、地上の神様達も天上から人間達を見守る事にしました。

 

 まぁ、結果だけ言えば、そのときの天の神様の説得は大嘘になってしまったのですが。

 

 百年以上経っても、人間達は神様達の事なんて知らんぷりでした。

 相も変わらず人間中心の社会主義や自由主義に夢中でした。

 地上へ帰りたがる神様達に突き上げられて、天の神様は困り果ててしまいました。

 

 なので、天の神様は近くにいた神様に尋ねました。

 

 どうすれば神様達の居場所を取り戻せるだろうかと。

 すると、近くにいた神様はぴっかーんとひらめいて言いました。

 十人ほど見所のある人間がいるので、彼女らにお願いしてみようと。

 

 天の神様は、その自称ひらめきの神様を信じる事にしました。

 

 そして、高天原の皆で相談した結果、一人の神様が天下る事になりました。

 大切なお役目に立候補したのは、とても使命感の強い神様でした。

 その使命感は、何日も徹夜して演説台本を作ってしまう程でした。

 そうして出来上がった愛国という単語を512回も使った台本を携えて彼女は天下りました。

 しかし、彼女が徹夜で書いた台本を使った愛国を訴える街頭演説は、いまいち伝わりません。

 せっかく人間が好きそうなナウでヤングな思想を盛り込んだのにです。

 個人的な好みを混ぜたのがいけなかったかと、使命感の強い神様は打ちひしがれました。

 そして、丹念に禊ぎをして雑念を取り除いてから、再挑戦しました。

 二回目には、見るにみかねた自称ひらめきの神様と、その友達の神様も同行しました。

 今度は街頭演説なんてしません。

 ひらめきの神様に選ばれた十人に標的を絞っての挑戦でした。

 

 高嶋友奈。奈良県の女子小学生。

 乃木若葉。香川県の女子小学生。

 上里ひなた。香川県の女子小学生。

 白鳥歌野。長野県の女子小学生。

 藤森水都。長野県の女子小学生。

 秋原雪花。北海道の女子小学生。

 古波蔵棗。沖縄県の女子小学生。

 土居球子。愛媛県の女子小学生。

 伊予島杏。愛媛県の女子小学生。

 郡千景。高知県の女子小学生。

 

 天地の神様達は内心、こんなに小学生ばかり選んで大丈夫なのか不安でした。

 それどころか、ひらめきの神様は変態なのではという意見すら存在しました。

 そして哀しいことに、天の神様もその意見は一理あると思っていました。

 しかし、何もしないうちに逮捕するのは良心が咎めます。

 なので、何かしたら即逮捕するのはどうだろうと賢い神様が言って、高天原はまとまりました。

 そうして、天が地上を用心して見つめ始めた、二○一四年なのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 高嶋友奈にとって、それは日常の延長のような出来事でした。

 普段から神社で遊んでいる友奈にとって、神様は身近な存在です。

 だから、見知らぬ三人組に「私達は神だ」と言われても引きませんし動じません。

 元気よく挨拶をして、自称神様達の用件を聞くのでした。

 

「たかしー、すごい良い子だよー・・・・・・」

 

 ユルい顔をした自称神様は素直な友奈に、とても満足でした。

 そして、黒髪の自称神様は友奈にさっそくお役目を与えました。

 

「友奈さんには、神々の通り道を直してもらいたいのです」

 

 それは、神様達の通り道を補修するお役目でした。

 友奈はわりと近くに世界遺産になるような古い道があると知っていたので、そういう道があるものだと疑いません。

 友奈は快く、お役目を引き受けるのでした。

 自称神様三人組はそれは大喜びで、友奈へ贈り物を与えました。

 一日に千里を走れる靴だったり、大岩を殴って砕ける手袋だったり、連絡用のスマホだったり。

 最後だけ妙に現実的だと思いつつも、友奈は微笑んでいました。

 

「困った時は、何でも相談してくれていいからな」

 

 最後に銀髪の自称神様は、友達の証だといってヘアピンをくれました。

 友達が増えるのは嬉しいので、友奈は喜んで受け取るのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 乃木若葉にとって、それは不審者との遭遇でした。

 幼馴染と一緒に下校している途中、三人組に道を塞がれたのです。

 おまけにその三人が「私達は神だ」と自称するものですから。

 

「道を開けろ。さもなくば容赦しない」

「ひぃ、ちっちゃいご先祖様が怖い・・・・・・」

 

 ふざけた連中を脅して突破を図るのもやむを得ない事でした。

 誰しも守るべき存在が側にいれば、神経質になるものです。

 若葉にとって、幼馴染の上里ひなたは理解者であり親友です。

 三人組は子連れの母熊を通せん坊したようなものでした。

 

「おぉっと、肝心の背後がお留守だ!」

「若葉ちゃん・・・・・・」

「しまった、ひなた!!」

 

 しかし、若葉の目は二つだけで、三人のうち一人を見逃す計算です。

 警戒しても、銀髪の自称神様にひなたを浚われてしまうのでした。

 

「ひなたをどうする気だ!」

「えっ・・・・・・。えっと、どうするんだっけ?」

「ミノさんにお任せするんよー」

「卑劣な手を選んだのは貴女よ。自分で責任を取りなさい」

「マジ・・・・・・?」

 

 若葉がうかつに手を出せない中、緊張した空気が場を満たします。

 

「・・・・・・えっと、ごめんなさい」

「あ、はい・・・・・・」

 

 ひなたが自力で逃れた事で、緊張はほどなく緩みました。

 しかし、それでも若葉は不利を感じました。

 少なくとも強引に突破できる三人組ではないと理解したのです。

 そして、若葉が怯むのを見逃さない、顔と違って鋭い頭脳の、ユルい顔の自称神様は言います。

 

「神様達は、人間からの仕打ちにそれはもう怒ってるんよー」

「人間からの仕打ちだと・・・・・・!?」

 

 真面目な若葉を狙うように、正義は我にありと言うのでした。

 

「神社をいきなり壊されて、それはもう怒ってるんよー」

「なっ、私達はそんな事をした覚えは・・・・・・!」

 

 言いがかりでも責められると何か悪い事をしたのではと思ってしまう。

 わりと若葉はそういう素直な子供でした。

 

「うんうん、二人は無実だけど、人類の代表に選ばれてしまったんよー」

「そんな馬鹿な話が・・・・・・っ!!」

 

 ユルい顔の自称神様と若葉が争う一方、黒髪の自称神様とひなたは、不毛な対立を避ける方向で交渉します。

 

「このカメラ、今春に開発されたイメージセンサーを搭載しているんですが、どうでしょう?」

「まぁ、こんな高画質なデジタルカメラが・・・・・・!?」

 

 神様側のお願いは、若葉とひなたにゴミ拾いをして神様の居場所を綺麗にしてほしい、でした。

 そして、対価は高級デジタルカメラと言われて、ひなたはニッコリ。

 若葉の写真コレクションが趣味のひなたが交渉成立の握手をして、ひなたの泣き落としで若葉も懐柔されて、自称神様三人組からはゴミ拾いで怪我をしないようにと靴と手袋と、連絡用のスマホが送られるのでした。

 

「タフな交渉だったんよー・・・・・・」

 

 自称神様三人組は達成感に満ちた顔で、一歩前進だと口々に言いました。

 若葉は釈然としませんが、ゴミ拾い程度ならいいかと思うのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 藤森水都にとって、それは未知との遭遇でした。

 私室でのんびりしていると、窓から誰かがこちらを見ていたのです。

 部屋は二階で足場なんて無いのに、窓の外から「私は神だ」と言ってきたのです。

 

「か、神様・・・・・・?」

「みとみとは世界を救う、十人の一人に選ばれたんよー」

 

 まさか、そんなアニメの主人公みたいな話が、よりにもよって自分のところに。

 水都は驚いて、それからそんなの無理だと思いました。生まれた時から家族仲が悪かったせいか、誰かの顔色をうかがってばかりの水都は、自己主張はおろか自尊心を抱く事にすら後ろ向きな、意志薄弱な子でした。

 なので、神様に立ち向かえるわけもなく、神様の話を疑う事もあまりできません。

 それこそ、ユルい顔の自称神様の足下を支える二人に気づく事もできないのでした。

 

「えっと、十人って・・・・・・?」

 

 水都は、自称神様に言われた事をそのまま受け取って応対します。

 水都だけでは世界を救うなんて無理でも、他の誰かのサポートならあるいはと。

 

「うんうん、大丈夫だよー。ご近所の白鳥歌野って子も一緒だからー」

「白鳥さん・・・・・・?」

「あ、まだ面識が無いのかな? じゃあ、会ってみるー?」

 

 白鳥歌野の家に向かう道中では、水都はお役目について聞きました。

 ひとまずやる事は、神様達の指定した場所に石を刺して、気の流れを整える作業だそうです。

 ご褒美に、少しくらいなら畑に大地の気を引き込んで良いとも。

 

「畑って・・・・・・」

 

 水都はそれを世界を救うヒロインと呼んで良いのか悩みました。

 しかし、水都は少しでも誇れる自分になれたらという精一杯の希望から、お役目を引き受けるのでした。自称神様と一緒に歌野を勧誘しに行って、豊作というワードに食いつかれたのは予想外でしたが、仲間が増えてホッとしました。

 それから歌野とおそろいの靴と手袋と、連絡用のスマホを貰うのでした。

 

「ワォ、いいじゃないこの手袋!」

 

 家庭菜園が趣味だという歌野は、手袋を特に気に入った様子でした。

 手袋をつけると力が漲って鍬が地面に刺さるとはしゃぐ歌野を見ながら、水都も安心してスマホという田舎では珍しいアイテムをいじります。

 

「あれ・・・・・・?」

 

 しかし、"変身アプリ"というアイコンをタッチした瞬間、巫女装束に服が替わって大いに慌てるのでした。ちなみに、歌野に「みーちゃん、すごいじゃない! ベリーキュート!」と褒められて真っ赤になる水都の表情に、ユルい顔の自称神様が「びゅおぉぉぉ」と風を感じて、その瞬間、太陽が怪しくゆらめき、銀髪と黒髪の二人組が颯爽と現れて自称神様を連れ去ったのですが、それはまた別の話です。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 秋原雪花にとって、それは困った出来事でした。

 雪花はちょっと計算高くも、困った人を放っておけない少女です。

 しかし、謎の三人組が「私達は神だ」といって、祠の建設を要求してきて。

 

「用地買収は及川さんがやってくれるんよー」

 

 すごい勢いで話を進めてくるのには、雪花の計算高さも限界でした。

 お前達と、あと及川さんって誰じゃいと、雪花はツッコンでいました。

 ちなみに、及川さんは旭川市の偉い人だそうです。

 小心者の癖にえばりんぼうの、目立ちたがり屋さん。

 神様が褒めてくれると囁いたら張り切ってくれたそうです。

 誰かに褒められたい及川さんの精神性に、雪花は少し同情しました。

 

「私達は神様達のお願いを人間に伝える、天使みたいな神様なんよー」

「誰の答えになってないような・・・・・・。じゃあ、祠って何?」

「神様達の難民キャンプを用意してほしいんよー」

 

 そして、具体的な話を聞くと、雪花の表情は曇りました。

 曰く、人間に追い出されて、地上の居場所がない神様達がいる。

 曰く、それらをまとめて収容する土地として、北海道が選ばれた。

 

「とりあえず収容できればいいから、こんな感じの設計図でー」

 

 それは北海道へ要らない人間をまとめて押し込んだ、明治時代の昔話のようでした。

 歴史好きな雪花は、どこかで聞いた北海道開拓時代の話を思い出して、言いようのない感情を抱きました。

 

「ここらに信心深い人間が多いわけでもなし、それってひどくない?」

 

 雪花が祠を作って、参拝客がつけばそれで良いのかもしれません。

 しかし、旭川は特別に信心深い土地ではないので、雪花は前向きになれませんでした。

 誰も来ない祠で、寂しげにしている神様達の未来が想像できたのです。

 そんな雪花の気持ちを察したのか、黒髪の自称神様が付け加えます。

 

「神様達も、ここで昔みたいにできないことは既に理解されています」

「それなら、わざわざこんな寒い土地に祠なんて・・・・・・」

 

 雪花の心配は嬉しいと言いつつ、黒髪の自称神様は言います。

 曰く、地上へ下りたら、神様達は新しい居場所を求めてすぐ旅立つ予定だ。

 曰く、神様同士で喧嘩しないよう、あえて北海道の荒れ地を選んだ。

 曰く、あまり居心地が良すぎても、それがかえって喧嘩の原因になる。

 曰く、安住の地ではなく、旅立ち前の止まり木を神様達は望んだ。

 

「だから、そんなに怒って頂かなくても、きっと大丈夫ですよ」

「きちんと将来への考えがあるなら、いいけど・・・・・・」

「では、引き受けてくださいますか?」

 

 雪花は自称神様達の話をよくよく噛みしめてから、一つ条件をつけて頷くのでした。

 

「・・・・・・この設計図に手を加えてオッケーなら考えるよ」

 

 雪花は、すぐには居場所が見つからない神様もいるだろうなと思いました。

 だから、せっかくなら、いつでも帰って来て大丈夫な場所を作ろうと思うのでした。

 自称神様達から渡された設計図にあるような、北海道を舐めた野晒しの祠なんて論外です。

 

「ありがとうございます、雪花さん」

「せっちゃんの温かい心に癒されるんよー」

「なー、こんな胡散臭い話、すごい真剣に考えてくれてるし・・・・・・」

 

 とても嬉しそうな自称神様三人組から、雪花は作業用だといって手袋と靴と、連絡用のスマホをもらいました。けれども、それだけでは三人が満足しなかったのか、神様パワー注入という言葉と一緒に三人からハグをされて、妙な身体の熱さを感じるのでした。

 何をしたのかと尋ねると、太陽が降ってきても負けないパワーを与えたと言われましたが、雪花にはピンと来ません。でも、そんな事を言いながら怪しげにゆらめく太陽に向かって、ハグはセーフと必死で言い訳をする自称神様達には笑ってしまうのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 伊予島杏にとって、それは新しい世界への誘いでした。

 杏は病気で学校を休みがちで、ずっと周囲との壁に悩んでいたのです。

 そんな杏が公園で本を読んでいたところ、「私達は神だ」という三人組が道を示したのでした。

 

「あんずん、世界を救う為に集められる十人の一人にならないー?」

 

 基本的に住む場所も違うし年齢もまちまちだけれど、目的は共通。

 そんなコミュニティを作るから、杏もおいでよと言われたのです。

 まっさらな人間関係を想像して、杏は胸が躍りました。

 

「なります! ですが、詳しい話を聞かせてください!」

「おぉぅ、即答・・・・・・。杏さんって、結構決断力ありますね・・・・・・」

「それじゃあ、これを渡しておきますね」

 

 そうして黒髪の自称神様から渡されたスマホに、杏は首を傾げます。

 

「このアプリを起動すると、集合部屋へ飛べます」

 

 スマホの説明なのに唐突に出てくる変身やワープという単語に、杏は戸惑いました。

 しかし、そこは世界を救う十人という最初の話を思い出して、納得もするのでした。

 世界を救うヒロインに不思議な力はつきものです。

 ところが一つ納得したところで、またおかしな事が起きました。

 

「なんだ、新しい変身ヒーローのグッズか?」

 

 これまた知らない女の子が、話に割り込んできたのです。

 公園で話していたので、近くに誰がいても悪いとは言いません。

 それでも、こんな風に千客万来になるような公園ではないのです。

 

「タマっち、ナイスタイミングー」

「おぉっ? なんだ、タマの事を知ってるのか?」

 

 いつもは静かな公園が賑やかになって、杏は不思議な気持ちになりました。

 

「そこのあんずんはタマっちの事をよく知らないと思うけどー」

「そうか! 土居球子だ、よろしくな、えっと・・・・・・あんずん?」

「あ、伊予島杏です」

「なるほどな、よろしく杏!」

 

 土居球子という小柄な少女は、とてもグイグイ来ました。

 たまたま近くを通りかかったところ、銀髪の自称神様に声を掛けられたそうですが、紹介は要らないと言わんばかりです。

 しかし、球子の最初から距離の近い感じが、杏は嫌ではありませんでした。

 病気がちになる前の、幼い頃の距離感を思い出すのです。

 

「よろしくね、タマっち」

 

 はじめまして、友達になろうよ、という感じでした。

 自称神様達も似たような物かもしれませんが、あちらは少し打算を感じました。

 球子はもっと自然で動物的でした。

 

「それじゃあ話を戻して・・・・・・。タマっちも世界を救ってみる~?」

「おぉっ! なんだか面白そうな話だな!」

 

 ちなみに、球子と杏は一緒に勧誘される予定だったそうです。

 球子のことを気に入った杏は、ますます嬉しくなりました。

 神様の決めた運命のようだと、夢見がちな事も思ったりしました。

 

「二人のお役目はねー。とある樹を守ることなんよー」

「樹ですか・・・・・・?」

 

 しかし、世界を守るお役目の話に、杏は姿勢を正しました。

 自称神様達が仮に本物なら、それは本当に大切なお役目の筈なのです。

 

「実は、とある神様の樹に、虫がついちゃってー」

「虫ですか・・・・・・?」

「そうそうー。とある神様がひさしぶりに天下って、地上の木を依代にしたら虫にまとわりつかれて、えらいことになってるんよー」

「それって世界を救うのと、どう関係するんだ?」

 

 球子の質問に対して、ユルい顔の自称神様は少し表情を引き締めます。

 

「実はその神様に、ちょっとだけ好かれてる人がいてねー」

 

 それは大社という歴史ある宗教団体に属する人で、最近では珍しい"本物"だったそうです。とはいえ、テレビに出て行って騒がれるような人間ではなく、何を欲張ることもなく静かに神様を祀っている、お手本のような信仰者で、問題があったとすれば彼女が結婚して子供を作って神様の声を聞く力を無くしても、彼女の神様は相変わらず彼女の事が好きだった事だそうです。

 その神様は、ずっと天から彼女へ思いを届かせようと声を張り上げて、彼女が力を無くしてからも必死に呼びかけるほどで、傍聴対策なんて頭にありませんでした。そして、大した力の無い霊能者にまで神様の声が聞こえて、神様に愛される彼女の立場は否応なく高まってしまったのでした。

 

「そんなところ、彼女の子供が交通事故に遭っちゃってー」

 

 神様はもう大慌てで助けに行くからと、天下ると言って聞かなくなったそうです。

 釣られて地上へ下りたいと言い出す神様も増えて、天はてんやわんやになりました。そして環境も整わないうちに勝手に天下って、力が足りないから助けてくれと言ってきたそうです。本来はそんな神様を助ける義理など無いのですが、その神様はかつては天下った先で地上の女神との愛に狂って、天の使者を射殺したり名前を変えて天へ殴り込んで宣戦布告したりと、うっかり放置すると何をするかわからない困ったさんだそうです。それこそ、どこかの神様を殺して自分の栄養にしたり、人間に誑かされてとんでもない事をするかもしれません。

 

「だから、おかしな真似をされる前にせめて虫退治はしたいんだー」

 

 神様にたかる虫を、ユルい顔の自称神様は「大社虫」と呼びました。

 大社虫は神様を利用しようと画策しており、このまま放置すれば国譲りリターンズだそうです。

 国譲りをよく知らない球子には、世界が一度滅びるで通じました。

 国譲りが起きないよう、大社虫を退治してほしい。

 自称神様達のそんな依頼を、杏と球子は快く引き受けるのでした。

 二人は変身やワープ機能のあるスマホだけでなく、力仕事に使える手袋と、木登りに良い靴も受け取りました。

 

「それじゃあ、一度木のところにワープするねー」

 

 その後、木の大きさを見て驚く杏と球子でしたが、それはまた別の話です。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 郡千景にとって、それは夢のような出来事でした。

 あまり良い意味ではありません。ただ現実味が無いという意味です。

 ほんの数分前まで、千景は薄暗い家の隅でゲームをしていました。

 学校でいじめられたり、離婚したい両親に養育義務が邪魔だからと疎まれる千景は世界を見ないよう、ひたすら内向的な趣味に没頭する少女でした。

 それがいきなり「私達は神だ」と名乗る三人組が家を訪ねてきて、連れ出されたのです。

 

「ここどこ・・・・・・?」

 

 そして、目の前に広がる珊瑚礁の景色に、千景は目が眩む気がしました。

 高知県に珊瑚が無いとは言いませんが、あるか無いかで、あるだけです。

 玄関を出たら珊瑚礁の海辺だなんて、夢でしかありえませんでした。

 

「沖縄だよー」

「嘘よ、ここは高知県で・・・・・・」

「神様パワーに不可能はあんまり無いんよー」

「神様・・・・・・そんなのあり・・・うっ・・・・・・」

 

 しかし、千景の現実逃避はすぐに中断されました。

 いじめで階段から突き落とされて、できたばかりの手術痕が痛んだのです。

 その生々しい疼痛は、まぎれもなく現実の証拠でした。

 しかし、千景がそうひとりごちると、自称神様達は困った顔をしました。

 

「地元からは、完全に切り離した方が良いよな?」

「そうね、せっかく物理的に引き離したのなら、ここは徹底して・・・・・・」

「ちーちゃん、その傷をちょっと取り上げていいー?」

「傷を取り上げる・・・・・・?」

「せっかく綺麗な海に来たなら、泳いでみたくないー?」

 

 いじめで全身傷だらけの千景は、自分の水着姿を想像します。

 そして、傷をどうにかしようという言葉の意味をすぐに理解しました。

 それができるなら当然、そうしたいとも思いました。

 

「うん、綺麗な身体になりたい・・・・・・」

「では、物陰に行きましょうか・・・・・・」

「これは医療行為! 医療行為です!」

「ミノさん、天の神様にそんなに必死に言い訳しなくてもー・・・・・・」

 

 千景は海辺の物陰へ隠れて、傷を一つずつ消してもらいました。

 ツギハギのようで気持ち悪かった傷跡も、最初から無かったようにすべすべの肌になりました。

 まだ疼痛がある気がしましたが、それは心から来る痛みだそうです。

 

「しばらく沖縄でのんびり過ごせば、時間が癒してくれるかと」

 

 いじめの痛みが無くなるなんて嘘みたいです。

 しかし、生々しい傷跡は無くなって、千景は少し希望を感じました。

 ところが希望が湧いてくると、千景は心の奥から不安が湧くのも感じてしまうのでした。

 

「そうだ、明日は月曜日だから、また学校に行かないと・・・・・・」

 

 それは千景の心についた癖のような物でした。

 嫌なことが待っているに違いない未来に対して、覚悟を固めようとしてしまうのです。

 

「そんな真面目なちーちゃんには申し訳ないけど、明日から離島留学が決まりました~」

「離島留学・・・・・・?」

 

 ところが、そんな千景に対してユルい顔をした自称神様が少し申し訳無さそうに、少しドヤ顔を混ぜた顔で言います。

 

「つまり、もう高知の小学校には行かなくて良くなりましたー」

「なにそれ、聞いてない・・・・・・」

 

 しかし、ユルい顔をした自称神様が一枚の書類を見せてきます。

 それは千景の父親のサイン入りの離島留学の申請書でした。

 

「どうして・・・・・・? あのお父さんがそんな事するわけがない・・・・・・」

 

 千景の口をついて出た言葉は、もちろん父親へのまっとうな信頼の意味ではありません。

 千景の父親は子供のように自分勝手で、家族への思いやりに欠ける人間です。

 そんな書類、普通なら面倒くさいからと見向きもしないという、後ろ向きの信頼でした。

 

「まぁ、たしかにちょっと札束で顔を叩いたけどー・・・・・・」

「やっぱり・・・・・・」

 

 しかし、裏で行われた取引を白状されて、千景は安心しました。

 千景の父親ならそういう行動を取るだろうと、得心がいったのです。

 その関係者が神様だったり、移動手段がワープでも。

 ひどい父親が目先の欲に釣られて千景を放り出したのなら、納得できたのです。

 

「じゃあ、本当に私は高知へ戻らなくていいのね・・・・・・?」

「そうだよー。新しい小学校は、ちょっと過疎気味でクラスメイトが一人しか居ないけどー」

「いいわよ、友達なんて・・・・・・」

 

 千景は口ではそう言いつつ、実は少しだけ期待していました。

 一人だけの学校なら、きっと友達を求めているに違いないと。

 友達の作り方を知らない千景と、仲良くしてくれるかもしれないと。

 

「でも、今日は日曜日だからお世話になるお家に挨拶に行こうかー」

「あ、うん・・・・・・」

「実は、千景さんの滞在するお宅の娘さんが、千景さんの同級生になるんですよ」

「そうなの・・・・・・?」

 

 千景の手を引いて、こっちだよと笑いかけてくれる自称神様達への期待もありました。

 小学校の薄暗いところでいじめの悪意に耐えている底辺の存在をすくい上げてくれる神様。

 夢のような神様を期待した事くらい、千景にだってあるのです。今度は良い意味です。

 千景がそうであってほしいと頬をつねって確かめるくらいには。

 

「ふふっ、千景さんの夢じゃありませんよ」

「でも、千景さんが怒ってないみたいで良かったぁ」

「入院中のちーちゃんに気苦労かけたくなくて、勝手に動いちゃったからねー」

 

 千景は無意識に、自分の手を引いてくれる、ユルい顔をした自称神様の手を握りしめていました。しかし、握られた側が痛がるそぶりも見せずに握り返して、黙って隣を歩いてくれたので、千景が相手の心遣いに気づいたのは手を離したとき、手形が残っているのを見てからなのでした。

 

「お役目はしばらくお休みでいいよねー?」

「連絡用のスマホくらいは渡しておいた方が良いんじゃないかしら?」

「おぉ、そうだな。千景さんはスマホ知ってます?」

 

 連絡用だというスマホを受け取ったのも、半ば無意識の事でした。

 千景の道中の関心事は、これからお世話になるという家の人、古波蔵さんへの挨拶や、古波蔵さんの娘で同級生になるという棗という女の子と仲良くできるかでした。それも古波蔵さんの大人の気遣いと、棗という女の子の穏やかな性格によって取り越し苦労になるのですが、生まれてから余所のお宅へ行くのが初めての千景が緊張するのは仕方無い事なのでした。

 

「千景は、肌が白いんだな・・・・・・。綺麗だ」

「え・・・・・・っ?」

 

 棗という女の子の言動に、ユルい顔をした自称神様が風を感じたのはまた別の話です。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 古波蔵棗にスマホを渡し終えて、ユルい顔をした自称神様こと、乃木園子はホッとしました。

 やっと首の皮が繋がった心地でした。

 なにしろ、世界滅亡のスイッチはあちこち転がっているものですから。

 

「わっしー、ミノさん、これからが正念場だよー」

 

 しかし、少し気が抜けてしまったのでしょう。

 人気の無い場所で、友達二人に柄でもない事まで言ってしまうのでした。

 

「そうね、まだまだ先は長いわ・・・・・・」

「今からそんなに気負って大丈夫か?」

 

 黒髪の自称神様こと、鷲尾須美はそれを素直に受け止めました。

 銀髪の自称神様こと、三ノ輪銀はそんな柄にもない注意喚起をする園子を少し心配しました。

 

「一般人への教育もできれば良かったのだけど・・・・・・」

「いやいや、須美のあれは逆効果だって」

 

 銀は、須美が一人で天下った先で行った愛国演説を思い出してげんなりしました。

 八紘一宇を目指して云々など、時代錯誤に過ぎます。愛国アレルギーの人に街頭で空き缶を投げられて折れない須美の心の強さに感心こそしますが、それを応援しようとは思いませんでした。

 

「でも、未来がどうのこうのと言っても、通じないからねー」

「天の神様と戦争になったら、その時点で人類は滅亡なのに・・・・・・」

「まさか最終決戦から一年せず地球滅亡の危機なんてなぁ」

 

 しかし、こんな話題については、三人が共通認識を持っていました。

 

「土地神様も天の神様も満身創痍で、何も出来なかったからねー」

「だなー、あたしらの根性だけじゃどうにもならないし・・・・・・」

「せっかくバーテックスを追い払った未来がアレだなんて・・・・・・」

 

 ちなみにですが、この三人の話は、この世界の出来事ではありません。

 とある一つの、天の神様と小学生三人が戦って勝利した可能性の世界における出来事です。

 なので、この世界でも一年後には空から怪物が降ってくるかもしれませんし、五年と八ヶ月後くらいに隕石が降ってくるかもしれませんが、それは確定した未来ではありません。三人にとっては確定した過去ですが、この世界においては未定の可能性の一つです。未来への確証が無いゆえの暗躍、未来を変えたい平行世界の人間というのは、嘘吐きになる宿命を背負っているものなのです。

 

「でも、この世界で天の神様と仲良くして、うまく勇者システムだけ発展させて、隕石を勇者パンチでドーン!できれば、ちょっとご褒美に神様達の力を分けてもらって、うちらの世界を救っても赦される筈なんよー」

 

 そして、この三人はそれに気づいても恐れない勇気を持っていました。 

 ともすれば自分の帰る先を見失って、人外に堕ちる可能性も秘めているのにです。

 平行世界を移動したり、高天原に潜り込んだり、人間からの逸脱度は既に限界に近いでしょう。

 

「隕石をどうにかすれば、うちの弟も小学校に入れるからな」

「それから山伏さん達と一緒に、高校にも行けます」

「私も、もっと皆と一緒にいたいからー・・・・・・」

 

 それでもまだ、初心をこうして確かめることはできます。

 この三人に最後まで心が残っていれば、あるいは目的が達せられる事もあるのかもしれません。

 

 これはそんな不確定な世界を歩き始めた、勇者達の物語です。

 

 

 

(つづく)




名状しがたい何かがまた妄想内で暴れはじめたので。


《大社虫(たいしゃむし)》
 白くて細長くてウネウネした虫。
 捕まえようとすると「やめろぉ……」「やめてくれぇ……」と鳴く。
 なんか先端に手みたいな器官がついており、霊体をムシムシして食べる。
 たぶん未練とか亡霊みたいな存在。
 神様の眷属になりたい。人権は無い。


03/02 00:36 誤字修正
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。